第112話 首都へ到着
前回のあらすじ
ダルモウス山脈で素材集めに出たユーマとアリアは、偶然竜花蜂を発見し、その後を追跡して巨大な巣に辿り着く。
アリアはその蜂蜜を回収するべく、自身の能力の高さを活かし、無数の竜花蜂を1体も殺さずに巣に辿り着く事に成功する。
無事に蜂蜜を大量に採取したユーマ達は、夜営場所に戻った後、皆と成果を報告し合い、自分の結果をみんなに驚かれる。
ダルモウス山脈を越えたら、ロマージュ共和国の首都へはもう目と鼻の先だった。
アリアに乗って1日も掛からずに、僕達は遂に首都へと辿り着いた。
城壁が見える手前でアリアから降りて、出した馬車に乗り込んだ僕達は、元の大きさに戻ったクルスや亜空間から出たレクス、標準サイズになったアリアを連れて城壁に近づいた。
城壁の門ではこれまで通りに門番兵がいた。
「街へ入るには、何か証明できる物を出してください」
そう言われ、僕は懐から冒険者カードを出し、門番に見せた。
「えっ!? 銀月の翼と!? では、あなたはあの『雷帝』殿ですか!?」
門番はカードに記された僕の名前を見て、酷く驚いていた。
どうやら僕達のパーティー名や、僕の異名などは、この国の首都にまで轟いている様だ。
「はい。それで、中は通れますか?」
「ええ……それは勿論です。どうぞ、お入りください」
門番は何とか平静を保ち、僕達を無事に通してくれた。
門を潜って中に入るとそこはまさに壮観だった。
目の前には無数の鍛冶屋の工房や商会が広がり、それらを訪れる冒険者や貴族などで賑わっていたのだ。
ロマージュ共和国は鍛冶職人の国といわれており、全体の半数が工房などでできている程だ。
そしてこの国はドワーフの国とも言われ、人口の中心はドワーフとなっている。
その結果、彼らの作る武器や防具、アクセサリーなどを求めて、年中多くの冒険者や商人で賑わっているのだ。
実際、この前の砂漠のルゴスの街もこの国に含まれていたから、あの買い出しの時にもそれなりの数の鍛冶屋や商会があったりする。
僕達は目的地に着いた事で、今後の予定を話し合っている。
「ユーマ、これからサラさんの言っていた工房に行くのか?」
「まずは宿を探そう。工房に行ったら多分武器の調整などで時間を食うと思うから、いったん宿を探してそれから今後を話し合おう」
皆はこれに頷き、すぐに宿屋を探した。
宿に関してはすぐに見つかったが、この宿はこれまでと違って従魔小屋の様な物がない為、従魔も同じ部屋に入れる事になる、所謂小型の従魔専用の宿ともいえる。
何故小型専用かというと、体の大きな従魔だと扉を潜れず、下手すると宿を壊して賠償金が課せられてしまうからだ。
僕達の場合は一見アインしか入れないが、その点に関しては、アリアとクルスはミニサイズになり、レクスはクレイルの亜空間の中に入る事で解決できた。
僕達は僕とラティ、クレイルとコレットの組み合わせで2部屋を借り、滞在はどれ位になるかは分からなかったから、とりあえず2週間分の宿代を先払いした。
現在僕達は1つの部屋に集まり、今後を話し合った。
部屋は結構な広さだった為、ここではアリア達もミニサイズを解除し、レクスも外に出ている。
「少し休んだら、お母さんの紹介の工房へ行こう」
「そこで俺のメルクリウスやお前の白百合に黒薔薇、お前とラティのエンシェントロッドとかの整備をしてもらうんだよな?」
「そう。僕のミネルヴァとコレットのユグドラシルとアルテミスもね」
「その整備が終わったら、暫くここで依頼を受けたりするの?」
「そのつもりだよ。前にルゴスの街で買った本によると、この首都の付近にもダンジョンがあるらしいから、そこにも行ってみる価値があるよ」
「そいつは楽しみだな」
「アオン」
僕達が部屋を取って1時間ほど経ち、僕達はお母さんの紹介のデミウル工房へ向かった。
