第126話 麓の街で情報収集
明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
また、今日から新作も始めています。
それでは、今日からもお願いします。
前回のあらすじ
ダンジョンに挑戦する事を決めたユーマは、ガリアンとネルスによって強化された武器を受け取り、その説明を聞く。
そして裏庭で試しに素振りをし、その使い心地を確かめる。
首都を出た後、僕達はアリアに乗ってダルモウス山脈を目指し、その麓にあるという街へ向かっている。
「コレット、方角はこっちで合ってるの?」
僕の問いに、コレットが地図を見ながら思い出している。
「大丈夫よ。このまま行って」
「分かった。アリア」
『分かりました』
そうやってアリアの飛行で移動するうちに、目的のダルモウス山脈の全貌が見えてきた。
前回は急いでいなかったので1日程で首都に到着したが、今回はアリアもラティの為に張り切っていたのか、半日もかからずに山脈の真上についてしまった。
「アリア、ここから北西の方の麓に、目的地のセレストの街があるわ。そこに向かって飛んで」
『分かりました、コレットさん』
コレットの指示に従い、アリアは山脈に沿って北西へと降下しながら飛んだ。
やがて麓に近づき、前方に城壁が見えた。
「見えて来た。アリア、ここで地上に降りて。そこから馬車で街には入ろう」
『はい』
いくら従魔でも、突然巨大な竜が城壁の目の前に降りれば大騒ぎになると思うから、城壁が見える距離で一旦降りて、僕の収納魔法から出した馬車に乗り込み、標準サイズになったアリアや、元のサイズのクルス、亜空間から出てきたレクスを周囲に配置して、僕は馬車に繋いだゴーレムを走らせた。
城壁にいる門番の騎士には、いつも通りギルドカードを見せた。
カードに記載されたパーティー名からすぐに僕達の素性が分かり、門番たちは驚いたものの問題なく街には入れた。
街に入ってすぐに馬車を収納魔法に入れ、僕達は門番の人達にギルドの場所を聞き、ギルドを目指した。
ギルドに到着した僕達は、クルスとレクスを外に残し、ミニサイズになったアリアとアインを連れて中に入った。
そのまま受付に行き、受付嬢に声をかけた。
「すみません、ちょっといいですか?」
「はい、本日も当ギルドをご利用くださり、ありがとうございます。本日はどのようなご用件でしょうか?」
「ダルモウス山脈のダンジョンについて情報が欲しいのですが、どうすればいいでしょうか?」
僕が目的を話すと、周囲の冒険者達の話し声が聞こえて来た。
「あいつら、あのダンジョンに挑むつもりか?」
「だがたった4人だぜ。どうせ途中の階層止まりになるさ。あのダンジョンの難易度ははっきり言ってバケモノじみている。まあ、その本人に適性のある階層まで行ければ、成功したら金には困らなくはなるな」
「違いないな。それに今では、あのダンジョンを攻略しようなんて無謀な奴はめっきり見なくなったな。でも無理もねえ。ボスの魔物の名前を聞いちまえば、誰でも攻略しようなんて言わなくなるしな」
「ああ。あんなバケモノに挑もうなんて奴、正直自殺願望があると言われても信じるぜ」
周りの冒険者達はあのダンジョンでの魔物討伐や、依頼などで活動しているらしく、僕達の様子を見て話し合っている。
だがあの話から察するに、彼らもあのダンジョンのボスがどんな魔物なのかは知っているようで、それで僕達がこれからそいつに挑もうなんて、これぽっちも思っていない様だ。
だが僕達は自殺願望なんてないし、寧ろマジで挑むその無謀な奴らなんだけどね。
僕達はそんな会話を余所に、受付嬢の返事を待った。
「はい。あのダンジョンの情報でしたら、当ギルドの資料室に情報が記録されたファイルがございます。そちらをご利用されますか?」
資料室に情報が記録された物があるなら、ここで話を聞いて情報を集めるよりは的確な情報が入手できるかもな。
「はい。それでお願いします」
「畏まりました。ギルドの資料室をご利用する際には、ギルドカードの提示による身分証明が必要となります。カードをお願いします」
僕は懐からギルドカードを取り出し、受付嬢に渡した。
彼女はそこに記された僕の名前と所属パーティーを見て、驚愕の顔になった。
「えええええ!? ユーマ・エリュシーレに銀月の翼って……皆様はあの銀月の翼なのですか!?」
受付嬢の言葉を聞いた、周りの冒険者達は騒ぎ始めた。
「銀月の翼だって!? あの有名なAランクパーティーか!?」
「確か、連れている従魔が、全てEXランクで、『雷帝』を始めとする冒険者達もとんでもない実力を持っているって話だぞ!!」
