第120話 ダンジョン下層部
前回のあらすじ
夜明けの風と再会したユーマは、彼らから別れた後の出来事を聞く。
彼らを無事にダンジョンから出るのを手伝うと申し出たユーマの言葉に、ワッケン達は承諾し、無事にダンジョンから脱出できるのであった。
僕達はその後もダンジョンの攻略を続行し、順調に各階層を降りていく事が出来た。
基本的には僕が探知魔法で周囲の地形を把握しつつ最短ルートで進んでいた為、1度も迷う事なく進めた。
だが使う度に僕の魔力も消費していく為、こまめに魔力回復のポーションやラティの譲渡の指輪の効果で魔力を回復させていた。
途中に遭遇した魔物達は僕、ラティ、クレイルの3人で迎撃して倒してきた。
既に神器を完全にものにした僕とクレイル、新しい杖に慣れたラティの前に、DランクやCランクの魔物は最早敵ではなかった。
仮に万が一の事があっても、後ろにはコレットにアリア、クルス、レクス、アインが控えている為、僕達は安心して前に集中する事が出来る。
そして僕達は攻略開始から3日程して、このダンジョンの30階層まで到達した。
僕達はそこから更に下の階層に進み、31階層へ目指して歩を進めた。
途中コレット曰く、僕達の攻略速度が異常だという事を話してくれた。
このダンジョンは魔物の平均ランクがBランクで、階層が38階層だから決して難しいダンジョンではないが、普通なら1階層から始まって30階層まで来るのに最低でも1週間は掛かるそうだ。
それもワープゾーンで脱出して翌日に最後の階層から再スタートしてを繰り返してだ。
だから僕達のこの3日で30階層まで到達は異例の速さだそうだ。
でも、早く攻略できるのに越した事はないし、コレットもその辺は同意していた。
「この階層からは、Bランクの魔物が中心になって、Cランクの魔物がちらほらと出て来るらしいよ」
「Bランクとなれば、漸く少しは手応えのある奴らが出てきそうだな。腕がなって来るぜ」
クレイルはこれまでの階層ではメルクリウスを使いこなした事もあって、Cランクの魔物をも息を切らす事もなく瞬殺で倒せるようになり、かなり物足りなさそうにしていた。
だから今の自分の実力から見て、Bランクなら手応えがあるんじゃないかと推測していた。
「それでも油断だけはしないでね、クレイル。冒険者は油断が命取りになるんだから」
僕は分かってはいるだろうけど、念の為にクレイルに釘を刺した。
クレイルは直情的な部分があるけど、実際は自分や僕達仲間、そして周りの状況を見て冷静に考える事も出来ている。
「分かってるって。俺がいくら直情的でも、そんなドジだけは踏まない様に気を付けているからさ」
「分かってるならいいよ。じゃあ皆、行こう」
僕は彼の言葉を信じて、次の階層を目指して歩き始めた。
暫くして、僕の探知魔法に魔物の反応が現れた。
「魔物反応が出た。数は5だ」
前方の岩陰から革鎧に身を包み、剣や盾を持った2足歩行のトカゲの魔物だった。
「リザードマンか。こいつらはCランクだが、まあいても不思議じゃないな」
「そうだね。多分、ここはまだこの階層の端の部分だから、奥から順に強い魔物が出て来るんじゃないかな。実際にこいつらはこれまでの階層にも出て来ていたし」
「じゃあ、この階層では弱い部類って事ね。このまま一気に押し切るわよ」
「いや。ラティはさっき僕に魔力を譲渡したから、暫くは魔力の回復に努めてて。ここからは強い魔物も出て来るだろうから、魔力回復のポーションやラティの貯蔵魔法でストックされている魔力は出来る限り温存したい。その間は僕とクレイルがやるから」
「分かったわ。気を付けてね」
ラティに見送られ、僕とクレイルは前方のリザードマンと向き合い、戦闘を開始した。
「行くぜ!」
クレイルはリザードマンに向かって飛び出し、加速魔法による勢いを乗せた拳で、戦闘のリザードマンの頭を吹き飛ばした。
頭部を失ったリザードマンは倒れ、残りのリザードマン達は動揺した。
「動揺している所を悪いけど、今はお前達と遊んでいる暇はないんで、一方的に行かせて貰うよ」
僕はそう言い捨て、ミネルヴァを手に、剣先を向けた。
「ライトニングエンチャント!」
十八番の雷の複合強化を発動させ、縮雷によって間合いを詰め、一気に3体の胴体を斜めに斬り落とした。
胴体がズルリと滑るように落ち、断面から内臓を零れさせてリザードマン達は倒れ伏した。
そしてクレイルも最後の1体のリザードマンを仕留め、一瞬で戦闘を終わらした。
「早速出てくる当たり、最下層まで近づくとそれなりの魔物が出て来るな」
「でもまだこの階層は始まったばかりだよ。多分奥へ行けば行くほど手強い魔物も出て来るだろうし、最下層まで行けばボスの魔物だって出て来るんだ。ここからは普通の冒険者から見れば手強い魔物がわんさか出て来る筈だよ」
「でもその分、あたし達も戦闘を重ねて強くなれるって事だから、あたし達からすれば大歓迎と行きたい処ね」