場所はお母さんから渡されたメモに簡略化の地図が書いてあった為、すぐに分かった。
暫く歩いていると、1つの工房が見え、その看板にはデミウル工房と書かれていた。
「ここみたいね」
「そうだね」
『では中に入ってみましょう』
僕達は工房の入口を潜り、誰かいないか尋ねた。
尚、アリアとクルスはミニサイズになり、レクスはちょっと入口を潜れないのでクレイルの亜空間に入って貰った。
「すみません。誰かいませんか?」
「武器の整備をお願いしたいんですけど」
すると、工房の奥から立派な髭を生やして丸太のような太い腕に、背は低いががっしりとした体格の典型的な職人系のドワーフの男性が出てきた。
そして背中には巨大な金槌が背負われている。
「何だ? お前達は客か?」
「はい。僕達の武器のマジックアイテムの整備をお願いしたいんです」
あまり遠回しに言わず、単刀直入に頼む事にした。
だが、ドワーフの男性は僕達を――正確には僕とラティを見て、突然目つきが鋭くなり、殺気まで放ってきた。
「おい、そこの坊主と嬢ちゃん。お前達の着ているのは俺が暁の大地のゲイル達に頼まれて作った、魔竜のローブじゃねえか。何でお前達がそれを持ってんだ?」
思いっきりドスの効いた声で聞かれ、僕とラティは怯んでしまった。
「そのローブは俺の友人が伝説の竜神の鱗を使って作ってくれと頼んで、俺とネルスが何年もかかって完成させたものだ。お前達が何でそれを着てんのかは知らんが、返答によっちゃ――」
ドワーフは背中に背負った金槌を肩に担ぎ、凄まじい闘気を放ってゆっくりと近づいてきた。
「ちょっ、ちょっと待ってください! 僕はユーマ・エリュシーレ! その暁の大地のゲイルとサラの息子です!」
「あたしはダンテとエリーの娘のラティ・アルグラースです!」
僕達は慌てて自身の素性を話した。
Aランク冒険者としてそれなりの修羅場を潜ってきた僕らなら、本来は職人に怯む事はないが、この職人は歴戦の猛者の様な闘気だった為、思わず怯んでしまった。
「あたし達は、その両親達からこのローブを旅立ちの贈り物として受け取ったんです!」
僕達が必死に説明すると、ドワーフは足取りを止めた。
「お前達、ゲイル達の子供なのか? それを証明できる物はあるか?」
そう言われても、僕達がお父さん達の子供だって証明できるものは……。
「なあ、ユーマ。サラさんから貰ったメモに、確か手紙が同封されてなかったか?」
クレイルの指摘に、僕はある物を思い出した。
あの時旅立つ際、お母さんから自分達が贔屓にいていた工房を紹介する為にメモを渡された時、手紙が同封されていてその職人に会ったらすぐに渡すように言われていた事を思い出した。
僕はすぐに懐からその同封されていた手紙を取り出し、彼に差しだした。
「これは僕の母からの手紙です。ここに着いたら渡すように言われていたんです」
彼は手紙を受け取り中身を取り出して広げ読み上げた。
「ふぅむ……確かにサラの字だな。この手紙には彼女から自分達の子供とその仲間の武器の整備をしてくれと書かれている。その4人の特徴が魔竜のローブを着た2人の人族の男女、狼人族の男、ハイエルフの女。特徴も合致してるし、このサラからの手紙が何よりの証拠だ」
ドワーフの男性は僕達に向かい合い、深く頭を下げた。
「申し訳ない事をした。俺はてっきり、お前達がゲイル達からローブを奪った盗人だとばかり思っちまった。不愉快な思いをさせちまって、本当に申し訳ない!」
その謝罪を聞き、僕も言葉を重ねる。
「頭を上げてください。僕も、母から手紙をすぐに渡すようにという言葉を忘れてたんです。ですから、ここは両成敗って事にしませんか?」
「お前さんらがいいんなら、俺はそれで大丈夫だ。本当にすまなかった」
