第132話 見張りの中での戦闘
前回のあらすじ
75階層の樹海の階層にやって来て早々、クレイル、アリア、レクスが魔物の罠に引っかかってしまう。
アインのお陰で助かり、樹海での脅威を教えて貰う。
途中の大樹で夜を過ごす為に、まずユーマとアリアが見張りの番をする事になった。
僕とアリアは最初の見張りとして起きていて、現在僕は探知魔法を広げて警戒し、アリアもこの樹を覆う様に風魔法の結界を張って、可能な限り魔物から見つからない様にしている。
『しかし、こうして警戒していても何も起こらなければ、見張りも結構暇ですね。ですがそれで慢心して警戒を怠る様な馬鹿な事はしませんがね』
「そう言わないで、アリア。ワープゾーンに辿り着く事が出来ない以上、こうするしか手段がないし、皆を守る為に頑張ろう」
『分かっていますよ。ユーマも頼りにしていますから』
現在僕達は僕が趣味で買った本を読んでいる。
端から見れば真面目に見張りをしていない様に見えるが、僕は探知魔法を使って辺りを探って、アリアは竜神としての鋭い五感をフルに使って警戒している為、こうしていても外の様子が丸分かりなので問題はない。
暫くのこの状態が続いていたが、程なくして僕の探知魔法がある反応を捉えた。
ついでに蝋燭を見ると、もうすぐ燃え尽きる所まで来ていた。
「ここにきて反応が出たか。アリア」
『ええ。ですがこの中は結界で守られています。外からは私達の声や匂いはしませんが、この樹海の中で生息している魔物は危険や気配に対する察知能力が高い種類が多いです。もしかしたら私達の気配を感じているかもしれないので、油断しないでください』
樹の幹から覗いて探すと、そこには全長が30メートル以上はありそうな深い緑色の巨大な蛇の魔物がいた。
「あの深い緑色の身体に、巨大な蛇の魔物。僕の記憶が正しければ、Aランクのフォレストサーペントか。植物種の魔物に加えて、こんな奴までいるのか」
『フォレストサーペントは鋭い察知能力があります。おそらくですが私達――というよりは竜神の私の気配をある程度察知してここにやって来たのだと思います』
「何にせよ、皆への危険を考えると今ここで倒した方が良さそうだ。でも今は夜の時間帯だから、僕は探知魔法を使わないと上手く奴を捉える事は出来ない。アリア、この結界の外に出ても結界はそのままになる?」
『一定の距離より以上離れなければ、外に出ていても結界は解除されません』
「よし。じゃあ、一緒に外に出て、僕はアリアに乗るから一緒に奴を倒そう」
『分かりました』
話が決まり、僕はミネルヴァを抜いてアリアと共に結界の外に出た。
結界から出た事で僕とアリアの気配が剥き出しになった事で、フォレストサーペントの鋭い目がこちらを向いた。
『あなたの相手はこの私達ですよ。さあユーマ、私の背に』
僕は標準サイズのアリアの背に乗り、それからアリアは元の大きさに戻った。
『このまま戦うのでは、あなたは少々大きいですからね。早々に終わらせたいので全力で行かせて貰います』
フォレストサーペントも目の前にいた5メートル程の竜が一気に自分に負けないくらいの大きさになった事で、一瞬怯んでいた。
『申し訳ありませんが、私達の仲間が向こうで寝ているのです! 一気に勝負をつけさせて貰います!』
アリアはフォレストサーペントに飛び掛かり、その頭と胴体を両前脚で抑え付けた。
フォレストサーペントも負けじと尻尾をアリアに体に巻き付けて締め付けるが、アリアは全くと言っていい程ダメージを負っていなかった。
『フォレストサーペントと言ってもこの程度ですか。では今度はこちらの番です』
そう言ってアリアはフォレストサーペントの首元に喰らい付き、持ち上げて地面に体を叩きつけて体に巻き付けた尻尾を振りほどいた。
「アリア、そいつを上空に放り投げて! 僕がケリをつけて来る!」
アリアは了承して首を振り回し、咥えていたフォレストサーペントを上空にぶん投げた。
