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幕間 ルドルフとアンリエッタの努力

 ユーマ達が旅立ってから数日、アルビラ王国では色々と大きな変化があった。


 そしてその変化は、この場所でも出ていた。

 そこは、王都にある王城のとある一室。

 その場所に、1人の少年が机である仕事をしていた。


 彼の名はルドルフ・フォン・アルビラ。

 この国の王子であり、王太子になる事が決まった王族である。


 彼は自室で山の様な書類に目を通し、左右に分けていた。

 右側に低く、左側に高い書類の山が積みあがっていた。


 その時、ドアをノックする音がした。


「殿下、失礼します」


 その声と共にドアが開き、国王に仕える宰相のホマレフが入ってきた。


「殿下、昼食の用意が出来ました」


 だがルドルフは書類を見たままで返事をした。


「すみませんが今は手が離せません。後で部屋に持って来てください」


 ルドルフは仕事に集中する為に、後で部屋で食べる事をホマレフに告げた。


「しかし殿下、この数日、アンリエッタ王女と共に陛下と王妃と食事する回数が減り、陛下も王妃も心配なさっています」


「父上と母上には申し訳ないと思っています。しかし、今私が大事なのは、食事よりも国民です。あの元兄が起こした事件で、国民の心は不安と不信に満ちています。王太子になる事が決まった以上、1日でも早く国民の心を取り戻す為に、今は私達が頑張らなければならないのです」


 元第1王子のヘラルが断罪され、黒の獣のべオルフが処刑された時に、アベルクス国王がルドルフを王太子にする事を公表してから、ルドルフと彼の双子の妹のアンリエッタは王城で仕事、福祉施設で誘拐された被害者達のアフターケアなどに奔走し、これまでは必ず国王、王妃と共に食事していたのがめっきりと減っていたのだ。

 故にホマレフは2人が頑張りすぎなのではないかと心配していた。


「ルドルフ殿下……」


 その時、ルドルフは席を立ち、窓を開けてバルコニーから広がる王都の景色を見た。


「王太子になる事が決まった事で、私がこの国の次期国王になる事が決まっています。自国の民の事を第一に考えるのが、私の最初の仕事。父上や祖父、これまでのこの国の歴代の王が紡いできたこの国を守り、民からも支えられていくには、私達が頑張って信頼を築いていく事が大事です。父上が王である事の信頼とは別に、私達が私達で信頼を築き、国の未来を背負っていくには、まだまだ努力が足りません」


 ルドルフはそう言い、バルコニーから見える街の景色を眺めていた。


「殿下、お言葉ですが、殿下と王女はよく頑張っていると思います。実際にヘラル元殿下がいた時から、御2人が重ねてきた努力は、多くの国民が知っています。その時から、全ての国民が殿下か王女がこの国の次期王になる事を強く願っていました。御2人は十分すぎる程の信頼を築いていると、私は思います」


 ホマレフの言っている事は紛れもない事実だった。


 ルドルフとアンリエッタは5歳の頃から、城での勉学や魔法の訓練、剣術などに真面目に取り組んで、それに恥じない成長を見せていた。

 また王都を始めとする国内の街に出ては、そこに住んでいる人々を貴族、平民に関係なく分け隔てなく接して、自分の国の民の暮らしを直に見てきた。

 中にはスラム街がある街もあったが、ルドルフとアンリエッタは関係なくそこにも足を運び、そこに住んでいる人々の姿を目に焼き付け、何か彼らの力になれないかと模索してきた。


 その結果が、2人が福祉や公共関連の事業に大きく力を入れる事となった。


 まず2人が始めたのが、スラム街にいる人を中心にした日雇いの仕事を派遣する事だった。

 各街の役所にスラム街の人々にその日ごとに仕事を回すように進言し、彼らの暮らしを少しでも安定させるようにしたのだ。

 その結果は少しずつだが前進があり、役所はスラム街の人々に街の掃除から冒険者ギルドや商会の建物の清掃などの仕事を与える事で、日雇いの仕事を出す事で日給を出してスラム街の暮らしを少しずつだが安定させる事が出来たのだ。


 次に2人が行ったのが病気や怪我などで動けない人達への対処だった。

 主に魔物との戦闘や被害などで怪我をしたり、何らかの毒や病気などで体の自由を奪われたり、それらの後遺症などでこれまでの仕事が出来なくなった人達の為に、2人は福祉施設を新設した。

