第131話 樹海の脅威
前回のあらすじ
迷宮の階層では、ユーマの探知魔法による地形把握で問題なく進む。
途中にある罠も、ユーマによって素早く発見され魔力を流して解除される。
その流れを見たコレットとアインは過去にかかってきた罠の経験を思い出し、プライドを折られる。
迷路の階層を超えてその後の階層も順調に突破して、僕達は75階層にやって来た。
この階層はこれまでの森の階層とは少し違った、それ以上に樹々が生い茂った深い樹海の階層だった。
「ここは樹海の階層か……見るからに植物種の魔物の巣窟の様だけど」
「確かにその見解で合っているけど、その他にも注意しなくちゃいけない物があるわ」
アインが何かを知っている様だった。
僕がそれについて詳しく聞こうとした時、
「ん? 何だ……? 何だか向こうから良い匂いがするぞ……」
『本当ですね……』
「ウォン……」
クレイル、アリア、レクスがその高い嗅覚で何かを嗅ぎ取り、その方角へと走って行ってしまった。
「何か良い匂いがする」と言っているが、僕の探知魔法ではこれといった魔力反応はなかった。
「クレイル! アリア! レクス! 待ちなさい! ここでは迂闊に歩いては駄目よ!」
アインがいつになく焦った表情で3人を呼び止めようとした。
だが3人はそんなアインの叫びが聞こえていないのか、そのまま奥へと進んでしまった。
「なんだか様子が変だ。追いかけよう」
僕達は後を追い、暫くして3人に追いつくと僕の探知魔法に魔物の反応が現れ、少し開けた場所に出るとその先には巨大な植物が見えた。
その植物は全高20メートルはある巨大植物で、根元の部分には1メートルはありそうな花がいくつも咲いていて、上の方には先端部がハエトリグサの様な形に開いたツタの様な物があった。
そしてクレイル達はその花に向かって歩いていた。
「不味い! ブラストファイア!!」
その瞬間アインが巨大植物に向けて炎魔法を放ち、植物を一気に燃やしてしまった。
「……ん? あれ? 俺達、どうなったんだ?」
「ウォン?」
『……はっ! 何でしょう……何か蠱惑的な香りに釣られて、気付いたらここにいましたが……』
クレイルやアリア達も正気に戻った様だ。
「どうやら目を覚ましたみたいね」
「アイン、あの植物は、何だったの?」
「あれは植物種の魔物で、ヘルディオネアというの。花から発する蠱惑的な香りで獲物を引き寄せて、あの特徴的な形のツタで捕食して養分にしてしまう、危険な魔物よ。クレイル達は3人とも鼻が良いから、すぐに花の香りにかかったのよ。尤も、アリアとレクスは例え捕らえられても養分にはされず、逆に正気に戻って内側から食い破ったり燃やしたりして脱出できたけど、クレイルの場合は人間だから神器のメルクリウスを残して骨も残らずに養分になっていたわよ」
「怖っ!! そんな風に死ぬなんて、まっぴらごめんだぜ!!」
クレイルはそうなった場合の自分を想像して青ざめいていた。
「アイン、さっき言いかけていたこの樹海で注意しなくちゃいけない事って、あの魔物みたいな奴とかの事なの?」
「いいえ。確かにあの捕食植物の様な魔物も注意点に含まれているけど、それ以外にも危険が多いのよ。樹海っていうのは」
アインは妖精種のティターニアで、自然界についての知識が豊富だ。
だから、こういう樹海での危険な所を詳しく教えてくれた。
「まず樹海は普通の森と違って樹々が多い分、視界が悪いから魔物の奇襲で命を落とす事もあれば、さっきのヘルディオネアの様な何らかの手段で獲物を引き寄せて襲う魔物もいる。でもそれ以外にも危険があるわ。こういう所には、キノコや草とかがあるけど、もしそれを毒と知らずに食べてしまったらどうなる?」
「成程。碌な知識もなしにその辺の草やキノコで飢えを凌ごうとすると、逆にそれに含まれていた毒にさらされて逆に命を落としかねないという事か。単純だけど、特に注意しないといけない事だね」
「その通りよ。それ以外にも毒がなくても危険な植物とかも存在するから、この樹海の階層はこれまでの中でも特に難易度が高い階層よ」
「成程ね。しかもあのヘルディオネアみたいな、僕の探知魔法の範囲外からクレイル達が嗅ぎ取れる程の匂いを放つ魔物がいるとなると、これはかなり厄介だ」
「そうね。ユーマくんが反応を知らせる前にアリアやクレイルくんがかかるとなると、こっちから出向いて倒すしかないし」
それでもこの面子なら余程の事がない限り心配はいらない。
しかし、
「それでも中には厄介な植物種もいるわよ。基本的に植物種は炎属性の魔法や攻撃に弱いけど、中には炎属性に耐性を持ったのもいれば、雷属性が弱点なのもいるからね」
植物は火に弱いというのが常識だけど、その常識に固執した結果命を落とした頑固な冒険者と言うのも過去に沢山いる。
またはさっきの植物やキノコの事とかの知識が足りなくて毒に当たった冒険者とかだ。
だからこそ、常にいかなる状況に対応出来る様に柔軟さが必要だからな。
「とりあえず、ここではこれまで以上に気を引き締めないとね」
「そうね。さっきのアリア達みたいな事にならない様にしないとね」
『ぐっ……さっきがさっきなだけに何も言えません……』
アリア達はさっきの醜態を思い出して小さくなっていた。
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この樹海の階層は思った以上に進みづらく、事ある毎に植物種の魔物と遭遇したり、その魔物と共存したり捕食されたりしている昆虫種の魔物と遭遇したりで、全て討伐しながら進んでいたが1日では突破できず、もう日が沈んでいた。
この階層は植物を成長させる為か魔力で出来ているだろうが太陽もある為、夜も存在している。
「今日はこれ以上は危険ね。何処かで休める所を探しましょう」
「クレイル、それらしい場所はあるかい?」
「ちょっと待ってろ」
クレイルは近くの木に登り、その枝から辺りを見回した。
そして飛び降りて戻ってきて、明後日の方角を指した。
「向こうに、巨大な樹を見つけた。魔物も入れるくらいの穴もあって、魔物らしい気配はなかったから大丈夫だと思うぜ」
「その方角にもこれといった魔物の魔力もないから、そこで野宿しよう」
僕達はクレイルが見つけた樹を目指し、やがて幹の一部が大きく空いた巨大樹に辿り着いた。
その後僕は夕食にメタルグリズリーの肉をぶつ切りにして大根と一緒に煮込んだ角煮を作り、デザートにフルーツゼリーを出した。
やがて片づけを終えた僕達は、交代で外の見張りをする事を決めた。
「見張りはこの蝋燭が燃え尽きるまで、組み合わせは各々の従魔とで。これでいいかな?」
僕は台に蝋燭を置いて、見張りの時間を設けられる様にした。
「あたしはいいわよ」
「俺もだ」
「私も異論はないわね」
皆も同意し、最初の見張りに僕とアリアが行う事になった。
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魔物情報
ヘルディオネア
ハエトリグサの特徴を持った植物種のAランクの魔物。
根を地面から抜いては刺すを繰り返す事で、移動する事も出来る。
花の香りで生き物を誘い出し、先端がハエトリグサの触手で獲物を捕食し養分にする。
討伐証明部位は頂上部にある1番大きな花。
次回予告
最初の見張りをしていたユーマとアリアは、終わりの時間を前にして魔物の接近を感じる。
ラティ達への危険を減らす為に、2人は結界を出てその魔物に挑む。
次回、見張りの中での戦闘