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第105話 ラビアン砂漠

前回のあらすじ

里帰りで漸く平穏なひと時を過ごしたユーマは、ゼノンとイリスに前世の秘密を話し、それを受け入れてもらえる。

十分に休息をとったユーマ達は、自分達の装備を整備してもらうべく、ロマージュ共和国へ向かうことを決める。

ゼノン達も旅立つ事を決め、ユーマ達はアリアに乗って、空の旅を始めた。

 ロマージュ共和国の首都を目指してアリアに乗って移動して数日、僕達は現在ロマージュ共和国領にあるメビレウス大陸にある唯一の砂漠地帯、ラビアン砂漠へと来ていた。


「これがラビアン砂漠か。俺も見るのは初めてだけど、凄いな。辺り一面全部砂、砂、砂。全部が砂だ」


「アォン! アォン! アォン! アォオオン!」


 少し開いた亜空間から顔を出したレクスが、同感だと言わんばかりに吠えた。


「何当たり前な事言ってるの。砂漠なんだから」


 コレットが少し呆れながら言うが、僕も(おもて)には出していないがクレイルと同じ気持ちだ。


 前世でも砂漠はあったが、僕の住んでいた日本では直接見る事がなく、砂漠はテレビや漫画とかでしか見る事が出来なかったから。

 だからこうして直接広大な砂漠を見てると、結構感激だったりする。


「あたしとコレットは昔来た事があるけど、相変わらず暑いわね」


「確かに、砂漠は直射日光を遮る物は何もないから、その結果砂漠地帯の気温は通常よりも高くなり、50℃を超える事もあるらしい」


「あら、詳しいわね。もしかして、偶に話す前世の知識なの?」


 アインが喰いついた。


「そうだよ。まあ、アスタリスクの砂漠が同じ理屈なのかは知らないけどね」


「大体同じで合ってるわよ。でも、砂漠には砂漠ならではの魔物も生息しているから、横断には探知魔法の使い手が必要になる程、魔物の奇襲が1番の脅威なの」


 そこにコレットが口を挟んできた。


「そうよ。普通は探知魔法は余り重宝されていないけど、この砂漠では砂の中から魔物が襲って来る事があって、それを防ぐには探知魔法の使い手が必要不可欠なの。でも私達にはユーマがいるから問題ないけどね」


「そうだな。ユーマなら奇襲される前に魔物をもっと前から見つけられるから、俺達は安心して戦えるからな」


 成程。

 確かにこの広大な砂漠なら、何処に魔物が潜んでいるのかは分からない。

 でも探知魔法ならその居場所を突き止められるから、奇襲に備える事も出来る。


 移動はアリアの飛行で行けるけど、休憩中は降りているからその間の皆の安全は、僕に懸かっているって訳か。

 責任重大だな。


「でもユーマくん、この日差しはどうする? あたしとユーマくんはこの魔竜のローブがあるから、砂漠の暑さは平気だけど、クレイルくんとコレットさんはそんな装備ないし、クルスもこの体毛で暑そうだし」