「そんな面子なら、もしかしたらあのダンジョンも攻略するんじゃねえか?」
「あり得るな。4人と4体でも、そんな凄い従魔がいるなら、ほんとにあのボスを倒せるかもしれねえ」
冒険者達は僕達の正体を知った途端、僕達ならあのダンジョンを攻略できるんじゃないかと話し合っている。
「失礼しました……では、資料室へご案内します……」
受付嬢に案内され、僕達は資料室へ入り、そのダンジョンに関する情報が入ったファイルをかき集めた。
「よし。それじゃあ、始めよう」
「確か、コレットさんがあのダンジョンに挑戦したのが、200年程前よね?」
「ええ。でも、その時はまだダンジョンの情報が少なかったし、私もアインとだけでパーティーを組まずに挑戦していたから、滞在期間中に到達できたのは64階層までだったわ」
「そしてボスの魔物がベヒモスだって事が判明したのが数十年前って事は、その間に他の冒険者によるダンジョンの攻略と探索が進んだという事か」
クレイルがダンジョンの探索記録のファイルを捲りながらつぶやいている。
だが、結構内容の理解に苦しんでいる様だ。
「ちょっと興味本位でこれを開いてみたけど、俺にはこういう記録のチェックは難しそうだな」
「それなら、その記録は僕が確認するから、クレイルは階層に出てくる魔物の情報の記録を見て。それなら幾分かは出来るでしょ?」
「そうだな。頼むぜ、ユーマ」
僕はクレイルと持っていたファイルを交換し、僕はダンジョンの探索記録のファイルを開いてゆっくりとページを捲った。
『ふうむ……この記録を見ると、ダルモウス山脈のダンジョンの階層は、各階層がかなり広大の様ですね』
「うん。この前の首都のダンジョンと違って、1階1階毎に階層の環境内容が変わっている。洞窟や森の階層は勿論、砂漠の階層、湖の階層、迷宮の階層、寒冷地の階層なんてのもあるな」
ダンジョンは全ての階層が同じ環境の場合もあるが、ここは全ての階層の環境がバラけており、纏まっている階層は存在していなかった。
「魔物の種類やランクも相当なレベルね。私が最後に到達した64階層までで、遭遇した魔物のランクアベレージは、ざっとBランクの上位ぐらいだったけど、このダンジョンの全ての階層からだとそのアベレージはSに届きそうね。特に65階層からだとCランク以下の魔物は殆ど見なくなって、最低でもBランク、中にはSランクの魔物に、デビル種の魔物も出て来るみたいよ」
デビル種だと、以前僕とラティ、夜明けの風が戦った、デビルスコーピオンみたいな奴の事か。
そんな魔物まで出て来るとなると、今度のダンジョンはこれまで以上にアリア達の力が必要不可欠になって来るな。
「それに、最下層が昔私が聞いていたのとは違ってるわね。あの時は90階層って聞いていたけど、本当は96階層まであるわ。しかも、90階層から96階層までに出てくる魔物は、どれもAランクやSランクの奴らばかりね」
コレットがその階層で遭遇する魔物のリストを見て、そう言った。
しかしAランクやSランクがぞろぞろと出て来るとはね……。
「これは、マジでレクス達がいねえと、本当に手を焼きそうな所だな」
クレイルも同じ事を思っていた様で、頭をガリガリと掻きながら言った。
「ごめんね。あたしの為に、これから皆を危険な所へ行かせる事になって……」
ラティが資料を後方に置きながら頭を俯かせて、僕達に謝った。
これから挑むダンジョンの危険度を知って、僕達をその危険に自ら飛び込ませる事に罪悪感を抱いたのだろう。
僕はそんなラティの優しさを理解しつつ、彼女の頭に手を優しく置いた。
「ラティ、それは言わないで。僕達は冒険者だ。危険を承知である以上、ダンジョンの危険の1つや2つ、どうって事はないよ。ましてや家族の為なら尚更さ」
「そうだぜ。俺達はお前の為に、絶対に神器の杖を手に入れたいって思ったから、こうしてここまで来たんだ。ここまで来た以上、冒険者として危険を承知で挑もうぜ」
「そうね。あなたの優しさは分かるけど、それで縮こまったら、何も前に進めないわ。私達がその覚悟を決めた以上、あなたも覚悟を決めましょう」
クレイルとコレットもラティを励まして元気づけた。
更にアリアもそのミニサイズの前脚をラティの手に置いた。
『ラティ、私がユーマの従魔としてのパートナーなら、あなたは人間として、そしてユーマの人生のパートナーです。パートナーなら、自分の為に頑張ろうとする相方を信じて、あなたもユーマが信じるあなたを信じましょう』
