第109話 楽しい買い物
前回のあらすじ
自分に憧れているアルクとの模擬戦を受け入れたユーマは、鍛練場で模擬戦を行う。
アルクの砂嵐をバリアにした攻防一体の魔法を目にしたユーマは、風の知識を活かして中央部に突撃して攻略し、模擬戦に勝利する。
そしてアルクは自身の持てる力を全てユーマにぶつけた事に満足し、感謝するのだった。
昨日のギルドでの騒ぎから翌日、僕達はまだルゴスの街にいる。
昨日はラティとコレットがとってくれた宿で休み、今日は補給の為に街へ出ようとしている。
「ユーマ、買う物は何だ?」
「まず第1に食料だ。肉類は討伐した魔物の肉がまだ大量にあるから問題ないけど、問題は野菜類だ。肉だけだと栄養バランスが偏るから、野菜も色々買い足さないと。だから僕とラティは食料を買いに行く。クレイルとコレットは薪や布、包帯といった物をお願い。このメモに買って欲しい物が書いてあるから、持っていて」
「おう。任せろ」
クレイルにそのリストを書いたメモを渡した。
「コレット、その分のお金を渡しておく。少し多めに持たせておくから、余ったら買い食いとかに使っても大丈夫だから」
「分かったわ」
僕はクレイル達と別れ、ラティと一緒にアリアとクルスを連れて買い出しに向かった。
――――――――――――――――――――
買い出しは順調に進み、中には珍しい食材もちらほらあった。
主にこの砂漠でしか手に入らないものだ。
「ねえ、ユーマくん。これって何? 何だか葉っぱみたいだけど、少しギザギザしてて硬い」
ラティが指したのは、目の前にある出店の店頭に置かれた、黄緑色の大きな葉だった。
「これって、もしかしてサボテンの葉かな?」
そこに店主のおじさんが反応した。
「おっ! 兄ちゃんよく知ってるな。察しの通り、これはこの街の周辺に生えているサボテンから採取した葉だ。食用にできて美味いぜ」
「サボテンって、砂漠のあちこちにあったあのトゲトゲの植物? それが食べられるの?」
ラティはサボテンの姿を思い出し、それが食べられるのか疑っていた。
「確かに、サボテンの葉は食用にできる種があるのを聞いた事があります。栄養価が高く、それで美肌効果があって便秘解消にもなるって」
「美肌効果!?」
ラティは美肌効果の部分に大きく反応した。
「へえ~~。兄ちゃん、随分と詳しいみたいだな。料理人でも目指してんのか?」
「いえ。僕は冒険者ですよ。ただ仲間の食事は僕がやっていますので、その際の栄養管理に気を遣って、そういう知識を持ってるんです」
実際は、前世の知識によるものだけどね。
「成程な。これはラビアンサボテンの葉で、このラビアン砂漠では簡単に手に入るサボテンの葉だ。栄養価が高くフルーツの様な瑞々しさが特徴な葉で、このルゴスの街では家庭でも栽培されている。この店では、お前さん達みたいな旅人にも買って欲しいと思ってうちで栽培したのを並べているんだ」
それはいい判断かも。
この街ならではの物を売っていれば、旅をしている商人や冒険者は当然興味を持つ。
かくいう僕も興味を持ってる。
実際、前世で昔伊豆のとある動物園の中のレストランでサボテンの料理を食べた事があったけど、本当に美味しかったからね。
だから自分の手でそういったサボテン料理に挑戦できるかと思うと、腕がなってくる。
「決めました。このサボテンの葉を20キロください」
「あいよ! 毎度あり!」
僕は代金を払い、葉を収納魔法に入れた。
「20キロだけでよかったの? お金には不自由してないんだし、もっと買ってもよかったと思うよ」
「今はこれで十分だよ。それにもし足りなくなってきたら、僕がこの街まで行って買ってくればいいんだ。もうここへは空間魔法でいつでも来れるんだから」
「あっ、そうか」
そう、この街に来た事で僕のロストマジック、空間魔法の転移先にこの街が加わった為、今後この街で買い物がしたい時は僕がこの街へ転移して買う事が出来る。
だからこれでいつでもサボテンの葉を買いに来る事が出来る。
「そういう訳だから、なくなったらまた僕が買いに行ってくるから」
「うん」
そう言ってラティを納得させた後、僕達は他の食材を買うべく他の店を探して移動した。
――――――――――――――――――――
サボテンの葉の他にいくつか食材を買っていると、ふとアリアが何かを見つめていた。
『……………』
「どうしたの? アリア」
僕はアリアが見ている方へ視点を移すと、そこの露店にはある果物があった。
リンゴの様な形に、桃の様なピンク色で見るからに美味しそうな果物だった。
「あの果物を見てるの?」
『はい。あれはピチリカの実で、私がまだ幼竜だった頃、お母様がよく採って来てくれまして一緒に食べていたのです。お母様が初めて食べさせてくれました、私の大好物です』
そうか。
あれはアリアのお母さんとの思い出が詰まった、思い出の品なのか。
アリアの好物なら、僕がやる事はただ1つだ。
僕はその露店に向かい、店のおばさんに声をかけた。
「すみません。このピチリカの実を20個ください」
「はいよ。沢山買うんだね」
