第116話 ダンジョン攻略開始
前回のあらすじ
宮殿を後にしたユーマ達はベルスティア商会に向かい、そこで個人に向いたマジックアイテムと、更の勧めの品、通話の腕輪を購入する。
その後何回か試運転をして腕輪がちゃんと機能する事を確認する。
そしてギルドでダルモウス山脈で採れた素材を換金し、ユーマ達は自分達の素性が知れてギルドで騒がれる。
僕達は現在、首都の城壁を出て、ダンジョンを目指している。
ダンジョンは、巨大な魔力が集まってできた、大迷宮の様な場所だ。
迷宮というが、内部の地形は自然界とほぼ大差なく、森や草原のフロアもあれば、鍾乳洞のフロアなどもあり、中にはそれこそ迷路の様な感じの階層もある。
また前者のフロアには太陽や月の役割を持つ物体もあるそうだ。
ダンジョンの全体層は集まった魔力の規模で決まり、10階層未満のもあれば100階層以上もあるダンジョンも存在する。
ダンジョンで出現する魔物は特殊で、倒して魔石を取り出したりして、死体を放置してもダンジョンの魔力として吸収されて消滅するという。
そしてダンジョンの最下層にはボスとなる魔物が存在し、その魔物を倒せばダンジョンの攻略が認められ、ドロップアイテムが手に入る。
そのドロップアイテムの内容は、マジックアイテムだったり固有魔法の魔法書だったりするが、極稀にロストマジックの魔法書が出た記録がある。
今回僕達が挑戦するダンジョンは、この首都の付近に存在する中規模のダンジョンで、その階層は全部で38階層。
現れる魔物は最高でBランクの為、この辺りを拠点にしている冒険者達はそのダンジョンで魔物を討伐し生計を立ててる者もいる。
僕達はそのダンジョンの入口に到着した。
そのダンジョンの入口は所謂洞窟の入口の様な形をしていて、そこから地下への階段の通路が出来ていた。
また、近くにはデスペラード騎士団の駐屯地の様な建物があった。
これは、ダンジョンで発生した魔物が入口から出てきた時の対応らしい。
ダンジョンでは、極稀に大量発生した魔物が内部から外に溢れ出す、一種のスタンピードの様な現象が起きる事があり、その時はまずこの駐屯地にいる騎士が発見し次第、通信のマジックアイテムで周辺の街に連絡、そこからすぐに冒険者や騎士団を派遣してもらい対処するという流れになるらしい。
そんな風に辺りを確認した所で、僕達はいよいよダンジョンの中へと入ろうとしていた。
「じゃあ、いよいよダンジョンへの挑戦よ。皆、準備はいい?」
コレットが突入前の確認をし、僕達はそれぞれの装備などを確認した。
僕達はそれぞれの武器を片手に、各自がベルスティア商会で買ってきたマジックアイテムを装備し、収納魔法の中には食料やポーションなども入っている為、準備は万端だった。
僕達は確認してコレットに頷いて大丈夫だと伝えた。
「それじゃ、行くわよ」
コレットの合図で、僕とアリア、クレイルとレクスが最初に入り、続いてコレットとアイン、ラティとクルスの順で階段を下り、僕達は初のダンジョンへと突入した。
その入り口には、従魔召喚のに似た魔法陣の様な物が置かれていた。
「コレット、この魔法陣は何?」
「それは転移の効果があるワープゾーンよ。このワープゾーンは、各階層の出入り口に存在し、その魔法陣に入って魔力を流すとその人がそのダンジョンで行った事のある階層まで転移できるの。これがあれば例え最下層にいても、一瞬でこの入口まで戻って来る事が出来るから、日帰りでダンジョンに潜って帰って来る事が出来る訳」
「でもそれじゃあ、楽をして下層部まで行く人もいるんじゃない?」
「できなくもないけど、その手段は他の冒険者の非難の対象になり、そこでの冒険者活動がやりにくくなるわ。ついでに言えば、そういう事をする者に限って実力が伴っていないから、ダンジョンで命を落とす事例が少なくないの。だから基本的にはそういう事をする人はいないわね」