 それもそうだ。


 この魔竜のローブの環境適応の効果で、僕とラティはこの暑さも快適な温度で活動できるけど、クレイルとコレットはそういった装備がないし、クルスも暑そうにしている。


 どうしよう。


『それでしたら、安心してください。私が耐熱のレジストを掛けます。これなら皆さんも快適とまではいきませんが、かなり楽になる筈です』


 アリアがそう言った瞬間、クレイル、コレット、クルスの体がアリアから放たれた魔力に包まれた。


「おっ? さっきと違って暑さが気にならなくなった」


「これがレジストの効果ね。ありがとう、アリア」


「グルルルゥ」


 クレイル達はアリアの掛けたレジストによって、砂漠でも問題なく活動できるようになった。


「アリア、アインはいいの?」


「心配いらないわ。あたしはティターニアよ。これくらいのレジストなら、あたしが自分でできるわ」


 そう言って、アインも体が魔力に包まれた。


「これで大丈夫よ」


 とにかく、これで砂漠を移動する準備が整ったな。


 僕は地図を広げて、方角を確認した。


 ロマージュ共和国の首都はこの砂漠を超えて、東にある山脈を超えた先にある様だ。

 この砂漠を行く途中、砂漠の街、ルゴスの街がある様だから、今日中には着きたい。


「アリア、行こう」


『はい。では皆さん、行きますよ』


 僕の合図でアリアは再び飛び上がり、首都のある方角へと出発した。


 それから暫くはアリアの上にいたが、やっぱりアリアに乗って旅をするという方針に切り替えて正解だったな。

 馬車なら山を越えたり危険ルートを迂回したりで、多少回り道をする必要があったが、アリアなら空から直進できるからこの方が断然早い。


 なんせこのラビアン砂漠まで来るのに、普通の馬車なら軽く半月は掛かるのを3日も掛からずに到着したんだから。


 アリアは「自分が本気を出せばもっと早くつける」と言っていたが、そんなに先を急ぐ旅じゃないから多少はスピードを抑えていたけど、それでも十分早い。

 そういう点から、あのエリアル王国のスタンピードでアリア達の事を公にして本当に良かったと思う。


 そんな風に思っていると、少し先に砂漠の中で緑の光景が見えた。


「おっ。あれはオアシスだな。ちょうどいい。少しあそこで一休みしよう」


『分かりました』


 アリアもそれに賛成し、そのオアシスの所へと降りた。


 その着地した振動で、一眠りしていたラティ達が起きた。


「むにゃ……どうしたの?」


「うぅ……何かあったのか?」


 ラティとクレイルは半分寝ぼけていたが、僕がオアシスに着いた事を話すと、2人共喜んでいた。


 2人は「水だ~!」とアリアの背から飛び降りて、泉へと直行した。


 僕とコレットもアリアから降りて、アインと標準サイズになったアリアと一緒に、泉に向かった。


 僕達が泉に来た頃には、既にクレイルとラティ、クルスとレクスが泉の水を飲んでいた。


「砂漠にもこんな風に水や草がある所があるのね」


「オアシスは砂漠の旅人にとっては、まさに天然の休憩所なのよ。それにここにオアシスがあるって事は、ここは貴重な水源だから近辺に街がある筈。きっとルゴスの街も近いわね」


「このペースなら、夕暮れになる前に到着する。砂漠での野宿は色々と準備が必要みたいだからね」


「それは何でだ?」


 クレイルが尋ねた。

 傍ではラティやクルス、レクスが頭上に疑問符を浮かべて、同じ表情をしている。


「さっき言った通り、砂漠での日中は気温が50℃を超える事があるけど、日光を遮る物がないから、夜は気温が急激に下がって氷点下を行く事があるんだ」


「だから、砂漠での旅は魔物だけでなく、日中の日差しと高温、夜の冷気という環境にも気をつけなくちゃいけないの」


「他にも、気温が高いと発汗で体内の水分が抜けて脱水症状を起こしたり、直射日光の暑さと脱水で熱中症になる事もあるんだ。だから皆は喉が渇いたと思ったら、必ずすぐに水分補給するんだ。ほんの僅かな油断が命取りになるからね」


 僕とコレットの説明に納得して、ラティ達はそれを了承してくれた。


 その時、僕の探知魔法に魔物の反応が現れた。


「魔物の反応を感知。数は20越え、強さはBランクだよ」


 皆もそれぞれ武器を構えたが、反応があった先には魔物の姿がなかった。


「何処だ。何処にいるんだ?」


 クレイルは辺りを見回したが、反応が20メートルまで接近した事でその詳細な場所が分かった。


「敵は正面じゃない! その下! 砂の中だ!」


 僕の指摘と同時に砂から魚の背鰭の様なものが現れ、姿を現したのは砂と同じ黄土色をした鮫の様な魔物だった。


「あれはデザートシャーク! このラビアン砂漠に生息している代表的な魔物よ!」


 デザートシャークの群れは僕達に狙いをつけ接近してきた。


「向かって来るなら、先手必勝だぜ! 行くぜ、レクス!」


「ウオォン!」


 クレイルとレクスは先頭のデザートシャークに持ち前のスピードで先制攻撃したが、デザートシャークは素早く地中に潜行して2人の攻撃は外れてしまった。


「なっ!? こいつら、砂の中に潜って躱しやがった!」


「迂闊に飛び込まないで! 一瞬でも噛みつかれたら、そのまま砂の中に引きずり込まれてお終いよ!」


 コレットはユグドラシルとアルテミスから矢を放ち、クレイルの背後にいたデザートシャークを牽制した。


「ユーマ、あなたは索敵で敵の位置を探しつつ、私達に指示を出して! それで私達が攻撃するわ!」


「分かった!」


 僕は標準サイズのアリアの背に移動し、探知魔法を広げてデザートシャークの動きを探った。


「ラティ、左に行った!」


「任せて! 行くわよクルス! スパイラルウィンド!」


「グルルルゥ!」


 ラティとクルスの放った風の刃と槍が着弾した。


「仕留めた?」


「残念だけど、仕留めたのは1匹だけだ! 残りは散開した!」


 その瞬間、アリアの左側に反応が出た。


「アリア、アイン、左に回った!」


『ストームブレス!』


「サンドウェーブ!」


 アリアの放った風のブレスとアインの放った砂の波が合わさり砂嵐のブレスとなったが、それでもまだ半分近くのデザートシャークが残っている。

 放たれる寸前に散開して生き残ったんだ。


「アリアお前が元の姿に戻って、その状態でブレスで一網打尽にできるんじゃねえか?」


 確かにクレイルの言う通り、それならこの砂漠ごとデザートシャークを巻き込んで倒せる筈。


『可能と言えば可能ですが、そんな事をしたらこの砂漠の地形が変わって、最悪このオアシスが地図から消滅しますよ? それでもいいんでしたら、今すぐ元の姿の戻りますが』


「……却下です、アリア」


 それだと魔物は倒せても、砂漠にある街に住む人達にとってはかなりの大損害になってしまう。

 貴重な水源を無くしたら、確実に飢えてしまうからね。


 こういう所で、最強ランクの従魔がいる事による過剰戦力が裏目に出てしまうな。

 残念だけど、やっぱり僕達の力で戦うしかない。


「また散開してそれぞれに回った。クレイル、右から来る! コレット、正面に回った! ラティ、後ろに2匹来る! アリアはラティの援護を! アインとクルスとレクスは攻撃して炙り出して!」


