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幕間 その後のヘラル

※今回は過激な暴力描写と取れるかもしれないシーンがあります。苦手な方はご注意ください。

 ここはデスペラード帝国の領内にある、タイグレスト鉱山。

 ここは、アスタリスクに数ある鉱山の中でも、帝国だけではなく他国からも重大犯罪者が鉱山奴隷としてやってくる、世界最大の刑務所でもある鉱山だ。


 ここにやってくるのは、いずれも各国で重大犯罪を犯し、1度は犯罪奴隷となったが罪があまりにも重すぎる為に奴隷としての買い手が見つからなかったり、奴隷として堕ちた時点で鉱山奴隷となる事が決まった者達だ。

 鉱山の規模もとても大きい為、この鉱山に入れられたら最後、2度と日の光を浴びる事も出来ないと言われる、まさに終身刑を送るに相応しい場所ともいえる。


 そしてここに最近、新たな鉱山奴隷として送られてきた者が1人いた。


「おら! 手を休めるな!!」


 鉱山の中にいる奴隷達の看守が鞭を振るい、打たれて倒れた男がいた。


「ぐっ……!」


 その男は金髪が汗や泥などで汚れ切り、体もガリガリに痩せ細っていた。

 服もボロボロで服としての機能をかろうじて保っているという様な状態だった。


 その男の名はヘラル、アルビラ王国の元第1王子で、今は王家を追放されただのヘラルとなっている。

 かつては甘やかされボディで出ていた腹も見る影もない程引っ込み、ヘラルを知る者が見たらすぐにはヘラルとは気が付かないだろう。


「さっさと立って、作業に戻れ!」


「ぐふっ……!?」


 倒れた状態で横っ腹に蹴りを入れられ、ヘラルは痛みに悶えながらも再び蹴りや鞭を入れられるのを恐れて力を入れて立ち上がり、ツルハシを持ってトンネルを掘り始めた。

 その際、両腕に着けられた腕輪が目立った。


 鉱山奴隷となった者は以下のマジックアイテムを着けられる。

 1つ目は奴隷の証である奴隷の首輪。

 2つ目は魔法を使えなくする魔封じの枷を腕輪にした、魔封じの腕輪。

 そして3つ目は脱走や抵抗を一切できない様に身体能力を大幅に減少させる弱体化の腕輪。


 この3つを着けられた事による精神的疲労に加え、王族育ちのヘラルには余りにも過酷な労働による肉体的疲労、そして看守達から受ける日々の暴力で、ヘラルは心身共にすり減らし、まだ奴隷になって数日だが今の様に痩せ細ってしまったのだ。


 元々王族として生まれ育ったヘラルにとって、この鉱山奴隷としての日々は、地獄という言葉すら生易しい程だった。

 王子だった頃は毎日が贅沢な食材を使った料理を食べていたが、鉱山奴隷となった今では食事は固いパンが1個だけで、偶にスープが出される時があるが、そのスープも泥水の様な色で具材も殆どなく、最低限の栄養しか取れない、スープとも言えない様なスープだった。

