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第133話 同じ轍を踏む

総合評価が1000に達しました。

ありがとうございます。


前回のあらすじ

夜の見張りをしていたユーマとアリアは、終盤にフォレストサーペントの接近に気付く。

危険を減らす為、2人は戦いを始め、圧倒的な強さで討伐する。

 僕とアリアがコレットとアインに見張りを交代してから一晩が経ち、目を開けると最後の見張り番のクレイルとレクスの他に、ラティとコレット、クルスとアインが既に起きていた。


「おはようユーマくん。よく眠れた?」


「おはようラティ。お陰様でグッスリだよ。処で、クレイルとレクスはともかく、ラティ達は何時起きたの?」


「私達もついさっきよ。あなた達とは僅かな差って所ね」


 僕達が挨拶した所に、見張りをしていたクレイルとレクスが寄って来た。


「ようユーマ」


「おはようクレイル。何か変わった事とかはなかった?」


 その問いにクレイルは首を横に振って答えた。


「いや。少なくとも俺が見張っていた間は、魔物は来なかったぜ」


「コレットとラティは何かあった?」


「私もなかったわ」


「あたしも全然」


 皆の報告を聞き、アインが僕の肩に乗って聞いてきた。


「あたしも1度結界の外に出て辺りを飛んで見廻りもしたけど、まるでこの辺り一帯を避けるかの様に魔物の接近がなかったの。ユーマが起きたら聞こうと思ってたけど、何かしたの?」


 アインに尋ねられ、僕は昨夜結界の外で僕とアリアがフォレストサーペントと戦い、討伐した事を話した。


 その報告を聞いて、アインが納得顔で頷いていた。


「成程ね。その戦闘での騒ぎでアリアの存在が広範囲に広がって魔物達が感知したから、そのアリアを避ける為にここら一帯に魔物が来なかったのね」


「でも、逆に言い返せば、その戦闘のお陰で魔物達がこの辺りを警戒して、この樹に近寄らなかったのよ。ダンジョンの魔物はスタンピードで生み出される魔物と違ってちゃんとした理性があるから、ひたすら破壊衝動で動くのではなくしっかりと身の危険を感じて動くから、安全第一で避けていたのよ」


 どうやら最初に僕とアリアが戦った事で、結果的に皆を危険から守り続ける事が出来た様だ。

 そう思うと、僕達も頑張った甲斐があるという物だ。


「ユーマ、これから朝飯だろ? 何を作るんだ?」


 そして起きて早々、クレイルに朝ご飯の催促を頂いた僕。


「そうだね。折角新しい肉が手に入ったから、フォレストサーペントの朝鍋にしよう」


 僕は収納魔法から土鍋を取り出し、それに水を張って火にかけ、まずぶつ切りにしたフォレストサーペントの肉(皮つき)を細切りの生姜と共に入れて、お湯が沸騰した頃にお酢、酒、砂糖で味を調え、ネギや豆腐、キノコ類を入れて火を通した。


