第121話 ダンジョンボス戦
前回のあらすじ
ダンジョンの下層部に来たうーま達は、その王略速度が歴代最速だという事を知る。
順調に魔物を倒してさらに下層へと進み、遂にダンジョンのボスがいる最下層へと到達し、そのボスのいる間の前までやってくる。
「ここがボスの間か……一体、どんな奴がいるんだ?」
クレイルが僕にボスの魔物の事を聞いてきた。
このダンジョンは過去に攻略に成功した冒険者が何人もいる為、ギルドで情報収集した時、このダンジョンのボスの情報も入手する事が出来た。
「ここのボスは、メタルグリズリーというBランクの熊の魔物らしい。鋼の体毛に覆われて、岩をも切り裂く巨大な爪が特徴の魔物だって。攻守ともに高いのに加えて動きも素早いから、結構厄介な相手だけど、雷魔法が弱点で、後は口の中を魔法で集中して攻撃すれば、幾分かは倒しやすくなるみたいだよ」
「金属の体毛だから電気を通しやすいって事ね。なら、クレイルくんがスピードで撹乱して、あたしが雷魔法を主軸にして攻撃して、ユーマくんがミネルヴァで斬り付ければ行けるかも」
雷の魔法なら僕の得意分野でもあるが、今回のダンジョン攻略では僕はミネルヴァでの戦いに専念する事を決めていたから、今回はラティに譲るのがいいかもな。
「そうだな。ユーマ、俺もラティもお前の事を信じているから、指揮は任せたぞ」
「了解、任せて」
そして僕達は魔力回復のポーションを飲んで魔力を万全にして、各自の武器の調子を確認してから、準備が整ったのを確認し、ボスの間の扉を開けた。
扉を潜ると、そこは広い空間で、そこには1体の魔物の姿があった。
大きさは3メートル半程、全身が銀色に輝く鋼の体毛に覆われ、両手には巨大なバグナグの様な爪、そして口からは獅子や虎のような鋭い牙が生えている熊型の魔物だった。
「あれがメタルグリズリーか。結構強そうだな」
クレイルがメルクリウスを着けた両拳を打ち付けて、ファイティングポーズをとった。
「でも、これまでの戦いを通したからか、あたし達ならやれるという確信があるわね」
ラティが元素の杖を構え、周囲に魔力を溜めている。
「大丈夫さ。ワッケンさん達も倒した事があるんだ。あの人達と同じ道を辿って来た僕達でもやれるよ」
僕もミネルヴァを手に取り、その剣先をメタルグリズリーに向けた。
「それじゃあ、行こうか!」
「ええ!」
「おう!」
僕達はコレットやアリア達を後ろに残し、メタルグリズリーとの戦闘開始した。
メタルグリズリーも前にいる僕達に意識を向け、その鋭い爪や牙を向けながら猛スピードで突進し、両腕の爪を突き出してきた。
「おい熊野郎! まずは俺が相手をするぜ!」
打合せ通り、最初にクレイルが前に出て、自分も両手を前に出して指を開き、その指と指の間に爪が通るタイミングで手を閉じ、結果メタルグリズリーの両爪はクレイルのメルクリウスによって握り挟まれた。
しかも全く押されていない。
これはあのメルクリウスの下にある、ベルスティア商会で買った剛力の手袋の効果でクレイル自身のパワーが格段に上がった為、メタルグリズリーの突進を受け止める事が出来たんだ。
「この爪が邪魔なんでな、まずはこいつを潰させて貰うぜ!」
そう言い、クレイルは握る能力を強くしてメタルグリズリーの両爪を根元から握り潰して全て圧し折った。
目の前で自慢の爪が粉々に握り潰され、地面に落ちていく爪の破片。
メタルグリズリーは自分の爪が全て折られた痛みで、仰け反りながら絶叫を上げた。
「休んでる暇はないぜ!!」
そこにクレイルが無防備の懐に飛び込み、超高速のラッシュを叩きこんだ。
それも雷属性の魔力を纏ってのラッシュだ。
まずは鳩尾に右の拳を打ち込み、その痛みでメタルグリズリーが身を屈めて顔の位置が下がった所に左足で下顎を蹴り上げ、すかさずに上げた左足を振り下ろして肩に踵落とし、再び下がった顔面に左フックからの右アッパーと、クレイルは流れるかのような如きリズムで、メタルグリズリーを圧倒していた。
「ラティ、次は君だ!」