 2人が最高責任者を務めて城や各街から信頼できる者達を集め、そういった人達の暮らしを補助して社会復帰ができる様にした。


 ルドルフとアンリエッタの従魔は治癒能力を持ったカーバンクル。

 この世界では双子や三つ子などは単に容姿だけではなく、魔力の量や質、その波長なども酷似しており、その結果従魔も同じ魔物と適合しているのが圧倒的に多い。

 そのカーバンクルのモルとクルの治癒能力には、精神の治療も可能であった為、2人は様々な人達を療養させて回復させ、何人もの人々を普通に生活が可能な段階まで社会復帰できるようにした。


 これらの甲斐もあり、国中の人々は貴族、平民問わずルドルフとアンリエッタを強く支持する様になり、遂にはこの2人のどちらかがこの国の次期王になる事を強く望むようになった。


 故にホマレフの言った通り、ルドルフとアンリエッタは既に十分すぎる程の国民との間に信頼を築けていたのである。


「確かに、その通りかもしれません。しかし、先日のあの事件で、一部の国民は私達王家に対して大きな不信を抱いてしまっています。あの人の悪意を見抜けなかったという点では、私達の責任だというのも事実です。ですから、私達はこれまで以上に頑張らなければいけないのです。だからホマレフ、どうか分かってください」


 ルドルフはホマレフに向き合い、深く頭を下げた。


「……分かりました。陛下と王妃には、私の方から知らせておきます。その代わり、しっかりとお食事はなさってください。頑張りすぎて身体を壊してしまっては、元も子もありませんから」


「分かってます」


 そう会話を終わらせ、ルドルフは再び席に座り書類に目を通し始めた。


「殿下、選出の具合はどうでしょうか?」


 ホマレフはルドルフの行っている仕事の質問をしてきた。


「現在は3段階に分けて選出する途中です。今はまだ1段階目で、嫡男ではない貴族から当主を任せても良さそうな方とそうでない方を分けているんです。2度と過激派の様な愚か者を出さない為にも、厳選に厳選を重ねないといけないのですから」


 現在ルドルフが行っている仕事は、いなくなった過激派の後を継がせる、新たな貴族当主を決める為の選出だ。

 1枚1枚の書類には候補となる貴族の名前や年齢、経歴などが記されており、ルドルフはそれらを見て新たな当主を厳選しているのだ。


 ヘラルが起こした誘拐事件の手引きをした事で、残っていた過激派の貴族も全て爵位を剥奪、お家を取り潰しになった事で、現在アルビラ王国の貴族は大幅に減ってしまった。

 かつてヴィダールが起こしたユーマ達への襲撃事件で、ヴィダールを始めとする過激派の大半が失脚して取り潰しになったが、その時は他の貴族達が納める領土を分配する事で何とかなったが、今回で過激派が全て失脚した事で、国内の貴族の人数が足りなくなってしまったのだ。


 そこで、国王はルドルフに王太子になる際に本格的に王家の仕事を任せる事にし、その最初の仕事としてルドルフに新興貴族の当主選出を任せたのだ。

 その書類にあるのは、国内でもまともな貴族家の嫡男ではない人物、つまり次男や三男などの人物で、ルドルフはその者達の経歴などを考慮して選出しているのだ。

 因みに、国王はその貴族達に任せる為の領土を再分配しつつ選出中だ。


「まだ暫くは時間がかかりますが、そう遠くない内に決まるでしょう」


「そうですか。それから殿下、アンリエッタ王女の姿が見えませんが、いったいどちらにいるのですか?」


「アンリエッタなら、モルとクルを連れて福祉施設に行っていますよ」


――――――――――――――――――――


 一方こちらは王都にある福祉施設、ここに1人の少女の姿があった。


 彼女の名はアンリエッタ・フォン・アルビラ。

 アルビラ王国の第1王女であり、ルドルフの双子の妹だ。


 彼女もまた、誘拐事件を機に自分のできる事を模索し、事務仕事に集中している兄の分まで施設で療養している被害者達のアフターケアを補助している。

 傍では護衛らしき騎士が2人控えていた。


「大丈夫ですか? 何処か、変な所はありますか?」


 彼女は目の前にいる女性の手を握りながら優しく語りかけ、その女性の回復具合を見ている。

 その側では、彼女とルドルフの従魔のモルとクルの姿があり、額の宝石を光らせていた。


「……はい……少しですが……気分が良くなってきた気がします……」


 モルとクルの精神の治癒能力で、女性の心の傷を僅かだが回復出来た。


「これからもゆっくりと治癒を繰り返していきます。いきなり一気に回復させると精神が不安定になって、最悪崩壊する恐れがありますから、時間を掛けてゆっくりと回復さるのがいいんです」