「ええ。僕の家族が大好物なので、買ってあげようと思いまして」
そういうと店のおばちゃんがニコニコしながら、ピチリカの実を紙の袋に詰めてくれた。
「家族思いなんだね。それじゃあ、ちょっとおまけして多めに入れてあげるよ」
「ありがとうございます」
頼んだ20個に加えてさらに5個追加で入れてくれたけど、これはおばちゃんのサービスだったので代金は20個分の大銅貨2枚で済んだ。
皆の所に戻って僕は袋から4つ取り出し、皆に配った。
『いいのですか? 私は食べたくて言った訳ではないのですが……』
アリアが少し遠慮していたが、僕はアリアの口元に実を差し出した。
「いいのさ。アリアにはいつも助けられているから、これは日頃のお礼も兼ねた、僕からの思いだよ」
『ありがとうございます。頂かせて貰います』
アリアは喜んでピチリカの実に嚙り付いた。
僕達も食べてみると、桃の優しい甘みにキウイやレモンの様な爽快な酸味が合わさって、飲み込んだ後もその果汁が口に残って、これは凄くハマる果物だ。
「美味しいね!」
「ええ! アリアが好きなのも分かるわ!」
「グルルルゥ!」
『これです。この味です。お母様と食べた頃を思い出します。ユーマ、ありがとうございます』
アリアに俺を言われると、僕も買ってあげた甲斐がある。
今は買い出し中なので、1人1つずつ食べて残りは収納魔法に入れた後、買い物をしながら屋台の料理を食べ歩いたり、僕の個人的な買い物で本を買ったりして、楽しい買い物の時間を過ごした。
買い物が終わった後クレイル達と合流し、2人とレクスとアインにもピチリカの実を渡したが、同じく好評で僕にこれを使ったスイーツを作ってくれと女性陣とアリアに言われ、僕はレシピを考える事にもなった。
それからは全員で街を散策して宿に戻った後、明日街を出る事を決め、僕達はしっかりと休息をとる事にした。
――――――――――――――――――――
朝になり宿を出て、城壁の門へ行こうとすると、アルクさん達と会った。
「おはようございます、ユーマさん」
「おはようございます。どうしたんですか? 皆さん揃って」
「俺達はこれから砂漠に行って、デザートゴブリンの討伐依頼に向かう所です」
デザートゴブリンはその名の通り、砂漠に生息するゴブリンだ。
砂漠の環境に適応するように進化した種で、砂漠以外での環境でも問題なく活動できる他、特殊な環境に適応するように進化した分、知能が普通のゴブリンよりも発達している事が従魔で確認できている為、そのランクはゴブリンジェネラルと同様のCとなっている。
彼らが向かう場所はそのデザートゴブリンの集落の様なので、その依頼の難易度がBランクに指定されてるほどの規模の集落だそうだ。
「大丈夫ですよ。俺達はこれまでに何度かデザートゴブリンを倒した事があります。勿論油断もしませんので、安心してください」
アルクさんの顔には自信と緊張感に両方が浮かんでいた。
自分の実力に自信を持ちつつ決して油断する事なく常に緊張感を持って行動する。
まさに一流の冒険者の顔だった。
それはレインさんとキャリスさんも同様だった。
「ユーマさん達はどうしたんですか? もしかして、この街を出発するんですか?」
レインさんの問いに僕は頷いて答えた。
「ええ。この街へは討伐した魔物の換金と、補給が目的でしたから、それが昨日済んだので今日これから出発する処です」
「そうですか。俺達はこの街を拠点にしているので今後会うのは難しいと思います。でもいずれは皆さんにまた会いに行こうと思います。その時は俺達と一緒に依頼に行ってくれませんか?」
「勿論です。僕らの従魔なら、何時でもこの街に来る事が出来ます。もしこの街でまた会ったら、一緒に依頼を受けましょう」
僕達はレインさん達と握手を交わし、別れて少ししてから城壁に来た。
門を通ってから本来の姿になったアリアに乗って、空へと旅だった。
門番の人達は目の前で巨大な姿になったアリアに驚いていたが、それ以上に伝説の竜神を目の前で見れた事に感激していたのを僕は見ていた。
やがて上空高くへと飛び上がったアリアは、首都の方角に向かってその巨大な翼を羽ばたかせた。
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魔物情報
デザートゴブリン
砂漠の環境に適応する為に進化したゴブリンで、その分知能が発達した分厄介さが増し、Cランクに指定されている。最大の特徴では肌の色が緑色ではなく黄土色となっている。砂漠以外での環境でも生きられる事が、従魔に適合した時に判明している為、砂漠の街に移動する必要もない。足場が不安定な場所でも移動できる分、通常のゴブリンよりも足腰の力やスタミナが高い。討伐証明部位は右耳。
次回予告
アリアに乗って移動し、ユーマ達は首都を目指す途中、最大級のダルモウス山脈へ訪れる。
そこには、コレットが来た事のある、ある場所があった。
そして、その日はその山脈の一角で休むことを決め、彼らはそれぞれに分かれて素材集めを行う。
次回、ダルモウス山脈