 少しして蓋を取り、煮あがった具材を器に盛り、皆に配った。


「はい、出来たよ。名付けて、『フォレストサーペントの野菜鍋』で~す」


「おお! 美味そうだな!」


「蛇のお肉は初めてだから、すごく楽しみ!」


「香りもいいわね。これがフォレストサーペントの香りっていうのかしら」


『緑色の皮と真っ白な肉が野菜と豆腐の色と合わさって、とても綺麗な彩りになっていますね』


「こういう料理は見た目からでも楽しめるなんて、とても面白いわ」


「グルルルゥ」


「ウォン」


 そして皆で食べ始めたが、フォレストサーペントの肉はとても淡白だった。

 身は白身魚の様な食感で、皮は鱗を取っている為、皮のゼラチン質なネットリとした舌触りと、確かな噛み応えがあり、噛めば噛む程旨味が口の中に広がっていた。


「美味いな!」


「ウォン!」


「皮も美味しいわ!」


「グルルルゥ!」


 大食い組も喜んで食べていて、ラティは皮の食感が気に入った様だ。


 そういえばゼラチン質って、コラーゲンが豊富で美肌効果があるよな。

 つまりラティは、美肌効果のあるゼラチン質の皮を直感的に感じて気に入ったのかもしれない。


 その皆は肉のおかわりを希望してきた、追加でフォレストサーペントのぶつ切りを鍋に入れて、締めに米を入れて雑炊にした。


 朝食を終えて片づけを終えた僕達は、樹海の魔力を僕が探知して地形を把握して次の階層への階段を目指した。


――――――――――――――――――――


 その道中にも昨日クレイル達がやられたあのヘルディオネアの様な植物種の魔物にも何体か遭遇した。


 そして今も僕達は周囲を取り囲んだ魔物と交戦中だ。


「蒼炎剣一閃!!」


「ホーリーフレア!!」


 僕がアメノハバキリで放った超高温によって蒼い炎を纏った斬撃と、ラティの放った光属性と炎属性の複合魔法が左右の植物種の魔物を焼き払った。


 今僕達が戦っているのはアシッドネペンテス。

 根っこが足の様に動いて移動するウツボカズラの魔物だ。

 昨日のヘルディオネアと同様に、蜜の匂いで獲物を引き寄せて捕食する魔物でもある。


 このウツボカズラの部分の中には地竜の鱗をも溶解させる程の強力な酸を含んだ消化液があり、このアシッドネペンテスは蔓で獲物を捕らえて口に放り込む他に、この消化液を直接敵に放射する事で酸で溶けている所を捕らえて捕食する事もある。


 またこいつらは炎属性にある程度の耐性を持ち合わせており、炎属性で攻撃するには最低でも上級クラスの魔法が必要になる。

 更に下手に剣で斬ると中の消化液が飛び散り、逆に自滅してしまう事もある為、非常に厄介な魔物である。


『ブリザードブレス!!』


「ウィンドアロー・ショット!!」


 アリアの放った氷属性のブレスが後ろのアシッドネペンテスの群れを凍結させ、そこをコレットが放った風の矢が拡散して蹴散らした。


「メテオストライク!!」


「ゾディアックメテオ!!」


 クレイルのバーニングエンチャント状態での加速してからの炎の拳が1体のアシッドネペンテスを吹き飛ばし、それが後ろにいた他のアシッドネペンテスを巻き込んでたちまち燃え上がり始めた。

 更に追い打ちでアインが放った13個の隕石が滅多打ちで炸裂し、前方のアシッドネペンテスを一掃した。


「グルルルルゥ!!」


「ガルルルルルゥ!!」


 更に生き残った個体をクルスとレクスがそれぞれ爪と牙で壺状の部分を傷つけずに倒し、僕達を取り囲んでいたアシッドネペンテスは全滅した。


「やっと……終わったわね……」


「正直、もう当分はあの形状の植物を見たくないかも……」


 僕とラティは互いに背中をくっつけて、その場にへたり込んだ。


「全く……またこの3人が甘い香りに釣られたりするから、こんな事になるのよ」


「『はい……申し訳ありませんでした……』」


「クフ~ン……」


 アインの辛辣な言葉に、クレイル、アリア、レクスは小さくなって謝っていた。


 そう。

 何故僕達が昨日の今日でこんな目に遭ったかと言うと、僕達が次の階層を目指してこの樹海を進んでいた途中、クレイル達がまた変な甘い香りに釣られてしまったからだ。


 しかも嫌な事に、また僕の探知魔法の索敵範囲外から3人が匂いに引っかかった事で、3人を負って樹海を進んだ結果、僕達はアシッドネペンテスの群れのど真ん中に来てしまい、すぐにクレイルを僕が雷を纏ったビンタで、レクスをクルスが頭部を嘴で激しく突いて物理的に、アリアをアインが土魔法で出した岩での拳骨で正気に戻らせて戦闘になり、それで現在に至るという訳だ。


 とどのつまり、3人は同じ轍を踏んだという訳だ。


「そう言えばアイン、あなたの鱗粉なら、匂いに釣られそうになったアリア達を無理矢理正気に戻せるんじゃない?」


 ラティがそんな事を提案し、僕達は「それは盲点だった!」と言わんばかりにアインを見つめた。


「確かに、あたしの鱗粉の中にそんな気付け効果の鱗粉はあるわよ。でも、あれの場合は匂いが余りにも強烈だから、この鼻がいい3人に対して使ったら、もしかしたら数日は他の匂いがしなくなると思うの。でも場合によっては、クレイルやレクスはその嗅覚が頼りになる事もあるし、アリアも鼻が利かなくなると何か困る事があるんじゃないかと思ってるの。それに逆に言い返せば、この3人が引っ掛かったからこそ、ユーマは魔物と戦ってその神器の刀に今回の魔物の能力を吸収する事が出来たんだし」


