第92話 王子と王女の評判
前回のあらすじ
誘拐犯の尋問を行い、アインの能力でその者達の組織、黒の獣が犯人だという事を聞き出す。
更にアジトの場所も聞き出す事に成功した。
僕達は詰所を出て、すぐに王都に戻る事にした。
「あっ、そうだ。あの、今回誘拐された子供達はこれからどうなるんですか?」
詰所を後にする際、僕は騎士にジェニーちゃん達の今後の事を尋ねた。
「はい。今回の事件で、あの子達は違法奴隷になる所でした。それに加え、子供達は奴隷の首輪の効果で逆らう事もできなかった事で、心に深い傷を負ってしまいました。よって、子供達は親の人達と共に、王都にある福祉施設で療養させる事になりました」
「福祉施設?」
「はい。ルドルフ王子とアンリエッタ王女が1年程前に新設した公共施設です。今回の子供達の様な心に傷を負った者、怪我や病気などで現場から退いた者、年を取って体が不自由になった者、何らかの理由で体に障害を抱えた者などを支え、社会に復帰できる様に支援の限りを尽くす公共施設です」
あの2人は、そんな場所を作っていたのか。
「それは素晴らしい事ですね」
とりあえず王子と王女と知り合いという事は伏せてそう言うと、騎士は誇らしげに胸を張った。
「はい。あの御2人は、福祉事業に強く力を入れているのです。また、平民の暮らしをその目で見て知る為に、各街々に赴いては私達騎士や街の人々に挨拶をして色々と聞いては知り、聞いては知りを繰り返し、心から我ら庶民と向き合う事で自分達にできる事を探して実行していらっしゃるのです。そして、その福祉施設の他に、スラム街の孤児や街で身寄りを亡くした子供達を保護する為に児童養護施設も創設し、更には寄付する事も計画されているんです。その立派な姿に、全ての国民があの御2人を慕っていると言っても過言ではないでしょう」
こうして話を聞くと、あの2人は凄い功績を出している様だ。
ただ王族に生まれただけで満足する事なく、平民、貴族に関係なしに分け隔てなく接する事で国民からの信頼を得て、更に平民の暮らしをより良くする為に公共施設を造ったり寄付をしたりなどで福祉をする事で、少しでもこの国を良くしようと努力しているという事が伝わってきた。
それにこの騎士の様子を見ると、あの2人は、本当にこの国の人達から愛されている様だな。
話を聞くと、国民はあの2人が次期王の座を受け継ぐ事を望んでいる様だ。
「あの、第1王子はどうなんですか?」
ふと気になった事を聞いてみた。
だが途端に、さっきまで嬉しそうだった騎士の顔が嫌悪感に染まった。
「申し訳ありませんが、あの人ははっきり言って駄目です。あの御2人とは対照的に、第1王子は本当に我儘で、王都を始めとする街に出ては必ず揉め事を起こし、気に入った女性を見つけると無理矢理にでも連れ帰ろうと拉致同然の事をしたり、店の商品を代金を払わずに徴収と言って奪い取ろうとして……もう国民はあのヘラル王子の我儘についていけない状態です。ですが、いずれもルドルフ王子やアンリエッタ王女が一緒にいたので、何とか未遂に済ませる事が出来ましたが、既にあの王子を支持する国民はいないでしょう。ですから、我々はルドルフ王子かアンリエッタ王女が次期王になる事を強く望んでいるのです」
騎士――国民のヘラル王子への印象は、まさに最悪の一言だった。
ここまで来ると、流石に同情を覚えそうなレベルだが、完全にあの王子の自業自得といえる内容なので、僕は敢えて同情しない事にした。
その後僕達は誘拐犯の男達を連れて、王都へと戻った。
帰りは街を出てある程度経った所で男達を気絶させてから、空間魔法で王都の少し手前の所へ転移し、王都へは簡単に帰れた。
いきなり転移して騒がれても面倒だからだ。
王都に戻って最初に訪れたのが冒険者ギルドだ。
ギルドに入るとタイミングよくリーゼさんがいた為、僕達は事情を話し、ギルドマスターへの面会を頼み、男達を連れて会議室へと移動した。
ギルドマスターを待ってる間に男達は起こしておいた。
だが、意識は戻っても縛られている為、変な動きはできず大人しくしていた。
彼らの従魔達も、イリスさんが使ったマジックアイテムによって抵抗できずにいる。
少ししてギルドマスターが入ってきた。
「待たせたな」
ギルドマスターはそう言って、僕達がとらえた誘拐犯の男達に視線を移した。
「こいつらか。此度の行方不明事件、いや、誘拐事件を起こしていた連中の仲間ってのは?」
尋ねられた僕は頷き、答えた。
「はい。そしてこいつらは、裏組織の黒の獣の一員の様です。コレットの従魔のアインの能力で自白させたので、間違いないです」
同時にエルネスタの街での事を報告して、こいつらが子供達に何をしたのかを話した。
ギルドマスターは男達に鋭い視線を向け、口を開いた。
「よお、お前さんら。儂はこの王都の冒険者ギルドのギルドマスターだ。お前達はこれから王城で尋問される。お前達がなぜこの事件を起こしていたのかを徹底的にな」
既に逃げる事は不可能だと悟っていた男達は成す術なく頷いた。
