第97話 黒牙のべオルフ
前回のあらすじ
ユーマ達と別れたゲイル達は、その進んだ道の先で黒の獣と遭遇する。
そこにボスのべオルフがいなかった事で、ゲイル達は従魔との連携や自分達の魔法を存分に発揮し、黒の獣を無双する。
戦いが終わり、ゲイル達はユーマとラティの向かった道の先にべオルフがいると判断し、加勢する為に来た道を戻るのだった。
ユーマside
僕達の目の前には、20人程の武装した黒の獣のメンバーに加えて、奥の方に禍々しい魔力を放つ槍を持った男と、その隣に3つの頭を持つ前世では地獄の番犬と言われた空想の生物、ケルベロスがいた。
更に、そのケルベロスの隣には見覚えのある人物が倒れていた。
「ユーマくん、あそこに倒れているのって、確か……」
「うん。ヘラル王子だ」
それは、このアルビラ王国の第1王子、ヘラルだった。
彼はボロボロにされ、口には猿轡、両手両足は縛られ、手には魔封じの枷がつけられていた。
加えてその側にはCランクのフレイムタイガーの死体もあった。
だが、あの王子の事は一旦置いておいて、僕は白百合の剣先を槍を持ってる男に向けた。
「お前がべオルフか?」
僕の問いに、男は不気味な笑みを浮かべながら答えた。
「ああ。俺が黒の獣を率いているべオルフだ。そういうお前達の方は、竜とグリフォンの組み合わせという事は、お前達が最近噂の『雷帝』と『賢者』か。俺の所まで来た事、褒めてやるぜ」
その笑みは見る者の魂を引き摺り出す様な不気味さを放っていた。
だが、僕達は旅立ってからそれなりの場数を踏んできた。
これくらいは平気だった。
「あなたが一連の誘拐事件を起こしていたのね! 一体、何が目的なの!」
ラティがエンシェントロッドを構えたまま、べオルフに問いかけた。
「目的か。俺達はただ、依頼人から言われた依頼を遂行しただけにすぎねえ」
「依頼だと?」
「その依頼は、誰からされたの?」
その問いに、べオルフは驚きの言葉を放った。
「そこの転がってる第1王子さ」
べオルフは、近くに倒れているヘラル王子を指しながら答えた。
「何だって!?」
『何故、王子が自分の国の民を誘拐しろという依頼を!?』
僕達は驚きを隠せなかった。
どうして一国の王子が、自分の国の国民を誘拐しろという依頼を、犯罪組織に頼んだのか。
「今から半年前、俺達の所にこの王子がやって来たのさ。なんでもこいつ曰く、自分は弟や妹よりも王や民からの信頼がなく、このままでは自分は次期王になれないと。だから自分が王になる為の点数稼ぎをしたいと言ったのさ」
べオルフは何故か説明してきた。
「それで俺達に国内の各街から適当に何人かを攫ってきて、機が熟したら俺達の所に来て、俺達を倒すフリをして誘拐した人を救出して、それで王や国民から称賛を浴びてその功績で王位継承権を得ようと考えたのさ」
「なら、何故ヘラル王子はそんな姿になってるんだ?」
「それはこの王子が俺達との約束を反故にしたからさ。元々俺達はこの王子が王位継承権を得たら、俺達はその権限で身分を変えて爵位を貰うという約束だった。だが先程こいつがやって来て、お前達に俺達の事が知られたという知らせが入ったんだ。だからお前達がここに来る事を想定し、迎撃の準備をしていた時、こいつは突然俺に剣を向けてきて、俺を討伐すると言い出したのさ。一応約束の事を指摘したが、こいつはそんな約束した覚えはないというものでな、だから正当防衛で返り討ちにしたのさ。ああ、そこのフレイムタイガーはこいつの従魔でな、俺の従魔のこのケルベロスのグエルが殺った」
ヘラル王子はべオルフとそんな密約をしていたのか。
なら、その約束を反故にした腹いせでヘラル王子を。
「一応聞くが、ヘラル王子は国民からの信頼も、ましてや国王や王妃からも信用されていなかった。お前はそれでも彼からの依頼を受けたのか? もしかしたら、仮に成功しても王にはなれず爵位も貰えなかったかもしれないんだぞ」
「その辺はあれだ。俺は元からこいつを完全には信用していなかった。依頼を受けたのは、既に前金として破格の報酬を貰っていたからな。それにこいつは、最初から俺を討伐する様だったからな」
べオルフは自信満々でそう言い切った。
「どうして分かるの?」
「俺達が犯罪組織だからだ。俺達は既に多くの犯罪をしている。捕まったらその時点で首が跳ねられる位にな。それが分かっているからこそ王子という大物が最初に来た時点で、こいつが何か企んでいると踏み、尻尾を出すまで泳がせていたのさ。だがこいつの真の狙いまでは分からなかったから、ここにいる幹部以外の奴らには王子の事や依頼の事は話さなかった。そして今日、こいつは真の目的を明かし、俺の首を取る事で本当の英雄になろうとしたのさ。まあ、俺に返り討ちにされた時点で、その計画は水の泡になっちまったがな」
べオルフは静かに笑いながら、事の経緯を語った。
「で? どうして僕達にそんな事を話したんだ?」
「理由か……これといって理由はない。いや、1つだけ理由があるか。お前達がここに来た以上、俺はお前達を生かしておく訳にはいかない。だが、何も知らないまま殺すのも俺としては後味が悪い。つまりお前達に心残りを無くさせた訳だ。これで心置きなく死ねるだろ? 喜んで死んで行け!!」
