第122話 神刀アメノハバキリ
前回のあらすじ
ダンジョンボス、メタルグリズリーに対し、銀月の翼はユーマ、ラティ、クレイルの3人だけで挑む。
しかし、これまでのダンジョンでの戦闘で完全に神器や新装備を使いこなした3人は、メタルグリズリーを呆気なく討伐する。
そしてドロップアイテムを探していたその時、1つの物体が下りてきた。
その武器は、鞘や柄が純白に輝いていて、綺麗な装飾が施されていた。
「これは……日本刀だ」
その形状も、直剣と比べると刀身に少し反りがあり、鞘から抜くとその刃は片刃で、もう片方は峰となり、その切っ先の部分が諸刃となった僕の世界でもよく知られている、日本の刀剣だった。
「ユーマ、ニホントウって何?」
アインが僕の肩に乗って聞いてきた。
「僕の前世の世界で、僕が住んでいた国にある武器の事だよ。普通の剣と違って刃が片方にしかなく、それでいて切れ味が鋭くて取り回しがきくから、ミネルヴァみたいな大剣と違って扱いやすい剣だよ。このアスタリスクには、日本刀というよりは刀の武器とかは存在しないの?」
「カタナって、この日本刀みたいな物の事よね。単純な形なら、あの黒の獣の誘拐犯の1人が使っていたショーテルに似ているし、他だとシャムシールやカトラスとかに似ているわね」
「後は竜人族の国、ドラグニティ王国に青龍剣という剣があって、それによく似ているわ。でも、あれに比べるとずっと細いわね」
コレットの言う青龍剣って、前世で言う青龍刀の様な物かな。
でも刀に似た武器がこの世界にも存在しているのは分かった。
「じゃあ、この日本刀とかはないって事だね。だけど、転生者の僕からしたら、これは僕には使いやすそうな武器だ」
「成程な。でも、なんでそんなもんが出て来るんだ?」
そこでクレイルが尤もな疑問点を上げた。
何故この世界にない武器が出てきたのか。
「確かにそうだね。コレット、これまでのダンジョンのドロップアイテムで、日本刀が出て来るなんて事例はあった?」
僕の質問に、コレットは首を横に振った。
「少なくとも、私の聞く限りではないわね。そもそも、私もその日本刀という剣は今初めて聞いたんだし」
僕達が悩んでいると、ラティが僕を呼んだ。
「ユーマくん、上からまた何か降って来るわ」
言われて上を見上げると、今度は紙の様な物がヒラヒラと降ってきた。
それをキャッチすると、それは封筒の様な物だった。
「何だろう……」
僕は差出人の名前があるかもと思い、その封筒を裏返した。
そこには……
「こ……これは!?」
驚くべき名前が書かれており、僕は驚きのあまり声を上げてしまった。
「どうしたの?」
「これは、イリアステル様からの手紙だ!」
僕はその裏面を皆に見せ、そこに書いてある差出人の名前に書いてある、イリアステル様の名前を見せた。
「えっ!? イリアステル様って、あの女神様の名前じゃない!?」
「ユーマとアリアが教会で祈った時に会う、あの女神の事か!?」
皆には、僕とアリアが教会で祈った時にイリアステル様と神の間で会っている事は話している為、これがイリアステル様からの手紙だという事は信じて貰えている。
「でも、何でここにイリアステル様からの手紙があるんだろう。それにこの日本刀も……」
『手紙には何か書いていないのですか?』
アリアに促され、僕は封筒を開き、中に入っている手紙を取り出し、開いて読み始めた。
その手紙にはまず僕とアリアへの挨拶の文章が書かれていて、イリアステル様は常に神の間から僕らの様子を見守っていてくれていた事が書かれていた。
次に、本題であるこの日本刀の事が書かれていた。
この日本刀は神器で名前は、神刀アメノハバキリ。
なんと、地球の神様に頼まれたイリアステル様が僕の為に創って送ってきた神器らしい。
