第138話 ドラグーンフォースとフェンリルフォース
前回のあらすじ
91階層に来たユーマ達は、魔物を探し2体のパンツァーサウルスを発見する。
ユーマとクレイルは新しい複合強化を試すべく、新たな複合魔法、ドラグーンフォースとフェンリルフォースを発動させ、パンツァーサウルスに挑む。
クレイルがもう1体のパンツァーサウルスと戦闘を始めたのと同時に、僕も目の前の個体との戦闘を開始した。
新たに開発したこの新魔法、ドラグーンフォースの力でこのSランクの魔物を倒そうと左手のジルドラスで突きを繰り出した。
パンツァーサウルスもハンマーの様な右腕でのパンチを繰り出し、ジルドラスと激突して一瞬強烈な火花が出た。
僕はジルドラスの力を緩め、パンツァーサウルスに押し返される力を利用して、空中で1回転して体勢を立て直した。
「やっぱりSランクとなるとパワーがこれまでと段違いだな。ジルドラスの瘴気もあまり効果が出ていない様だから、今度はこっちで試してみよう」
僕はジルドラスを背に差し、アメノハバキリを左手に持ち替えて開いた右手にミネルヴァを取り出した。
これで僕は、フォレストサーペントの時と同様の神器の二刀流となった。
あの時はソニックエンチャントでの加速状態の勢いでミネルヴァを片手で振れたが、今回はドラグーンフォースによって腕が竜の形をした雷に包まれてサイズが大きくなった事で、ミネルヴァを片手で持てる様にもなった。
同時に手が大きくなった事で日本刀のアメノハバキリは若干小さく感じるけど、決して振れない訳ではない。
前世の日本人としての感覚から考えれば、この状態は小太刀を持っていると思えばいい。
僕は雷速と縮雷を応用した高速飛行で、パンツァーサウルスの右側に回り込んだ。
パンツァーサウルスも僕の接近に驚きつつも、ハンマーの右腕を振り下ろして攻撃してくるが、僕はミネルヴァを上に振り上げて斬り、奴の右腕の肘から先を斬り落とす事に成功した。
パンツァーサウルスは自分の腕がこうも簡単に斬り落とされるとは微塵も思っていなかった様で、痛みの声を上げた。
だが、すぐに僕を怒りの籠った目で睨み、今度はその太い尻尾を振り回してきた。
「無駄だよ」
僕は上空で最小限の移動をし、後は尻尾から生み出される風圧で簡単に避ける事が出来た。
ついでばかりに、アメノハバキリを当てる事で尻尾の上半分をスライスした。
右腕に加えて尻尾まで斬られた事で、パンツァーサウルスは僕に1回もダメージを当てる事も出来ないまま追い詰められた。
しかし、それでも諦めない目で、僕を狙って残った左腕のハンマーによるパンチを繰り出した。
「悪いけど、既に君は詰んでいるよ」
僕は瞬時に奴の目の前を通過し、同時に神器の剣2本での斬撃を繰り出した。
僕は双方の剣に付着した血を払った時、パンツァーサウルスは首と胴体を切り倒されて絶命した。
「こっちは終わった。後はクレイルだね」
僕が地上に降りて、クレイルの方を振り向いた時、既に彼の戦闘も佳境を迎えていた。
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クレイルside
ユーマにもう1体を任せて、俺が最初に蹴りを入れて吹き飛ばした個体はすぐに起き上がって、怒りの視線を俺に向けた。
「自分に蹴りを入れた俺を許せねえって所か。だけど俺にとっては好都合だ。お前をもう1体の方には行かせない様に出来たんだ。親友の邪魔をさせる事もなく、俺もこの新魔法の効果を試す事が出来るからなぁ」
俺は少し屈んで上体を前に傾けて、獣の様な姿勢になった。
こうすれば相手の出方に合わせて普通よりも素早く動けるからだ。
パンツァーサウルスはハンマーの様な右腕を横に振って仕掛けて来た。
「遅えよ」
俺は左手を出してその一撃を片手で受け止めた。
普通ならSランクの魔物の一撃を防具もなしに受け止めるのは自殺行為だが、俺はフェンリルフォースで身体能力を従来の複合強化よりも遥かに向上させ、更に神器のメルクリウスによる力でこうして片手で受け止める事が出来た。