べオルフはその黒い槍を向けて僕達へと突撃してきた。
僕はラティを横抱きに抱えて回避した。
「グエル!!」
着地したその瞬間、ケルベロスが3つの顎を大きく開けて僕達に襲い掛かってきた。
『させません!』
「グルルルルゥゥゥ!!」
そこにアリアとクルスが横から飛び出してきて、ケルベロスを弾き飛ばした。
「アリア! クルス!」
『ユーマ! このケルベロスは私達が倒します! あなた達はべオルフを!』
「分かった!」
「ありがとう! クルス! アリア!」
僕はラティを降ろし、再び2本の魔剣を構えた。
「俺を倒すとは、随分と意気込んでいるな。だが、それにはこいつらも相手にしなくちゃいけないぞ。お前ら、殺れ」
『おおおお!!!』
べオルフの合図で、20人の部下達が従魔と一緒に僕達を取り囲み、一斉に魔法を放ってきた。
「生憎だけど、その程度で僕達を止める事はできないよ!」
僕は周囲に空間魔法を発動させ、魔法が僕を中心に一定の所まで近づいた所で周囲の空間を歪ませて、魔法を捻じ曲げて消滅させた。
空間魔法は自分が行った事のある場所へ転移するという便利な魔法だが、その性質は空間に干渉して自分の意のままに操れる事にある。
故に今の様に周囲の空間を歪めると、魔法も物理攻撃も僕に触れる事なく空間ごと捻じ曲げられてしまうという訳だ。
「何だ!? 俺達の魔法が捻じ曲がって消滅したぞ!?」
「これが『雷帝』の固有魔法なのか!?」
黒の獣達は上手い具合に動揺しているが、べオルフだけは少し目を見開いただけですぐに余裕の笑みを浮かべた。
「今だよ、ラティ!」
「オッケー! 喰らいなさい!!」
続いてラティの発動させた重力魔法が周囲の重力を強め、男達は従魔諸共一瞬でその重力の圧力に押し潰され、肉塊となった。
念の為探知魔法で確認してみたが、辛うじて人間の原形を留めた2、3人を残して後は全員息絶えていた。
従魔は1匹残らず押し潰されていた。
今回はべオルフの捕縛は絶対として、後は生死問わずと予め決めていた為、一切の手加減をしていなかったからこの人数しか生き残っていなかった。
「これで手下は全滅だ。残るはお前だけだ。べオルフ」
これにべオルフは何故か拍手していた。
「いやいや、お見事だ。こいつらは黒の獣の幹部で、その実力はかなりのものだったんだが、それを一瞬で葬るとはな。流石はスタンピードの死者を0人にしただけの事はあるな」
「僕達の事をどれくらいまで知ってるかは知らないけど、残るはお前だけだ。相棒のケルベロスも、僕達の従魔が相手をしている。ケルベロスはSランクの魔物だけど、その相手をしているのはEXランクの竜神と特異種のグリフォンだ。この2体を同時に相手にして、倒されるのは時間の問題。そうすれば4人がかりでお前を捕縛してやる」
僕の言葉に、べオルフは不敵に笑った。
「それはどうかな?」
「何?」
「グルルルルルゥ!!?」
その時、横から凄い衝撃音が響き、振り向くとそこには、ケルベロスに吹き飛ばされたクルスの姿があった。
「クルス!?」
クルスは壁まで吹き飛んだが、持ち前の打たれ強さで立ち上がった。
『馬鹿な!? クルスは特異種により、その強さは通常種のそれを大きく上回っています! そのクルスを吹き飛ばすなんて、普通のケルベロスでは不可能です!』
「確かに普通ならそうだ。普通ならな。だが、普通じゃなかったらどうだ?」
普通じゃなかったら?
それは一体……。
待てよ、普通じゃなくて、特異種のグリフォンに負けない力を持つ魔物。
それって……
「まっ……まさか!?」
「聡明な『雷帝』は気付いた様だな。そのまさかだ。俺のグエルは、賢者のグリフォンと同様、特異種のケルベロスなのさ」
べオルフの口から、とんでもない事実が突き付けられた。
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魔物情報
ケルベロス
幻獣種に含まれるSランクの希少種の魔物。3つの頭にある牙にはそれぞれ強力な瘴気が宿っており、この牙に掠っただけでも全身が瘴気に蝕まれ、やがて命を落としてしまう。討伐するには、3つの頭を同時に切り落としたり破壊する必要がある。そうしなければ、たちまち頭が元通りに再生してしまい、勝ったと油断した瞬間、その牙にやられてしまう。討伐証明部位は右前脚。
フレイムタイガー
Cランクの獣種の虎型の魔物。全身が赤く、黒の虎模様から炎を吹き出す。この炎で相手を威嚇したり、炎を纏った牙や爪で相手を仕留めるなどの戦い方を得意とする。だが、水には弱く、その炎の吹き出し口となる模様が濡れてしまうと、炎が出なくなってしまい、その時のランクはDランク相当まで下がる。討伐証明部位は上顎の牙。
次回予告
べオルフの従魔のケルベロスが特異種だという事を知り驚愕するユーマ達。
クルスは自分と同じ存在の敵だという事を知り敵意を燃やす。
ケルベロスをクルスに任せ、ユーマとラティは果敢にべオルフに立ち向かうが、べオルフの能力の前に苦戦する。
次回、特異種vs特異種
次回は8日に更新します。