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第111話 素晴らしき自然の恵み

前回のあらすじ

ロマージュ共和国の首都を目指すユーマ達は、ダルモウス山脈へやってくる。

そこにあるダンジョンの入口を記憶した遊馬達は、山脈で一晩過ごす事を決め、各自手分けして素材採取へ向かう。

ユーマとアリアは途中竜舞花の群生地を発見し、そこで竜種がハマる程の蜂蜜を造る魔物、竜花蜂を発見し、追跡して巨大な巣を発見する。

 僕とアリアが見つけた竜花蜂の巣は、直径は2キロ程の大きさで、肉眼で見える程に無数の竜花蜂が出入りしていた。


「あれが竜花蜂の巣か。やっと見つけたね」


『あれはかなりの大きさですね。普通の巣よりもかなりの大きさです。推測ですが巣を築いてからかなりの年月は経っていそうです。それにこの大きさ、きっと極上の蜂蜜が貯蔵されている筈です。じゅるり……』


 アリアはあの巣から採取した蜂蜜を想像して、既に口元から滝の様な涎を垂らしていた。

 他の人がこの姿を見たら、とても伝説の竜神とは思えないくらいの表情だ。


「でもどうする? 採るにしても相手はBランクの魔物だ。僕とアリアなら敵じゃないと思うけど、それがあの大きさの巣だと、多分その数は億の単位に届いていても不思議じゃないよ」


『その点は大丈夫です。竜花蜂の蜂蜜は以前お母様から採り方を教わっています。ここは私にお任せください』


 アリアはそう言って巣へと近づいた。


 アリアの気配を察知した竜花蜂の大群が巣から飛び出し、僕達は瞬く間に囲まれてしまった。


『すみませんが、蜂蜜を分けさせて貰います。ですが、皆様は蜂蜜を造る為の貴重な存在。命は取らないので安心してください』


 アリアはなんと、この数の竜花蜂を1体も殺さずに蜂蜜を手に入れるつもりだ。

 確かにEXランクのアリアなら、可能かもしれないけど、蜂の魔物は機動力が高くて、連携も取れているからこれだけの数を掻い潜るとなると、それなりに骨が折れる筈だ。

 ましてや僕を乗せているとなると猶更だ。


『ユーマ、これから私は風のレジストを全開で掛けます。ですがそれでも少々荒くなるので、覚悟してください』


 アリアは翼を羽ばたかせ、正面の群れに接近した。

 それに反応し、正面にいた無数の竜花蜂が腹部の毒針を向けて突進してきた。


 アリアは空中で1回転して躱し、尚且つ僕への負担を減らす為に風圧のレジストを掛けながら蜂達の猛攻を潜り抜け、途中急速上昇した。


 正直レジストが掛けられていても、結構な風圧で飛んでいるから、僕も振り落とされない様に気を付けている。


 竜花蜂達もそれに追従する様に追って来るが、アリアは余裕で上昇した。

 僕は警戒する為に後ろを向いたが、その時竜花蜂が毒針を射出して攻撃してきた。


「アリア、後ろから毒針が飛んでくる! 僕が迎撃する!」


『私は毒針如き平気ですが、ユーマが乗っている以上万が一の事もありますからね。お願いします』


 僕は左手を向けて魔力を集中した。


「ライトニングウィップ!」


 左手から雷の魔力でできた鞭を放ち、飛んでくる毒針を次々と叩き落して炭にした。


 そしてアリアは何かを見つけたのか、上昇を止めて静止した。


『見つけました』


 アリアの視線に移ったのは、1体の竜花蜂だった。


「あの竜花蜂は?」


『あれはあの群れの司令塔です。竜花蜂は司令塔を中心にして八の字に飛んで動きを指示するんです。ですが、その司令塔の動きを封じれば、動きの統率が取れなくなり群れは崩壊するんです』


 そうか。

 竜花蜂の群れの動きは、ミツバチの八の字ダンスと同じなんだ。


 ミツバチは、新しい餌場を見つけた時に八の字に飛んで、仲間に知らせるというコミュニケーションが出来る。

 竜花蜂もそれと同じ理屈で、仲間に敵の存在や動きなどをダンスで知らせて、それで仲間を動きを統括しているんだ。


 つまり、そのダンスを止めれば僕達を襲う部隊は攻撃できなくなるという訳だ。


『申し訳ありませんが、少し痺れていて貰います』


 アリアは尻尾に雷の魔力を纏って接近し、司令塔の竜花蜂にその尻尾の一撃を与えた。

 先程の宣言通り、命を奪わない為に力を加減して、司令塔はその雷の効果で痺れて墜落した。


 その結果、僕達を追っていた竜花蜂は統率が取れなくなり、仲間にぶつかったり、訳の分からない所へ飛んで行ったりした。


『これで邪魔者はいなくなりました。あの巣には女王がいる筈ですが、こちらから危害を加えない限り巣から出てくる事はありません。ですからこのまま蜂蜜の採取に取り掛かります』


