第13話 戦闘訓練
前回のあらすじ
幼い貴族の嫡男のせいでトラブルに巻き込まれ続けたユーマ達。
彼らはそれを防ぐために冒険者になるべく、ゲイル達に師事を頼む。
彼らはそれを了承し、15歳になるまでの10年間修業を付ける事が決まった。
お父さん達に冒険者になる事の決意を伝えた翌日、今日から僕達の生活は一変する。
早朝に起床するのは今までと一緒だが、ラティは若干まだ眠たそうだった。
「ふわぁぁぁ……」
「ラティちゃん、大丈夫?」
「何とかね……ユーマくんは平気なの?」
「うん。僕はいつもこの位の時間に起きているから平気だよ」
元々、前世では朝が早いパン屋で働いていたから、早起きに関しては既に体内時計が出来上がっていた為、この程度の早起きは平気だった。
5分ほど経ってラティの目が完全に覚めた頃、お父さん達が出て来た。
「2人共おはよう。今日から、冒険者としての修業を開始する。昨日言った通り、修業期間は2人が冒険者登録が出来る様になる15歳になるまでの10年。その10年間の修業内容は、最初の5年で俺とダンテが武器を使っての戦闘訓練。サラとエリーが魔法による訓練の指導を担当する。その5年で基礎的な戦闘の動きや連携を覚えてもらう。そして、残りの5年では実際に魔物との戦闘を行い、実戦や素材の剥ぎ取り、ギルドでの換金などを覚えてもらう」
「えっ。冒険者の登録をしていなくても、魔物を討伐できるの?」
これは、僕も知らない事だったから訓練前の質問として、お父さんに聞いてみた。
「いい質問だ、ユーマ。実は、ギルドで登録していなくても、正式に登録している冒険者が付き添っていれば、魔物を狩りする事が認められるんだ。だが、その付き添いの冒険者が同伴していなければ、ギルドでの素材の換金の手続きを受け付けてもらえない。そして、登録していないから、いくら魔物を討伐しても後から登録してもそれまでの討伐記録はランクの昇格には含まれない。つまり、その5年間は正式に冒険者になるまでの仮登録期間になる。2人にはこれから10年間で、俺達がこれまで培ってきた経験を全て注いでやる。頑張るんだぞ」
「「はい! よろしくお願いします!」」
「それから、その訓練の合間に、私の授業を組み込むわね。内容は、昨日言った各国の文化や種族の種類などに加えて、字の読み書きや通貨の計算も入れるわ。いくら戦闘が出来ても、読み書きや計算が出来なければ世間には通用しないし、他国の文化を知っていればいざという時に役に立つからね」
「修業は、1週間の内3日が戦闘と魔法の実技による訓練。残りの内もう3日が、サラによる座学の授業。そして残りの1日は休息にあてる。冒険者にも休息は必須だからな。後、アリアとクルスは基本的に5年後の実践訓練までは、出番はないと思ってほしい。この5年は2人の訓練に注ぎ込みたいからな」
『承知しました』
「クルルゥ」
「それじゃあ、これから戦闘訓練での1日の内、午前中は俺とダンテによる、武器での訓練で始める。午後はサラとエリーによる魔法訓練だ。それじゃあ、始めるぞ」
その言葉を境に、遂に僕らの冒険者になるまでの修業が開始された。
戦闘訓練は、家から歩いて数分の雄大な平原で行われる事になった。
その為、僕達はお父さん達と一緒にその平原を目指した。
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平原に着くと、お父さんとダンテさんが何もない空間から、剣や短剣、斧、槍、盾といった様々な木製の武具を出した。
突然の事に、僕達2人は呆然としていた。
「驚いたか? これは『収納魔法』と言って、無属性に含まれる魔法だ。この中には生きている生物以外、つまり死体を含めた物なら何でも出し入れする事が出来て、しかも中に入れている間は、時間の経過が止まる。つまり、1度収納した物を10年後に取り出しても、10年前に収納した時点での状態のままなんだ。これを覚えていれば、冒険者生活においていろいろ役に立つ事が出来る。魔法の実技訓練で、いずれ習うから2人もいずれ出来る様になる」
そう言われて、ラティは興奮した様子で僕に抱き着いてきた。
かくいう僕も、内心では凄く興奮していた。
いずれとはいえ、あの魔法を覚えれば確かに色んな事が出来そうだ。
例えば、街で購入した食材を入れていれば、いつでも鮮度をそのままに保った状態で調理できる。
この魔法はあらゆる場面で役立つぞ。
絶対に覚えてみせるぞ。
「さあ、まずは戦闘訓練だ。ここに、色んな種類の武器を出しておいた。全部木製だから、当たっても痛いってだけで済むから安心してくれ。まずはこの中から、自分に合いそうな武器を選んでくれ」
今置かれているのはどれも、僕達5歳児の体に合わせた木製の訓練用の武器ばかりだ。
暫く考えて数分、ラティは短剣2本による二刀流、僕は状況によって片手剣にも両手剣にもなる剣、バスタードソードを選んだ。
