第136話 90階層で
前回のあらすじ
火山の階層でユーマ達は途中、ヴォルカノゴーレムと遭遇する。
しかし、ユーマの新たな魔法、ライトニングウィングで飛翔したユーマの速攻で討伐される。
僕達はその後も攻略を順調に続け、遂に90階層までやって来た。
ここまで来ると、魔物の強さも桁違いになって来ていた。
正確には、85階層からSランクの魔物が出て来るようになり、中にはデビル種もいた。
しかし、僕とクレイルの新しい魔法――魔力の翼や爪を活かした戦闘が予想以上に効果があり、加えて僕達の戦闘力も向上していた事でデビル種もSランクも上手く立ち回って戦える様になった。
そしてこの階層は最初に来たのと同じ草原の階層で、これまで通りに次の階層を目指して進んでいた。
そして僕達は今も魔物と戦っている。
「クレイル! 左右から畳み掛けるよ!」
「よし!」
「ラティ! 重力魔法で奴を抑えて! コレットは矢で牽制して動きを制限させて!」
「分かったわ! アイシクルアロー!」
コレットの放った無数の氷の矢が、前方のライオン型の魔物を牽制する。
今僕達が戦っている魔物はマンティコア。
顔が人の形をした人面ライオンのSランクの魔物だ。
獅子の俊敏性とパワーを誇り、加えて顔を始めとする骨格の一部が人間に似ている為か、知性も高い。
その知性と骨格によって人の言葉を真似る事が出来、従魔になって根気よく教えればオウムの様に言葉を覚えて、メッセンジャーとして役立つ事も出来る。
「喰らいなさい!」
コレットの矢で牽制した後に、ラティが重力魔法で奴らを押し潰したり、動きを抑えたりする。
動きを抑えた方は、重力を強めた場所の1番外側の部分な為、押し潰された中央にいたのと違ってそれだけで済んでいた。
しかし、それは同時に自分の命の最期でもあった。
「ライトニングウィング!」
「フレイムクロー!」
僕とクレイルは新魔法で空と地上から攻撃を仕掛け、僕が翼による飛翔からの急降下でのアメノハバキリでの一閃で、クレイルの両手足の炎の爪による一撃で、左右の抑えられていたマンティコアを仕留める事が出来た。
マンティコアはSランクという非常に討伐が困難な魔物だが、僕達はこれまでの幾多の修羅場を潜り抜けてきた事による経験が実力となっており、こうして連携を活かす事でSランクの魔物の群れを相手に戦う事が出来ている。
まだマンティコアの群れはいるが、僕達にはアリア達従魔もいる。
『フォトンバースト!!』
アリアの放った光属性の最上級ブレスで、数体のマンティコアを纏めて吹き飛ばし、
「グルルルルルルルゥゥゥゥゥ!!」
クルスの放った風の矢が別の個体の胴体に刺さって動揺した隙に、身体強化で接近したクルスの前脚の爪で首を斬り落とされ、
「ガルルルルルルルゥゥゥゥゥ!!」
レクスの超加速での爪と牙が正面のマンティコアを切り裂いて仕留め、
「さあ! あたしの鱗粉で惑わされなさい!」
アインが別方向にいた群れの上空を飛び、幻覚作用のある鱗粉を撒いて吸わせ、それによってマンティコア達は幻覚で仲間同士で攻撃し合っていた。
「今よ!」
アインの合図で、僕達はマンティコアの群れに一斉に魔法を放った。
「荷電粒子砲!!」
「ニブルヘイム!!」
「ガイアフレア!!」
「メテオスコール!!」
『プロミネンスコア!!』
「エレメンタルバースト!!」
僕の放った雷属性の最強魔法が、ラティの放った絶対零度の魔力波が、クレイルがメルクリウスで地面を叩きつけてマンティコア達の足元で大爆発を、コレットが放った隕石の如く矢が降り注ぎ、アリアの放った炎属性の上級ブレスが、アインの放った炎、水、雷、土の複合魔法が残りのマンティコアを一掃し、マンティコアの群れは完全に殲滅した。
「終わったか」
「流石に疲れたわね」
「Sランクの魔物が群れで来たら、当然だけどな」
「皆お疲れ様。これだけ暴れれば、当分は大丈夫でしょう」
僕達はこの場に座って、戦いの疲れを少しでもとる事にした。
流石に連戦続きで、魔力は時間回復やポーションでどうにかなるが、体力に関しては話が別だった。
アリア達は疲れ知らずだし、コレットは僕達とは鍛えた年季が違うけど、僕、ラティ、クレイルは疲労が溜まってその場に座り込んでしまった。
僕達は水筒を出して水分を補給しながら、僕とクレイルは話し合っていた。
「なあ、ユーマ。俺達の新魔法、これまでの複合強化に活かす事は出来ないか?」
「クレイルの属性魔力の爪に、僕の魔力の翼を? 確かに出来たら凄い事になりそうだけど、そんな簡単に上手くいくかな?」