「「「『「了解だ(((よ)))(です)!」』」」」


「ウオン!」


「グルルルゥ!」


 僕の指示に従って皆が攻撃したが、それでも倒せたのは半分程。

 まだ5匹のデザートシャークが残っていた。


 本来なら今更Bランクの魔物20匹に苦戦する僕達じゃないけど、ここは初めて来る砂漠で、足場が砂という不安定な場所だからクレイルもラティも思う様に動けてない。

 だからいつも以上に体力を使って苦戦しているんだ。


「まだ残っているのかよ! しかも、足場が砂だから踏み込みが甘くて、上手く拳に勢いが乗らねえ!」


「それにしても、こいつら凄い体力ね。さっきからずっと泳ぎ続けて、ちっとも止まらないわ」


 今のラティの言葉に、僕は何かを思い出しかけた。


「ラティ、今何て言った!?」


「えっ? さっきからずっと泳いでいるって……」


 さっきからずっと泳いでいる……。

 そういえば確か鮫って……。


「そうか! わかったぞ! あいつらの弱点が!」


「本当、ユーマ!?」


「僕の推測が正しければ……クレイル、真下に思いっきり拳を打ち付けて!」


「よく分からないけど、分かった!」


 クレイルは地面に向けて渾身のパンチを繰り出し、その衝撃と振動で、地中のデザートシャークが地上に引きずり出された。


「今だ! ラティ、この一帯を凍らせて!」


「うん! ニブルヘイム!!」


 すかさず僕が防御魔法を張り、僕達とオアシスを中心に砂漠が氷の大地に変わった。

 まあ僕ならラティの魔力操作に対応した防御魔法をが張れるから、特に問題はない。


 そしてその上にデザートシャークが落ちてきた。

 そして少しすると、デザートシャークは段々と弱っていった。


「何だ? あいつら、落ちてきた途端勝手に弱ったぞ」


「しかもなんだか苦しそうよ」


「やっぱり僕の思った通りだった。」


『どういう事ですか?』


「思い出したのさ。鮫の特性をね」


「「「『「鮫の特性?」』」」」


 僕は皆に説明した。


 前世での鮫を始めとする魚の中には、水中を泳いだ際に口に含んだ海水から酸素を吸収し、鰓呼吸する種類があるという事。

 つまり動きが止まってしまうと、鰓呼吸が出来なくなって弱ってしまうという事。


「だから、デザートシャークがその種類の鮫と同じなら、動きを止める為に砂の中から引きずり出してその地上を氷で固めて泳いだり潜行できなくすれば、弱るんじゃないかと踏んだのさ」


「ラティの言っていた、ずっと泳いでいるという情報だけで、これだけの事を閃くなんて……やっぱりあなたは凄いわ」


「転生者って、やっぱズッコイ」


 コレットは呆然とし、アインはなんだか拗ねている。


「ユーマくんはあたしの自慢のお婿さんですから!」


 ラティは自慢するかの様に胸を張っている。

 その際、その凄まじく実った2つの果実が揺れている。


「とにかく、こいつらはまだ生きてる。倒すなら早めにしよう」


「そうだな」


 僕達は動けなくなったデザートシャークに止めを刺し、その討伐証明部位と魔石、その他の素材を剥ぎ取って焼却した。


「この凍った砂漠はほっとけば日差しで溶けるわ。だからこのままで大丈夫」


 アインの言葉に安心して、僕達はルゴスの街へ出発した。

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アリアの凄すぎる所

その16、本気攻撃すると、その一帯の地図を一から書き直さなければならない段階まで成長している。


魔物情報


デザートシャーク

Dランクの鮫の魔物で、砂漠地帯に生息している。砂の中を泳ぐが、土でも十分に泳ぐ事が出来る。動きが素早く地中からの奇襲を得意とするが、最近の研究で泳ぎ続ける事で息をしている事が分かりつつある。従魔に適合すると、その常に泳ぎ続ける生態から、従魔の証を着けて街の外に放し飼いにする事が認められている。討伐証明は背鰭。


次回予告

ルゴスの街についたユーマ達は、ギルドでデザートシャークの討伐報告をするが、それ関連である揉め事に巻き込まれる。

しかし、そこにとある冒険者が止めに入る。


次回、ギルドでの一騒ぎ

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