第104話 新たな目的地へ
前回のあらすじ
ヘラルによる誘拐事件が終息してから数日、ユーマ達は攫われた人々のその後を知るべく、ルドルフとアンリエッタの案内で福祉施設を訪れる。
そして様子を見た後、ルドルフとアンリエッタはこれからは自分達が国を支えていく事に張り切る。
同時に2人の頼みで、ユーマ達は2人と対等な友人関係を築く。
ルドルフとアンリエッタと友達になり数日、僕達が帰省して2週間程が経ちそうになった。
既にべオルフは処刑され、ヘラルを始めと元過激派は奴隷先となる鉱山へと護送された。
全てが解決したが、まだ国その物はその後の事後処理が済んでいない。
1番の問題は、誘拐された被害者達のアフターケアだ。
ルドルフとアンリエッタ、2人の従魔のモルとクルが率先して取り組んでいるが、全員を完治させるとなると相当な時間が必要になる。
加えて王家は過激派という、王族から犯罪者を出した派閥を全て奴隷堕ちにした事で、事務面で人材が不足気味になってしまった。
根本的な原因は僕達が黒の獣を壊滅したからだが、それは僕達の所為な訳じゃないというのが王家の意見だった。
国王が言うに人材面はまだ立て直しが効くとの事だ。
まともな貴族から嫡男ではない人達の中から功績や人間性のいい人達を厳選し、その人達に爵位を与えて独立させて貴族当主として独立させるとの事だ。
ここからは自分達が解決すると国王達が言った為、僕達はその後の事は任せる事にし、僕達は久し振りに実家でゆっくりしている。
そんなある日、僕はゼノンさんとイリスさんを家のリビングに呼んだ。
既にお父さん達もラティ達も揃っている。
「どうしたの、ユーマくん?」
「ユーマ殿、私達を呼び出すとは、何かあったのか?」
少し間を開けた後、僕はある決意をして2人に向けて口を開いた。
「実は、2人に話したい事があります。僕の秘密を」
2人に話す内容は、僕の前世の事だ。
前から考えていて決めた事で、アライアンスを結んだゼノンさんとイリスさん、マッハストームの人達も、僕達の大切な仲間だ。
所属しているパーティーこそは違うけど、それでも僕達とは戦いを通して結ばれた絆がある。
だから、皆には一切隠し事を作りたくはないので、こうしてゼノンさんとイリスさんにも僕の秘密を話した。
僕の話を聞いていて、2人の反応は驚愕に染まっていた。
「何と……にわかには信じがたい事だ。異世界から転生してきて、それで前世の記憶があるとは……」
「でも、ユーマくんがそんなくだらない嘘をつく人じゃないという事は、私達がよく知ってるわ。そうでしょう、ゼノン?」
「そうだな。ユーマ殿、僅かでも疑ってしまった事、申し訳ない」
ゼノンさんは頭を深く下げて謝罪した。
「そんな。頭を上げてください、ゼノンさん。普通ならこんな話は信じられないのが普通なんですから」
「かたじけない」
2人は僕の正体を知っても尚、僕の事を仲間と認めてくれた。
やはり僕はいい仲間に恵まれているな。
「それでもう1つお願いがあります。僕が転生者だという事は、周りには他言無用でお願いしたいんです」
「それは勿論だ。異世界から転生して来た者などという話は、簡単には信じられないだろうが」
「もしそれを信じて接触してきたら、『異世界の知識や技術を提供しろ』とか言って迫って来る馬鹿もいるだろうしね。大丈夫よ。私達は決してあなたの事を公言しないわ」
「私も、竜人族の誇りに誓って、その秘密は守る」
「ありがとうございます」
こうして、ゼノンさんとイリスさんも僕の秘密を知る事となった。
「それからお父さん、僕達はそろそろここを出ようと思うんだ。流石にそろそろ旅を再開させたいと思っていた所だし」
「休息は十分取れたしね」
「まあ、最初は行方不明事件で、休むどころじゃなかったけどな」
「でもこうして休息できたし、私達も旅を再開したかったしね」
僕達の言葉を聞いたお父さん達は、少ししんみりとしていた。
「そうか。また少し寂しくなるが、ユーマならまたいつでも帰ってこれるからな」
「それでいつ出発するの?」
「2日後にしようと思う」
「じゃあ、次の目的地は何処にするんだい?」
ダンテさんの問いに、僕はこう答えた。
「ロマージュ共和国に行こうと思います」
「あたし達の武器を整備してもらおうと思ってるの」
僕達の武器は普段は自分達で手入れしているけど、微量に蓄積したダメージまではどうしようもないから、1度正式な鍛冶職に見てもらって整備してもらう事を告げた。
その際に、僕の武器にある神剣ミネルヴァの事で思い出した事がある。
ミネルヴァには魔力を斬る能力があったから、よく考えたらべオルフとの戦いもこれを使っていれば苦戦する事なくもっと楽勝で勝てたという事に今更ながらに気付いたりする。
普段から神器の性能に慢心しない様に使用を控えていた事が裏目に出た事で、僕もラティ達もあれを使って戦う事を失念していたのが最大の失敗だった。
まあ、なんにせよ勝てたからよかったけどね。
