第135話 飛翔の雷
前回のあらすじ
湖の階層でユーマ達はデビル種のデビルオクトパスと遭遇する。
アリアの水中戦での奮闘と地上での全員での活躍で、討伐できた。
そしてその際にクレイルが使った新魔法を見て、ユーマはあるアイディアを閃く。
更に下へ降りて、現在僕達は83階層に来ている。
今度の階層は火山地帯の環境で、砂漠とはまた違った灼熱地獄の階層だった。
「ったく! これまでも寒冷地だったり砂漠だったりと、温度差が極端な階層があったけど、今度はそれ以上にアチイな!」
クレイルが額の汗を拭きながら愚痴っていた。
「文句言っても仕方ないよ、クレイル。それでも前もってここがこの階層だって知っていたから、僕達も準備をして来る事が出来たんじゃない」
僕はそう言いながら、アリアとアインに皆へ耐熱のレジストを掛けて貰った。
「そうそう。はい。これは耐熱効果のあるポーション。何かあった時の為に持っていてね」
「お前らはいいよな。そのローブのお陰でレジストを掛けて貰わなくても全然平気なんだからな」
「そう言わないの、クレイル」
コレットに窘められ、僕達は改めてこの階層の確認をした。
「この階層では炎系の魔物がいるみたいだ。あの樹海の階層から殆どの魔物がAランクだったけど、この階層にはBランクの上級竜の火竜とかもいるみたいだ」
「上級竜か……そういえば、これまでの階層にも中には竜種がいる階層があったんだよな?」
クレイルがふと質問してきた。
「でもその割には、俺達1度も竜種に遭遇していないよな?」
「そういえばそうね」
ラティも肯定し、僕達が理由が何だろうと思っていた時、僕はふとアリアの事を思い出した。
「もしかして、アリアがいるからかもしれない」
僕はアリアの方を向き、アリアも頷いて答えた。
『その通りです。私竜神は、全ての竜の頂点に君臨する存在。故に上級竜も私の存在を感知して、敵対しない様に接触を避けたのでしょう。勿論、私が呼び寄せれば、姿を見せますが』
「竜種の魔物は下級竜も含めて、高い知能を持っているからね。そしてその竜達から見たら、アリアは崇めるべき神様。そんな神様を襲おうなんて馬鹿な事を、竜種が考える訳がないのよ」
「スタンピードで生み出されて破壊衝動しか持った獣じゃない限り、竜種と戦える機会はないかもね」
スタンピードで発生した魔物は破壊衝動しか持っていないから、アリアを竜神と認識するだけの知性が無い為、その場合なら戦う事も出来るというのは、かつてエリアル王国で起こったスタンピードで僕とアリアが経験している。
だけど自然に生まれた竜なら、アリアの存在を感知して竜神に喧嘩を売らない様に接触を避けているという事か。
「となると、僕達の場合はスタンピードでも起こらない限り、竜を倒す事は出来ないという事だな」
「そうなると惜しいな。竜なら倒せばアメノハバキリにスゲエ能力が得られるだろうになぁ」
確かに、竜という強力な魔物なら、例え下級竜でも相応の能力が得られる。
でもその機会が無いという事は、少なくともアメノハバキリに竜種の能力を入れる事は出来ないという事になる。
そう考えると、
「確かに惜しいね」
『なんだか、申し訳ありません』
僕達の会話を聞いて、アリアも罪悪感を覚えた様だ。
「気にしないでアリア。竜とは遭遇できなくても、既に多くのAランクの魔物の能力が蓄積されているから、これでも十分大丈夫だよ」
そう励まして、僕達はこの火山の階層の攻略を開始した。
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僕達はアリアに乗って、火山を迂回する様に飛んで進んでいる。
「この辺りは火竜の縄張りらしい。後は火山の中央部には強力な炎の魔物もいるみたいだ」
「でも火竜の姿はないから、やはりアリアを避けて身を潜めているのね」
「このまま何事もなく進めればいいけど」
そうは問屋が卸さないとはこの事なのだろう。
アインが言ったその時、僕達の目の前を巨大な火の玉が飛んできた。
「何!? あたし、何かやらかした!?」
アインも突然の出来事に少々驚いている。
確かにやらかしたといえば、そういう関連のフラグを建てた事くらいかな。
改めてその火球が飛んできた方を見ると、火山の火口部付近にゴーレムらしき魔物の姿があった。
ただアイスゴーレムと違うのは、全体的に球体状の岩の身体に手足が生え、その四肢の真ん中部分に頭があり、頂上部には火山の噴火口の様な物があった。
「あれって、ゴーレム? 何だか変な形をしているけど」
「あれはヴォルカノゴーレムよ。溶岩で出来たラヴァゴーレムと同じく火山地帯に生息するゴーレム種よ」
火山の様な形をした者があるからヴォルカノゴーレムか。
