第90話 行方不明事件の真実
前回のあらすじ
子供が行方不明になった事で、ユーマはその心配する親に前世の自分の家族を思い出す。
その親に必ず子供を見つけ出すと約束し、街を出た旅芸人を追う。
そして、その旅芸人の馬車から、人間の魔力を探知した。
「聞けば、旅芸人は4人だそうです。それは今そこにいるあなた達4人で丁度合っています。でも、その荷馬車の中からはそれとは別に微弱だけど人間の魔力を感じます。恐らく魔力の感知を阻害しているかもしれないのですが、僕には通じなかった様ですね。さて、これはどういう事ですか?」
あの馬車からは微弱だが人間の魔力が感じられた。
だがこの微弱具合だと、マジックアイテムか何かを使って怪しまれないようにしていた様だが、僕みたいな高度な探知魔法の使い手には効かなかった様だ。
そして、男達の様子が変わった。
「ちっ! まさかここで足がつくとはな。あの貴族は何をやってんだか」
「まあいい。ここでこいつらを始末すりゃいいだけだ。幸いにも相手は10人だ」
「ああ、魔力探知され難くさせるマジックアテムを使っていたが、それを突破できる程の探知魔法の使い手がいるのは誤算だったな。だが、こいつらを纏めて殺っちまえばなんて事はねえ」
「しかも女共はどれも上玉だ。男は皆殺しにして、女共はあいつらへの土産にしようぜ」
奴らは本性を出した途端、勝手な事を口走っていた。
『あなた達、どうやら私達と戦うおつもりの様ですが、まさか私とスニィさんを相手に勝てると思いなんですか?』
全員が降りたのを確認してから、アリアが口を開いた。
確かに、こいつらはまだアリアが竜神だという事には気付いていない様だけど、それでも巨大な竜、それも2匹を前にしてこの余裕。
何か策でもあるのか?
「この竜が喋れるという事は、大方古竜種だろうが、生憎俺の従魔なら倒せるんだよ! 殺っちまえ、ギロ!!」
男の1人が合図したのと同時に、アリアの足元の地面から1つの影が飛び出し、アリアの首に喰らいついた。
その正体は3メートルはある巨大な蛭の魔物だった。
「そいつは俺の従魔、ギガントリーチのギロだ! その巨体から1分もあれば竜だろうと全身の血を全て吸い尽くす、Aランクの魔物だ! これでお前の相棒の竜も、もうじきミイラになっちまうぜ!」
成程。
こいつはAランクの魔物と適合していたのか。
それにアリアを古竜と勘違いしている様だし、それならあの余裕も納得だな。
『ですが、その吸血も出来なければ問題はありませんね』
「えっ?」
男はもう1度ギガントリーチを見てみると、そのギガン……もう蛭でいいかな。
蛭が喰らいついているアリアの首を見ると、蛭は必死に歯を立てているがアリアの鱗を破れず、ひたすら体をピチピチと動かしているだけだった。
にしても、古竜をもミイラにするらしい魔物に喰らいつかれても、全く吸われていない辺り、流石が竜神と言った所だね。
まあ、以前デビルスコーピオンの毒も通さなかったから、それも当然とも言えるのかも知れない。
「えっ? ……ギロ、どうした? 早くその竜の血を吸えよ」
男は現実が理解できないのか、蛭に尚も命令を出した。
蛭もより力を入れているみたいだが、やはりアリアの鱗を食い破る事は出来なかった。
正直そうやって体をピチピチさせてる所を見ていると、気持ち悪い事この上ないな。
『そろそろ鬱陶しくなってきたので、排除させて貰いますね。ああ、これは先に攻撃されたので、私の正当防衛となりますので、恨まないでくださいね』
アリアはそう言って右足をまるでハエを払う様に動かし、蛭は何が起こったか分からないままバラバラに切り刻まれた。
「へっ? ……ギロ?」
男はその一瞬で何が起こったのか、反応が遅れたがすぐに狼狽し始めた。
「悪いけど、切り札の従魔は斃させてもらった。大人しく降伏するんだな」
お父さんも背中の大剣を抜き、男達に向けている。
お母さん達も自身の武器を構え、いつでも戦える様にしている。
