第106話 ギルドでの一騒ぎ
前回のあらすじ
アリアに乗って旅を始めたユーマ達は、ロマージュ共和国内にあるラビアン砂漠を訪れる。
そのオアシスで休憩中に、デザートシャークの襲撃を受ける。
慣れない砂漠での戦闘で苦労し掛けるが、ユーマの機転で討伐に成功する。
オアシスを発って少しして、僕達はルゴスの街に到着した。
街全体が他の街よりも巨大な外壁に囲まれ、完全に魔物の脅威から守られている安全性の高い街だった。
砂漠では馬車が上手く走れるような環境ではなかったので、今回は街への門の前まで直接アリアに乗って訪れた。
結果、門番は突然現れた巨大な竜のアリアに驚いたが、僕がすぐに説明し、同時にギルドカードも見せた事でアリアが僕の従魔で、僕が『雷帝』だという事が分かったため上手く街には入れた。
それにしても、名前だけで僕が『雷帝』だって分かったとは、僕達の事はもしかしたらこのメビレウス大陸全土に渡ってる可能性があるな。
「それで、これからどうする? 宿を取りに行くか? それとも先にギルドに行ってデザートシャークの換金に行くか?」
クレイルの質問に、僕は考えてから答えた。
「そうだね。じゃあ、二手に分かれよう。片方はギルドに行って換金。もう片方は宿を取りに行く。そっちは部屋を取ってから、ギルドに向かいそこで落ち合おう」
「それがいいわね」
その結果、僕とクレイルがギルドに、ラティとコレットが宿屋へ行く事になった。
最初は女性2人だけで行かせるのもどうかと思ったけど、クルスとアインもいるから安心しろとラティに言われたので、僕はクルス達に任せる事にした。
そして僕とクレイルは今、この街のギルドに来ている。
アリアとレクスは外の従魔スペースで留守番させている。
もちろん、アリアは標準サイズになっている。
「すみません。討伐した魔物の換金をしたいのですが」
「はい。畏まりました。それでは、討伐した魔物の討伐証明部位を出してください」
受付嬢さんに言われ、僕はデザートシャークの背鰭を全て出した。
「これは……デザートシャークの背鰭ですか!?」
受付嬢さんは何故か驚いていた。
「はい。この街に来る途中、オアシスで遭遇して討伐したんですけど」
「何か問題があったんですか?」
「いえ、問題はないんですが。もしかしてそのオアシスって、この街からちょっと離れた所にある場所ですか?」
「はい。地図があるので、確認しますか?」
僕は地図を取り出して一緒に確認し、そのオアシスの位置を確認した。
「はい。確かにそのオアシスで間違いありません。ですがその……なんと言いますか……」
受付嬢さんはどうにも歯切れが悪かった。
僕がどうしたのかと聞こうとした時、ギルドの扉が勢いよく開いて、3人の冒険者が入ってきた。
「おい! 例のオアシスに行ってきたが、デザートシャークの群れなんて何処にもいなかったぞ!」
「それにオアシスの周辺一帯に氷みたいな物がちらほらありました。まるで戦闘でもあったような形跡でした」
その冒険者達がそう言ってきた途端、受付嬢さんの顔が真っ青になった。
「あの……その……それなんですが、デザートシャークの群れはこちらの冒険者の方々がこの街に来る途中、討伐した様でしてございまして……」
「はあああ!? なんだよそりゃ!?」
受付嬢さんの言葉に、1人の冒険者が突然キレだした。
「それでして、ギルドからのこの依頼はキャンセルとなります。すぐに違約金を用意しますので、少々お待ちください」
成程、この会話から向こうの事情が大体わかったぞ。
その依頼はおそらく、ギルドがあの冒険者達に出した依頼なのだろう。
そしてその内容が、あのオアシスでのデザートシャークの群れの討伐。
違約金とは依頼に失敗した場合、または何らかの事情で依頼をキャンセルする場合、ギルドにその依頼の報酬の3割の金額を支払う事。