無事に誤解が解け、僕達は改めて自己紹介をした。
「俺はこのデミウル工房の親方のガリアン・デミウルだ。ゲイル達暁の大地とは専属の鍛冶師として付き合っていたが、今は任期満了って奴でその専属契約も切れて、今はただの鍛冶職人だ。」
「僕達はAランクパーティー、銀月の翼です。僕はリーダーのユーマ・エリュシーレです。こちらは僕の従魔の竜神のアリアです」
『初めまして、アリアと申します』
「あたしはラティ・アルグラースです。こちらのユーマくんの婚約者です。この子は従魔の特異種のグリフォンのクルスです」
「クルルゥ」
「俺はクレイル・クロスフォードです。ここにはいませんが、従魔にフェンリルのレクスがいます」
「ん? クロスフォード……何処かで聞いた様な……はて……」
どうしたんだろう。
ガリアンさんはクレイルの名前を聞いて、何かを思い出そうと頭を捻っている。
「私はコレット・セルジリオンです。こちらのクレイルの婚約者です。こちらは従魔のティターニアのアインです」
「アインよ。よろしく」
「ああ、よろしくな。そこの獣人の兄ちゃんの名前に聞き覚えがあるような気がしたが、兄ちゃんとは初対面だしな……まあその内思い出すだろう」
ガリアンさんはそう割り切り、僕達に手を差し出した。
僕は代表してガリアンさんと握手した。
「それで話を戻すが、依頼は武器の整備だったか?」
「はい。僕からは魔剣2本、魔槍1本、魔法杖1本、それから神剣です」
「何!? お前、神剣って事は、神器を持ってるのか!?」
「はい。父から餞別に譲り受けた物です」
僕は収納魔法からミネルヴァを始めとした、武器のマジックアイテムを全て取り出した。
「あたしはこの魔法杖です」
ラティはその近くに携えてたエンシェントロッドを置いた。
「ほう。どれも中々使い込まれてるな。それに剣や槍に関しては細かい血までしっかり拭き取った跡もある。だが杖も含めて武器全体に蓄積されたダメージまではどうしようもなかったか。それでも、この武器達が大切に使われているのは伝わってくる。いい使い手に恵まれたようだな」
ガリアンさんはやはり職人だけあって、武器を見ただけで詳しい事までわかる様だ。
「じゃあ、次は私ね。私はこの神弓と神弩よ」
コレットはそれに続き、ユグドラシルとアルテミスを出した。
「こいつは驚いたな……! コレットの姉ちゃんも神器を持ってたのか……それも2つ……」
ガリアンさんは更に神器が追加された事に酷く驚いている。
確かによく考えたら、神器持ちが2人もいる時点で驚くよね。
特にコレットは2つも持っているんだから、余計に驚いたとしても無理はない。
「最後は俺だな。俺はこの手甲と脚甲だ」
クレイルがメルクリウスを出した瞬間、ガリアンさんの顔がこれまで以上の驚愕に染まった。
「お前! これを何処で手に入れたんだ!?」
「えっ? どうしたんですか?」
「どうもこうもねえ! 何でここに神器の1つ、神甲メルクリウスがあるんだ!?」
「へっ?」
「「「へっ?」」」
今この人、何て言った?
クレイルのメルクリウスが何だって?
ガリアンさんの言った事が理解できた時、僕達はこれまでで1番の驚愕の声を上げた。
「「「「ええええええええええええ~~~~~~~~~~!!!?」」」」
なんとここでとんでもない事実が分かった瞬間だった。
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次回予告
クレイルのメルクリウスが神器だという事実に驚愕するユーマ達、そしてクレイルは自分の両親とガリアンとの繋がりを知る。
ユーマ達はガリアンに自分達の武器の整備を依頼し、同時にラティはある杖との出会いをする。
そして同時に、ユーマとクレイルは、神器についてある事を告げられる。
次回、神器について