 アリアは安全となった巣へと近づき、蜜が垂れている真下へと来た。


『これです。この黄金色、本当に綺麗です。さあ、ユーマ、採れるだけの量を採って帰りましょう』


 僕はその言葉に従い、収納魔法から空の大樽を取り出し、その中に垂れる蜂蜜を入れた。


 やがて1つ目の樽が満杯になった。


「これで1樽入ったけど、凄く綺麗な色だね」


 樽の中に入った蜂蜜は、表面だけで蜜の黄金色で底が全く見えないくらい濃度が凄かった。

 加えて樽の中から漂う蜂蜜の香りが鼻腔をくすぐり、今にも飲み干してしまいそうな感覚に襲われた。


 僕もアリアもその甘い香りに、口元から涎が垂れっぱなしだった。


「アリア、ちょっと味見してみよう。これは採った人の特権だから」


『そうですね。身体を張って採取した私達には、1番に食する権利があります』


 僕達は理由を正当化させて、スプーンを2つ取り出し、1杯すくった。


 そして2人同時に口に含むと、一瞬目の前が真っ白になった。


 何この甘さ!?

 まるで完熟のマンゴーの数万倍の糖度だけど、全くくどくなく後口もすっきりしている。

 これが蜂蜜なら、僕が前世も含めて今まで食べてきた蜂蜜は何だったんだ。


「凄く美味しい! これは凄いよ!」


『これです! この甘さが竜がハマる程の美味しさなんです!』


「アリア! こうなったら、空き樽がある限り詰めて詰めて詰めまくろう!」


『はい!』


 それからは、蜂蜜を空き樽に入れて満タンになったら収納魔法に入れて新しい空き樽を出し、それが満タンになったらまた収納して新しい空き樽を出し、それを繰り返していた。


「これが最後だ」


 そして最後の15個目の樽が満タンになり、僕達は蜂蜜の採取を終了させた。


「凄い。空き樽全部を使ったのに、まだまだ全然ある。これは多分数百年分の量が貯蔵されているんじゃないかな」


 僕達が採取に使った空の大樽は特大サイズで、それ1つでも数ヶ月分の蜂蜜が採れた。

 それを15個全部使ってもこの巣からはほんの少しの消費だった様だから、その全体の量は推して知るべし。


『ですが、ここへはもうユーマの空間魔法の転移でいつでも来れます。これなら、私達はいつでも好きな時にこの蜂蜜を採りに来る事が出来ます』


 確かにそれなら僕はまたここへきて、好きな時に蜂蜜を採取できる。

 それに今回でかなりの量が採れたから、また採りに来る頃にはまた元の、いや、それ以上の蜂蜜が貯蔵されているに違いない。


 そう思うと、僕達は偶然とはいえ、とんでもない穴場を見つけた事になるな。


「そうだね。皆の食べる量を考えると、もしかしたら、また来る日はそう遠くはないと思う。それに今回の蜂蜜は1樽は売る分にしよう。あまり沢山売ると何処で採れたのかを聞かれて、それで冒険者がここを突き止めて荒らされる危険性があるからね」