「成程な。それじゃあ、俺達はまずは1階層からスタートして、地道に行ける階層を増やしていくしかないという事か」
「そういう事。じゃあ、行きましょう」
僕達はコレットの言葉に頷き、遂にダンジョンの中に入った。
ダンジョンに入り、僕達は今第1階層にいる。
その空間は、鍾乳洞の様な景色が広がっている。
「ここがダンジョンの中なのか。見た感じ、鍾乳洞の迷路だな」
クレイルの言葉はまさに的を得た言葉だった。
「何でも、このダンジョンは5階層までがこんな感じの鍾乳洞の地形になっていて、6階層から15階層が森の、16階層から37階層がまた洞窟の地形になっているそうだよ」
僕は昨日ギルドで素材の買取をした際、そこでダンジョンに関する情報を集めていたので、このダンジョンの各層の事は知っていた。
「へええ。じゃあさ、この階層はどんな魔物が出てくるんだ?」
「確か、Fランクのスライムやグリーンキャタピラー、後はEランクのゴブリンくらいかな。ああ、それから、稀にゴブリンの上位種も出てくるらしいよ」
「ダンジョンの最初の階層は大体そんな物よ。ダンジョンは下へ降りれば降りる程、強力な魔物が出てくるの。だから冒険者の力試しにはもってこいの場所なのよ。自分の実力が通用する階層と、自分が行ける階層の限界が正確に分かるからね」
確かに、自分の実力を正確に把握して置く事が出来れば、ダンジョン内での生存率も上がるし、自分の実力の向上も分かるからダンジョンでの冒険者活動は色々と効率がよさそうだな。
「よし、じゃあ、ダンジョンの攻略を始めよう。打合せ通り、僕とクレイルとラティが前に出て、僕とクレイルが前、ラティが後ろ、コレットとアリア達は後方で待機しつつついて来て」
皆は頷き、僕達の初めてのダンジョンの攻略が始まった。
ダンジョンの攻略において重要なのは、自分の実力が通用する階層の把握と現在自分がいる階層の出口の場所を把握する事だ。
実力が通用する階層の限界を把握できていれば、無理をする事なく戦闘が出来てダンジョン内で生存する確率が上がり、出口の場所を把握できていれば、いざという時の脱出がしやすくなるからだ。
前者の場合はもし僕達の手に負えない事態になっても、その時はアリア達従魔組によって解決できるし、後者の場合は僕がいる限り道に迷うなんて事にはならない。
「ユーマくん、道は分かるの?」
ラティの問いに、僕は頷いて答えた。
「大丈夫だよ。僕の探知魔法で、この階層の地形は範囲内までなら丸分かりだから」
ダンジョンに入った時から、僕は既に探知魔法を発動させて周囲の地形を把握させている。
ダンジョンは魔力が集まってできた物で、地上の自然界と比べると魔力の度合いが高い為、探知魔法での地形探知ではまるでドローンで上空から見た様にその地形が丸分かりとなる。
更に魔物の位置も魔力反応で探している為、探知範囲内での魔物の居場所も僕には丸分かりとなった。
「でも大丈夫? 前にダルモウス山脈のダンジョンで魔力酔いしたんでしょう?」
ラティの指摘は先日の魔力酔いの事だ。
先日ダルモウス山脈のダンジョンの入口に来た時、その内部を探ろうと探知魔法を使ったら、その凄まじい魔力量に魔力酔いしてしまった。
「その辺は問題ないよ。あの時はダンジョン全体を探知しようとしたから魔力酔いを起こしたけど、今回はこの階層だけに集中して地形探知をしているから、魔力の負担も減った分この程度なら魔力酔いも起こさないよ」
魔力酔いはあくまでその人が限界だと思う以上の量の魔力で起こる現象だから、1階層分の魔力に減らせば僕なら余裕で耐えられる。
「よし。じゃあ攻略における道案内は任せたぞ、ユーマ」
「任せてよ、クレイル。僕が責任を持って皆を導くから」