そしてそのお金はギルドがその依頼人の許へ届ける。
だが、時にはその逆の例がある。
つまり、依頼した側がその出した依頼を取り消す事だ。
その際その依頼が受注されていた場合、依頼した側が受注した冒険者に報酬の3割の金額を支払う事になっている。
この話を聞く限り、今回はギルドがあの冒険者に出したデザートシャークの討伐依頼は、僕達が偶然討伐してしまい対象がいなくなった事でギルドは依頼を取り下げて、冒険者達に違約金を払う事になったのだろう。
その時、キレだしていた冒険者が僕達に近づいてきた。
「おい! お前達の所為で俺達の依頼が無しになっちまったじゃねえか!どうしてくれんだよ! こっちは暑い中オアシスまで行って来たってのに、無駄足になっちまったじゃねえか!」
「おい、デニス、やめろって。これは誰の所為でもない。おそらく彼らは旅の途中、偶然デザートシャークの群れに出くわしたんだ。それにこの街に来る途中という事は、彼らは今日初めてこの街に来たんだ。だからこの依頼の事は知らなかったんだ。それで彼らを責める事はできない、というよりはしてはいけない」
纏め役っぽい人に論されたが、そのデニスと呼ばれた冒険者は尚も僕達を責めてきた。
「そんなのは関係ねえ! こいつらの所為で、俺達は実績を詰めなかったんだ! だからこいつらにはしっかりと落とし前を着けてもらう!」
デニスという男はもうどうにもならない感じだった。
そして彼は腰に差した剣を抜き、僕達に向けてきた。
「お前達、俺とお前達のリーダーで決闘だ。その勝者が、デザートシャークの討伐報酬を受け取るんだ」
それは決闘の申し込みだった。
決闘とは、冒険者同士が行う勝負だ。
戦う相手に自分の武器を向け、相手がそれに自分の武器を当てる事で決闘が承諾される。
他に勝った方が何かを得るようにするのも、決闘の暗黙のルールだ。
だが中には報酬無しの単純な力比べの決闘も稀にある。
だが、今回は決闘の申し込みはともかく、その報酬の内容が問題だ。
「馬鹿!? 何を言ってるんだ! その討伐報酬は完全に彼等が受け取る権利がある! いくら決闘でも討伐報酬を賭けるのは不味いんだぞ!」
纏め役の言った通り、今回の勝利した報酬が問題なんだ。
何故なら、その討伐報酬は僕達の物だからだ。
冒険者の世界では、先に魔物を討伐した方がその報酬を得る権利が得られる。
このデザートシャークの討伐報酬は、最初は彼等が受けた依頼対象の魔物のであったが、旅の途中偶然遭遇した僕達が討伐した為、その討伐報酬を受け取る権利は討伐した僕達にある。
冒険者の世界は実力が全てな為、依頼を受けていなかろうと先に討伐した者が報酬を受けるのが、この世界の鉄則なのだ。
つまり、彼が決闘の勝利報酬にこの討伐報酬を賭けるのは冒険者としてのルールを破ったものなのである。
簡単に言えば、相手の報酬を横から掠め取ろうという様なものだから。
そして、その纏め役の人に続いて残りの仲間の人達が、僕達に近づき頭を下げた。
「ごめんなさい! うちの仲間がとんでもない事を言ってしまって! 決闘の事はどうか忘れてください! 討伐報酬も受け取って大丈夫です! それに加えて、デニスが皆さんに掛けた迷惑料も払います! どうか許してください!」
仲間の人達が頭を下げて謝罪する中、デニスはいまだキレていた。
「おい、エリス! 余計な事してんじゃねえ! 俺はこいつらと決闘しなきゃ、気が済まねえんだよ!」
その時、デニスの後ろから、若い男の声がした。
「おい、デニス! いい加減にしないか!」
「ああん! 誰だ!」
デニスが振り向くと、そこには3人組の冒険者がいた。
その先頭の若い男性を見た途端、デニスは真っ青になった。
「ア……アルク……」
そのアルクという男性はデニスよりも若そうに見える。
僕の予想が正しければ、
