第127話 従魔の蹂躙
前回のあらすじ
山脈の麓の街にやって来たユーマ達は、ギルドの資料室で情報収集をする。
そして各階層への対策の為に消耗品などを補充し、宿で休むのだった。
一晩明け、僕達は早朝に街を出て、城壁が見えなくなったところで僕の空間魔法でダルモウス山脈のダンジョンの入口へと転移した。
「いよいよだな」
クレイルが呟いた。
「そうだね。皆、準備はいい? ここからは攻略するまで、絶対に外に出ないと思って」
「大丈夫よ。ポーション類も魔力も十分。いつでも行けるわ」
「私もよ。ユグドラシルとアルテミスも問題ないから、いつでもオッケーよ」
「俺もだ。だから大丈夫だぜ、ユーマ」
皆の状態を確認し、僕も自分の魔力や装備をチェックし、問題ないので僕は再びダンジョンの入口に向き合った。
「よし! じゃあ行こう。まずはコレット、頼む」
「任せて。皆、私に触れて。そうすれば皆も一緒に64階層までワープできるわ」
僕達はコレットの肩や手に触れて、コレットはワープの魔法陣に魔力を注いだ。
すると強い光が発し、僕達は目を瞑った。
そして次に気付いた時は、僕達は見知らぬ草原にいた。
「着いたわ。間違いなく、ここが64階層よ」
コレットのお陰で、僕達は無事に64階層まで転移する事が出来た。
僕達はワープゾーンから出て、僕は懐から資料室で写し書きしたメモ帳を開き、この階層の情報を記したページを開いた。
「この階層ではCランクやBランクの魔物が中心に出て来る。そのくらいだったら、この戦力でも問題はないね」
僕の言葉に皆が頷き、次の65階層への階段を目指して歩き始めた。
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歩き続けて暫くして、僕の探知魔法に反応が現れた。
「ユーマ」
クレイルも気配で感じたのか、鋭い視線を前方に向けた。
その先には、見晴らしのいい草原だった事もあり、こちらに接近してくる魔物の姿が肉眼でも見えた。
「うん。あれはサイクロプスだ。しかもその数は20」
その魔物は、かつて僕達がバロンさんやゼノンさん達と初めて共同依頼を受けた時に討伐した魔物、サイクロプスだった。
確かあの時は、まだクレイルとレクスが加入したばかりで、コレットとアインはいなかったな。
『流石はダンジョンというだけあって、出て来る数もかなりですね。ですが、丁度いいです。ユーマ、あれは私に任せてくれませんか?』
そう言って、アリアが前に出た。
「分かった。アリア、一先ず1発目は任せる」
『ええ、お任せください』
アリアは口に赤い魔力を溜め始めた。
色合いから見て炎の属性の様だ。
『申し訳ありませんが、あなた達には私の鬱憤晴らしになって貰います! クリムゾンブレス!!』
アリアの放った灼熱のブレスが、近づいてくるサイクロプスの集団を一瞬で包んだ。
そのあまりの熱量に、サイクロプス達は断末魔の悲鳴を上げている。
やがてブレスが止み、炎が消えると、そこにいたサイクロプス達は跡形もなく消し炭となり、残っているのは討伐証明部位の角と魔石のみだった。
『証明部位と魔石が残るように調整しました。やはり冒険者である以上、稼げるものは取っておいた方がいいでしょう』
アリアは単にストレス解消の攻撃しただけではなく、しっかりと利益が残るように力を調整してサイクロプスを倒した様だ。
アインに似てちゃっかりした竜神だな。
「前にスタンピードの時に、アインがトロールの魔石や証明部位を残して一掃した事をコレットから聞かされたけど、アリアも同じ事をやるとは。僕達も冒険者だからあまり人の事は言えないけど、うちの従魔達も結構ちゃっかりしているね」
そう言いながら、僕達はアリアが倒したサイクロプスの証明部位と魔石を回収し、奥へと進んだ。
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それからの僕達の戦闘は、アリア達による一方的な蹂躙と化していた。
『ストームブレス!!』
「ブラックイクリプス!!」
アリアの暴風のブレスがBランクの魔物の群れを切り刻み、アインの放った闇属性の魔法が別のBランクの魔物の群れを飲み込んで消滅させ、後から証明部位と魔石を取り出した。
「グルルルゥ!!」
一方別の方では、クルスがその中にいたBランクのグランドタランチュラを空から爪で斬りつけつつダメージを与え、
「ガルルルルゥ!!」
レクスが止めに正面から噛みつき、それによる衝撃波でグランドタランチュラをバラバラに噛み砕いた。
……とまあ、こんな具合に、現在僕達の従魔による無双劇が広がっている。
そして僕達は後ろでその蹂躙を見守る事しかできなかった。
「ここまで暴れるとは……さっきからずっと続いているね」
「皆よっぽどあのダンジョンでのストレスが溜まっていたのね……」
「ユーマ、これからは定期的にあいつらを暴れさせてやったほうがよくね? あいつらならその辺の力加減も出来るんだしさ」
「そうね。あまり戦いに参加させていないと、その在り余った力で鬱憤が溜まっていつ爆発するか分からないから、定期的にガス抜きさせた方がいいわね」
僕達はそんな相棒達の戦い――というよりは一方的な蹂躙を目の当たりにし、これからは定期的にアリア達に戦いを任せようと決めた。
やがて戦いを終えたアリア達が、すっきりしたという様な表情で戻って来た。
『あああ~~~。すっきりしました」
「やっぱり遠慮なく暴れられるのはいいわね。遠慮なしの方があたしたち的にはいいし」
アリア達はストレスが解消した事に満足した様子だが、全く疲れていなかった。
しかもどちらかと言うと、なんだか鱗や体毛に艶が出始めていた。
思いっきり暴れてストレスが解消され、一気に体調がハイになったのかもしれない。
「お疲れさま、アリア。でも、できれば少しは残しておいて欲しかったかな。殲滅して魔物がいなくなったら、アメノハバキリで斬れる魔物がいなくなっちゃうからね」
『それもそうですね。では、次からは私達も共に戦う時に、ユーマ達も立ち回れるよう努めます』
「よろしくね、アリア。とりあえず、ここら一帯に魔物の反応はなくなったな。先へ進もう」
僕達はその後、これといった魔物に遭遇する事なく、次の階層への階段へスムーズに行く事が出来た。
恐らく、さっきのアリア達の無双で、他の生き延びた魔物達がここらから離れたのかもしれない。
「この次が65階層よ。ここからは、出てくる魔物のレベルが段違いになってくるわ」
確か最低でBランクで、かなり強い魔物がうじゃうじゃと出て来るんだよな。
「上等だぜ。それに、どの道俺達は行かなくちゃいけないんだ。だろ、ユーマ?」
「その通りだ。僕達は、必ず最下層に行き、そこにいるボスのベヒモスを倒して、ラティの為に神器の杖を手に入れるんだ。その為には、僕達は行かなくちゃならない」
クレイル達もその決意は同じで、僕達は改めてその志を抱き、階段を下りた。
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魔物情報
グランドタランチュラ
Bランクの昆虫種で、人間と同じくらいの大きさがある蜘蛛の魔物。
足先や口に毒を持っていて、噛みついたり足先を突き刺して毒を流し込む。
また下手に剣で斬ったりすると、毒液の原液を含んだ体液が出る事もあり、注意が必要。
討伐証明部位は触角。
次回予告
65階層に来たユーマ達は初めて見る魔物に遭遇する。
ユーマは新しい神器と強化された装備を確かめるべく、単身で挑む。
次回、新装備での戦闘