 確かに、アインの言っている事は尤もだ。

 僕達はこのダンジョンのボスであるベヒモスを倒してダンジョンを攻略し、ラティの為に神器の杖を必ず手に入れる必要がある。


 その為には少しでも僕達の手数を増やす必要があるのだ。

 その手の1つが、僕のアメノハバキリだ。


 アメノハバキリの魔物の能力を吸収する能力で、1体でも多くの魔物を倒してアメノハバキリにその能力のストックを増やす必要がある。

 特にこのダンジョンは64階層からスタートして、実際にアメノハバキリを使い始めたのは、魔物がより手強くなり始める65階層からだった為、現在アメノハバキリにストックされている魔物の種類は最低でもBランクでAランクの魔物も結構な数と種類が蓄えられている。


 その他にもアリア達最強の従魔やラティの元素の杖に溜められた魔力、僕、クレイル、コレットの3人が所有する神器、ベヒモスとの戦いではこれらの全てをぶつける必要があるから、アメノハバキリや元素の杖はベヒモスと対峙するその時までに出来る限り能力や力を溜める必要があるからだ。


 そういう事を考えると、今回のアシッドネペンテスとの戦闘は僕の探知魔法に引っかかる前にアリアやクレイル、レクスが奴らの香りに釣られてくれたから僕はアシッドネペンテスの能力をストックする事が出来たんだ。

 アシッドネペンテスはAランクの魔物だから、その能力はベヒモスとの戦いにも大きく役立つかもしれない。


 そうポジティブに思えばクレイル達の失態は同時に怪我の功名にも繋がる。

 そう考えれば、3人の失敗はお咎め無しでいいかな。


「まあ、実際にあなた達の失態を許すか許さないかを決めるのは、パーティーリーダーのユーマに決定権があるから、ユーマ、あなたが決めて」


 アインに突然話を振られたが、僕は迷わずに答えた。


「まあ、皆無事だったし、僕もアシッドネペンテスの力をアマノハバキリに吸収させる事は出来たから、アリア達の失態は大目に見るよ」


『ありがとうございます、ユーマ!』


「ありがてぇぜ、ユーマ!」


「ウォ~ン!」


 僕の許しに、アリア達は感激して抱き着いたり擦り寄ったりしてきた。


「まっ、ユーマが決めた事だからあたしもこれ以上は言わないわ」


「そうね」


「うん」


「グルルゥ」


 僕の判断にコレット達も従ってくれて、今回のクレイル達の失態はお咎め無しで終わった。

 その判断に、ラティやコレット達も納得や安堵の表情で頷いていた。


「よし。それじゃあ遅れた分、一気にこの樹海の階層を突破しよう」


 その後僕達は次の階層まで何回か魔物との戦闘はあったが、無傷で進む事が出来、無事にこの階層もクリアする事が出来た。

――おまけ――


ユーマ達がクレイル達を起こしたシーン。


・クレイルの場合

「クレイル、早く起きて!!」


 雷を纏った往復ビンタ。


「ハバッ!? ブハッ!? ホブヘッ!?」


 クレイル、感電しながら目覚める。


・レクスの場合


「グルルルルルルゥ!!」


 ドガガガガガガガガガガッ!!


「ギャイン! ギャイン! ギャイン!?」


 レクス、頭部への凄まじい痛みで目覚める。


・アリアの場合


「アリア、早く起きなさい! ガイアフィスト!!」


 地面から出現した岩の腕での拳骨。


「グギャンッ!!?」


 アリア、女の子が出してはいけない声を出して目覚める。


――終わり――


ここまでお読みくださって、誠にありがとうございます。

「面白い」、「続きが気になる」、「更新頑張れ」と思いました方は、ブクマ、感想、評価してくださると今後の励みになります。


魔物情報


アシッドネペンテス

Aランクの植物種の魔物。

根を脚のように動かして歩く事が出来る。

ツボの様な部分には金属をも溶かす放つ酸の液体が溜められており、蜜の香りで獲物を引き寄せツタで絡みとってツボの中に放り込んで溶かし養分にする。

また、ツボの部分は下手に斬ると酸が飛び散って逆に危険となる。

炎属性にも耐性がある為、非常に厄介である。

討伐証明部位は頂上部の花。


次回予告

80階層に湖の階層にやって来たユーマ達は、アリアに乗って湖を上空から突っ切る。

しかし、その際の魔物が出てきたが、それはかのデビルスコーピオンと同格の魔物であった。


次回、デビル種再び

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[一言] なんか今までで一番悪戦苦闘してたような
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