「成程。なら、俺達が贔屓にしている鍛冶屋を紹介する。そこにいるドワーフの職人と専属の錬金術師なら、ユーマ達のマジックアイテムを整備してくれる筈だ」
「筈」って事は、できるかもしれないって事か。
でも、当てがあるだけマシかな。
「ありがとう、お父さん」
「少し良いでしょうか、ゲイル殿」
そこにゼノンさんも口を開いた。
「何でしょうか?」
「私とイリスも、そろそろここを発とうと思っています」
「元々ここにはそんなに長居するつもりではありませんでした。でも、この行方不明事件を放って置く事はできなかったので、それが解決するまでの間滞在期間を延ばしていたんです」
「その事件が解決した今、私達もここを発ち、新たな目的地へ向かおうと思っています」
ゼノンさんとイリスさんも旅立ちを宣言した。
「そうですか。分かりました」
「今までお世話になりました」
お父さんとゼノンさんは固く握手を交わした。
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そして2日経ち、僕達は王都の城壁の門を出てすぐの所に来ていた。
お父さん達も見送るべく一緒に来ている。
その時、お母さんが1枚のメモと封筒を渡して来た。
「ユーマ、ロマージュ共和国の首都についたら、このメモに書いてある工房を訪ねなさい。そこに、私達と親しくて、あなたとラティちゃんのローブを作った職人さんがいるわ。後、この封筒にはその人宛の手紙が入ってるから、その人に会ったらすぐに渡して」
そのメモには、その工房の店名と簡易的だが地図が記されていた。
「ありがとう、お母さん。」
そして僕達はお父さん達と向き合った。
「それじゃあ、気をつけてな」
「またいつでも帰って来てね」
「体に気を付けるんだぞ」
「手紙を楽しみにしているからね」
僕とラティはお父さん達と別れの挨拶をして、その後クレイルとコレットにも挨拶が回って来た。
「クレイルくん、コレットさん、ユーマ達を頼むよ」
「任せてください。親友の事は俺達に任せてください」
「私とアインもいますから、大船に乗ったつもりでいてください」
「アリアはお任せください」
アインはコレットの肩の上で、「エッヘン」と胸を張っている。
最後にお父さん達はゼノンさん達に向き合った。
「それではお元気で。またいつでも立ち寄ってください」
「ありがとうございます。また立ち寄る機会がありましたら、必ず会いに行きます」
「お元気で」
僕達は元の姿になったアリアに、ゼノンさん達も元の姿のスニィに乗り込んだ。
アインは普通に乗れるが、クルスはミニサイズになってラティの傍に、レクスはクレイルの亜空間に入っていた。
「ユーマ達はアリアに乗っていくのか?」
「うん。効率よく空間魔法で行ける場所を増やす為に、これからの長距離の移動はアリアで飛んでいこうと思う」
『私なら全ての国を回るのに、1年はかかりません。それにエリアル王国のスタンピードでの一件で、私達の存在も公になっていますから、私で飛んでの旅もしやすくなりましたからね』
「そうか。頑張るんだぞ」
「はい!」
そして、僕達を乗せたアリアは上空へと飛び上がった。
ゼノンさん達を乗せたスニィも同時に飛び上がり、やがて王都の全てが上から見下ろせる高さまで上昇した。
「ゼノンさん達はこれからどうするんですか?」
「私達は、エリアル王国へ向かおうと思っている」
「今そこのとある街にバロン達が来ているそうなの。だからちょっと会いに行って、暫く一緒に依頼でも受けようと思うの」
どうやらマッハストームのバロンさん達がエリアル王国に来ているようで、ゼノンさん達は彼らに会いに行く様だ。
という事は、バロンさんの風斬剣は直ったのかな?
そうだとしたら僕も一安心だな。
「そうですか。では、バロンさん達によろしく言ってください」
「分かった。では、また会おう」
「またね、ラティちゃん、コレットさん」
「バイバイ、イリスさん。また会いましょう」
「元気でね」
ゼノンさんとイリスさんとカミラを乗せたスニィは、エリアル王国の方角へと飛び去り、姿が見えなくなった。
『では私達も向かいましょうか』
「うん。アリア、お願い」
アリアもまた、ロマージュ共和国を目指して、僕達を乗せて移動を開始した。
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次回予告
アリアに乗っての旅を始めたユーマ達は、砂漠地帯を訪れる。
オアシスで休憩中に、ユーマ達は魔物の襲撃を受ける。
慣れない砂漠での戦闘で苦戦するが、ユーマはある発想を閃く
次回、ラビアン砂漠
次回から第7章、「旅は空を飛んで」になります。
その前にいくつか幕間を更新する予定です。
暫く原文作成に本腰を入れたいので、当分の間は不定期の更新になります。
更新する際には、その前日に活動報告で報告します。
それではよろしくお願いします。