 更には睡眠時間も極端に短く、常に睡眠不足で目には大きな隈が出来ていた。


「くそ……何で王子であるこの私がこの様な屈辱を……」


 ヘラルはよろけながらもツルハシを振り下ろしてそうぼやいた。


「無駄口を叩くな!」


 そこに背後にいた看守の振るった鞭が背中に打ち付けられ、背中の服が破け、更には血が(にじ)み出た。

 だがそれを見ても看守達は誰も回復魔法で治療してくれない。


 ここにいる奴隷達は人間とは扱われず、ただ鉱山を掘る労働の道具として見られているのだ。

 動けなくなるまで労働でこき使われ、それで動けなくなったら使えなくなった道具として処分され、新しい道具となる奴隷が入るまでその分が奴隷達の労働に加わる。


 次にヘラルは掘り出した鉱石をリヤカーに乗せて運び出すべく、鉱石を抱えたがその瞬間、


「おっと。手が滑っちまったぜ」


 別の看守が持っていたツルハシの柄を振り回して、ヘラルの後頭部にぶつけた。


「ぶべっ!?」


 ヘラルはその衝撃に倒れてしまい、抱えた鉱石を落としてしまった。


「何をやっている! このうすのろが!!」


 そこに複数の看守が鞭を打ったり、手や背中を踏みつけた。


「…………っ!!?」


 ヘラルはそれらの痛みで、言葉にならない悲鳴を上げた。


 鉱山奴隷は基本的に看守の暴力に晒されるが、中でも貴族や商会の会頭といった権力を持った者が鉱山奴隷になった場合、その者達が暴力のマークにされる傾向がある。

 そこに元王族のヘラルが来た事で、看守達のマークは徹底的に彼に集中し、結果今のヘラルが集中的に暴力の晒されるという構図が出来上がっている。


 やがてリンチが終わり、ヘラルはボロボロの姿で解放された。


 その姿を周りの鉱山奴隷達が見ていた。


「あの新入りが来てくれたお陰で、俺達が連中から受ける暴力の回数がめっきり減ったな」


「それに関しては感謝だな。だが、あいつは一体何をしたんだ? あの若さでここに来るなんて、余程の事をしたんだろうぜ」


「お前は知らないのか? あいつはアルビラ王国の元王子だ。なんでもとんでもない犯罪を犯して、それでここに終身刑で来たらしいぜ」


「元王族か……それなら看守達がマークするのも納得だな」


 他の奴隷達はヘラルに暴力が集中された事で、自分達が被害を受ける回数が減った事に喜んでいた。


「……くそ……この私が……王子である私が……この様な屈辱を。これも全て……あいつらの所為だ……」


 倒れていたヘラルの脳裏には、自分の弟妹と、とある冒険者達の姿が浮かんでいた。


 ヘラルが王族として終わったそもそもの原因は、彼の王族としての振る舞いにあった。


 ヘラル・フォン・アルビラはアルビラ王国の第1王子として生まれた。

 最初は国王も王妃も自分達の第一子そしてその生誕を喜んだが、2人以上に喜んだのが、アルビラ王国こそが全世界を統一するべきと各国に戦争を起こす事を主張する、ヴィダール軍務大臣を筆頭とする過激派の貴族達だった。


 王族では王子や王女が複数いた場合、第1王子が王位継承権の1位を得る傾向があるが、王子の内面などに問題があった場合、継承権1位の座は第2王子や第1王女に移る事がある。

 だがヴィダールを始めとする過激派は第1王子が次期王になれば、自分達の考えが通りやすくなると考え、ヘラルを次期王にと持ち上げ徹底的に甘やかすようになった。


 その結果、ヘラルは物心がついた頃には何でも自分の思い通りにならないと気が済まない我儘な性格になり、過激派の貴族達を――中でも自分の教育係となったヴィダールを国王よりも頼るようになった。

 更には自分は第1王子なので何をやっても許されると思う様にもなり、勉学も魔法の訓練も真面目には取り組まず、ヴィダール達過激派の思想ばかり聞き、自分が国王になったら各国に戦争を仕掛けてアルビラ王国が世界を統一させると豪語するまでになった。


 国王と王妃もその成長に危機感を覚え、何度かヘラルを叱る事があったが、その度に過激派が甘やかし、国王に対して不敬罪にならない様に掻い潜ってヘラルを甘やかし続けた。


 このままヘラルが王になると国が崩壊する事を王と王妃が恐れた時、王家に変化が現れた。

 新たな王族として、ルドルフとアンリエッタが生まれたのだ。


 国王と王妃は最初はこの2人も過激派に目を付けられるんじゃないかと心配したが、幸いにも過激派は既にヘラルにしか興味がなかった為、国王と王妃は2人をヘラルの分までしっかりと育てる事にした。


 2人はとても真面目な性格に生まれ、物心がつく時には勉学や訓練に精を入れ、更に5歳になった時に行った従魔召喚では、希少種のカーバンクルと適合していた。

 これに不安を抱いたのが、他でもないヘラルだった。

 弟妹2人が高ランクかつ希少種の魔物と適合していたが、自分はCランクのフレイムタイガーで、加えて両親からの信頼も自分より上の2人に、強い焦燥感を抱く様になった。


 その後もルドルフとアンリエッタは街では貴族も平民も関係なく分け隔てなく接し、自分達の国に住んでいる人達の暮らしの直に見て何が出来るかを模索してはそれを実行して、それを成功させて国民からの信頼を得てきた。