「アリア……そうね。今度は神器を手にするのがあたしなんだから、そのあたしが怖気づいたら駄目よね。分かったわ。改めて誓うわ。あたしはユーマくんを、そして皆を信じて、その皆が信じるあたしを信じるわ」
ラティが元気づいた所で、僕達は再び資料を見て情報を集め、有力な情報があったらそれをメモに写し書きして手元に集めた。
やがて全ての階層の情報を集め終えた僕達は、ギルドを後にして今度は市場にやって来た。
「今度は消耗品を買い揃えよう。主に特殊な環境の階層でも活動できるように、暑さや寒さを緩和する効果を持ったポーションや、いつもよりも魔力回復のポーションを多めに買うよ」
「そうね。あのダンジョンには砂漠や寒冷地の階層があるから、そういったポーションは必須になるわ。基本的にはアインとアリアが掛けるレジストでやり過ごせるけど、もし何らかでレジストの掛け直しが出来ない状況になった時には、自分達で緩和のポーションを飲んだ方が早いから、持っていて損はないわね」
コレットの言う通り、常に最悪の状況を予測して僕達は対策を用意していた。
備えあれば患いなし、その言葉に従って、僕達は着々と準備を進めた。
そして買い物を終えて準備を整えた僕達は、近くの宿に入り今日はそこで休む事にした。
「明日はいよいよあのダンジョンだな」
「うん。明日はコレット、君が最後に行った階層まで一気に転移しよう。そしてそこからスタートだ」
「分かったわ。その階層からは、それなりに高ランクの魔物ばかり出て来るけど、このメンバーなら余程の事がない限り、心配はいらないと思うわ」
僕達の戦力は、人族に僕とラティ、身体能力に優れた獣人のクレイル、非常に高い魔力を持つハイエルフのコレットで、その内3人が神器持ちだ。
それに従魔は竜神のアリア、特異種のグリフォンのクルス、フェンリルのレクス、ティターニアのアインと純粋なEXランクが3体もいるから、贔屓目無しでも最強のパーティーと言っても過言ではないな。
といっても、アリアとレクスはまだ種的には子供の段階だから力が完全なEXランクではアインしかいないとはいえ、それでも十分すぎる戦力だ。
「アリア、聞いての通り、明日からのダンジョンでは、この間と違って君達の力にも頼るから、期待しているよ」
『お任せください。正直、あのダンジョンではずっと後ろで控えているだけでしたから、それなりに鬱憤も溜まっていますので、思う存分暴れさせて貰います』
「そうね。あたし達も偶には思いっきり暴れて、ストレス発散したいし」
どうやらアリア達は最近暴れる事が出来なくてストレスを溜め込んでいる様だ。
この前のダンジョンでは、僕、ラティ、クレイルの3人で攻略したから、後ろで控えているだけだったアリア達はそれなりにストレスを溜めてしまい、それを発散したいんだな。
「分かったよ。なら、明日は思う存分暴れていいよ。でも、僕も新しく手に入れたアメノハバキリに魔物の能力を蓄えたいから、少しは残してね」
この間のダンジョンでイリアステル様が贈ってくれた僕の新たな神器、アメノハバキリは斬った魔物の能力を吸収して蓄え、それを解放してその力を乗せた斬撃が放てるという神器だ。
そのダンジョンはコレットが最後に行った階層からスタートするから、逆に言い返せばかなり強い魔物が初っ端から出て来るという事だから、アメノハバキリに強い魔物の能力を蓄えさせる事ができるという訳だ。
つまり、高ランクの魔物の能力を蓄えておけば、最後のベヒモス戦に使えるかもしれない。
「そうね。ラティの元素の杖にも各属性の魔力がいい感じに溜まってきているから、恐らくベヒモス戦では、ユーマのアメノハバキリとラティの元素の杖が重要になるかもしれないわ」
「そうだね。だからこそ、そのベヒモスの所に辿り着き、そいつを倒して」
「ダンジョンを攻略して、神器の杖を手に入れる」
「ラティの為に、私達は戦う」
僕、クレイル、コレットの言葉に、ラティやアリア達も頷き、僕達は明日のダンジョンに備え、夜を過ごした。
ここまでお読みくださって、誠にありがとうございます。
「面白い」、「続きが気になる」、「更新頑張れ」と思いました方は、ブクマ、感想、評価してくださると今後の励みになります。
次回予告
山脈のダンジョンへやって来たユーマ達は、コレットが最後に来た階層まで一気に転移する。
そして最初に魔物と遭遇するが、暫く暴れていなかった事でストレスを溜めていたアリア達従魔が大暴れする。
そして、その階層は蹂躙の地となった。
次回、従魔の蹂躙
また、今日から新作を始めています。
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