僕は探知魔法で把握した道を確認しつつ、皆を連れてダンジョンを進み始めた。
ダンジョンの攻略を開始して間もなく、僕の探知魔法に反応があった魔物の近くに来た。
「その先に魔物がいる。数は5、強さはEランクだ」
僕の言葉に反応し、クレイルとラティは武器を構えた。
僕も背に差したミネルヴァを抜き、戦闘態勢に入る。
前方の通路から姿を現したのは、ゴブリンだった。
「ゴブリンか。でも丁度いいぜ。俺達の神器を使いこなす為にも、少しでも戦闘を重ねるぞ! 行くぜ、ユーマ!」
「僕もいけるよ! 絶対に神器の力をものにするんだ!」
僕とクレイルはミネルヴァとメルクリウスに魔力を込めた。
それも、今までの様な使う分の魔力に加えて、僕達の魔力を全て注ぐくらいの量の魔力を注いだ。
その時、2つの神器が輝きだした。
同時に、僕の体から魔力がミネルヴァに吸い込まれる様な感覚に襲われた。
「ぐっ……! この感覚は……まるでメルクリウスに俺の魔力が持って行かれるみたいだ!」
クレイルも同じ感覚に襲われている様だ。
特にクレイルはメルクリウスが神器だと知ったから、僕以上に辛そうにしている。
まるでメルクリウスが「漸く自分の本当の力に気付いた様だな」とばかりに、クレイルの魔力を欲している様だ。
確かにこれは凄い……。
一歩間違えたら、僕達の魔力を全て奪ってしまう様だな。
ゴブリン達は僕達の気付いて襲い掛かってこようとしたが、コレットが矢を放って牽制している。
神器を制御するなら今がチャンスだ。
「僕の魔力が欲しいんならくれてやる! 今まで君をあまり使わなかった事はごめん! でも、今の僕なら君を使いこなせるという自信がある! 君も僕を信じてくれ! だから、僕に従うんだ、ミネルヴァ!!」
僕はそれに負けずにミネルヴァに自分から魔力を更に強く注ぎ、そう叫んだ。
「俺だって! メルクリウス! 今までお前の事をただの武器だと思ってた事を怒ってたんなら謝る! すまなかった! だが、これからは本当のお前と一緒に戦いたい! だから俺を信じろ! 俺に従うんだ、メルクリウス!!」
その時、ミネルヴァとメルクリウスの輝きが強まり、やがて輝きが消えると、僕とクレイルの体が楽になった。
「何だ? 急に体が軽くなったぞ」
「僕もだ。それに、ミネルヴァが手にしっくりくる感じがする」
「ああ、俺もだ。メルクリウスがまるで俺の体の一部みたいな感じがする」
魔力をかなり消耗したけど、それでも戦闘が出来ない訳じゃない。
寧ろ、今ならゴブリン程度は赤子をひねるくらいに倒せそうだ。
「クレイル! ユーマ! 今のあなた達なら、その神器を使いこなせるわ! 思う存分戦いなさい!」
コレットの叫びが聞こえ、僕達はすぐに構えた。
「行くよ、クレイル!」
「おう!」
僕とクレイルは同時に駆け出し、5体のゴブリンを瞬殺した。
その時、僕達は驚愕した。
何故なら、僕もクレイルも最初は牽制するつもりで攻撃しただけだったのに、その軽い一撃でゴブリンを瞬殺できたのだ。
「何なんだ、この力は? しかも、今までのメルクリウスの一撃とはかなり違う。消耗した魔力が一気に回復したんだ。まるで、俺が倒した分のゴブリンの魔力を全て吸収したみたいだ」
「僕もだよ。魔力はこの吸魔の腕輪で多少は回復したけど、何よりミネルヴァを振った時や駆けた時に、体が凄く軽くなったんだ。まるで重力が小さくなったみたいに」
「それは神器があなた達を所有者として認めたからよ」
そこにコレットが寄ってきた。
「どういう事だ、コレット? 俺達は今認められようと始めたばかりなんだぜ? それが何でいきなり認められるんだ?」
クレイルの質問は尤もだ。
僕達の目的は、確かにミネルヴァとメルクリウスに認められる事だ。
