第118話 ダンジョンの中で……
前回のあらすじ
ダンジョンの攻略を開始して早々神器に認められたユーマとクレイル。
その2人と新しい杖を着々と使いこなしつつあるラティの姿を見たコレットは、自身の神器の真の力を皆に見せる。
その途中休憩で食事をし、ユーマはアリアに巨大プリンを振る舞う。
食事を終えてダンジョン攻略を再開し、僕達は更に階層を進み、その日は10階層のワープゾーンで一晩過ごした。
ダンジョンのワープゾーンには特徴的な部分として、その近くには魔物が寄って来ないという機能がある為、冒険者達はダンジョンの中で夜を過ごす時はこのワープゾーンの中で過ごすという暗黙のルールの様な物が存在する。
よって僕達はそのワープゾーンで夜を過ごし、朝に目が覚めた後そこから移動して、現在11階層に来ている。
ダンジョンは10階層を超える毎に、出現する魔物の種類が大きく変動する。
「この11階層からはDランクの魔物が中心になる。少し前の階でもオークとかが出てくる事があったけど、ここからはオークは当たり前になって、その他にも様々なDランクの魔物が出て来て、ちらほらとCランクの魔物も出てくるみたいだ」
「という事は、この階からはオークの肉が腐る程手に入るな」
クレイルが笑いながらそんな事を言う。
確かにオークの肉は地球で言う豚肉と同じくらいに需要があるからな。
しかも収納魔法に入れて置けば鮮度も保たれるから、オークの肉は持っていて困る事にはならないな。
「そうだね。じゃあ、行こうか」
皆が頷き、僕は探知魔法で周囲の地形を把握しながら森の中を進んだ。
暫く進み、道中に遭遇した魔物は僕、ラティ、クレイルでローテーションしながら倒していた。
「スパイラルウィンド!!」
ラティの放った風魔法がアイアンアントという、鉄の甲殻を持つ蟻の魔物の群れを蹴散らかした。
「よし。ラティは暫く魔力の回復に専念しよう。その間は僕とクレイルがやる」
「うん。分かったわ」
ラティは魔法を使い消費した魔力を温存する為、暫く後ろに下がり、その間に出てくる魔物は僕とクレイルで倒す事にした。
彼女には固有魔法の貯蔵魔法で溜められた魔力がストックされているが、ラティは余程の事がない限りストックされた魔力を使わない為、普段はこうしてメインの魔力だけで戦っている。
「クレイル、前方から新たな魔物の魔力を感じるよ。数は20以上だ」
そして前方の森から現れたのは緑色の体毛に覆われた猿の魔物だった。
「あれは確か、フォレストエイプだ」
「成程。如何にも森の中ならではの魔物だな」
フォレストエイプは集団で行動する猿の魔物だ。
森という障害物を活かして獲物を翻弄し、集団で仕留めるチームワークに長けた魔物だ。
「でも、お前の探知魔法ならあいつらの行動も読めるからな」
「そういう事。だからクレイル、お互いに後ろは任せたよ」
「オッケー、任せろ」
僕とクレイルが前に出た瞬間、フォレストエイプの群れが僕達を取り囲んだ。
それに対し、僕はミネルヴァを、クレイルはメルクリウスを着けた腕を構えた。
「行くぜ!」
クレイルは正面に向かって駆けだし、僕はその場にいたまま正面のフォレストエイプが掛かって来ても良いように身構えた。
フォレストエイプは一斉に襲い掛かり、僕とクレイルだけでの戦闘が始まった。
クレイルはメルクリウスを装備した手足による格闘術で拳や蹴りで首の骨を砕いたり、鳩尾に打ち込んだりしてほぼ1発で仕留めている。
僕はミネルヴァを両手持ちで構え、フォレストエイプが飛び掛かって来るのにタイミングを合わせ、体を捻って躱しつつすれ違いざまにミネルヴァで切り付けて首を刎ねたり、上半身を真っ二つに切り裂いたりして仕留めている。
そして僕達がフォレストエイプを全滅させるのに、5分も掛からなかった。
「お疲れ様。2人ともかなり動きが良かったわよ」
「ありがとうコレット」
僕がコレットにお礼を言った所で、クレイルに呼びかけられた。
「ユーマ、こいつらの解体を済ませるぞ」
討伐したフォレストエイプの死体を解体して、僕達は再び次の階層を目指して出発した。