男達とその従魔を城の騎士団に引き渡した後、僕達はギルドマスターと今後の話し合いをしていた。
「すまんが、お前さん達に頼みがある。黒の獣のアジトがあるゼルギアスの滝に行って、黒の獣のリーダーのべオルフを始めとする構成員の討伐、又は捕縛、そして誘拐された者達の救助を頼みたい」
ギルドマスターの頼みは、ある程度予想通りの内容だった。
確かに、張り込み捜査をするといった当日に行方不明事件が起こったが、それを瞬時に対応し事件を起こした者達を捕縛し、誘拐された子供達を救出し、更に事件を起こしていた組織とその拠点まで突き止めたんだ。
これだけの実績を出して、僕達に組織の討伐を頼まない人はまずいないだろう。
ふとお父さんに視線を移すと、お父さんはコクッと頷いて僕が代表で話をする様に目で訴えた。
「分かりました。その頼み、僕達が引き受けます」
「すまねえな。本来なら他の冒険者や騎士にも連絡を取って共同で行いたい所なんだが、今回は相手が違う。何せ相手は長い間アルビラ王国に巣食っていた巨大な組織だ。特にリーダーの『黒牙』のべオルフは別格だ。あいつは単純な強さならSランクの冒険者にも匹敵し、かなり強力な従魔も連れているという情報がある。だから、これはかなりの実力者が行った方が確実に討伐できる。そこでお前達に頼みたいのだ」
「そういう事でしたら、僕達で宜しければ喜んでお引き受けしましょう」
僕の答えに、ラティやお父さん達も全員頷いていた。
皆僕と同じ考えだという事だ。
「有り難い。だが今日はもう夕暮れが近い。行動開始はお前達で決めてくれ。儂はこの事を城へ行って国王に報告してくる」
僕達はその後、家に戻り明日にゼルギアスの滝へ行く事を決めた。
場所は幸いにもお母さんが知っていて、以前に素材集めで近くまで行った事があるそうなので、お母さんのディメンジョンリングで移動する事が決まった。
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その夜、ここは王城のとある一室。
そこに、2人の人物がいた。
1人はこのアルビラ王国の第1王子のヘラル。
もう1人は月夜の陰で顔まではよく見えなかった。
「報告します。本日エルネスタの街で、誘拐事件を実行した者達が、暁の大地、赤黒の魔竜、そして例の平民冒険者の銀月の翼に捕らえられたと、陛下への報告がありました」
「何だと!? 奴らがエルネスタの街へ調査に行くと決めたのは、昨日だった筈だ! この王都からエルネスタの街までは馬車でも1週間は掛かる筈なのに、何故奴らはたった1日でそんな事が出来たのだ!?」
ヘラルは誘拐犯が捕まった事に、酷く狼狽していた。
「はっ。どうやら連中は、『雷帝』の従魔の竜神と赤黒の魔竜のリーダーの従魔の古竜に乗って、空から直接移動してきた模様です。そして、到着してすぐに行方不明事件が起こり、奴らは実行犯に辿り着く事に成功し捕縛、誘拐された6人の子供を保護し街へ戻った後で実行犯を尋問し、彼らの素性を知った模様です」
「くそっ! 素性を知ったという事は、奴らは黒の獣の存在の知ったという事か!」
「はい。そして、近い内に暁の大地、赤黒の魔竜、銀月の翼による、黒の獣の掃討作戦が決行されるという事も報告されました」
その報告を聞いて、ヘラルの焦燥はより激しくなった。
「何だと!? それでは奴らに先を越されしまうではないか! 何の為に半年掛けてこの計画を進めたのか!」
ヘラルのその様子を見て、男はある事を思いついた。
「殿下、まだ奴らが動いた訳ではありません。予定より早いですが、ここは計画を最終段階に移した方が得策でしょう」
「……そうだな。本当なら国内全ての街から行方不明者を出してから動く手筈だったが、こうなっては仕方あるまい。すぐに準備に取り掛かれ。それから、スコットの用意もしておけ。最終計画の決行は明日の朝だ」
「承知しました。では、失礼します」
男はそう言って、部屋から去っていった。
「絶対に成功させて見せる。私は、必ず王になるのだ。ルドルフやアンリエッタ如きに次期王の座を渡してたまるか。見ていてください、ヴィダール先生。必ずや、この私がこの国の次期王になって見せます。そして、必ずあなたを……」
ヘラルは窓から夜空に浮かぶ月を見て、呟いた。
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次回予告
黒の獣の掃討作戦を決行するべく、ユーマ達はゼルギアスの滝へと赴く。
そして黒の獣との全面対決が始まる。
次回、掃討作戦
次回は明日更新します。
今日で連続投稿は終了となります。
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今後の更新の方針ですが、投稿する度に次回の投稿の日時は表記します。
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これからも応援よろしくお願いします。