「分かったわ!」
僕の指示に合わせ、ラティはすかさず雷の魔力を集約させる。
「クレイル、メタルグリズリーを上空へ蹴り上げて!」
「オッケーだ、ユーマ!」
クレイルは最後の一撃を打ち込んで直後に右足を突き上げ、メタルグリズリーを遥か上空に蹴り上げた。
「行くわよ! ライジングサンダー!!」
ラティの足元から高圧の電撃が跳ね上がり、それは上空のメタルグリズリーへ目掛けて巨大な電撃となって炸裂した。
自分の弱点となる属性の魔法を受けて、メタルグリズリーはあっという間に瀕死となって落下したが、それでもまだ野生の本能が働いたのか、起き上がった時には最後の力を振り絞って僕達を睨みつけていた。
「そして……最後は僕が!」
僕はミネルヴァを両手に持って構えた。
「ライトニングエンチャント!!」
雷の複合強化を発動させ、それによるスピードで一気にメタルグリズリーとの距離を詰めた。
メタルグリズリーも接近してくる僕を目で捉え、爪の代わりに鋭い牙を生やした口を首と一緒に振り、僕を攻撃してきた。
だが僕のスピードについてくる事は出来なかった為、牙を振りぬいた時には僕が既にミネルヴァを振り抜いて通過し、気付いた時にはメタルグリズリーの体は左肩から右腰に掛けて一線に斬られ、そのまま2つに分かれて絶命した。
僕達はこのダンジョンのボスの魔物を、僅か数分で討伐する事に成功したのだった。
「やったな」
「うん。作戦通り上手くいってよかったよ」
僕がラティとクレイルが喜んでいると、後ろで見守っていたコレットがアリア達を連れて寄ってきた。
「皆、お疲れ様。これまでの戦闘と、今のボス戦、全て後ろで見ていたけど、あなた達は最初に神器に認められる時以外、1度も私達の手を借りる事もなく、3人だけでこのダンジョンを突破して見せた。そして、ユーマとクレイルは己の神器を完全に物にしていたわ。これならもう大丈夫ね。ラティもその新しい杖を使いこなしていたから、あとは整備中のユーマの魔剣と魔槍に、ユーマとラティのエンシェントロッドが戻ってくれば、銀月の翼の戦力は完全な力を手にするわね」
コレットは、僕達のこれまでの戦闘を見て、そこから僕達の事を細かく分析し、僕達の総合的な戦力なども含めた結論を言った。
「ありがとう、コレット」
「いいのよ。後は、このダンジョンを突破した後に出て来るドロップアイテムを回収して、その後に出て来る転移の魔法陣を使えば、ダンジョンの入口まで戻れるわ」
そういえば、ダンジョンのボスを倒すとダンジョンの攻略が認められて、ドロップアイテムが手に入るんだったな。
「そのドロップアイテムは、どんな風に出て来るんだ?」
「近くに宝箱みたいな物が出現して、それを開けると中に入ってるの。近くにないかしら?」
コレットがそう言い、僕達も周囲を見渡したが、それらしい物は何処にもなかった。
あるとすれば、今僕達が倒したメタルグリズリーの死体のみだ。
「何処にもないわよ。一体何処かしら?」
ラティが首を傾げた時、僕達の頭上に光が差し、そこから1つの物体がゆっくりと降りて来た。
「ユーマ、上から何か降りて来るぞ。なんだか剣みたいだぜ」
クレイルが指差し、僕はその降りてきた物体を手を伸ばして受け取り、近くで見てみると、それは僕が前世の時から知っていた武器だった。
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魔物情報
メタルグリズリー
Bランクの獣種の魔物。全身が鉄の質量で出来た体毛に包まれ、口に立派な牙、両手には巨大な爪がある。攻守共に高い数値を誇り、更に動きも早い為、下手に挑んだりして返り討ちに遭う冒険者も多々いる。しかし、その体毛は金属でもある為、雷の魔法には耐性がない。討伐証明部位は牙。
次回予告
ユーマ達の許に降りてきたのは、ユーマの前世に置いて知っている物だった。
そして彼らの許に、一通の手紙が現れる。
それはユーマの転生に関する重大な内容が記されていた。
次回、神刀アマノハバキリ