「デニス、お前が他の仲間と違っていつまでたってもBランクに上がれないのは、その粗暴な態度とすぐに他人を責める所だと俺は何度も注意して来たよな。それに加えて、お前がここまで世間知らずとは思わなかった」
「ど……どういう事だ……?」
アルクさんは僕とクレイルを一目見て口を開いた。
「そこの2人は銀月の翼の『雷帝』と『闘王』だ。あのエリアル王国のスタンピードを防いだ英雄であり、少し前にもアルビラ王国で犯罪組織を壊滅させた立役者だ。そして、今冒険者の間で話題の人達なんだ。お前はそんな相手に喧嘩を売ったんだぞ」
アルクさんの言葉に、デニスやその仲間の人達、そしてこの場を見ていたギルドの人達が一斉に騒ぎ出した。
「銀月の翼だって!?」
「従魔の平均ランクがEXランクって有名な!?」
「エリアル王国を救った英雄としても有名だぞ!」
「やだ。2人共とてもかっこいい」
「『賢者』と『聖弓』は一緒じゃないのか?」
そんな中、デニスは自分のやった事に対しての事の重さを理解したのか、顔が真っ青になったり真っ白になったりとなっていて、逃げるように立ち去った。
仲間の2人も僕達に深く頭を下げてから、デニスを追ってその場を去った。
そんな中、アルクさんは僕達に向かい口を開いた。
「銀月の翼の『雷帝』様、『闘王』様、この度は同じギルドの冒険者が無礼を働いた事、お詫び申します。俺達はBランク冒険者パーティーの金色の雲で、俺はリーダーのアルクです」
アルクさんは受付嬢から袋を受け取り、僕達に差しだしてきた。
「先程のエリスさんが言った通り、このデザートシャークの討伐報酬はあなた達の物です。受け取ってください」
「ありがとうございます」
僕達が報酬を受け取り、何とかアルクさんの仲介があり騒動は静まった。
そこに、聞き慣れた愛しい人の声がした。
「ユーマくん、お待たせ」
「クレイル、換金は終わった?」
振り向くと、僕の婚約者のラティとパーティーの仲間で家族同然のコレットの姿があった。
「ラティ、コレット」
2人が来た事で、ギルドの中は再び騒がしくなった。
「あれが『賢者』と『聖弓』か!」
「うわ! 2人ともすげえ可愛い!」
「しかも胸もでけぇ!」
「それに『賢者』は『雷帝』の、『聖弓』は『闘王』の婚約者なんだって! 凄くお似合いの2組よね!」
その騒ぎに、2人は何だ何だという反応をした。
「ねえ、これって何の騒ぎなの?」
「まあ、なんていうか、僕達の事がこの街まで知れ渡っていたようでね」
僕達は事情を話しす為、ギルドの中にある飲食スペースに行こうとした。
しかしその時、僕達に近づく気配があった。
「待ってください」
その気配の主は、今さっきデニスから僕らを助けてくれた、冒険者のアルクさんだった。
「なんだ? まだ何か用があるのか?」
「分からない。でも、さっきから見て敵意はないと思うけど」
アルクさんは僕達の前まできて、そのまま深く頭を下げた。
「まさか、ここであの憧れの銀月の翼の皆さんに会えるなんて、俺凄く感激です! 是非お話を聞かせてくれませんか?」
その突然の申し出に、僕はちょっと反応に困ってしまった。
「面白かった」、「続きが気になる」、「更新頑張ってください」と思った方は、ブックマークや評価、感想していただけると励みになります。
評価はどれくらい面白かったか分かりますし、1人1人の10ポイントの評価は大きいので、まだ未評価の方は是非お願いします。
ポイント評価は最新話の広告の下に評価欄があり、そこから評価できます。
感想は、確認し次第返信する方針で行きますので、良かった所、気になった所とかがありましたら、是非感想を送ってみてください。
お待ちしております。
次回予告
アルクとその仲間と共に話をする事になったユーマ達。
どうやらアルクはユーマ達に憧れている様だった。
そしてその会話の中で、ユーマは自分達が歩んできた道を振り返り納得する。
次回、憧れの冒険者