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第94話 赤黒の魔竜の戦い

前回のあらすじ

黒の獣の討伐の為にゼルギアスの滝を訪れたユーマ達。

だが何者かが情報を流した事で、警戒する為に出て来ようとした黒の獣の構成員と鉢合わせてしまう。

ユーマ達を先に行かせる為、ゼノンとイリスはその場に残り、スニィとカミラとの4人で敵を迎え撃つ事にした。

 ゼノンside


「私が言った手前、イリスが望むのであれば、そのままユーマ殿達と共に行ってもよかったのだぞ?」


「あら。私が相方を置いて行く訳がないじゃない」


「そうか。なら、付き合って貰うぞ」


 洞窟の入口へと残った私とイリスは、ユーマ殿達が走っていった方に背を向けて立ち、それぞれ拳と杖を構えた。


「ここから先は我が誇りに誓って、絶対に通さん!」


「ご主人、私も手を貸します。人の姿でもこの程度の相手なら十分戦えます」


「あらスニィ、私もいるのよ。ねえ、カミラ?」


 イリスの問いに、カミラも頷いた。


「ふん! たった3人と1匹で、この人数を相手にしようってのか!?」


「竜人族と魔族の組み合わせって事は、こいつらが赤黒の魔竜だろうが、この人数に勝てる訳がねえ!!」


 男達は私達を前にしても尚、強気の態度を保っていた。

 どうやら、数の差での優位差からの余裕の様だった。


「見くびらないで貰おうか。私達は貴様達を侮る訳ではないが、貴様達の様な愚劣な輩にやられるつもりは毛頭ない!」


「そうね。何の罪もない人達を誘拐して、奴隷の首輪を着ける様な人達にやられたら、それこそあの子達に合わせる顔がないからね」


 私達の頭には、自分達がかつて武闘大会で手合わせをし、その中で心を通わせアライアンスを結んだ2人の人族の男女、ユーマ殿とラティ殿の姿が浮かんだ。


 私達はあの戦い以来、ユーマ殿とラティ殿の事を高く買っている。

 特に、イリスはラティ殿を、私はユーマ殿を大きく評価している。


 私はドラグニティ王国出身で、国内ではかなりの実力を持った竜化魔法の使い手だった。

 それに加え、希少種の水晶竜(スニィ)と適合していた事で国内では有名な存在になったが、私はそれに驕る事もなく常に己を鍛える日々を送っていた。


 そんなある日、冒険者としてドラグニティ王国に訪れていたイリスと知り合い、彼女と気があった私は、冒険者登録をして彼女とパーティーを組み、祖国を旅立った。


 それからはイリス、スニィ、カミラと各地を転々として冒険者活動をしながら、私はまだ見ぬ強敵との戦いを求めて旅を続けた。

 だが、例え歯応えのある者や魔物と戦っても、最後は私が勝利し、私はその後も自分より強い者を探し求めて各地を旅した。


 そしてある時、ヴォルスガ王国の武闘大会に参加した時、私は到頭その者と出会う事が出来た。

 その者は人族で、まだ成人したばかりの若者だった。

 だが、1回戦の戦いを観客席から見た時、私の心は激しく踊った。

 私は直感でその人族が、自分の探し求めていた強者だと感じ取ったのだ。


 そして彼と対戦する事になった時、私はイリスと打ち合わせし、彼を自分と戦える様に相方の人族の少女と分断して一騎打ちで戦える状況を作った。


 そしてその少年――ユーマ殿との勝負は、私が行ってきたこれまでの戦いのどれよりも熱く、そして楽しい物だった。

 ユーマ殿は両手に持ったスピードを上げる魔剣と破壊力を上げる魔剣を操り、更に雷属性を加えた複合魔法の身体強化で向かってきて、自身は竜人魔法で竜化させた体術で応戦し、1度は自分が優勢に立ったが彼は諦める事なく、手放した魔剣に代わって新たに背中に差していた魔槍を抜いてきた。


 その後は更に戦いは激しくなり、その過程で私はこの勝負で初めてユーマ殿にて手傷を負わされた。


 だがそれは、私の心を更に躍らせ、遂には竜化魔法の奥義を使うにまで至ったが、彼はそれを呆気なく破った。


 そして、最後の勝負に出てその時の私が使える最強の奥義を使ったが、ユーマ殿もそれに便乗しとっておきの魔法の1つで迎え撃ったが、あまりの魔力の差に私は打ち負け、試合にも勝負にも負けてしまった。