――――――――――――――――――――
暫く進むと、この先で大きな魔力の反応が現れた。
「何だ。この先でいくつもの反応がある」
「いくつもの反応?」
「人間の反応とその従魔の反応、それから複数の魔物反応だ」
従魔は簡単に言えば、その人間の魔力と波長が一致している仲間だから、野生の魔物とは魔力の感知が異なる為、従魔の反応と断定できる。
「襲われているのか?」
「魔物の反応の位置とその人達の位置から見て、どうやら取り囲まれている様だ。その人達も何とか対抗しているが、このままだとやられるのは時間の問題かもしれない」
「じゃあ、助けに行かないと!」
「待ちなさい、ラティ」
その時、コレットがラティの肩を掴んで、少し厳しい目になって話しかけた。
「ラティ、冒険者はどんな事になってもそれはその冒険者の自己責任。だからその人達がここで死んでも、それはその人達の自己責任なの。勿論、あなたのその優しい所がいけないとは言うつもりはないわ。でも、あなたはこれからもそうやって困っている冒険者がいたら迷わずに助けるの?」
コレットはラティに自分の生き方について尋ねた。
ラティとコレット、この2人の言ってる事はどっちも正しい。
ラティは困ってる人を見たら必ず助けるという人間として正しい優しさを持ってる。
コレットは長く冒険者として生きて来て、目の前で冒険者が死ぬという光景を何度も見てきたから、それが冒険者の鉄則ともいえる自己責任として結論付け、深く干渉しない様にしてきた。
自分の心に従っているラティと、冒険者の掟に従っているコレット、どちらも正しいのだろう。
でもラティは、
「助けるわ。あたしは人だからとか冒険者だからとか関係なく、目の前で助けられるかもしれない命があったら、必ず助けるわ。だって、それが人間という物でしょう?」
迷わず助けると決めた。
それでこそ僕が選んだ女性なだけある。
僕はそう思いながら、コレットに話しかけた。
「コレット、僕もラティの言葉に賛成だ。僕は前世の頃から、何よりも命を大切にしてを胸に生きてきた。たった
1つしかない命なんだから、大切にする事を誓ってね。そして、魔物とか冒険者とかがない平和な世界で生きていたからか、命の尊さに関しては、誰よりも分かっているつもりだ。目の前で救えるかもしれない命を最初から救おうとしないのなら、それだけで僕は一生後悔する事になる。だから、ラティが言わなくても、僕は助けると言うつもりだったよ」
僕はラティの前に立ち、コレットにそう告げた。
「ユーマくん……」
『流石ユーマですね』
そして僕とコレットの間に出たのが、クレイルだった。
「今回はこの2人の勝ちだぜ、コレット。俺もユーマに賛成だ。目の前の命を助けるのに、人も冒険者もねえ。誰よりも生きている時間を大切にしているこの2人だからこそ、迷わずに助けるって言葉が言えるんだ。これがどこの馬の骨とも知らない奴だったら偽善だと疑うかもしれねえが、この2人がそんな奴じゃないっていうのは俺達も分かっているじゃないか。それにコレット、俺達はこいつらがこういう奴らだからこそ、このパーティーに入って、こいつらの家族になったんじゃねえか」
クレイルの言葉に、コレットの傍を飛んでいたアインも頷いた。
「コレット、あたしもあなたの気持ちは分かっているわ。あたしは人間じゃなくて魔物だけど、あなたの従魔になってから多くの人間を見て来て、その心を見て学んできたわ。そしてこの2人は誰よりも澄みきった清い心を持っている。だからあたしもあなたもこの2人を気に入ったんじゃない?」
「…………そうね。あなた達がそういう人達じゃなかったら、私はこうやって銀月の翼に入らず、ロストマジックの魔導書を渡して、そこでお別れだったわね。分かったわ。私もあなた達に付き合うわ。意地悪な事を言ってごめんね、ラティ」
「ううん。コレットさんはあたし達の中で、1番冒険者歴が長いんだから、最も正しい事を言ったって分かってるから、気にしないで」