「いっ……いい気になるなよ! ギロがやられたのは想定外だが、俺達を舐めんじゃねえぞ! 行くぞお前ら!!」
「「「おおう!!」」」
男達は一斉に槍や鉤爪、刀身が大きく湾曲した剣、ショーテルにロングソードを抜いて構えた。
更に馬車から残りの従魔らしき、CランクのキラーウルフにCランクのホブゴブリン、コボルトが出て来た。
「降伏するつもりはないか。クレイル、お願い」
「オッケー。さあ、出番だぜ、皆!」
クレイルは亜空間を開き、そこからレクスやバルバドス達を出現させた。
それに合わせ、クルスも元の姿に戻った。
「なっ……!? 何だこいつら!? 何もない所から、突然出て来たぞ!」
「それになんだよ、この従魔の面子は!? グリフォンにヴァンパイアバット、それによく見るとスターダストウルフにクラウドフォックスまでいるじゃねえか!!」
「てか、ちょっと待てよ。こんな高ランクの魔物を従魔にしているパーティーっていえば……」
「だぁぁぁぁぁ!! こいつら、よく見たらあの暁の大地がいるじゃねえか!!」
「それに竜とヴァンパイアバットの組み合わせって事は、もう2人は赤黒の魔竜か!」
「何!? 何でこんな所に『竜闘士』に『紅の魔女』がいるんだよ!?」
男達は従魔の姿から、お父さんやゼノンさんの正体に気付いた様だ。
因みに『竜闘士』はゼノンさんの、『紅の魔女』はイリスさんの異名の事だ。
2人は半年前にAランクの昇格し、それから間もなくにこの異名を賜ったらしい。
また参考に言うと、お父さん達にも異名がある。
お父さんは『剣聖』、お母さんは『導師』、ダンテさんは『一閃』、エリーさんは『魔鏡』という異名を持っている。
だが基本は従魔のバルバドス達の存在ですぐにわかる為、お父さん達の場合は異名よりも従魔の存在が大きいという事もある様だ。
「それにこのグリフォンと竜の組み合わせって事は、まさかこのギロをやった竜はあの竜神なんじゃ!?」
「何だと!? それって、10年位前にアルビラ国王が後ろ盾になったっていうあのガキ共か!?」
「何でそんな奴らが!?」
4人の男達は僕とラティの正体にも気付いた様で、戦意を喪失しそうな感じになった。
従魔もアリア達という、自分らよりも高位な存在の魔物が10体も目の前に現れた事で、既に闘争心が失われ、目に活気すら宿っていなった。
やがて、男達は手にしていた武器を地面に置き、降伏の姿勢をとった。
「……降参するよ。これ程の面子を相手に、勝てるなんてもう思っていない。好きにしな」
僕達は罠の危険性も考慮し、慎重に縄で縛っていったが、意外にも呆気ないくらいに男達の捕縛は進み、従魔もイリスさんが持っていた魔物を大人しくさせるマジックアイテムを使って大人しくさせた。
これは王都のギルドマスターが何かあった時の為にと、予めイリスさんに渡していた物だ。
「よし。これで捕縛は完了だ。あとはあの荷馬車の中身だ」
お父さんの言葉に頷き、馬車へは僕とクレイル、ゼノンさんで調べる事にした。
馬車に乗り込み、荷を調べると、信じられない光景が広がっていた。
荷馬車の中は檻の様になっていて、中には6人の5歳に届くかどうかの子供達が入れられていた。
しかも、全員首に首輪の様な物が着けられていた。
「……っ!!?」
子供達は入り口から入ってきた日差しに反応し、僕達の存在に気が付いたが、皆ビクッとして怯えていた。
「怖がらなくていいよ。僕達はあの4人の仲間じゃない。処で、この中にジェニーちゃんって子はいるかな? いたら教えてくれない?」
僕はなるべく怖がらせない様に優しく声をかけ質問をすると、1人の女の子が恐る恐る手を挙げて答えた。
「あ……あ、の……あたし、が……ジェニー……です……」
ジェニーと答えた子は、掠れる様な声だが何とか返事してくれた。
僕はゆっくりと近づき、腰を下げて目線を合わせた。
「君がジェニーちゃんだね? 僕はユーマ。冒険者だ。僕達は、君のお父さんから君を探してくれと頼まれて、ここまで来たんだ」
「パパが……?」