「さっきの火球はあいつがあの噴火口から発射した物か。となるとアメノハバキリで倒せば、炎系の能力が得られそうだな。よし。皆、僕がちょっとひとっ走りで倒してくる」
『ではユーマ、降下しますので準備してください』
アリアは着地態勢を取りつつ効果しようとした。
「いや、待ってアリア。ちょっと試してみたい新魔法があるんだ。それを1度試させて」
「「「新魔法?」」」
僕はアリアの上で立ち上がり、アメノハバキリを抜いて背中に魔力を集中させた。
「行くぞ! ライトニングウィング!」
次の瞬間、僕の背中に竜を彷彿させる雷の魔力で出来た翼が現れ、僕は飛び降りたのと同時に、翼に魔力を集中させた。
そしたら、僕の身体は雷の翼で空を飛んでいた。
「何あれ!? ユーマが飛んでいる!?」
「エアステップも空歩の靴も使っていないみたいだけど、どうやってるの!?」
コレットとラティも僕が飛んでいるのを見て、かなり驚いている。
この魔法を思いついたのは、デビルオクトパスを討伐した時にクレイルがやった、属性の魔力で爪を形成して攻撃した時だ。
自分の魔法で武器を強化したクレイルのフレイムクローを見て、僕の中にあるアイディアが浮かんだ。
自分には既に武器はあるから、自分の戦い方をサポートできる魔法を編み出そう。
この発想から、このライトニングウィングを思いついたのだ。
元々飛行系の魔法は既にアイディアがあったが、どうやったら魔法で空を飛べるのかのイメージが上手く出来なかった。
そこで以前にその飛べるアリアとアインに聞いてみた結果、2人は翼や翅に魔力を集中させる事で空を飛んでいる事が分かった。
そうなると、魔力の消費が激しいのではという疑問にもなったが、竜種や妖精種は魔力が膨大で、それに加えて翼などに外から大気中に含まれる魔力を溜める器官があって、それで飛行を維持しているという事を知った。
この説明を基に、僕はライトニングエンチャントの原理を応用して、雷の翼を形成し、それに前世の魔女が使う空飛ぶ箒をイメージしたら、こうして簡単に空を飛ぶ事が出来た。
僕自身の膨大な魔力と、ベルスティア商会で購入したライトニンググローブでの安定した雷の制御、空間魔法を応用させて大気中に干渉させてそこから魔力を翼に溜めるという循環を行った結果、僕は自身の魔力を温存して飛ぶ事が出来たのだ。
つまりこれは、空間魔法を応用させた雷属性の複合魔法という訳だ。
そしてこの翼は雷の魔力で出来ていて、ライトニングエンチャントの派生形でもあるから、雷速の速さで空を掛ける事が出来る。
「さあ、行くよ!」
僕は上空からヴォルカノゴーレムの元まで急降下し、アメノハバキリの一閃でヴォルカノゴーレムを一太刀で斬り伏せた。
だが、火口部から後続のヴォルカノゴーレムが5体現れた。
「お仲間の登場って訳か。でも丁度いい。この新魔法に慣れる為に、ちょっと付き合って貰うよ!」
僕は再びライトニングウィングで飛翔し、ゴーレム達の上を取った。
ヴォルカノゴーレム達も一斉に火山からマグマや炎に包まれた岩を発射するが、僕に向けて撃った時には僕は既に回避していて、呆気なく5体をバラバラにした。
僕は地面に着地し、アメノハバキリを納刀して一息ついた。
程なくして、アリアが降りて来て、皆も降りて来た。
「凄いなユーマ! あんな魔法まで使えるなんて、お前やっぱスゲエよ!」
「本当よユーマくん! いつの間にあんな新技をできる様になってたの!」
「デビルオクトパスの時のクレイルの新魔法を見てから、僕も前から考えていた飛行系の魔法を出来る様にしたのさ。前からイメージはあったから、空間魔法やライトニングエンチャントを応用して編み出したのが、あのライトニングウィングさ」
「流石ね。この短い間に、あんな凄い魔法まで使える様になるとは。あなたもそうだけど、クレイルもラティも本当に成長が著しいわね。前にも言ったけど、このパーティーにいると本当に驚きや楽しさが一杯で、私も負けていられないわ」
僕達はその後、討伐したヴォルカノゴーレムから証明部位の魔石を取り出し、再びアリアに乗って移動を開始した。
そして余談だが、僕達がこの階層を突破するまでには1度も上級竜に遭遇はしなかった。
ここまでお読みくださって、誠にありがとうございます。
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魔物情報
ヴォルカノゴーレム
Aランクの炎属性のゴーレム種の魔物。
火山に近い身体を持ち、噴火攻撃が出来る。
パワーも優れており、溶岩や岩が再生能力の原料となる。
討伐証明部位は魔石。
次回予告
ダンジョンの90階層まで降りたユーマ達の前に、Sランクの魔物が現れる様になる。
そしてクレイルはユーマに、あるアイディアを話す。
次回、90階層で