確かに強い魔物と戦えば戦う程、僕達もこの装備に早く慣れる。
だから経験を積み重ねるのに、ダンジョンの下層部は今の僕達には絶好の場所だ。
魔物とはいえ厳密には生き物だからあまり不謹慎な事は言いたくないけど、このダンジョンの魔物達には僕達の更なる成長の足掛かりになって貰うべく、今は自分を許そう。
「そうだね。それに、これまで倒した魔物の証明部位や素材は確保してあるから、後でギルドで換金すれば、一気に収入が入る。そうすれば、ダンジョン攻略に加えて魔物の報酬も入って、かなり懐が温かくなるよ」
「もう既になっているけどね」
コレットの言葉に、僕は「そういえばそうだった」と頷いてしまい、皆で笑いあった。
実際に僕達はこれまでの戦いや事件解決などで、既に一生働かずに暮らせる程の金額を稼いでいるのだから。
気を取り直して、僕達はダンジョンの次の階層を目指した。
その間は、僕とクレイルの2人で戦闘を担当し、ラティは魔力の回復に専念していた。
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僕達は現在33階層に来ている。
この階からは魔力の回復が出来たラティも加わって、よりスムーズに戦闘をして進めていた。
「アクアレーザー!!」
今僕達はBランクのスラッシュリザードというトカゲ型の魔物と戦闘しているが、ラティの放った水魔法のレーザーによって、右前脚を貫かれた。
「今度はこっちだぜ!!」
ラティのアクアレーザーによるダメージで怯んだ隙に、クレイルが加速して上をとり、その脳天に狙いを定めた。
「行くわよ、クレイルくん!!」
そこにラティがクレイルの体に重力魔法をかけてクレイルの重力を倍増させ、そこに落下速度も加わった踵落としを繰り出し、スラッシュリザードの頭を跡形もなく砕いた。
かなりえげつない倒し方だけど、頭を潰せば、大抵の魔物は討伐できるからある意味効率的な倒し方でもあるんだよな。
「お疲れ様、2人共」
「ああ。にしてもここまで来ると、大分手応えのある魔物が出て来るな。メルクリウスの打撃を受けても、1発では倒れない奴もいるしな」
31階層以降からは、高ランクの魔物が出て来るようになり、中にはメルクリウスを使いこなしたクレイルの攻撃を受けても、すぐには倒れない魔物も出て来るようになった。
しかし、僕の場合は剣のミネルヴァな為、クレイルと違って1発で倒せる。
それでも中には元々の力が強い魔物もいる為、それらの場合は複合強化していてもラティの魔法の援護がないと接近するのに少々手を焼き、結果3人でやった方がとてもスムーズに倒せる。
因みに、ラティは魔法を温存する事もあり、その間は僕とクレイルの2人でも倒しているが、こっちの場合は神器持ちが2人な為、それぞれのスピードを合わせても瞬殺で倒せる。
だから定期的にラティに消費した魔力を譲渡して貰って回復し、その分を時間経過の回復か魔力回復のポーションで回復させている。
そういった戦闘を繰り返しながら、僕達は順調に階層を進んでいる。
ダンジョンを攻略開始して今まで、僕達は1度もコレットやアリア達の手を借りずに魔物を倒して、階層を降りていく事に成功している。
コレットも休憩などで僕達の戦闘でのアドバイスをして、僕達はそれに従って戦闘を行うと、その時までの戦闘よりもはるかに戦いやすくなり、順調に神器での戦闘の経験を積む事が出来ている。
それからさらに2、3日程が経過し、僕達は33階層、34階層、35階層、36階層、37階層と一気に各階層を突破した。
中には結構強めのBランクの魔物も出てきたが、僕達3人の連携で難なく倒す事が出来た事で、僕達は最初に挑戦した頃と比べて格段に実力を上げていた。
そして僕達は遂に最下層の38階層に到達し、迷う事無くボスの魔物がいる間の扉の前に来た。
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魔物情報
リザードマン
Cランクの爬虫類種の魔物で、二足歩行のトカゲの姿をした魔物。外見はトカゲだが、下級竜種と共に上位ランクの竜の眷属として行動している。その為竜の血が少なからず流れているという説もあり、その証拠に竜種と適合している竜人族の従魔として適合しているという事例もある。知能は一般人並みにあり、手に武器を持って戦う事も出来、硬いうろこでの防御力も高い。討伐証明部位は舌。
スラッシュリザード
Bランクの爬虫類種の魔物で角や背中の棘が鋭い刃になっているイグアナを彷彿させる姿の魔物。また尻尾にも巨大な刃が生えており、全身の刃で敵をすれ違いざまに切り裂く。動きも素早く攻撃のリーチもある為、初めて戦う者はその間合いを上手くよめず翻弄される。討伐証明部位は角。
次回予告
ダンジョンの坂層にやって来たユーマ達は遂にボスの魔物と対峙する。
これまでの戦いで格段に成長したユーマ、ラティ、クレイルと3人は、ボスの魔物に果敢に挑む。
次回、ダンジョンボス戦