僕はライトニングウィングをライトニングエンチャントと同時に使った時の姿をイメージしてみたが、これは正直難しいと思った。
ライトニングエンチャントは全身に雷属性の身体強化を掛けるけど、ライトニングウィングは背中に雷の魔力を集中させて雷の翼を形成する魔法だ。
つまり、全身に掛ける雷と、背中のみに掛ける雷を同時にイメージしなければいけないから、制御を間違えるとどちらかの魔法が疎かになってしまい、最悪自滅する結果も有り得る。
それはクレイルの属性魔力の爪も同じ理屈だった。
複合強化と両手両足の爪をそれぞれ同時に展開する必要があるから、制御をミスるとやはり自滅する結果も有り得てしまう。
尤も、クレイルは複合魔法を身に着ける前から、固有魔法の加速魔法を身体強化と同時に使う事が出来ていたから、それを踏まえるとクレイルならまだその複合強化と属性魔力の爪の同時発動は可能かもしれないけど。
その事を話すと、クレイルは何かを思いついた様に口を開いた。
「ならさ、それぞれを同時に使うんじゃなく、爪も翼も纏めて複合強化に混ぜた、新しい複合強化を作ればいいんじゃないか?」
「新しい複合強化……」
確かにそれは盲点だった。
何も別々に発動させるんじゃなくて、それぞれの良い所取りをした魔法に組み替えれば、制御も飛躍的に簡単になる。
その僕達の会話を聞いていたラティが、何かを閃いた。
「じゃあさ、いっその事、何かを象った姿をイメージしたら? 例えばアリアとかレクスの姿を参考にした」
その助言を聞いた時、僕の頭の中にあるアイディアが浮かんできた。
それも、これまでの複合強化を何倍にも強化させる、全く新しい魔法だ。
クレイルも同じ考えが出来たのか、同じ様な表情になった。
「「それだ!」」
僕とクレイルは揃って声を上げた。
「ラティのお陰で、良いアイディアが閃いたよ!」
「俺もだ! レクスの姿をイメージしたら、良い魔法が浮かんで来やがった!」
僕達の声を聴いて、それまで別に話し合っていたコレットとアリア達もこっちに来て、何かあったのかを聞いたが、僕達はその新しい魔法のアイディアの内容を話した。
すると、皆僕達の考えを評価した。
「確かに、その魔法が完成したら、ベヒモス戦でもいい戦力になれるわ」
『私とレクスで出来るのであれば、喜んで力になります』
「ウォン!」
「ボスのベヒモスとの戦いまでには、完成させたい処ね。出来そう?」
「多分。アリアとレクスを参考にすれば、そう時間もかからないと思う。後は僕とクレイルの力量次第だ」
「絶対に間に合わせるぜ!」
僕とクレイルは皆に励まされ、攻略をしながら新しい複合強化の開発に乗り出した。
そして、その魔法を形にする為に、この階層でひたすら戦闘をしていた。
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そしてその後、ダンジョンの魔力で地形が自然に再生するまでの間、草木が焼け野原になったり、まるで雷が落ちたかの様な巨大なクレーターがあちこちにあったという。
――おまけ――
文章を考える段階で没にしたネタ
マンティコアA「ダレカ……助ケテクレ……!」
クレイル「何だ!? 今誰か助けてくれって言わなかったか!?」
コレット「気にしちゃ駄目! マンティコアの骨格が人に似ているから、人の言葉を真似る事が出来るだけよ! ここで死んでいった冒険者達の言葉を覚えて、私達を惑わせるつもりなの!」
マンティコアB「腹減ッタナ……」
マンティコアC「女抱キテェ……」
クレイル「死に際の割にはアホな事を言っている奴もいるな!!?」
だけど後から某海賊漫画のシーンを思い出した為、パクリになるのを避ける為に没
ここまでお読みくださって、誠にありがとうございます。
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魔物情報
マンティコア
顔が人の形をしたライオンの魔物。
Sランクの獣種で、非常に高い知性を持っている。
骨格が人間に似ている事で、人の言葉を覚えて発する事が出来る。
従魔になった場合、この能力を使ってのメッセンジャーになる事もある。
討伐証明部位は牙。
次回予告
91階層へとやって来たユーマ達は、その階層での戦闘の計画を立てる。
そしてその階層での魔物を探し、ユーマとクレイルは新たに進化させた最強の複合強化を発動させる。
次回、新たな複合強化