 だが敗北した事で私が腐る事はなかった。

 寧ろ、自分は井の中の蛙だったと痛感し、自分に勝ったユーマ殿に強い関心を抱く様になった。


 そしてユーマ殿達が決勝に進んだと聞いた私は、決勝戦の彼らの相手が自分と同じ肉弾戦で戦うという事から自分が特訓相手になるべく、再び彼等に接触した。


 その過程で自分と同じく彼と戦い敗れたバロン殿達とも出会い、親しくなった私達は彼等がユーマ殿達とアライアンスを結ぶという事を知り、自分達もその同盟に加えて貰いたいと頼み、今こうしてユーマ殿達と共にいる事が出来た。


 イリスはかつてラティ殿と魔法対決をした時、彼女の人族とはとても思えない魔法の才能を直視した。

 彼女は魔族故に他の種族よりも優れた力を持っていたが、ラティ殿と出会うまで彼女の様な優れた人族の魔法の使い手とは出会えなかった為、それまで魔族という点から自分は最高の魔法使いだという自負があった。


 だが、武闘大会で観客席からラティ殿の魔法を見た時、イリスの心は震えた。

 人族にはまだあの少女の様な凄い魔法の使い手がいた事で、それまで自分が無自覚に傲慢だったという事に気付き、そして彼女と魔法の勝負をしたいという渇望が生まれたのだ。


 そして大会を勝ち進み、イリスはラティ殿と戦えるチャンスを手に入れた。

 試合前に私と作戦会議をし、私達はユーマ殿とラティ殿を分断してそれぞれで戦うという事にし、結果作戦は成功しイリスはラティ殿と差しで戦える様になった。


 その勝負はイリスの予想を遥かに超える凄まじい物だった。

 ラティ殿は様々な魔法を高い水準で操り、加えて1つの魔法を放った後の次の魔法を放つまでのタイムラグが短かった事に、イリスは大きく驚いた。


 イリスも次々と強力な魔法で応戦したが、それでも彼女の魔力量には限りがある。

 しかし、ラティ殿も自分と同じ位の魔力を消耗している筈なのに、彼女は魔力切れどころか息切れ1つ起こしていなかった。


 どうやら、ラティ殿の固有魔法によるものだったらしい。

 彼女は自然に回復する魔力に加え、魔力が満タンになった後も別の容量で魔力が無限に溜まっていく事を話し、イリスは驚愕した。

 つまり、ラティ殿は魔族やハイエルフ以上の魔力量を誇り、余程の事がない限り魔力切れを起こさないという事だ。


 それを聞いてイリスは彼女の潜在能力が自分を遥かに上回り、なおかつ自分はこのままでは勝てないと直感で悟った。


 だからこそイリスは自分が持てる最高の魔法で勝負し、結果はラティ殿の魔力をある程度消耗させただけで、自分は魔力切れを起こして負けてしまった。


 だがこれ以来、イリスとラティ殿は勝負を通して仲を深め、今ではアライアンスを結ぶ仲間になった。


 それから私達はユーマ殿達に負けないと同時に、彼等と肩を並べる程になるべく、アルビラ王国で冒険者活動をし、ユーマ殿達がエリアル王国でのスタンピードの戦いを終えた頃には、私達は共にAランクになった。