その材質はオリハルコンと、強度ではオリハルコンにはやや劣るが魔力の循環率ではオリハルコン以上の特徴を持つヒヒイロカネ、それにミスリルを合わせた合金製で、神器の名に恥じぬ性能を持つらしい。
またその切れ味もミネルヴァに匹敵し、使いこなせればアリアの竜神の鱗だってバターの様に斬れるそうだ。
またこのアメノハバキリにも、ミネルヴァやメルクリウスの様な特殊な能力が存在する。
この日本刀は、斬った魔物の能力を吸収して蓄える能力を持ち、吸収した能力を解放して消費する事でその能力を乗せた斬撃が繰り出せる。
そんなとんでもない能力がこの日本刀にあるそうだ。
僕がここまで読み上げた時には、ラティ達もアリア達も絶句していた。
「神器だってだけでもすげえのに、そんな能力まであるなんて……とんだインチキな神器だな」
「元々神器っていうのはそんな物よ。でも、そんな凄い物を、どうして女神イリアステル様はユーマの為に創ったのかしら?」
コレットの疑問に気付き、僕は手紙の続きに目を通し始めた。
「何々……このアメノハバキリは、地球の神様の僕への、所謂転生特典みたいな物らしい」
「「「転生特典?」」」
『それって、一体何なんですか?』
アリアに聞かれ、僕は手紙を読みながらその答えを述べた。
何でもイリアステル様によると、地球やこのアスタリスクを始めとする各世界は、巨大な輪廻の輪の様な物で繋がっていて、死んだ者はその時に記憶やその世界などの行いを清算して、その輪に乗ってその先の世界に生まれ変わる。
これはかつてヴォルスガ王国で地球の神様と再会した時に、イリアステル様から聞かされた内容とほぼ同じだ。
そして極稀に、僕や英雄王アルフレッドの様に前世の記憶を持ったまま生まれ変わる――つまり転生する者もいる。
そして、それから更に特殊なケースである、神の力で転生した者――僕やアルフレッドの様な転生者には、その世界の神から特典として1つだけ望んだ物が与えられるそうだ。
それが転生特典と呼ばれる物らしい。
因みにアルフレッドの時は、固有魔法としてあらゆる魔法を魔力を消費する事なく使用できる「無限魔法」という、魔法関連のチートな能力だったらしい。
「成程。そういえば、僕が地球の神様によってこのアスタリスクに転生した時、僕は前世の知識を持っただけで、そんな特典を持って転生はしなかった。それ以前に、特典自体の事は聞かされていなかったな」
そう言いながら手紙を読むと、その辺りの文章も書かれていた。
何でもイリアステル様曰く、地球の神様は僕を転生させる時、その事を忘れていたらしい。
あの時、神様が間違って下界に神雷を落として、それが僕に当たって命を落とした事に酷く焦っていたらしく、神の権限で別の世界――このアスタリスクに転生は出来たけど、神の力で転生させる際に特典を与えるのを忘れたとの事だ。
そしてヴォルスガ王国で再会した時にも、思い出す事なくそのまま別れてしまい、イリアステル様も神様が僕に特典を与えていない事に気付いていなかったらしい。
それが最近神様がその事に気付き、数日前にイリアステル様に連絡を取ってその特典を与える権限を譲渡して、イリアステル様は地球の武器である日本刀の神器を与えようと思い、このアメノハバキリを創ったそうだ。
ここまで読み、クレイル達は地球の神様のドジっぷりに呆れていたが、僕は寧ろ納得していた。
元々あの人(?)はうっかりミスで下界に神雷を落として、人を殺しちゃう様なドジな神様だから、その当人である僕からすれば、転生特典を用意し忘れたのも、地球の神様だからと言われたら、妙に納得してしまう。
僕はそう納得しながら手紙の続きを読んだ。
そしてイリアステル様はこの刀を完成させて後は僕に渡すだけなのだが、僕が最近神の間に来ていない事で、中々渡す機会がなかったのだが、数日前から僕達がこのダンジョンを攻略している姿を見て、イリアステル様は考えた。
