幕間 再会からの共同・後編
前回の続きです。
その為、前回に「前編」を追加しました。
スニィに乗って移動すれば、討伐対象のアイアンリザードがいる渓谷までは半日も掛からなかった。
「この渓谷の何処かに、アイアンリザードがいるんですね?」
「ああ。今回は以前の共同依頼と違ってユーマがいないからな。俺達は俺達のやり方で探すしかない」
かつてユーマ殿達とアライアンスを結んでの初依頼でサイクロプスの討伐依頼を受けた時は、ユーマ殿の探知魔法ですぐにサイクロプスを見つける事が出来たが、今回はそのユーマ殿もいない為、我々の中には探知魔法の使い手がいない。
「それなら私に考えがあるわ」
その時、イリスが挙手を上げた。
「カミラ、お願い」
その時、カミラが上空に上がり、自身を無数の蝙蝠に分裂させた。
「カミラ、アイアンリザードらしき魔物を見つけたら、すぐに知らせて!」
イリスの指示に従い、無数に分裂したカミラは四方八方へと散っていった。
「成程。ヴァンパイアバットの分裂能力で捜査範囲を拡大して、目標物を見つけるのですか。かなり良い手ですね」
「つい最近までユーマくんと一緒にいたからね。あの子の発想力が影響しているのかもね」
確かに、ヴァンパイアバットのこの能力を活かした捜索方法は、前世の記憶があるからか豊かな発想力を持つユーマ殿も思いつくかもしれんな。
という事は、イリスの言った通り、彼女も少なからずユーマ殿の影響を受けているのかもな。
暫くして、分裂したカミラが戻ってきて元の姿になってから、1つの方角を指した。
「カミラがアイアンリザードを見つけた様よ」
「よし! 行くぞ」
私達はカミラの指した方角へ向かい、暫くして岩陰から覗くと1体の魔物の姿が見えた。
その姿は約5メートル半程、頭や背中などが鋼鉄の様な鱗に覆われたがっしりとした足での2足歩行のトカゲの魔物だった。
「間違いない。アイアンリザードだ」
「問題はどうやって倒すかですね」
「アイアンリザードの体を覆っている鱗は鋼鉄の硬さで、物理攻撃だけではなく大概の魔法もビクともしないと言われている。あの防御を突破するには相当な魔力を纏った攻撃が必要だな」
「でも対処法はあるわ。あの鱗は確かに炎や水といった魔法も防ぐけど、鋼鉄、つまり金属だから雷系統の魔法が1番ダメージが入りやすいの」
「となると、ダグリスやイリスさんの魔法が決め手になりますね。では、僕とピックが先手を仕掛けて奴の注意を惹きます。そこに皆さんが雷の攻撃を中心にして攻めてください」
「確かに身体能力に優れた獣人族のトロス殿なら、その役割が適任かもしれない。では、私とバロン殿が従魔と共に第二陣として仕掛ける。イリスとダグリス殿はその間に魔力を溜めて、奴を仕留められる威力の雷魔法で奴を倒すのだ」
「了解。ユーマくんの分まで頑張るわ」
「確かに、雷魔法ならあいつの専売特許かもしれないが、あいつの分は魔族の俺達に任せな」
「頼むぞ。よし! じゃあ作戦が決まった所で、いっちょ行くか」
「「「「了解」」」」
私達は作戦を決め、岩陰からアイアンリザードを視界に捉えた。
「では行きますよ!」
まずは腰に差した長剣と小剣を抜いたトロス殿が飛び出し、アイアンリザードも接近してくる彼に気付いた。
「はあっ!!」
右脚に向けて2本の剣を振りぬき、弾かれてダメージがなかったが作戦通り、奴はトロス殿に意識が向いていた。
「今です、ピック!」
トロス殿がアイアンリザードの背後に回ったタイミングで、彼の影に潜んでいたピック殿が飛び出し、奴の体に噛みついた。
アイアンリザードは突然の奇襲に驚き、上体を大きく振り回す事でピック殿を振り落とした。
「お前の相手はこちらにもいるぞ!」
その隙に私が奴の目の前に飛び出し、右腕を竜化させた。
「雷竜正拳!!」
雷を纏った正拳突きを繰り出し、額に受けたアイアンリザードは脳が揺れたらしく、大きく仰け反った。
だが同時に私の右手にも大きな反動を受けた。
以前リビングメイルを相手にした時はそれ程ではなかったが、流石はアイアンリザードと言った所か。
竜化させた状態の右手が大きく痺れる程の防御力とは……これはやはりイリスとダグリス殿の魔法による止めが賢明の様だな。
「後ろががら空きだぜ!」
仰け反ったアイアンリザードの背後に、私と同時に駆け出したバロン殿が剣を構えていた。
「スニィ! 俺達で挟み撃ちにするぞ!」
『分かりました!』
奴の丁度正面には竜の姿になったスニィがブレスの発射態勢を構えていた。
「スラッシュテンペスト!!」
『クリスタルブレス!!』