 ユーマ殿達もスタンピードでの活躍でAランクに昇格し、私達は対等な位置に立ったという事になる。


 だからこそ、この様な卑劣な男達にはやられないという思いがある。


「行くわよ! アースクリエイト!!」


 イリスは気を引き締めなおし、自分の背後の通路を土属性の魔法で土壁を作って天井付近まで隙間を埋めた。

 完全にふさがなかったのは、空気の通り道を作ってユーマ殿達が酸欠になったりしない様に念を入れしたからだ。

 これで男達はイリスを倒して言う事を聞かせない限り、この壁を突破する事はできなくなった。


「これで、後ろの心配はなくなったわ! ゼノン、思いっきり行けるわよ!」


「よくやった、イリス! 行くぞ、スニィ!」


「はい、ご主人!」


 私はスニィと共に男達の懐へと一瞬で距離を詰めた。


「なっ!? 速い!?」


 男が反応した時には、既に私は攻撃を繰り出そうとしていた。


「遅い! 竜爪斬(りゅうそうざん)!!」


 私の横に振るった竜化させた爪に引き裂かれ、男は胸から大量の血を流し倒れた。


「はっ!」


 スニィも人化を一部解いて露わになった自身の尻尾を男の頭上に叩きつけ、男は頭を潰されて絶命した。


「この!」


 男が攻撃した直後の私に向かって手に持った剣を振り被ったが、次の瞬間、その男の腕が肘から先が剣ごと消し飛んだ。


「へっ?」


 男が思わず後ろを振り返ると、そこには自分に杖を向けたイリスの姿があった。


「遅いわ。アクアレーザー」


 そしてイリスの姿を捉えた時には、水魔法による一撃で頭を貫かれ命を落とした。


 男達の従魔も戦おうとするが、人姿のスニィとカミラに立ちはだかれ、次々と倒れていく。


「遅いです!」


 スニィの尻尾が従魔のゴブリンやコボルトを薙ぎ払い、カミラはコボルトの首に噛みついて血を吸い、そのコボルトを自身の眷属にして操り同士討ちをさせている。


 私達は敵を順調に倒していく中、奴らは私達の狙いに気付いていない様だった。

 私達が敵を1ヵ所に集めている事に。


「ゼノン! 私の方はもう準備が出来たわ!」


「了解した! スニィ! カミラ! 壁の方まで下がるぞ!」


 私達はイリスを後ろに土壁の方まで後退した。

 正面は残りの敵が人と従魔を合わせて20程。


「これ以上貴様達に時間を掛けているつもりはない。私の竜化魔法の究極奥義で、貴様らを纏めて葬ってやろう」


 私は右腕を振りかぶり、魔力を集中した。


「『竜闘士』が何かしようとしている! だが幸いな事にあいつらの後ろはあいつらが作った壁に塞がれている! このまま魔法で一網打尽にするぞ!」


 連中も中々着眼がいい者がいる様だな。

 だがすでに貴様らは詰んでいるのだという事を思い知るのだな。


「無駄よ。もうあなた達は魔法が使えないわ」


 イリスがそう言った瞬間、奴らが集めていた魔力が霧散し、敵は魔法の発動が止まってしまった。


「何だ、これは!?」


「魔法が使えないぞ!?」


「身体強化も駄目だ! 何が起こってるんだ!?」


 敵は突然魔法が使えななくなった事に動揺し、慌てふためいていた。

 それがイリスの()()()()()()()だという事も知らずに。


 その隙に私は奥義の前口上を綴る。


「我が内に眠りし竜の力を今ここに解き放ち、万物を引き裂く豪傑の爪を生み出さん!」


 私が口上を言い終えた瞬間、振りかざした右腕を中心に巨大な魔力が私を包んだ。


「くそ! こうなったら接近戦で仕留めるんだ!」


 敵も私の行動に対応し、剣や斧を手に持ち向かって来る。

 普通ならスニィやイリスが迎え撃つが、既に私の魔法の準備が整ったので、2人は何もせずの状態だ。


「もう遅い! 竜化魔法究極奥義!! 覇王竜(はおうりゅう)天翔斬(てんしょうざん)!!!」


 その瞬間、この洞窟から放たれた衝撃がそのまま滝を一瞬爆ぜさせた。


――――――――――――――――――――


 私が放った究極奥義の一撃のもとに、敵は全滅した。

 従魔は全て息絶えているが、人の方はまだ息のある物が数人残っていた。

 その生き残っている者は1割程で、いずれも手足のいずれかが欠損する程の重傷で最早虫の息だった。


「やっぱりその技は凄い威力ね。私が土魔法で洞窟全体の強度を上げていなかったら、今頃この洞窟が落盤を起こして私達諸共お陀仏(だぶつ)だったわよ」


「そう言うな、イリスよ。お前がそこまですると信じていたからこそ、この奥義を使ったのだ。それに今の私の怒りをぶつけるにはあれくらいの技で行きたかったのでな」


「それを言われたら、納得するしかないわね」


 イリスは肩を竦めて納得し、辺りを見回した。


「とりあえず、ここでの戦いは終わったか」


「ええ。分かってはいたけど、やっぱり大した奴はいなかったわね」


「先程のこいつらの言葉から、まだ私達が今日来るという事は知らなかった様です。おそらく偵察と警戒の為の人員でしょう」


「そうだな。ならば、こいつらの本隊はまだ奥にいるという事だ。ユーマ殿達の事もあるし、私達もすぐに後を追おう。イリス、その前に私達は魔力回復のポーションで魔力を回復しよう。お前も私も先程の魔法で魔力を大きく消耗しているからな」


「分かってるわ。私の固有魔法もあなたの究極奥義も、魔力の消費が激しいからね」


 私達はポーションで魔力を回復させた後、イリスの魔法で塞いだ土壁を撤去した。


「では行くぞ。一刻も早くユーマ殿達に追いつき、黒の獣のリーダーの討伐に加勢する為に!」


「ええ!」


「分かりました!」


 私達は先に行ったユーマ達を追って洞窟の奥へと駆け出した。

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次回予告

洞窟の奥を進むユーマ達は、途中道が3つに分かれている事に気付く。

3チームに分かれ、それぞれの道を進むが、クレイルとコレットはその先であるものを目撃する。

そしてそこである事を知り、クレイルは怒りを爆発させる。


次回、クレイルの怒り


次回は8月2日に更新します。

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[良い点] 銀月の翼だけじゃなくて彼等と縁を結んだパーティもしっかり成長してる所がいい。
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