「うん、そうだよ。それで、ここにいる他の子達は、ジェニーちゃんのお友達で合ってるかな?」
「うん……あたし、達……あの人達、の大道芸を見ようと……皆と一緒……に見に行ったの……でも……見ていたら、急に眠くなっちゃって……気が、付いたら……皆、ここにいて……首に変なの、着けられて……それで……あの人達に……逆らえなくなって……」
それを聞いて、ゼノンさんがジェニーちゃん達に着けられた首輪を調べた。
「ユーマ殿、どうやらこれは奴隷の首輪の様だ」
奴隷の首輪、奴隷堕ちとなった者に着けられる奴隷の証と言えるマジックアイテムだ。
この首輪を着けられた者は、主人に設定された者に一切逆らえなくなり、反抗的な態度をとると首輪から途轍もない激痛が入る。
そして、その激痛が長時間継続すると、その者は最悪命を落としてしまう。
又かつて、ヴィダールが僕達を手中に収めようとした際に、密かに手に入れていた物でもある。
「そんな物を、こんな小さな子供達に……」
それを聞いて、僕の中であの4人に対する怒りが湧いてきた。
それに、あの4人はどう見ても奴隷商人じゃない。
何故なら、奴隷の首輪を持ってる者は大きく分けて2種類に分けられる。
1つ目は正規な奴隷商人。
2つ目は裏ルートといった違法などの方法で入手した裏組織の人間や、盗賊などの犯罪者だ。
そしてあの4人の従魔といい武器といい、あれはとても奴隷商人とは考えにくかった。
つまり消去法に、あの4人は後者だという事になる。
「でもこれで、この行方不明事件の闇が掴めたな」
「うむ。これは行方不明を装った、誘拐事件だ。そして、行方不明となった者に、この奴隷の首輪を着けて逆らえなくしたのだ」
確かにこれは大きな、それも非常に最高の進歩だ。
何より実行犯の4人を生け捕りにできた事が大きい。
あいつらを尋問して正体を聞き出す事ができれば、この事件を起こした者へと近づける。
「ユーマ、これからどうする?」
「一旦、エルネスタの街へ戻ろう。この子達を親御さんの所へ戻さなきゃ。ゼノンさん、この子達の首輪を外す事はできますか?」
「その心配はない。正式な奴隷商人か教会の司教に頼めば首輪を外してくれる。本来なら奴隷解放にはそれなりの金がかかるが、この子達は間違いなく違法奴隷。そして、この行方不明事件の全貌を知る機会という事態なら、無償とまでいかなくても料金がかからないかもしれぬ」
「それなら、すぐにエルネスタの街へ引き返しましょう」
僕達は馬車の外に出て、お父さん達に中での事を話した。
結果、皆この事件の真実や子供達にした仕打ちを知って、男達に凄まじい殺気を向け、男達はその殺気にあてられ泡を吹いて気絶したり、失禁したりしていた。
僕達は男達を自分達が使っていた荷馬車に入れて、子供達を僕達の馬車に移し、荷馬車をレクスとバルバドスに繋いでエルネスタの街に戻った。
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アリアの凄すぎる所
その14、強力な吸血生物の吸血が効かない。
魔物情報
ギガントリーチ
3メートルはある巨大な蛭の魔物。Aランクの魔物であると同時に、第二級危険生物に指定されている。その巨体から1分もあれば古竜の血も全て吸い尽くすほどの吸血能力を持っている為、従魔に適合した場合は扱いに注意しなければならない。討伐証明部位は口。
キラーウルフ
狼の魔物でCランク。群れを作らず1匹で生きる習性を持ち、高い俊敏性を持つ。知能も高く、じわじわと得物を追い詰め心身共に弱らせて仕留める戦法を得意とする。討伐証明部位は尻尾。
ホブゴブリン
ゴブリンの上位種のDランクの魔物。通常のゴブリンの倍近くの身長があり、その分ある程度の知性も発達している。また、築いた集落の規模ではボスを担う事もある。討伐証明部位は右耳。
次回予告
子供達を救出したユーマ達は街に戻り、子供達を親元に戻す。
その後捕らえた誘拐犯達の尋問を開始し、首謀者の存在を聞き出す。
次回、黒の獣