第130話 罠の解除法
前回のあらすじ
雪原の階層を進むユーマ達は、途中の洞穴で休み、食事の用意をする。
そしてその際にアイスジャガーを発見し、コレットに仕留めて貰い、現地で食材を調達した。
ダルモウス山脈のダンジョンの攻略を開始して、3日が経った。
僕達は現在、第72階層にいる。
これまでの階層では砂漠や森、洞窟などの地形の階層があり、僕達はその階層らにいる魔物を出合い頭に片っ端から討伐していた。
初めて戦う魔物は出来る限りアメノハバキリのストックに入れたい為、皆もそれに従いストックする分は皆がギリギリまで弱らせてから僕が斬るというやり方で増やした。
またこれまでに倒した魔物も、全てが高ランクの魔物で最低でもBランク、また70階層以降からAランクの魔物も出て来るようになったため、着々と斬った魔物の数が増え、アメノハバキリが強化されていった。
勿論いざという時の為に試し撃ちもしている為、その効果も確かめる事でその分ストックが減っているが基本的にそれなりの数で出くわしていた為それ程の問題にはなっていなかった。
そして現在僕らはこの72階層の迷路の階層で、今もこの階層に出てくる魔物と戦っている。
「はあああっ!!」
僕のアメノハバキリによる一閃で、迷路の壁に擬態していたイミテーターというBランクの魔物を倒し、
「ブラストファイア!!」
ラティの放った炎の魔法が前方にいたガーゴイルを焼き尽くして討伐した。
イミテーターは強力な擬態能力を持った悪魔種の魔物で、ガーゴイルは獣の様な頭に2本の角が生え、人型の肢体に蝙蝠みたいな翼が生えた悪魔種の魔物だ。
そしてこの2種類を討伐した事で、アメノハバキリに見えない斬撃を繰り出す能力と、攻撃した時の威力を数倍にはね上げる能力が加わった。
「クレイル!」
「おう!」
その後に出てきた2体のガーゴイルも、僕とクレイルがライトニングエンチャントと加速魔法で間合いを詰め、
「そこっ!!」
「喰らえ!!」
アメノハバキリとメルクリウスによる一撃で沈み、続いて出てきた個体も、
「させないわよ。ホーリーアロー!!」
コレットのユグドラシルによって放たれた光属性の魔力の矢によって絶命した。
「これで全部か」
「うん。ガーゴイルとイミテーターの魔力反応がない。これで全滅だよ」
探知魔法で前と後ろの魔物反応がない事を確認し、僕達は一息ついた。
「ユーマの探知魔法とこの戦力のお陰で大した事はなかったけど、こんな通路だと思う様に動けないから面倒だな」
クレイルはここが幅に制限がある迷路の通路の階層な為、自分の機動力がフルに活かせない事にもどかしさを感じていた。
実際に、さっきの戦闘もその幅の所為でアリア達も自由には動き辛い為、現在従魔組は後ろで控えている。
尤も、体の大きさに関係なく魔法が使えるのはアインだけだけど、そのアインもアリア達の相手をしてくれている。
「そう言わないでよ。その代わり、僕が地形探知で迷わずに最短で突破できるように頑張るからさ」
この階層では天井もある為アリアやクルスが空から偵察をする事が出来ない為、僕が常に探知魔法で周囲の地形を把握しながら分かれ道で迷ったり、行き止まりにぶつかったりしない様にして、ここまでは1回も道を間違えずに進めていた。
「そうだな。頼りにしているぜ、ユーマ」
「この階層とかだと、文字通りユーマが私達の生命線ね」
「信頼しているわよ、ユーマくん」
「任されました」
ダンジョンでは今僕達がいるこの迷路の階層とかでは、僕みたいな探知魔法の使い手が特に活躍できる場でもある。
主に曲がり角に魔物がいる場合、いち早く感知して仲間に知らせる頃が出来る他に、僕の場合だともう1つ理由がある。
それは……。
「待って。この先の魔力が変わっている。おそらくトラップだ」
僕は歩いている途中、この先の通路の魔力反応の流れが変わったのを感じ、皆を制止させた。
そう。
これがそのもう1つの理由だ。
ダンジョンでは中には罠が仕掛けられた階層が存在する。
主にこの迷路の階層や洞窟とかに存在している。
その罠の種類は多種多様で、底が針地獄となっている落とし穴や通路を覆い尽くす様な巨大な岩が転がってくるという定番な罠から、途中から先が火の海になったり見えない壁が張られる罠なんかもある。
