第140話 超獣ベヒモス
前回のあらすじ
最下層の96階層にと経つしたユーマ達は、これまでの戦闘で成長した能力を発揮して、Sランクの魔物達を相手に無双する。
そして遂にボス部屋の前に辿り着き、休息を入れて力を回復させた彼らはボスのベヒモスがいる部屋へと足を踏み入れる。
ボス部屋の中は途轍もなく広い空間で、アリアが元の姿に戻っても余裕で空から仕掛ける事も出来る程の広さがあった。
そして僕達の目の前に、奴がいた。
全長は30メートル以上のアリアの本来の姿を超える巨体に、獅子の様な迫力のある獣の姿に頭には頭部と同じぐらいのサイズがある2本の角、そして全身が離れているここからでも分かる程の筋肉の鎧に覆われた身体。
奴こそが、このダンジョンのボスであり、Sランクの中でも最強に近い『超獣』の異名を持つ魔物、ベヒモスだった。
「あれがベヒモス……なんて巨大な魔物なの……」
「アリアよりもでけえんじゃねえか?」
ラティとクレイルはその巨体に驚愕している。
更にアインもその小さな体を震わせている。
『お姉様、大丈夫ですか!?』
「大丈夫よ……でもあれは想像以上の個体よ。過去に戦った奴よりも遥かに格上、しかもこの数百年の年月を得て、見るからに最盛期の個体よ。あれは間違いなく……EXランクに最も近い実力があるわよ……」
どうやらあの個体はアインの予想の中でも最悪の成長具合だった様だ。
それでもアインは深く深呼吸して、両方の頬を叩いて喝を入れた。
「行くわよ! 相手がどんなに強大な相手でも、あたし達の全力で打ち勝つのよ!!」
アインは僕達にも喝を入れ、僕達は一斉に武器を構えた。
僕は神器の二刀流、ラティは右手にエンシェントロッドと左手に元素の杖を持ち、従魔達も戦闘態勢に既に入っている。
「コレット、僕の武器を預ける。それを制御魔法で操作して、状況に合わせて攻撃や僕に渡して!」
「分かったわ! 任せて!」
僕は収納魔法から白百合、黒薔薇、ジルドラス、エンシェントロッドを出し、コレットに放り投げた。
それをコレットが制御魔法で操り、自身の周囲に漂わせた。
一方ベヒモスも僕達の姿を視界に捉え、凄まじい雄叫びを上げた。
「グオオオオオオオオオオォォォォォ!!!!」
その雄叫びによる威圧は、三つ首竜やパンツァーサウルスの比ではなかった。
「ぐっ……!? なんて威圧だ……!?」
「ここからでもこの威力……俺達も早く戦闘形態にならねえと、これじゃ勝負にならねえぞ!」
『私が時間を稼ぎます! 皆さんはその間に攻撃の準備を済ませてください!』
アリアは僕達の前に出て、本来の姿に戻った。
アリアがベヒモスと対峙しても、その体躯の差は歴然で、アリアを東京タワーで例えるならベヒモスはスカイツリーの様な物だった。
『かつて、当時の竜神に手傷を負わせたと言われるベヒモス。あなたがその個体ではないというのは承知しています。しかし、私は今代の竜神として、そして私の大切な人達の為に、誇りを懸けてあなたに挑みます!!』
アリアは息を大きく吸い、雄叫びを上げた。
「クオオオオオオオオオオオオ!!!!」
その雄叫びは、まるで歌声の様で、同時に凄まじい威圧を誇る、何とも矛盾している様でアリアに相応しい雄叫びだった。
しかし、今の雄叫びで僕達にかかっていた威圧が解け、僕は皆に叫んだ。
「今の内に僕とクレイルは戦闘形態に! ラティはクルスと一緒にポジションを取って! コレットとアインは常に奴と一定の距離を保つんだ!」
「「「了解!!」」」
「グルルルルゥ!!」
「ウォン!!」
「分かったわ!!」
僕とクレイルは魔法を発動させた。
「ドラグーンフォース・ライトニング!!」
「フェンリルフォース・フレイム!!」
僕とクレイルは戦闘形態になって、レクスと一緒に駆けた。
『行きます!!』
アリアも先陣を切って、ベヒモスに挑んだ。
ベヒモスもまた、1番大きいアリアに狙いを絞って突進してきた。
『まずは私が抑え込みます! 皆さんは攻撃出来ると思ったら、遠慮なくしてください!!』
アリアは翼を広げて飛び上がり、まずは前脚の爪で斬りつけた。
しかし、ベヒモスもまた、その巨大な前脚を振り上げ、アリアの攻撃を弾いた。
続いてベヒモスが素早い動きでアリアの横に回り込み、その腰部に目掛けて角で攻撃したが、アリアの竜神による防御力でダメージは小さかった様だ。
『それでも痛いのですよ!!』
アリアはお返しと言わんばかりに空中で体を捻って、尻尾を上に振り上げてのサマーソルトを繰り出した。
それによってベヒモスは一旦後ろに下がったが、すぐにまた突進して、アリアもまたそれを受けて立とうと後ろに風の魔力を放って突撃した。
その瞬間、2体の頭部と頭部が激突し、全体に凄まじい衝撃波が生まれた。
まだ成長過程だが全ての竜の頂点に立つ竜神と、討伐に1国の軍隊が総動員される程の力を持つベヒモス、この2体の力が拮抗して僕達は思わず言葉を失ってしまった。
何よりもあのアインを怯ませる程のベヒモスを相手に、見事に互角に戦えているアリアの強さに驚いた。