『それは困ります! ですから、売る分はそれだけで十分です!』


 アリアの必至な様子に、僕は笑みがこぼれてしまった。

 どんなに大人びていても、中身はまだまだ若い竜――それも子供だから好物への執着は年相応と言った所か。


「じゃあ、帰ろうか。丁度時間も頃合いだし、今から戻れば、日没までには戻れるよ」


『そうですね。ですが、帰りは簡単ですよ。来た道は覚えてますから、最短で夜営場に戻ります』


 アリアは再び翼を広げ、コレットがいる夜営場まで飛び上がった。


――――――――――――――――――――


 日没になる頃には全員戻り、僕達はそれぞれの成果を報告した。


「まずは俺だな。俺とレクスは切り立った斜面に生えていた薬草に、キノコ、それからこいつを仕留めた」


 クレイルの成果は、気付け薬のサンダーミントに食用のキノコ、それにサーレスの種類のランスディアーとは別種の鹿の魔物の死体だった。


「あら、これはアックスエルク。気性の激しいBランクの魔物よ。よく見つかったわね」


 この鹿は、ランスディアーと同様、巨大な角を持っているが、その角がまるで斧のような形状と鋭さをしている。

 更に、全身にも斧の様な刃状の牙の様な物が生えている。


「山道を下りながら歩いていたら、こいつがいてな。俺達に牙を剥いてきたから返り討ちにしたんだ。それで折角だから持って帰ってきた」


「成程ね。じゃあ次は私ね。私はこの周辺の散策で、薬の材料になるコケや薬草、後近くにいたウサギを仕留めたわ」


 コレットの成果は、火傷や凍傷などに聞く軟膏の材料になるコケに、クレイルと同じく薬草、それからロックラビットというDランクのウサギの魔物だった。


「あたしはクルスに乗って空を飛んでいた時、こんな大物を沢山仕留めたわ」


 ラティの成果は、体長が1メートル越え、翼を入れると3メートル半はある全身が岩の鎧に覆われた鳥の魔物が軽く20体はあった。

 それに沢山の卵だ。


「こいつはロックバードだな。その岩の殻は防具や鏃の素材にもなるし、その内側にある肉は凄く美味い魔物だぜ」


 ロックバードは険しい山や谷などに巣を構え、タマゴを産み子育てする魔物だ。

 その卵も鳥の魔物の中では特に栄養価が高く、ロックバードが適合した人はそれが生んだ無精卵を食用にしている程だ。


「勿論、近くに巣があったから、卵も回収してきたの」


 その卵は仕留めたロックバードが20体全てが番により、全部で10組が産んだ卵だ。

 その数は1組につき2、3個で、それが全部で56個あった。


「これだけあれば、当分卵には困らないな。ラティ、ロックバードは全部狩った訳じゃないんだよね?」


「うん。巣はまだまだあったから、今後あそこを住処にするロックバードは出て来る筈よ」


 ロックバードは集団で巣を作る習性があり、1組でも残っていれば、自然と仲間が増えて繁殖するようになる。

 だから今後もここで卵を手に入れる機会がある訳だ。


「それじゃ最後は僕だね。僕は1種類だけだけど、いい物を手に入れてきたよ」


 僕が15個の樽を出し、1つの蓋を開けて中身を見せた。


「これってまさか!? 竜花蜂の蜂蜜!?」


 コレットは一目でこれの正体に気付いた様で、僕は頷いた。


「そうだよ。僕達は偶然竜舞花の群生地を見つけて、そこで竜花蜂を見つけたんだ。それを追ったら、巨大な竜花蜂の巣を発見してね。その一部の蜂蜜を採取して来たんだ」


「それじゃ、この樽は全部中身は蜂蜜か!?」


 クレイルも僕が出した15個の樽の中身に気付いて、驚きのあまり声を上げた。


「そんな貴重な物をこんなに沢山……じゃあ、ユーマはその場所へは転移で行けるようになったって事?」


「その通りです」


 僕はその指摘に正直に答えた。


「でも、蜂蜜が手に入る場所へ行けるようになったのは大きい。これがあれば僕のレシピも増えるし、お菓子作りの幅も広がる」


 それにラティ、コレット、アリア、アインの女性陣ははしゃいだ。

 元々僕の作ったスイーツが好きなのに、蜂蜜を使ったお菓子も増える事にとても喜んでいた。


『ユーマ! 期待していますから!』


 アリアもまた新しいお菓子の想像に、胸を躍らせていた。


 こうして、僕達のちょっとした採取の日は終わりを迎え、翌日にはダルモウス山脈を越えて、首都への到着の目途がつくのであった。

これで第7章は終わりです。

次回から第8章、「ロマージュ共和国」になります。


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感想は、確認し次第返信する方針で行きますので、良かった所、気になった所とかがありましたら、是非感想を送ってみてください。

お待ちしております。


魔物情報


アックスエルク

Bランクの鹿の魔物で、同ランクのランスディアーとは対を成している。ランスディアーは基本的に気性が大人しいが、アックスエルクは気性が激しく攻撃的な性格をしている。角が斧のような形状をしており、発達した首の筋肉を活かして振り回し、敵をすれ違いざまに切り裂く。更に各部にも刃状の牙の様な突起物があり、攻撃力に秀でている。討伐証明部位は角。


ロックラビット

Dランクのウサギの魔物。全身が岩の様な甲殻に覆われており、それによる体当たりは当たり所が悪いと無事では済まない。その殻の内側の肉はタンパクが豊富で、とても美味。だがその外見に似合わず動きは機敏で、その殻は防御力がある為、狩りには一定の腕が必要となる。討伐証明部位は目玉。


ロックバード

鳥獣種のDランクの魔物で、岩の質量でできた羽毛を持つ。岩の殻は防具の素材にも加工でき、鏃の素材にもなる。肉質は低脂肪で女性に人気があり、ロックバードが産む卵は栄養価が高く、肉よりも価値がある。また繁殖力が高く、1組でも番がいれば自然と数が増えて群れが出来る。討伐証明部位は尾羽。


次回予告

遂に首都に到着したユーマ達は、早速暁の大地から紹介された工房を目指す。

そこで新たな出会いを果たす。

同時に、クレイルに関する衝撃的な事実を知る。


次回、首都へ到着

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