そして僕は探知魔法を応用して、周囲の地形の魔力を探知して見えない所の地形を把握する事が出来る。
ダンジョンは巨大な魔力による特殊な空間だから、その各階層の魔力は一定となっているが、罠がある箇所だけは魔力の反応が違う為、僕なら罠の有無を確認したり解除したりするスカウトとかシーフの役割がいなくてもこうして探知魔法で存在を知る事が出来る。
「解除できそう?」
コレットに聞かれた。
「ちょっと待ってて」
僕はその罠が仕掛けられている場所に近づき、その近くの床に手を置いて魔力を流した。
ダンジョン内での罠の解除法には主に2種類ある。
1つ目は主にスカウトやシーフといった役割の人が直接罠を手動で解除する方法。
2つ目は外部から別の魔力を干渉させて所謂ショートさせて罠を解除する方法だ。
尤も2つ目の場合は解除というよりは物理的な排除に近いのだが、ダンジョンの罠は厳密には魔力でできた物なので、魔力による干渉で排除するのは意外と効率が良かったりする。
寧ろ、前者の手動での解除は場合によっては時間を要する事もある為、そういう意味では後者の方が時間もかからずに先に進めるとかの理由で需要があるという事をコレットから教えて貰った。
魔力を流しながら探知魔法で確認し、ちょっとすると罠がある箇所の魔力が通路と同じになった。
「解除完了。もう大丈夫だよ」
僕は罠が解除できた事を伝えた。
「お疲れ様。やっぱりユーマがいるとダンジョンの攻略がスムーズに出来て楽ね。でも、これだけスムーズだと、過去の私のダンジョン攻略の苦労が何だったのかって思うわ。何度も道を間違えて、うっかり魔物の巣に迷い込んではそれを殲滅するまで出られなかったり、酷い時には1ヶ月悪臭がこびりつく罠なんてのにもかかった事があるし……」
「ああ……あれは確かに酷かったわね……あの時はその間周りから徹底的に敬遠されて、それで悪臭がやっと抜けても本当に大丈夫なのかって中々近寄って貰えなかったわよね……それなのに極めて普通の探知魔法で地形を把握して迷う事無く、罠の存在まで感知できて解除までできるなんて……探知魔法でこんな使い方をするなんて、やっぱり転生者ってズッコイわよ」
なんだかコレットとアインが端で呟いている。
聞き耳立てると2人の過去のダンジョン攻略の苦労が聞こえてくる。
2人はかつてはパーティーを組める人がいなくて単独でダンジョンに挑戦していたから、さぞ苦労していたんだろうな……。
「まあまあ、コレット。その苦労談はダンジョンから帰ったらゆっくり聞くから、今は先を進もう」
「……そうね。先を急ぎましょう」
コレットとアインは何かをごまかすかの様に解除された罠の先へと行った。
その後ろ姿はなんだか哀愁を誘う。
残った僕達は顔を合わせて揃って苦笑いした。
「行こうか」
「そうね」
「ああ」
僕達はコレット達を追って先を進み、その後も何度か魔物と遭遇しては倒して、罠を発見しては解除してを繰り返し、無事に何事もなくこの階層も突破する事が出来た。
しかし心なしか、その時もコレットとアインは今まで以上に落ち込んでいた。
時折耳を寄せてみると、自分達がかつての迷路の階層でどれだけ苦労したかとか、何度罠にかかったかとか、そういう呟きが聞こえてきた。
なんだか僕、知らず内に2人のプライドをへし折っちゃったみたいだ……。
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魔物情報
イミテーター
壁や周りの景色に擬態する能力を持つBランクの悪魔種の魔物。
擬態中は気配を感知できない為、熟練の探知魔法の使い手がいないと発見が困難となる。
しかし、攻撃するタイミングは擬態が解けるという弱点がある。
討伐証明部位は額の角。
ガーゴイル
Bランクの悪魔種の魔物。
獣の様な頭に2本の角が生え、人型の肢体に蝙蝠みたいな翼が生えた姿をしている。
スピードとパワーに優れ、知能も高い。
従魔として適合した個体は、中にはジェスチャーで会話をした個体も存在している。
討伐証明部位は尻尾。
次回予告
更に下の階層に降りたユーマ達を待ち受けていたのは、樹海の階層だった。
その際にアインが樹海での注意点を離そうとするが、クレイル達が何かに引き寄せられてしまう。
次回、樹海の脅威