このダンジョンを攻略した時に、ドロップアイテムとしてこの神器を渡そうと。
あとは攻略した時に現れる宝箱を神の力で変更して、舞い降りる様にこの神器を送って、僕に送り付けたとの事だ。
「つまり、その神器はこのダンジョンのドロップアイテムであり、ユーマくんの前世の世界の神様からの贈り物って事?」
「そういう事になるね」
『しかしユーマ、以前イリアステル様とお会いした時、神が1人の人間の人生に深く干渉しすぎると、その身に反動が掛かって身を滅ぼす事があると言っていましたが、これは大丈夫なのでしょうか?』
アリアの懸念は確かに納得だ。
女神が1人の人間に自身が創った武具を与えるというのは、見方によっては僕の人生に干渉しているともとれる。
「多分大丈夫じゃないかな。今回は、イリアステル様が地球の神様の代理として、その転生特典の権限で僕にこの刀を与えたんだ。だからこれも所謂神の仕事みたいな物だから、僕の身に反動が掛かる事はないと思う。まあ、それでもまだ不安なら、今度教会に行った時に、直接聞いてみよう」
『そうですね』
僕は天を見上げ、アメノハバキリを掲げた。
「イリアステル様、この通り無事に、アメノハバキリは僕の所に届きました。地球の神様とあなた様のご厚意、感謝して、この神器を受け賜わります」
そして僕は最初にダンジョンでミネルヴァに認められた様に、アメノハバキリを鞘から抜いて、その柄から刀身に魔力を流し込んだ。
あの時コレットは、中には手に入れた直後に神器に認められようと魔力を流して、それで認められた事例もあると言っていたから、僕の為に創られたというこのアメノハバキリなら、その理屈が通用するかもしれない。
「神刀アメノハバキリ、僕はユーマ・エリュシーレ。君の主になる男だ。僕の魔力を受け、僕を主として認めてくれ」
僕のその呼びかけに答えるかのように、アメノハバキリもその刀身から神々しい輝きを発して、僕の体から魔力を吸い始めた。
「始まったわ! アメノハバキリが、ユーマを試している!」
「ユーマ! ミネルヴァに認められたお前なら、その神器も従わせる事が出来る! 自分を信じるんだ!」
「ユーマくん、頑張って!」
皆に応援され、僕は魔力を流す勢いを増して、再びアメノハバキリに呼びかけた。
「僕の魔力が欲しいんならくれてやるよ。だから、僕に従うんだ!」
僕が魔力を強めると、やがてアメノハバキリの方が先に光を弱め、刀身が元の状態に戻った。
魔力を結構持って行かれた為、少し息が上がっていたが、僕は1つ確かめる事がある為、アメノハバキリを抜いたまま構えて、素振りした。
真っ向から袈裟、逆袈裟、胴斬り、斬り上げの順にアメノハバキリを振り、その感覚を確かめた。
結果、とても手に馴染み、まるで体の一部の様に振るえている感じがした。
「よし。どうやら、アメノハバキリに完全に認められたようだ」
僕がそう確認した時、皆が寄ってきた。
「やったわね、ユーマくん!」
ラティが嬉しそうに抱き着いてきた。
「やったな、ユーマ。お前はコレットと同じく、2つ目の神器を手に入れたんだ」
「ええ。ユーマは、神器に使い手として、完全にその神器も従えているわ。おめでとう、ユーマ」
『おめでとうございます、ユーマ』
「おめでとう」
「グルルルゥ」
「ウォン」
「ありがとう、皆」
こうして、僕はこのダンジョンを攻略したドロップアイテムとして第2の神器、神刀アメノハバキリを手に入れたのだった。
ここまでお読みくださって、誠にありがとうございます。
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次回予告
無事にダンジョン攻略が認められ、外へと帰還する事が出来たユーマ達。
その後首都に帰還したユーマ達は、夜明けの風に迎えられ、ギルドでダンジョン攻略の報告をする。
次回、ダンジョンからの帰還