 対してヘラルは第1王子の権限を振りかざして傍若無人に振る舞い、街の人々に様々な迷惑をかけてはルドルフ達やお目付け役の騎士に止められてを繰り返し、2人とは対照的に国民からの信頼を失い続けてきた。


 そして気が付いた時には、国民はルドルフかアンリエッタのどちらかが次期王になる事を強く望み、王位継承権も自分は弟妹よりも下の3位になった事で、ヘラルは更に焦るようになった。


 更にある日、ヘラルに取って信じられない事態が起こった。

 自身の教育係であったヴィダールが失脚し、鉱山奴隷となったのだ。


 訳を聞くと、ヴィダールが国王が後ろ盾になっている平民の子供達を襲撃し、平民に対して許し難い暴言を吐いた事によるらしい。

 その平民の子供達とは、国王が以前から懇意にしていた冒険者パーティー、暁の大地の面々の子供達で、最強ランクのEXランクの竜神と特異種のグリフォンと適合しており、権力者とのゴタゴタを避ける為に10年程前に国王に後ろ盾になって貰ったそうだ。

 ヴィダールはその従魔に目を付けて軍力を増そうと目論み、彼らを軍事利用しようとしたが国王に一蹴され、そして今回ヘラルが王妃や弟妹と共に所用で他国へ赴いている間にヴィダールが再びその子供達に接触したが、ヴィダールは本性を現して子供達に奴隷の首輪を嵌めて従魔達を拘束しようとしたが子供達に一蹴され、さらに国民に対して許されない暴言を吐いた事で、激怒した国王に身分を剥奪され過激派の大半と共に鉱山奴隷となったのだ。


 最も尊敬していた人物を失った事で、ヘラルはその子供達を深く憎むようになったが、その子供達は既に成人して冒険者となって旅立った事でもう国にいない為、ヘラルは復讐する事が出来なくなった。

 だが今のヘラルには復讐よりも弟から継承権の1位を取り戻す事だった。

 ルドルフとアンリエッタが数ヶ月前に福祉施設を新設し、より国民からの支持を得て、更に自分との差をつけたからだ。


 そして数ヶ月が経ち、ヘラルは自分が次期国王になる為に生き残っていたシハンス財務大臣を始めとする過激派に相談し、自分が確実に王位を継ぐ為にある計画を話した。

 それは悪魔の所業とも言える非人道的な計画だった。


 最初にヘラルはシハンスと共にある場所へと赴いた。

 そこは普段は誰も近寄らないゼルギアスの滝で、その滝の裏にある洞窟だった。

 その奥へ進み、ヘラルはアルビラ王国に巣食う犯罪組織、黒の獣と接触した。

 長い間そのアジトの場所も分からなかったが、シハンスと他の過激派の貴族達が裏社会の人間達に調べさせてアジトの場所を知る事が出来たのだ。


 ヘラルはリーダーのべオルフにある依頼をした。

 それは自分の国の各街から何人かの人間を誘拐して欲しいという依頼だった。

 べオルフは最初こそは驚いたがヘラルは計画の全貌を説明して、前金として城から持ち出した国家予算の一部を報酬として差し出し、この計画が成功した暁にはべオルフ達の身分を変えて爵位を与えて貴族にすると約束した。

 国家予算は財務大臣をしているシハンスなら持ち出すのは難しい話ではなかった。

 そしてべオルフはその破格の報酬と貴族として暮らせる事に価値を見出し、その依頼を受けた。


 それから国内では各街で行方不明者が次々と現れる様になった。

 ヘラルはそれがべオルフ達によるものだと分かっていて、シハンス達も冒険者や騎士が手掛かりを得ない様に情報操作をして事件を迷宮入りさせ、国内は恐怖と不安に包まれる様になった。


