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第108話 模擬戦

前回のあらすじ

ユーマは自分に憧れているというアルク達から、尊敬の眼差しを向けられ、自分のこれまでの行いを振り返ってその眼差しに理解を示す。

そしてアルクから模擬戦を申し込まれ、それを承諾する。

 僕は今、ギルドの中にある鍛練場に来ている。


 ここは新人冒険者が訓練したり、僕達の様に冒険者が決闘や模擬戦をする際に使われる。

 施設の中にあるが天井はなく、魔法を上空に放っても大丈夫な造りになっている。

 だから僕もライトニングジャッジメントの様な雷を落とすような魔法も、安心して使う事が出来る。

 もっとも、今回はあくまで模擬戦で、今までの様な戦闘とは違うから、あまり殺傷力の強い魔法とかは使えないけどね。


 そしても僕は今、その鍛練場の真ん中に立っている。

 目の前にはアルクさんが立っている。

 その周りには、多くの冒険者やギルドスタッフが集まっている。


「アルクが模擬戦するんだって? あのローブを着た剣士が相手か。誰なんだ?」


「馬鹿! 分からないのか!? あれはあの『雷帝』だぞ! 今冒険者の間で話題の、銀月の翼のリーダーだ!」


「えっ!? あのエリアル王国の英雄の1人か!?」


「ああ。ちょうど今、この街に銀月の翼が来ているんだ」


「でもそれが何でアルクと模擬戦なんだ?」


「アルクが憧れの『雷帝』に会えて感激したらしく、今『雷帝』がこの街にいる機会に模擬戦を申し込んだみたいだ」


「へえぇ。でも『雷帝』も随分と物好きだな。いくらアルクに申し込まれたとはいえ、それを承諾するなんて」


 周りの観戦者は僕達に注目して、色々と話している。


 やがて模擬戦の準備が整い、僕が頼んで審判を務めてくれているコレットが声を上げた。


 コレットは周りの冒険者達にも聞こえる様に声を上げた。


「これより、銀月の翼のユーマと、金色の雲のアルクの模擬戦を始めます! ルールは2人による1対1の勝負です! どちらかが降参するか、私が勝負がついたと判断した所で決着とします! では、双方準備は良いですか!」