対するお父さんは、僕達と同じ刃が潰れた訓練用の自分の体より一回り大きな大剣を持っていた。
「武器の訓練は俺やダンテとの模擬試合を中心とした訓練になる。2人は互いに連携をとって、俺達に攻撃するんだ」
「「はいっ!」」
「それじゃあ、準備が出来たら何処からでも掛かって来なさい」
僕はラティと声を潜めて、作戦を立てた。
「まず、僕が正面からお父さんに切り掛かるから、ラティちゃんはそれに続いて僕の後にお父さんに切り込んで」
「分かったわ。じゃあ、その後に左右に分かれて、同時に切り込もう」
「了解」
作戦を立て終わった僕達は、一列に並んでラティがお父さんから見えにくい位置に立った。
お父さんは「準備が出来たら何処からでも掛かって来い」と言っていた通り、常に大剣の切っ先を僕達に向けたまま構えていた。
僕はお父さんに向かって一気に駆け、ラティも打ち合わせ通り続けて走って後に続いた。
お父さんとの距離があと1メートル半を切った所で、僕は右手で持っていた剣を両手持ちにして大きく踏み込んでから、一気に真っ直ぐジャンプして右から左に大きく降り抜く様に剣を振ったが、お父さんの大剣にあっさりと受け止められてしまった。
「思い切りのいい剣筋だが、単調すぎて攻撃する場所が分かりやすいな。これじゃあ、俺に一撃入れるのはまだまだ先だぞ」
そう言われて、大剣を左に動かして僕はそのまま左へと受け流された。
だが、それと同時にお父さんの視界にラティが現れ、短剣を2本持った腕をクロスさせて切り掛かったが、お父さんは左下から右上へと掬い上げるように大剣を動かし、ラティを後ろへと弾き返した。
でも、さっき打ち合わせていた次の作戦に切り替え、ラティは地面に着地してから左に、僕はお父さんから1メートルほど離れて右側へと回り込み、お父さんを中心に互いにちょうど反対の位置に立ったのを合図に、僕達は同時に踏み込んでお父さんに切り掛かった。
でも次の瞬間、お父さんの姿が突然消え、僕とラティは一度勢いづいた踏み込みを止められないまま、お互いに激突してしまった。
「いてて……」
「大丈夫? ラティちゃん」
「う……うん、大丈夫……」
そこに消えた筈のお父さんが現れた。
「2人とも、初めてとはいえ中々いい動きだったぞ」
「お父さん、さっきの消えたあれ、何なの?」
「あれは縮地といって、無属性の身体強化魔法をかけた状態で瞬間的に移動する移動術だ。主に、さっきみたいな相手のミスを誘ったり、敵との距離を一気に詰めて一撃を与えつつ瞬時に距離を開けたりに使うんだ」
「狡いよ、おじさん。あたし達まだ魔法を使えないのに、そんな魔法を使うなんて」
ラティはお父さんが身体強化魔法を使って勝った事に、大きく頬を膨らまして不機嫌になっていた。
「ごめんごめん。でも、相手がどんな技を持ってるか分からない時、一々相手が自分の使う技を教えてくれる訳じゃない。冒険者になると、魔物だけではなく時には盗賊みたいな犯罪者、つまり人間を相手に戦う事もあるんだ。そんな時に、相手が魔法を使う度に狡いとか卑怯だとか言ってると、それがきっかけで命を落とす事もある」
そう言われた僕達は、背筋が凍り付いたような感覚がした。
自分達が死ぬ姿を想像して、背筋が震えたのだ。
ラティは怖い余り今にも涙が出そうな顔をしているが、必死に耐えている。
僕が彼女の手を握ると、少し安心したのか表情が落ち着いてきた。
「おい、ゲイル。まだ5歳の子供に余り怖い事を言うなよ」
「すまん、ダンテ。でも、今の内に冒険者の心というものを知っておかなければ、いざそんな場面に会った時に何もできなくなる場合がある。今の模擬戦で、この子達には素質がある事が分かった。だから、それが嬉しくてな」
「まあ、気持ちは分かるな。まだたったの1回だが、さっきの連携は本当に見事だった。2人の動きの合わせ方、呼吸、攻撃の組み合わせ、これらが完成したら2人は将来大物になるかもな」
ダンテさんのその言葉を聞いて、僕達は嬉しくなった。
ラティが僕の握った手を器用に絡めて、腕に抱き着いてきた。
彼女も喜んでる証拠だ。
「さあ、今度は俺との模擬戦だ」
ダンテさんは訓練用の槍を手に持って構えた。
それからはお父さんとダンテさんと交互に模擬戦を繰り返しだった。
ラティは短剣の二刀流のままだったが、僕は時折武器を変えてみては連携の打ち合わせをして、2人に挑んでは返り討ちに会い、また打ち合わせをして挑んでは返り討ちに会い、それの繰り返しとなった。
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次回予告
戦闘訓練を終えて次はサラとエリーによる魔法の訓練だった。
その際、2人は魔法についての奥深さを知る。
次回、魔法訓練
次回は18時に更新します。