第91話 黒の獣
前回のあらすじ
旅芸人は本性を出し、ユーマ達と交戦しようとしたが、ユーマ達の正体に気付き戦意喪失して降伏する。
荷馬車の中を調べると、いなくなった子供達がいて、奴隷の首輪を着けられているのを目撃し、この行方不明事件が誘拐事件だという事を知った。
街に戻ると、門番兵が荷馬車の中を確認し、拘束された誘拐犯を見て驚いていた。
その門番にとっては、こいつらはつい先程この街を出た旅芸人という認識だったからだ。
僕達はすぐに事情を説明し、この男達が例の行方不明事件に関係している事を話すと、門番は驚愕した。
「何ですって!? この人達があの行方不明事件の!?」
その証拠に、僕達の馬車に乗せている子供達を見せ、その首に着けられた首輪を見ると、僕達の言葉を信じたのか誘拐犯達に怒りを抱いた。
何とか門番を宥めて、僕達は再びエルネスタの街に入る事ができた。
街に入って最初に目に入ったのが、僕がジェニーちゃんを探し出すと約束した、彼女のお父さんだ。
その横には奥さんらしき女性もいた。
男性は僕達を見て、何故か不安そうな顔になった。
「おお、お前さん達。どうしたんだ? まさか……あいつらに逃げられたのか?」
どうやら男性は、僕達が誘拐犯に逃げられて、1度街に戻って来たと思っている様だ。
「いいえ、その逆です。僕達はちゃんと約束を果たしました」
そう言うと、ラティとエリーさんが馬車から1人の子供を降ろした。
ジェニーちゃんだ。
「ジェニー!」
「ジェニー! 無事だったのね!」
「パ……パパ……マ……ママ。パパ~~~~~!! ママ~~~~~!!」
ジェニーちゃんは真っ直ぐ2人の下に走り出し、2人も走り出した。
そして、ジェニーちゃんは2人に抱き着き、2人もまたジェニーちゃんをしっかりと抱きしめた。
更に、僕達は馬車から他の子供達を降ろすと、近くにその子達の親がいた為、すぐに子供達は親の元へと行く事ができた。
おそらく、あのジェニーちゃんのお父さんが他の子供達の親の下を駆け回ったのかもしれない。
子供達を親元に送り返した後、僕達は捕まえた誘拐犯達を騎士団の詰所へと連れて行って、彼らの尋問に加えさせて貰った。
本来はこの手の仕事は騎士団が中心に執り行うのだが、今回は半年前から行方不明事件が出ていて、僕達がその関係者かもしれない者を捕縛したという功績から、是非僕達にも参加して欲しいという騎士からの要請があった為、こうして詰所にいる。
尚、従魔達は外でお留守番だけど、アリアはミニサイズになって、アインは掌サイズなので、2人は一緒にいる。
「さて、お前達は何者だ? 何が目的で子供達を誘拐したんだ?」
「…………」
騎士は蛭を従魔にしていたリーダー格の男に質問したが、男は生意気にも黙秘権を使いダンマリだった。
「貴様、自分の置かれている状況が分からないのか? 大人しく情報を吐けば、悪い様にはしないぞ」
「あの~、それ悪人が言うようなセリフなんですが?」
お母さんの騎士が言ったセリフに対する指摘に、僕達はうんうんと頷いてしまった。
でも同時に、騎士のセリフにも一定の理解をしてしまった。
何故なら、このまま男がダンマリを続けると、いつまでも手掛かりを得る事はできないからだ。
ましてや、こいつはやっと捕まった情報源になりそうな存在なんだ。
だから、騎士が思わず悪人の様なセリフを言ってしまったのも無理はないかもしれない。
「まあ、このままじゃ埒が明かないし。コレット、悪いけどお願いできる?」
「勿論よ。アイン、行くわよ」
「分かったわ。じゃあ、アリア、行ってくるわね」
『行ってらっしゃいませ、お姉様』
アリアに見送られて、コレットとアインは男も前に来た。
そして、アインは男の上を飛び、翅から鱗粉を撒き散らした。
実は騎士達には既に、アリア達の事は話してある。
よって、アインがティターニアである事も分かっている為、先程の実績に加えてこうして尋問に参加する事ができたのだ。
そして、今アインが撒いている鱗粉は、かつてレイザードを失脚させる決め手となった自白の鱗粉だ。
これを吸った者は聞かれた事や心の内の事を全て話す作用がある為、これでもう黙秘権は使えなくなる。
その鱗粉を吸った男に、変化が現れた。
「俺は……俺達は……黒の獣の一員だ」
鱗粉の効果がすぐに表れ、男は自分達が所属している組織らしい名前を喋った。
「何!? 黒の獣だと!?」
これに反応したのはお父さん達だったが、騎士達も反応し、僕達銀月の翼やゼノンさんとイリスさんはよく分からなかった。
「お母さん、黒の獣って?」
傍にいたお母さんに尋ねてみた。
「アルビラ王国に巣食っている巨大な犯罪組織の事よ。リーダーの『黒牙』の異名を持つべオルフという男は、狡猾でどんな汚い仕事もやる危険な男という話で、長らくその組織の足取りも掴めなかったんだけど、まさか黒の獣がこの事件に関わっていたなんて」
やっぱり巨大な犯罪組織が関わっていたのか。
でも、まだ目的を聞いていない。
その事を聞いてみると、
「俺はその組織の下っ端を束ねる末端の人間だから、正確な目的までは聞かされていない。ただ、この仕事はボスの命令で動いていた」
男の口からはある程度の情報が得られた。
そして話を纏めると、こうなった。
まずこいつらは組織の末端の人間で、中枢の者を通してボスのベオルフの命令で各街から人を攫っていた。
その際には大きく3種類の人間に偽装していた事も分かった。
まず成人したばかりの若者には役所の人間や就職先の使いなどを名乗って、幼い子供達にはこいつらの様な旅芸人を装って、そして新人冒険者にはその組織に所属している冒険者崩れの人間を先輩冒険者として偽装、接触させて誘拐していた事が分かった。
そして誘拐した者には、ジェニーちゃん達の様に奴隷の首輪を嵌めて抵抗できなくさせて、アジトへと攫っていた事も分かった。
「それで、そのアジトは何処にあるんだ?」
騎士の質問に、男は答えた。
「ゼルギアスの滝の裏にある洞窟だ」
そして、今まで足取りが掴めなかった黒の獣のアジトの場所まで分かってしまった。
「成程。確かに、あそこは巨大な滝が止まず降り注ぎ、基本的に人は立ち寄らない場所だ。そこならアジトを構えるのにうってつけの場所だな。しかも、今までその足取りが掴めなかったのもその場所をアジトにしていたとしたら、おかしくはない」
お父さんは顎に手を当てて、その滝のある場所を思い出しながら推測した。
「とにかく、この事件を起こしていた者達の正体が掴めました。すぐに王都に戻って、ギルドマスターに報告しましょう」
ゼノンさんの言葉で、僕達は次に起こす行動を決めた。
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次回予告
王都に戻る際、ユーマはルドルフとアンリエッタの所業と功績を知る。
そして王都のギルドで、今後の計画を立てる。
次回、王子と王女の評判