「いつでも大丈夫です!」


「俺もです!」


 僕は白百合と黒薔薇の二刀流で、アルクさんは長剣を構え、戦闘態勢に入った。


「では、始め!!」


 コレットの合図で僕らの決闘が始まった。


「来いです! アルクさん!」


「胸を借りるつもりで行きますよ! ユーマさん!」


 アルクさんは剣先を僕に向けて突進して、鋭い突きを放ってきた。


 僕は黒薔薇を振り上げ、その剣先を弾いて軌道を逸らし、アルクさんの突進を最小限の動きで躱した。


 でもそのスピードやキレは、かなりのものだった。

 アルクさんはBランクの冒険者だから、これはそれ相応に頷ける腕だった。


「成程。いい動きです。でも、これならどうですか?」


 僕はアルクさんが通過して少し距離を開けた所で振り返り、白百合の神速で接近し、2本の魔剣で斬りかかった。


「速い!」


 アルクさんは僕の初撃を剣で防ぎ、力任せに弾き返した。


 僕が剣を弾かれて動きを止めたその隙に、アルクさんは一気に僕に攻めかかってきた。

 真っ向から逆袈裟、抜き胴、斬り上げ、袈裟、胴切りと次々と的確に斬りかかってきたが、僕は2本の魔剣で捌いていっている。


 本当を言うと、僕が本気を出せばアルクさんは一瞬で剣を弾き落されて勝負がつく所だが、僕はまず相手の出方を知る為に敢えて受けに徹底している。

 彼を知り己を知れば百戦殆うからず、その言葉に従っての戦術だ。


「まだだ!」


 アルクさんは僕の逆袈裟に体を屈めて前転しながら回避し、後ろを振り向くのと同時に長剣を振り上げた。

 僕は白百合を地面に差し、その攻撃を防いだ。


 アルクさんはそれと同時に後ろに跳び、距離を取った。


 でも、その隙を見逃すほど僕は甘くない。


「サンダーバレット!」


 地面に差した白百合から手を放し、その右手を銃の形にして指を彼に向けて、雷の魔力弾を放った。

 魔力は抑えて殺傷力は下げているから、当たっても気絶ぐらいで済む筈だ。


「サンドストーム!!」


 その時、アルクさんの周囲に風の魔力が集まり、それの砂、つまり土の魔力が合わさり巨大な砂嵐になった。


 サンドストーム、風と土の複合魔法で、数ある複合魔法の中でも制御が比較的し易い難易度の低い複合魔法だ。


 その砂嵐はアルクさんを包み込み、360度全てが砂嵐で覆われた事で僕のサンダーバレットが弾かれた。


「成程。サンドストームで不可侵の領域を」


「そうです。この砂嵐の壁で如何なる攻撃も防ぎ、俺の動きに合わせて砂嵐も前進して敵をそれに巻き込んで吹き飛ばす。攻撃と防御を兼ね備えた俺の必勝魔法です!」


 確かにこれなら大抵の攻撃を防ぐ事が出来る。

 アルクさん達はこの街を拠点にしている様だから、砂漠での戦闘を考えたらこの魔法ならデザートシャークの様な砂の中に潜った魔物だって引き摺り出しつつダメージを与えられる。


 シンプルだけどこういう魔法の方が効率的かつ効果的だ。


「サンダーバレット! ファイアーバレット! ウィンドバレット!」


 僕は雷、炎、風の魔力弾を連続で放ったが、砂嵐の前に全て打ち消されてしまった。

 分かってはいたが、こうもあっさりだとちょっと傷つく。


「確かにこれは凄い。これだけの砂嵐を威力をそのままにして維持するなんて、並の集中力じゃできない。それに魔力もかなり鍛えられている」


「どうですかユーマさん!」


 アルクさんは得意げに問うてきた。


 正直に言って、突破口はかなり絞られてくる。


 ミネルヴァを使えば、魔力を切り裂く能力で魔法、つまり魔力でできたあの砂嵐を斬り裂けるけど、それはちょっと問題がある。


 それは、ミネルヴァが収納魔法の中だからだ。


 決闘では、使う武器は開始時に身に着けていた物でやるのが基本だ。

 だが、収納魔法から新しい武器を出すのは厳密にはルール違反ではない。

 でもそれをやるのは所謂後出しになって、決して褒められる訳ではない。


 それに、アルクさんは全力で僕にぶつかって、これ程な魔法まで使ってきてる。

 なら、僕も今手元にある武器で戦うのが礼儀だな。


 だから僕は、この模擬戦は白百合と黒薔薇のみで戦い抜く事を決めた。


「とはいえ、さて、どうしたものか……」


 そう思った時、僕の頭にある突破口が浮かんできた。


「待てよ……これ程の砂嵐を維持しつつ、術者のアルクさんはその中心にいる……という事は、もしかして……」


 アルクさんは砂嵐の中心にいる、それがヒントになった。


「ライトニングエンチャント!!」


 僕は雷の複合強化を発動し、砂嵐に向かって突撃した。


「あれが噂の『雷帝』の雷の身体強化か!」


「初めて見たけど、本当に普通の身体強化よりも速いぞ!」


「でも、いくらあのスピードでも、あの砂嵐を突破なんてできるのか!?」


 周りは僕の複合強化に驚いていたが、僕は気にせず目の前の砂嵐に接近し、風に巻き込まれる直前で、


「エアステップ!」


 風魔法の空中に足場を作る魔法で数段に分けてジャンプし、砂嵐の真上まで行く事が出来た。

 この鍛練場が天井がないのが幸いしたな。

 もしこの鍛練場が天井がある構造だったら、天井に激突して自滅して、そのまま砂嵐に巻き込まれていたかもしれないからね。


「なっ!?」


 そのまま僕は砂嵐の中央部に下降し、アルクさんの目の前に降りた。

 そして思った通り、僕はこの中心部にいて、風に吹き飛ばされるような事がなかった。


「どうして!?」


 アルクさんは何故僕が吹き飛ばされないのかが分かっていなかった。


「考えてみれば簡単な事です。アルクさんが砂嵐の中心にいて、自身はその風に巻き込まれていない。一見すると魔力の制御が上手いんだと思ったけど、実は違う。どんなに強烈に吹き荒れる風でも、その中心部は無風地帯、つまり風がないんだ。台風の原理ですよ。だから中心部に入れれば後はこうして……」