それでも、脚に力を入れて踏ん張った事で、足場に凄い衝撃が走ったが、問題なかったな。
「今度はこっちの番だぜ!」
俺は左手で掴んだ奴の右腕に力を入れて、その箇所を軸にジャンプして下顎に目掛けて炎の爪で強化されたキックをかました。
その結果、奴の下顎に爪痕が付き、更に炎で火傷も起こしていた。
「まだだぜ!」
続けて両手を振り被り、脳天に目掛けて両手の炎と爪を振り下ろして深く刺し、そのまま背中まで倒立しながら右足で踵落としを繰り出し、パンツァーサウルスを思いっきり地面に叩き伏せた。
そして俺はそのまま更に1回転して地面に着地した。
ユーマが見たら、「10点、10点、10点」と何の事か分かんねえ事を言いそうだな。
大方前世の知識なんだろうけど……。
それはともかく、俺はすぐに後ろを向いて、奴が起き上がるのを待った。
奴はすぐに起き上がり、さっきよりも殺気の籠った目をしてきた。
完全に、「テメエだけは絶対に殺してやる!」と物語った目だ。
そして奴は怒りで突進して来て、両腕を交互に振りかざして俺を潰そうとしてきた。
俺はそれを加速魔法でのジャンプで躱したが、すかさず奴は大顎を開いて俺を噛み砕こうとしてきた。
「おらよっと!」
だが俺は左足で蹴り上げ、パンツァーサウルスは噛み砕きに失敗して横に吹き飛ばされた。
「そろそろ終わりにするか。行くぜ!」
俺は再び加速状態に入り、奴の周囲を走り回って撹乱した。
奴は見事に俺を視界に捉える事が出来なくなり、戸惑い始めた。
「今だ!」
奴の上を取って、そのがら空きの背中に狙いを定めた。
「メテオストライク・ブレイク!!」
フェンリルフォースでの炎の爪を纏ったメルクリウスでの一撃を背中に決め、そこを中心に奴の身体全体に凄まじい衝撃を与えた。
その結果、背骨が折れる感触がして、パンツァーサウルスはそのまま衝撃によって圧死した。
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ユーマside
クレイルがもう1体のパンツァーサウルスを討伐したのを見届け、僕はドラグーンフォースを解除してクレイルの所へ向かった。
クレイルも僕に気付き、フェンリルフォースを解除した。
「お疲れ様、クレイル。どうやらそっちも問題なかった様だね」
「ああ。俺のフェンリルフォースもお前のドラグーンフォースも、問題なく実践で使える事が分かったな」
僕達が確認し合っている所で、ラティ達を乗せたアリアがやって来た。
『ユーマ、クレイルさん、お疲れ様です。見ましたよ。あなた達の新たなる力を』
「凄かったわよ。まさかSランクの魔物を圧倒するなんて」
「これならベヒモスとの戦いにも十分通用するわね」
「ウォン!」
「グルルルルゥ!」
「凄かったよ! ユーマくん! クレイルくん!」
皆僕達の新魔法を高評価してくれた。
「ありがとう。でもラティ、これは君の助言のお陰で出来たんだよ」
「そうだな。お前があの時、『俺達の従魔の姿を参考にしたらどうだ?』というアドバイスを言ってくれたから、こんなにも早く完成させる事が出来たんだ」
「つまり、2人の新魔法は、あなた達の絆で生み出された魔法ね」
コレットの言葉はまさにその通りだった。
僕の前世の知識に、クレイルとラティの発想力、アリアとレクスの存在、コレットやアイン達の協力、全ての要素が集まって初めて出来る絆の魔法だ。
「ドラグーンフォースにフェンリルフォース、これで必ずベヒモスに勝とう」
「そうだな。この調子で絶対にやってやるぜ」
僕達はパンツァーサウルスの解体をした後、次の階層を目指して移動を開始した。
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次回予告
ダンジョンの攻略をつづけるユーマ達は、遂に最下層の96階層へと到達する。
そこは数多くのSランクの魔物の巣窟だったが、これまでの戦闘で成長して来たユーマ達はその魔物達を相手に無双する。
次回、96階層