コレットも同意してくれた事で、僕達の冒険者救出が決まった。
僕達はその反応が起こった場所を目指して駆けだした。
そしてその先の森で少し開けた場所に辿り着き、そこには5人の冒険者が負傷したのか自分達の従魔らしき魔物をかばって、取り囲んでいる十数体の魔物と交戦していた。
その取り囲んでいる魔物は、Cランクのオーガだった。
僕は背のミネルヴァを抜き先頭のオーガと冒険者の間に入り、ミネルヴァを一閃してオーガの首を刎ねた。
先頭にいた仲間が突然やられた事に驚いたのか、周りのオーガ達は動揺しながらもその太い腕を振り上げて攻撃しようとしてきた。
オーガはCランクの魔物の中でも指折りのパワーを持ち、人間の頭を卵の殻を割るかの様に砕いてしまうから、その腕の一撃には注意が必要だが、
「おっと! 俺の親友はやらせないぜ!」
クレイルの空中踵落としで、1体のオーガの頭を踏み砕いた。
「アーススパイク!!」
続いてクルスに乗って現れたラティの発動させた土魔法で作られた土の槍が、数体のオーガの腹を貫いた。
そしてコレットを始めに、アリア達も駆けつけて冒険者達をオーガ達から守る様に囲んだ。
「え……お前達は……!?」
後から冒険者の声がしたが、僕達はオーガから目を離さずにいた為、振り向かずに答える事になる。
だが心なしか、その声には聞き覚えがある様な……。
「僕達はあなた達の救援に来た冒険者です。あなた達の魔力反応を感知して、危ないと思ったので駆け付けました。このオーガ達は僕達が引き受けますので、あなた達は下がっていてください」
「おっ、おい!」
何かを言おうとしていたが僕達は冒険者達を背に、オーガ達と戦闘を始め、僕とクレイルが前衛を、ラティとコレットが後ろから魔法と魔法矢で援護して、オーガ達を一掃した。
そして瞬く間に、オーガは全滅した。
僕達は周囲に他の魔物がいないかを確認し、警戒を解いた。
「よし。他にはいない様だな」
「とりあえず一安心だな」
僕達は周囲を確認した時、助けた冒険者達の声がした。
「ユーマ! お前ユーマだろ!?」
その冒険者が僕の名前を呼んだが、僕は助けた時に彼らに自分の名前を言ったかな?
そう思って振り返った時、僕は驚愕した。
近くではラティやアリアもその冒険者達の姿を確認して、驚愕の表情になっている。
「やっぱりそうだ! 俺だよ! 以前、一緒に『魔の平原』の調査依頼を受けた……」
「ワッケンさん!?」
そう。
その冒険者達は、かつて僕とラティが初めて訪れた街、ローレンスの街で出会い、一緒に平原の調査依頼を受けた夜明けの風の人達だった。
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魔物情報
アイアンアント
Dランクの昆虫種の魔物で、鉄の甲殻に包まれた蟻の魔物。大顎で硬い岩盤を掘り進み、トンネルを掘って巣を作る。腹部には酸の液体を出す針を持ち、敵を溶かしたり巣の細かい部分を作るのに使う。討伐証明部位は腹部の針。
フォレストエイプ
緑色の体毛に覆われたDランクの猿の魔物。獣種。集団で行動し、森の中で暮らしている。仲間とのチームワークが良く、森の中の戦闘ではCランクの魔物単体なら倒せるくらいの戦闘力を発揮できる。しかしそのチームワークの良さ故に、仲間の内1体でも倒されるとたちまち連携が崩れ、各個撃破しやすくなるという弱点がある。討伐証明部位は牙。
オーガ
Cランクの鬼人種の魔物。Cランクの中でも屈指のパワーを誇り、従魔では建築業や解体業などの力仕事で活躍している。しかし知能はゴブリン並みに低く、冒険者の間では脳筋の魔物と言われたら8割近くがオーガと答えている。尚、残りの2割はゴブリンやオークの他に、トロールやサイクロプスなどのパワー系の魔物である。討伐証明部位は額に生えた角。
次回予告
夜明けの風と久々の再会をしたユーマとラティ。
2人はクレイル達にも彼らとの関係を話し、2人もまた夜明けの風と打ち解ける。
そしてユーマは夜明けの風のダンジョン脱出の手助けを申し出る。
次回、夜明けの風との再会