第110話 ダルモウス山脈
前回のあらすじ
ルゴスの街で補給をしていたユーマ達は、色んな珍しい物を買う。
中にはアリアの好物もあり、ユーマはいつものお礼としてその果実を買い、アリアを喜ばせる。
ルゴスの街を出た後、早朝に出発したのが幸いしてその日の内にラビアン砂漠を超える事が出来た。
現在僕達は、ロマージュ共和国の領内にある首都へ向かうべく、そこを目指す者にとっての最大の難関、ダルモウス山脈へとさしかかろうとしていた。
ダルモウス山脈はこのメビレウス大陸でも特に大きい山脈の1つだ。
標高はエベレストの1.5倍といった所だ。
「にしても、エベレストよりも高い山があるなんて、流石は異世界。その辺は何でもありだな」
「ユーマくん、エベレストって?」
ラティがエベレストについて尋ねてきた。
「僕の前世の世界にあった山の名前だよ。前世の地球では最も高い山脈なんだ」
「このダルモウス山脈はアスタリスクでも指折りの標高を誇る山脈よ。それに、この山脈にはダンジョンの入口が存在しているのよ」
コレットの口から興味深い事実が告げられた。
「へえ、この山脈にはダンジョンがあるんだ」
「ええ。確かそのダンジョンは、ここはロマージュ共和国領だからその中でも特に広大なダンジョンで、最下層は90階層だった筈。この山脈のふもとに街があって、昔一時期そこを拠点にアインと一緒に挑戦したんだけど、私はソロで冒険していて滞在期間もあったから、いくらティターニアのアインがいてもやっぱりソロでの攻略は限度があって、60代の階層が限界だったわ」
やっぱりダンジョンはパーティーで攻略した方がお勧めみたいなんだな。
でもコレットはハイエルフの冒険者で、アインはEXランクのティターニア。
そんな珍しい組み合わせの冒険者と組みたがる者は大勢いるだろうけど、コレットは自分達の置かれている状況が分かっていたから、本当に信頼できる相手がいなかったからソロで攻略していたんだな。
「コレットは、またそのダンジョンに挑みたいの?」
僕の質問に彼女はこう答えた。
「確かに挑戦はしたいけど、今はユーマの転移先を増やすのが目的だから、今回は見送るわ」
コレットは旅の目的を優先する気か。
「だったら、そのダンジョンの入口の場所へ行こう。そこに行けば、もう僕の空間魔法の転移先に加わるから、入り口だけでも行っておこう」
僕の提案に彼女は少し考えて、やがて笑顔で答えた。
「そうね。それがいいかもね。じゃあ行きましょう。場所は覚えているから、私が誘導するわ」
「オッケー。アリア、お願い」
『分かりました』
僕達を乗せたアリアはその巨翼を広げ、コレットの案内に従ってダンジョンの入口を目指して飛び立った。
ラビアン砂漠を超えた人が首都へ行くには、必ずこのダルモウス山脈を越えていく事になる。
基本的にはその麓を迂回するように進んでいくが、冒険者の場合は時間を掛けて登りながら山道を行くという進み方をする時がある。
この山脈には登山ルートとして確立された道がいくつかあり、道によって馬車で行けるか、徒歩で行けるか、魔物に乗っていけるかの道が存在している。
冒険者が山道を行くのにはいくつか理由がある。
1つはそのダンジョンを目指す為、2つ目にはこの山脈に生息する魔物やこの山脈で採れる素材目当てだ。
登山ルートによっては道が険しい所があり、そこには珍しい魔物が生息していて、それらを討伐してその素材をギルドで換金する為。
またここで採れた素材などには珍しい木の実や、美味しい水などがあり、それを樹人にある商会などに売る事も出来る。
だが、僕達の場合はアリアという空を飛べる竜神がいるから、どの道で行こうとそれが険しかろうが関係ない。
どの世界でも飛行での移動手段は最高にして最強なのだ。
ちょっとズルしている感じもしなくはないが、冒険者というのは自分達の力は従魔も含めて使える物は全て使うものだとコレットが言うので、その辺はあまり気にしない様にしようと思う。
暫くして、コレットが指示した場所に降りると、そこには大きな洞窟の入口ともいえる様な巨大な洞穴があった。
場所的には、山脈の麓部分の南西部にある場所だった。
「ここがダルモウス山脈のダンジョンの入口よ」
コレットが言った通り、探知魔法を使うとこの洞窟の中から途轍もない巨大な魔力反応を感じた。
「凄い魔力反応だ……単にダンジョンの魔力だけじゃない。中にある地形の魔力、魔物の魔力、それが凄い数の階層に分かれて、魔力酔いしそうだ……」
魔力酔いとは、探知魔法や測定魔法の様な魔力を視認できる魔法の使い手が、強い魔力を感知した時に稀に起こる症状だ。
1度に大量の魔力を感知した事で体に強い負荷がかかり、眩暈や吐き気を催す。
魔力を視認できる測定魔法でも同じ事が起こるが、これは凄すぎる。
修業を始めたばかりの頃、自分の固有魔法に慣れる為の訓練をした事があり、その時初めて探知魔法を使ったときは、お母さんやエリーさんの魔力に酔って魔力酔いした事がある。
でもこれはその時以上の負荷だった。
「大丈夫か?」
クレイルとラティが心配そうに僕の背中を擦ってくれたから、すぐに魔法を解除した事もあって比較的すぐに楽になった。
「もう大丈夫だよ。ありがとう、クレイル、ラティ」
僕は大丈夫だと伝え、2人は安堵した。
「でも本当に凄い反応だった。だけど、この場所はもう覚えたから、これからはいつでも転移で来れる。じゃあ、行こうか」
「うん」