「よしアリア、後は任せて! ソニックエンチャント!!」
アリアの背をかけて頭を踏み台にした僕は、風の複合強化による跳躍でフォレストサーペントに向かって跳んだ。
フォレストサーペントも自身に向かって来る僕に気付き、逆に返り討ちにしようと大顎を開いて飲み込もうとしてきた。
だがこれが僕の狙いだった。
結果僕はフォレストサーペントの口の中に飛び込み、フォレストサーペントは口を閉じた。
だがこれが奴の最期となった。
僕は右手にミネルヴァを、左手にアメノハバキリを持って魔力を流し、周囲に風の魔力を漂わせた。
「ウィンドエッジ・乱れ撃ち!!」
2本の神器を高速で振りながら風の刃を連続で放ち、フォレストサーペントの身体を内側から斬り刻んだ。
やがてフォレストサーペントはバラバラに斬り刻まれ、僕は切り口から外に出る事が出来た。
まだ上空だったからそのまま落下したが、すぐ下に控えていたアリアが背中でキャッチし、僕は無事に地上に降りる事が出来た。
地上にはバラバラにされたフォレストサーペントの肉片があちこちに落ちていた。
「派手にやったな。でも、高ランクの爬虫類種は鱗が硬い種類が多いから、内側から攻撃した方が効率的なんだよな」
『ユーマの場合はその魔竜のローブのお陰でまだ無事で済みますが、普通の人間ならまずやりませんからね。あまり無茶はなさらないでください』
「ごめんね。でもこうして確実に斬る事が出来たから、アメノハバキリにもフォレストサーペントの能力が吸収されたし、僕達も新しい肉が手に入った」
『フォレストサーペントは周囲の景色に溶け込んで気配を消す能力がありますから、おそらくその能力に因んだ攻撃になるでしょうね』
実際に頭の中で効果を確認したら、フォレストサーペントの効果は刀身を見えなくしての見えない斬撃を放つという物だった。
イミテーターのと同じ能力で、リストには同じ効果として括られていた。
ランクの割に効果はそれだけだったが、これはとても使える能力だ。
例えば、刀身を見えなくする事で他の属性を乗せれば、見えない属性攻撃にする事が出来るから、これは思った以上に強力な能力になりそうだ。
「アリア、僕は奴の肉を回収するから、君は先に戻ってて。今の君は余り結界から離れられないんだからね」
『分かりました。ですが気を付けてください。まだ敵がいるかもしれないのですから』
「分かってるよ」
僕はアリアを先に結界に戻らせ、斬り刻んだフォレストサーペントの肉を回収した。
途中魔物の接近に警戒していたが、幸いにも付近にはいなかったのか、僕が回収を終えるまでには魔物の襲撃はなかった。
そのまま結界に戻り、皆の様子を見ると、全員静かに眠っていた。
アリアによると、結界の外の音などは遮断されており、あの戦闘音も結界に阻まれていて誰も起きなかった様だ。
見張り時間の蝋燭も丁度燃え尽きていて、僕は新しい蝋燭を台にセットして次の見張り番のコレットとアインを揺すって起こした。
「コレット、起きて。交代の時間だよ」
『お姉様、お時間ですよ』
ラティとクレイル達を起こさない様に、小声で呼びかけながら揺すって2人を起こした。
「んん……もうそんな時間ね。分かったわ。後は任せて、ゆっくり休んで」
「お休み、ユーマ、アリア」
僕とアリアは見張りをコレットとアインに交代し、幹の穴の奥でゆっくりと休んだ。
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魔物情報
フォレストサーペント
森林地帯に生息する、Aランクの爬虫類種の魔物。
森の景色に溶け込んで気配を消す能力を持ち、巨体に見合う大きな口で獲物を瞬時に丸呑みにする。
巻きつく力も非常に強く、記録では竜種を窒息させたという事例も存在する。
討伐証明部位は牙。
次回予告
朝を迎えたユーマはフォレストサーペントの肉を使って朝食を作る。
その後攻略を再開させるが、思いもよらないアクシデントが発生する。
次回、同じ轍を踏む