その為にこのダンジョンで戦闘を重ねて少しでも認められようとした筈なのに、僕達はいきなり神器に認められたなんて。
「2人共、さっき神器に魔力を流した時、神器に魔力を全て持って行かれる感覚がしたでしょ?」
「うん。今までと違って、まるでミネルヴァに僕の魔力を全て吸われる様な感覚だった」
「あれは、神器が所有者として認めるか否かの試練みたいなものなの。神器は特定の者にある程度使われると、その神器自体に使った人の魔力が徐々に蓄積されるの。そして、神器に溜まった魔力が記憶されると神器が輝きだし、その者の魔力を吸い取るような現象が起こる。中には手にしたばかりの時点で膨大な魔力を注いで一気に魔力を記憶して、そのまま神器に認められようとした者もいて、そのまま認められたらしいけどね」
「じゃあ、俺とユーマは同時にその段階まで来たって事か?」
クレイルの質問に、コレットは難しい顔をしながら首を横に振った。
「多分違うわね。恐らく、2人は既にこの段階まで来ていたけど、何かきっかけが必要だった。でも、2人が真剣に神器と向き合う決意をしたから、神器がその試練を行ったのかも知れない。クレイルは今までメルクリウスが神器だと知らずに使い、ユーマは神器の強さに溺れない為にミネルヴァに使用を控えていたけど、2人は己の神器と向き合う決意をして、その思いが神器にも伝わったのよ。元々2人はかなりの所まで神器を使えていたから、後はその神器と心から向き合うきっかけが必要だったのよ」
「それじゃあ……」
「ええ。2人は見事に神器に認められ、晴れてミネルヴァとメルクリウスの所有者となったのよ」
つまり、僕は既にある程度認められていて、あの時ガリアンさんとの会話で僕がミネルヴァと向き合う決意をしたから、ミネルヴァは僕を所有者として認めてくれたのか。
そう思うと、すごく嬉しくなってきた。
「やったな、ユーマ!」
「うん! 僕達は神器を使いこなせる様になったんだ!」
僕達は互いに拳を合わせて、一緒に喜んだ。
「おめでとう! ユーマくん! クレイルくん!」
ラティも自分の事の様に喜んでいる。
「ありがとう、ラティ」
「ありがとうな」
ラティは僕の手を掴み、魔力を流してきた。
「消耗した魔力を、あたしの譲渡の指輪で魔力を流して回復させるわ」
すると、ミネルヴァによって吸い取られて消耗した魔力が一気に回復した。
「凄い……さっきまで消耗していた魔力があっという間に回復した。それに、力が漲って来るよ」
「さあ、クレイルくんも」
「おう」
ラティはクレイルの手も掴み、譲渡の指輪で魔力を注ぎ回復させた。
「よし! 俺の魔力も回復したぜ!」
これで僕達の魔力は完全回復し、同時に僕とクレイルは神器を完全にものにする事が出来た。
「2人ともおめでとう。次はラティね。その元素の杖に慣れる為に、次はラティが戦闘をしてみて」
「うん」
コレットの指示で、僕達はダンジョンの攻略を再開した。
それからは僕達は交互に戦闘を繰り返しながらダンジョンの攻略を進めた。
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魔物情報
グリーンキャタピラ
緑色の芋虫の姿をしたFランクの昆虫種の魔物。ランクは低いが、口から吐く糸は下降する事で服の生地の原料となる。その為スライムと同様人々の生活を縁の下で支えている。しかし戦闘力は低い為、無暗に街や村の外に連れ出すと他の魔物を引き寄せて捕食されてしまう。討伐証明部位は触角。
次回予告
順調にダンジョン攻略を進めるユーマ達は、着々と奥の階層へと進んで行く。
途中魔物と遭遇するが、その過程でコレットはある事を提案する。
そして途中の球形で、ユーマは皆に食事を振る舞うが、今回はアリアの為にあるデザートを用意していた。
次回、攻略は順調