「そうだな」
「行きましょう」
目的を果たした僕達は再びアリアに乗って出発した。
正直今すぐにでも中に入りたい気持ちはあった。
何せ初めてダンジョンの入口を目にしたんだからね。
それはラティ達も同じ気持ちだったろうけど、今は首都に行ってお母さんの紹介の鍛冶屋に行き、僕達の武器を整備する目的が先だ。
そう自分に言い聞かせ、僕達はダルモウス山脈を越える事にした。
暫く飛んで、今日はこの山脈の七合目の部分で野宿する事にした。
まだ日は高いからさっきコレットが言っていた麓の街を目指す選択肢もあるけど、折角だから今日はここで休みつつ何か素材が採れれば採取して首都で売ろうというコレットの発案に従った。
「じゃあ、役割を決めよう。僕とラティはアリアとクルスに乗って空から、クレイルはレクスと一緒に山道を、コレットはこの周辺の採取を担当だ。リミットは日没。それまでには必ずここに戻る事でいい?」
皆頷き、僕達はバラバラに探索して採取に向かった。
尚、アリアはいつもの本来の姿ではなく、乗るのが僕だけなので標準サイズだ。
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僕とアリアは地上の様子が見えるギリギリの高度で何かないかを探している。
僕の探知魔法とアリアの鋭い五感があれば、珍しい物はそこそこ簡単に見つかる……。
その筈なのだが………。
「何故だ……」
『何故でしょうか……』
そう、何故かこんな時に限って、めぼしい物が見つからないのだ。
「探す方角が悪かったのかな」
『では、少し場所を変えてみましょう』
アリアが方向転換しようとしたその時、僕の探知魔法にある反応が現れた。
「待って! 反応が出た。数は1。これは……Bランクの魔物反応だ」
『それはまた高めですね。場所は何処ですか?』
「ここから西の方角にある。行ってみよう」
アリアは僕が指した方へと飛翔し、少しすると僕らの目の前に高原に咲く満面の花畑が見えた。
その花は1枚1枚の花弁が虹色となっていて、かなり距離がある此処からでもその花から漂う香りが心地よかった。
「これは……壮観な景色だな」
『こ……この花は!?』
アリアはその花を見て驚愕していた。
「どうかしたの?」
『この花は、竜舞花と言いまして、我ら竜族が縁起の良い花としている花なのです。その香りは竜の荒ぶる感情を鎮め、その色は活気のない竜を元気にすると言われているのです』
それはまた凄いな。
じゃあ、この花があれば、暴れる竜だって大人しくさせる事だってできるから、一種の竜専門の調教師だって目指せるじゃん。
『ですが、その存在は非常に希少で、仮に売りに出されていても、王族でない限り買うのはまず不可能だという程の価値があるのです。ですからこの花畑は本当に幻の地なのでしょう』
それ程に価値のある花なのか。
『ですが、この花が竜族にとって縁起がいいのは、もう1つの理由があります』
もう1つの理由?
『ユーマ、先程の魔物の反応を追ってこの花に行き着いた事で、私の推測は確信へと至りました』
アリアが視線を花の上空へやると、そこにはある魔物の姿があった。
それは以前エリアル王国の王都へ通じる森で戦った、魔甲蜂と同じ蜂の魔物だったが、魔甲蜂よりも大きくその頭部の形は何となく竜を彷彿させる外見をしていた。
『あれは竜花蜂というBランクの魔物で、私達竜族が最も重宝する魔物です」
「どういう事?」
『竜花蜂はあの竜舞花から蜜を集めて巣で貯蔵し、蜂蜜を作るのです。他にも蜂蜜を作る種はいますが、その中でも竜花蜂の造る蜂蜜は最高級の甘さと栄養価を誇るのです』
成程、蜂蜜か。
この世界では蜂蜜はとても高価な物で、100グラム金貨で取引される程だ。
『私達竜族にとって、牙は命なのですが、あの竜花蜂が作った蜂蜜は虫歯になってしまう程竜もハマってしまう程なんです。加えてその蜂蜜は竜の大好物でもあるので、中には竜花蜂の住処に住み着いて共存してしまった竜もいます。ですから、あの蜂は私達の好物を作ってくれる大切な存在なんです』
つまり、竜とあの竜花蜂は一種の共存関係を築いているって事か。
「それなら、僕達の獲物は決まったね」
『はい。あの竜花蜂を追えば、必ず巣に辿り着きます。ユーマ、しっかりつかまっていてください』
アリアは竜花蜂が飛んで行った方へ向かって飛び、僕も探知魔法で竜花蜂の飛んで行った場所を探した。
暫くして、切り立った断崖に辿り着き、そこに巨大な蜂の巣らしき物体が見えた。
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魔物情報
竜花蜂
昆虫種のBランクの魔物で、竜を彷彿させる形状の頭部を持つ。竜舞花と呼ばれる希少な花から蜜をとり、巣に持ち帰って蜂蜜を造る。集団で生活し、その群れの中には必ず女王がいる。腹部の毒針は打ち出す事が出来、当たるとその個所から細胞が朽ち果て、やがては死に至る。この魔物が造る蜂蜜は非常に希少価値があり、その糖度や栄養価は、牙が命の竜種が虫歯に成程ハマると言われている。その為、竜種は無暗に竜花蜂を襲う事がなく巣の近くに住み込み共存した例もある。討伐証明部位は毒針。
次回予告
竜花蜂の巣を発見したユーマとアリアは、その蜂蜜を採取するべく巣へと接近する。
しかし、竜花蜂の大群に阻まれるが、蜂蜜欲しさにアリアは1体も殺す事なく突破すると豪語する。
次回、素晴らしき自然の恵み