「凄い……アリアの戦闘力は、あたしの想像を超える程の段階まで成長しているわ。これならいける――いいえ確実に行けるわ! アリアが抑えている間に、あたし達も仕掛けるわよ!!」
アインの叫びで、僕達は我に返り、すぐに攻撃を始めた。
「行くぞ! 今こそこのアメノハバキリに蓄えられた、斬った魔物達の能力を解放する時だ!!」
僕は左手に持ったアメノハバキリを地面に突き刺し、雷の魔力を流した。
「サンダーホークの能力解放!! 九頭竜神・雷!!!」
僕はこのダンジョンで討伐した魔物の内のサンダーホークの能力を解放した。
サンダーホークには雷属性の干渉力を強化する能力があり、それでこれから発動させる雷魔法を強化させた。
ベヒモスには強力な魔力の耐性があるから、それを突破する為に少しでも魔法の威力を上昇させる必要がある。
そして僕がアメノハバキリを指して箇所を中心に、雷の魔力で出来た9つの頭を持つ巨大な竜が現れた。
九頭竜神、僕が編み出した雷龍の原理を応用させたオリジナルの最上級魔法だ。
1つの属性で形成した9つの頭を持つ竜を生み出し、9本の頭を同時に攻撃させる魔法で、その属性は各属性毎に変える事が出来る。
今回は雷属性で制御したタイプで、雷の名がついている。
そして僕がアメノハバキリを地面から抜き、剣先をアリアと激突しているベヒモスに向けて9つの竜頭を伸ばした。
「アリア、そこから下がって!!」
『分かりました!! ゲイルバースト!!』
アリアがベヒモスの目の前で口を開き、そこから風の上級ブレスを放ってその勢いで後退した。
ついでばかりにブレスも浴びせたが、魔力耐性を持つベヒモスにあまりダメージはなかった。
しかし直後に九頭竜神の全ての竜頭が直撃した。
「おっしゃ! こいつは効いたんじゃねえか!」
クレイルがそう言ったが、砂煙の中から、ベヒモスは殆ど無傷の状態で現れた。
「サンダーホークの能力で強化した九頭竜神なのに、全然効いていない……! これがベヒモスの魔力耐性か……!」
更に不味い事に、ベヒモスは今の攻撃で僕を視界に捉え、そのまま僕に向かって突進してきた。
『ユーマ!?』
僕はすぐにドラグーンフォースの翼で飛翔し、ベヒモスの上を取って突進を回避した。
「今度は俺達だぜ!!」
「ウォン!!」
クレイルとレクスがベヒモスに突撃し、その巨大な頭にクレイルが打撃を打ち込んだ。
「どうだ!」
今度は神器による一撃だからか、多少の衝撃を与える事は出来たけど、すぐに振り払われた。
「ガルルルルゥ!!」
続いてレクスも頭部に爪を振るい、薄っすらとだが爪痕を着けた。
しかし、空中にいた為ベヒモスの体格を生かした反撃で弾き飛ばされた。
しかし、2人が着地したのと同時に、ラティが魔法を発動させた。
「超重力!!」
重力魔法をかけてベヒモスとその周りの重力を強くしたが、これも耐性で防いでいるのかベヒモスだけ周りの陥没した地面と比べて平気そうだった。
「重力魔法も平気なの!?」
ラティもこれは予想外だったのか、酷く動揺している。
しかも今の魔法はネルスさんによって強化されたエンシェントロッドで発動させた様で、その強化された事による杖の効果で重力魔法の効果を更に強くしたというのに、ベヒモスには効果がなかった。
更に、ロストマジックである重力魔法にも耐えられる魔力耐性に、僕もラティも戦慄した。
「グルルルルルゥ!!」
「シャイニングスコール!!」
「エレメンタルバースト!!」
クルスが翼を羽ばたいて巨大な竜巻を、コレットが無数の光の矢を、アインが特大の複合魔法を放ったが、
「グオオオオオオオオオ!!!」
ベヒモスの雄叫びによる衝撃波で掻き消されてしまった。
「やっぱり、あいつに生半可な魔法じゃ通用しない様ね! あたしが鱗粉を吸わせれば、まだ効果は出そうだけど、あんな奴に迂闊に近づけばあたしはイチコロよ」
アインも鱗粉で支援したいようだが、ベヒモスのパワーを警戒して迂闊に近づけない。
これ程の強大な魔物、かつて戦った黒の獣のべオルフの従魔の、特異種のケルベロス以上に厄介さだ。
一体どうやって倒せば……!
ここまでお読みくださって、誠にありがとうございます。
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魔物情報
ベヒモス
Sの中での頂点に位置する実力を持った、「超獣」の異名を持つ魔物。
過去の記録では当時の世代の竜神に手傷を負わせたという記録も存在し、過去の討伐記録では冒険者、騎士、従魔、どれにも多大な被害を与えた、まさに生きる災害に等しい魔物。
非常に強力な魔力への耐性を持ち、最上級魔法を何発も受けてもビクともしない魔法防御力と、オリハルコンにも匹敵する物理防御力、そして1国に戦力をすべて投入する必要がある程のパワーを併せ持つ。
討伐証明部位は片方の角。
次回予告
ベヒモスの強力な耐性を何とかするべく、その突破口を見つける為に再びアリアを主軸に攻める。
そしてユーマはその攻撃の中で、ある可能性を見つける。
次回、ベヒモスの耐性を突破せよ