 計画が順調に進み半年が経った時、ヘラルの人生はターニングポイントを回る事になった。

 ヴィダールを失脚させるきっかけとなった少年達――ユーマとラティがこの国に里帰りしたのである。

 ヘラルはユーマが仲間も国王の後ろ盾になって貰うべく城に来た事を知り、彼の所に駆け込んだ。

 そして彼の婚約者のラティや従魔のアリア達に目が眩み、奪い取ろうと詰め寄った時、国王と王妃の逆鱗に触れ、ヘラルは自室に謹慎を言い渡されてしまった。


 そして部屋でシハンスからユーマ達のその後を聞き、ユーマを始めとする銀月の翼が今回の行方不明事件の調査に加わる事を知った。

 だがこれまで通り情報操作を行えば大丈夫と安心していたが、それが終わりの始まりとなった。


 少しして城にある報告が来た。

 それは行方不明事件を起こしていたのが黒の獣という事とそのアジトの場所、近い内に掃討作戦が決行されるという報告だった。

 これはヘラルを酷く焦らせる事になった。

 半年経って殆どの街から行方不明者を出してあと少しで全ての街から出る筈だったのに、先に組織名が分かって掃討作戦が決行されては自分の作戦が水の泡になってしまうからだ。


 シハンスは少し早いが計画を最終段階にした方がいいと言われ、ヘラルはそれを聞き入れ、翌日過激派の手引きもあってシハンスから渡されたアジトの場所を記憶したディメンジョンリングで城から脱出して、従魔のフレイムタイガーのスコットを連れて黒の獣のアジトへと赴いた。


 ヘラルはべオルフに掃討作戦の事を知らせ、そして自身の計画の最終作戦を決行した。

 ヘラルはべオルフに向かって剣を抜いたのだ。


 べオルフの聞いた計画では最後は自分がヘラルに討伐されたという事にして誘拐された者を救出し、ヘラルは犯罪組織を討伐して被害者を救出した功績で王位継承権の1位を取り戻す筈だったが、それはヘラルがべオルフを信じさせる為の嘘だった。

 本当はべオルフを含む黒の獣を全て殺して自分の計画を知る者を消して、被害者達から自分の勇姿を焼き付けて英雄になるという物だったのだ。


 だがそれはヘラルの大きな誤算となった。

 べオルフは最初からヘラルを信用しておらず、何か企んでいると泳がせていたのだ。

 そしてヘラルが本当の作戦を決行した事で、べオルフは正当防衛としてヘラルを返り討ちにして、切り札のスコットもべオルフの従魔のケルベロスで逆に殺されてしまった。


 そしてヘラルが気を失っている間にべオルフは掃討作戦でやって来たユーマ達との戦いで捕縛され、自身も気を失っている間にユーマ達に拘束され、城へ戻ってきてしまった。


 そしてヘラルは国王から断罪される事になった。

 最初は自分はやっていないと言い逃れを図ったが、既にべオルフの尋問でヘラルからの依頼でやったという証言が取れていた為、その嘘は通用しなかった。

 更に自分が最初からゼルギアスの滝の裏に洞窟があり、そこが黒の獣のアジトである事を知っていた事を指摘され、ヘラルは八方塞がりとなった。


 やがてヘラルは自身の計画の全てを話し、国王はその行いに酷く憤慨した。

 そして重大犯罪者として生き地獄を味わせる為に国王はヘラルに鉱山奴隷を言い渡した。


 ヘラルは王妃やルドルフ、アンリエッタに助けを求めたが、既に3人からも見放されており、王家からも追放されて全てを失ったヘラルは、デスペラード帝国からやって来た竜人族の騎士の竜が運ぶ移送の籠によって、このタイグレスト鉱山に移送されて奴隷となって今に至る。


「覚えていろ……」


 ヘラルは痛む体を動かして鉱石をリヤカーに入れて運びながらそう呟いた。


「無駄口を叩くな!」


 そこにまた看守達から連続で鞭を打たれ、ヘラルは全身が鞭に撃たれた跡が付いた。


 これからもヘラルはこの鉱山の中で一生日の光を見る事なく奴隷としての人生を送る事になるが、彼はこの苦しみが自分が誘拐事件の被害者達に与えた苦しみの数分の1にも満たらない事を知らない。

 これからも一生知る事はないだろう。

 全ては自分が積み重ねてきた行いによる因果応報だが、ヘラルはそれをまだ知らない。

デスペラード帝国には竜人族の騎士の移送籠があります。

これは、犯罪者を運ぶ為の物で、空を飛ぶ事で移動時間を大幅に短縮できる上に、従魔が強力な竜種の魔物である為、移動中に魔物に襲われる危険性も減る為、需要が高い。


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