 アンリエッタは、モルとクルで精神を治療しつつ、自分は相手の手を握って光魔法の精神を安定させる魔法で2匹のアシストをしていた。


「はい……ありがとうございます……王女殿下……」


 アンリエッタは他の人を治療する為に、モルとクル、護衛の騎士を連れて移動した。


 現在この施設にいる人は、先日ヘラルが起こした誘拐事件で誘拐された、100人に上る被害者がいる。

 その中にはユーマ達がエルネスタの街で救助したジェニーを始めとする子供達の姿もある。

 そして、その人達の治療は、男性よりも女性が優先される傾向があった。


 被害者達は誘拐されて奴隷の首輪を嵌められて監禁されただけではなく、従魔を殺された事で人生や仕事を奪われた事による心の傷が大きい。

 特に女性は子供から大人まで、黒の獣の慰み者にされた事で体を身も心も穢された事で、男性よりも心の傷が大きかった。


 最初の頃は奴隷から解放されて自由になった事で、発狂したり情緒不安定になりで自殺しようとした者もいた程で、ルドルフとアンリエッタは女性を優先的にアフターケアをするよう施設のスタッフに指示を出していた。


「さて、次は……()()()ですね」


 アンリエッタがモルとクルを連れてとある部屋の前に来た。

 ここは特に重症な人が来る特別室だ。


 アンリエッタは扉をノックした。


「失礼します」


 扉を開けると、そこにはベッドに横になった幼い少女と、その親らしき男女の姿があった。

 だが親の男性の方は彼女の姿を見ると、憎悪に満ちた視線を向けた。

 その瞬間、騎士が警戒した。


 対して、少女は彼らの様子に無反応だった。

 その瞳には光がなく、まるで人形の様になっていた。


「何の様ですか?」


 男性はそれでも王女に対してなので敬語で尋ねた。


「娘さんの治療に参りました」


「結構です。あなた達の兄が、私達の娘にした事を思えば、私達の怒りが分かるでしょう。あなた達の兄が、私達の娘をこんな風にしたのですよ」


 その少女の親は、先の誘拐事件で娘を傷つけられた事で、ヘラルだけではなく王族そのものに怒りを抱いている、王家に不信を抱いている者達の1人だった。


 その少女は、誘拐された事で黒の獣に目の前で出会ったばかりの従魔を殺され、加えて誘拐されてからの半年間、男達の慰み者にされた事で、心に途轍もない大きな傷を抱いてしまった。

 そしてユーマ達に救助された後は、精神が崩壊して何に対しても無反応となってしまったのだ。


「それに関しては、本当に申し訳ありませんでした。私達王族が力不足だった事で、元兄の犯罪を見抜けなかった上に、娘様を無事で助けられなかった事、深くお詫び申し上げます」


 アンリエッタは男性に深く頭を下げ、心からの謝罪をした。

 その様子には騎士達も驚いていた。


「姫様!」


「頭を上げてください!」


 騎士達の言葉に、アンリエッタは頭を下げたまま拒否した。


「いえ、これは私達王族の責任なのです。娘様を始めとする被害者の方達はユーマさん達の活躍で救助されましたが、本来ならあの事件は私達王族が解決するべきだったのです。ですが情報操作されていたとはいえ、私達は何もできず、こうして救助された後で皆様のアフターケアをする事しかできません。それでも私達は王族として責任を取り、少しでも皆様の力になろうとしています。ですからお願いします。どうか娘様の治療に協力させてくれないでしょうか。お願いします」


 アンリエッタの誠意の籠った言葉に、男性は暫く間を開けてから口を開いた。


「…………分かりました。そこまで言われると、私としては何も言えなくなります。但し、娘に何かあったら、その時は許しませんから」


 その言葉に、アンリエッタはパァッと笑顔になって答えた。

 彼女の真摯な言葉が、男性の心に届いたのだ。


「はい! 任せてください!」


 アンリエッタはモルとクルを連れて少女の傍により、少女の手を握った。

 そして魔力を注ぎ、崩壊した精神を少しでも繋ぎ止めようとする。


「クル、モル、お願いします」


 2匹は額の宝石を光らせ、少女の治療を開始した。


 これからもアンリエッタやルドルフはこの施設にいる人たちの治療に努力を注ぎ、1日でも早く全ての被害者が社会に復帰できるように尽力を尽くす事だろう。

 その道は途轍もなく険しいだろうが、2人は畏れる事なく向き合う事だろう。


 そしてルドルフは次期国王として、アンリエッタはその王妹殿下としてこの国を守っていくだろう。


 今は一部の国民が不振を抱いているが、それはほんの一時の間で、後にルドルフとアンリエッタの努力でその人達からの信頼も取り戻し、この国は更に栄えていくが、それはまた別の話である。

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