私が横に跳んだ瞬間、バロン殿が振り上げた剣から無数の斬撃を含んだ凄まじい風圧が、スニィから水晶の欠片を含んだブレスが放たれ、アイアンリザードを前後から挟み撃ちにされた。
アイアンリザードは鱗の防御力で、傷らしい傷はなかったが、前からも後ろからも凄まじい風圧に挟まれて倒れる事も出来なかった。
しかしスニィのブレスと同等の威力の風とは……これがバロン殿の強化された風斬剣の威力なのだな。
何時かのサイクロプスの時とは違い、これがバロン殿の本来の実力か。
「ゼノンさん! 畳みかけますよ!」
トロス殿の掛け声に呼び戻された私は、それに頷きアイアンリザードとの距離を詰める。
しかし、先の私の一撃と、今のバロン殿とスニィの挟撃でアイアンリザードが本気で怒ったらしく、長い尻尾を振り回し、私とトロス殿を近づけさせない様にした。
しかしそこにジオン殿がトロス殿の前に出て、左手に持った大盾を構えて防御し、その動きが止まった一瞬にカミラが無数に分離してアイアンリザードの周囲を飛んで撹乱させた。
このジオン殿の大盾は以前は剣だけでなかった物だが、バロン殿達が風斬剣の修理目的でロマージュ共和国に行った時に、ジオン殿の装備も一新しようと購入したマジックアイテムらしい。
効果は敵の攻撃を受ければ受ける程その強度を増す効果だけだが、マッハストームのタンクマンの役割を担うジオン殿には最も適した効果ともいえる。
私はその隙に、奴の足元に身を屈めて左足を軸に竜化させた右脚を振り回した。
「旋風竜脚撃!!」
風の魔力を纏った回し蹴りで奴の左足を払い、
「ピック!!」
いつの間にかアイアンリザードの影に潜んでいたピック殿が飛び出し、前脚の爪で顎に飛び掛かり、
「ロップス、お前もだ!」
バロン殿合図で加速したロップス殿が顔面に向かって突撃し、私の一撃でバランスを崩したアイアンリザードが仰向けに倒れた。
「バロン殿! もう1度頼む!!」
「了解だ!」
バロン殿が仰向けになったアイアンリザードの上に乗り、鱗がない腹に風斬剣を突き刺した。
「行くぜ! 裂傷風撃斬!!」
そこに魔力を流して起動させた風斬剣から放たれた風の刃が腹の中からアイアンリザードの体を切り刻んだ。
アイアンリザードも自身の内側から切り刻まれる痛みに悶えながら、必死にバロン殿を振り払おうとしている。
だが体の中心から抑えられている為、思う様にできなかった。
「準備が出来たわ!」
「バロン! そこから離れろ!」
そこに魔力を溜め終わったイリスとダグリス殿が現れ、バロン殿に離れるよう指示を送った。
「分かった!」
バロン殿も風斬剣を抜き、奴の腹を踏み台にしてその場から離れた。
「行くわよ! ライトニングジャッジメント!!」
「ボルテックスクラッシュ!!」
イリスの頭上から落とした雷と、ダグリス殿が放った雷の塊が、バロン殿が付けた腹の傷に炸裂し、傷口から直接感電したアイアンリザードはその辺をのたうち回ったが、やがて動かなくなり、口や鼻の穴から黒い煙を出しながら絶命した。
「やったな」
「ああ。やはりこのメンバーではAランクの魔物にも勝てるな」
本来Aランクの魔物は出会うと生きて帰れなくなってもおかしくはないのだが、ここにいるのは身体能力に優れた竜人族や獣人族、優れた魔力や身体能力を誇る魔族が2人、そしてかなりの実力を持った人族がいて、従魔も平均ランクが約Aとまさに最高のパーティーともいえるかもしれないな。
「さあ、すぐに解体して証明部位を回収して、街へ引き上げましょう」
イリスの言葉に従い、私達はアイアンリザードの鱗を表皮ごと剥がしながら解体し、証明部位の右足首を回収し、素材と魔石に分け、スニィに乗って街へと戻った。
街へは夕暮れまでには戻ってこれ、ギルドで依頼完了の手続きをし、素材も換金した私達は、バロン殿達が泊っている宿で打ち上げを行った。
ユーマ殿、私達はお主達に負けぬように、そしていつでも肩を並べて戦える様に、今日も冒険者活動に励んでいるぞ。
そして腕を上げ、また会える日を楽しみにしているぞ。
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魔物情報
アイアンリザード
Aランクの爬虫類種の魔物。頭部や背中などの鱗が鋼鉄の質量でできており、鉄壁の防御力を持つ。2足歩行となっており、両腕の鋭い爪で岩を削り、その中にある鉄分を含んだ鉱石を掘り出して食べる。高い防御力を持っているが、鉄でできた鱗は電気を通しやすく、雷魔法で戦えば幾分かは戦いやすくなる。討伐証明部位は右足首。
次回から第7章を投稿します。
ワードパッドの原文作成に集中したいので、当分はゆっくりの更新になりますが、あまり間を開けないように気を付けるつもりです。