 僕は上に白百合と黒薔薇を掲げて魔力を集めた。


「ライトニングツイスター!!」


 僕は真上に跳びながら2本の魔剣を高速で螺旋状に振り、それで発生した雷を帯びた螺旋の風撃が砂嵐を内部から斬り裂き、砂嵐は一瞬で消滅した。


「そんな……!? 俺のサンドストームが……!?」


「勝負ありましたね」


 それを見て硬直したアルクさんの首筋に、僕は着地と同時に白百合を置いた。


「それまで! この勝負、銀月の翼のユーマの勝ちとします!!」


 同時にコレットの掛け声が響き、この模擬戦は僕の勝利となった。


 その掛け声に合わせ、僕は白百合を首から離して鞘に収め、アルクさんはその場に尻餅をついた。


 鍛練場内は歓声が響き、興奮に包まれた。


「すげえ!! あれが『雷帝』の実力か!!」


「アルクの砂嵐をああも簡単に攻略するなんて、やっぱAランクの冒険者の実力は違うな!」


「でもアルクもやるな! 『雷帝』を相手に全く引かずに挑むんだからな!」


 僕はそんな声をよそに、尻餅をついたアルクさんに手を差し出した。


「アルクさん、いい勝負でした。そして、お手合わせ、ありがとうございました」


 アルクさんは差し出した僕の手を取り、立ち上がった。


「こちらこそ、ユーマさんを相手に全力で行きましたけど、やっぱり敵いませんでした。でも、ユーマさんと戦えたので、嬉しかったです」


 僕とアルクさんはそのまま固い握手を交わし、互いを称えた。


「お疲れ様、アルク。どうだった?」


 皆がやって来て、キャリスさんがやって来て、アルクさんを労った。


「ああ。やっぱ英雄と呼ばれただけあって、俺のサンドストームも通用しなかった。でも、今回で俺もまだ強くなれそうな気がした」


「その意気よ」


 それからは、僕とアルクさんはお互いの健闘を称え合い、そして僕の勝利とアルクさんの健闘を周りの冒険者達から称賛され、この模擬戦は幕を下ろした。


 そして僕達はその後再びギルドの飲食スペースで軽く休んだ後、僕達はアルクさん達と別れてラティ達が部屋を取った宿へと向かった。


 因みに余談だが、今回僕達に絡んで来た冒険者、デニスは、あの後アルクさんがギルドマスターに彼の行いを報告され、冒険者の信用を落としかねない事やらかしたという事により、罰として1ヶ月の冒険者活動を禁止され、頭を冷やすように言われたそうだった。

※最初、106話から今回の108話までの流れで、原文ではユーマ達に絡んで来た冒険者はデニスではなく、アルク本人という流れでした。

 その時のアルクはかなり喧嘩っ早い性格で、依頼人などと何度も揉め事を起こし、レインとキャリスが既にBランクだがアルクだけCランクのまま昇格が出来ないという設定でした。

 しかし、今回のユーマ達の件で、アルクは自分が憧れていた冒険者に喧嘩を打ったという事に気付き、それを謝罪し、ユーマから許して貰い、その後ユーマから依頼取り消しのけじめとして勝負を持ち込まれ、今回の模擬戦という流れでした。

 そして最後は自分の過ちを認め、悔いた姿をギルドマスターに認められ、アルクはBランクに昇格という流れでしたが、何か違うかなと思い、今回の流れに変更となりました。


「面白かった」、「続きが気になる」、「更新頑張ってください」と思った方は、ブックマークや評価、感想していただけると励みになります。

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感想は、確認し次第返信する方針で行きますので、良かった所、気になった所とかがありましたら、是非感想を送ってみてください。

お待ちしております。


次回予告

ルゴスの街で補給をする事になったユーマ達は、二手に分かれて買い出しをする。

ユーマとラティは食料などを担当し、出先の市場で、砂漠の街ならではの食糧を調達する。

同時に、アリアの為に、ユーマはある物を買う。


次回、楽しい買い物

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