第89話 必ず見つけます
前回のあらすじ
アリアとスニィに乗ってエルネスタの街へ飛ぶ道中、ユーマ達は竜族のレジスト魔法について教えてもらう。
そして街につき捜査を開始しようとした時、叫び声が聞こえた。
「お父さん!」
「ああ! 行ってみよう!」
僕達は叫び声が聞こえた所まで走って移動した。
駆け付けてみると、そこでは1人の男性が周りの人達に何かを尋ねまわっていた。
「うちのジェニーを見なかったか!?」
「いや、今日は見ていないな」
「そっちのあんたは!?」
「ごめんなさい、見ていません」
その男性はそう言いながらその一帯を走り回っては尋ねてを繰り返していた。
質問を聞いている限り、「うちのジェニー」という事は、どうやらあの人の子供がいなくなった様だな。
僕はその男性に歩み寄った。
「あの、ちょっとよろしいですか?」
「あんたは?」
僕は名乗りつつ目的を話す事にした。
「僕は冒険者のユーマです。実は、今この国で起こっている行方不明事件を調査する為に、まだ行方不明者が現れていないこの街を調査に来たんですが、その時にあなたの叫び声が聞こえたんです」
それに合わせて、隣にラティが寄ってきた。
「何があったか、詳しくお聞かせ頂けないでしょうか? お願いします」
男性はさっきまで焦っていたが少し落ち着いたのか、ゆっくりとだが口を開いた。
「実は、うちの娘のジェニーが朝から遊びに出ていたんだ。いつもなら昼ご飯の時間には帰って来るんだが、いつまで経っても帰って来なくて……少し気になった俺はいつもジェニーが友達と遊んでいる広場に行ったんだ。そしたら、その広場にはジェニーだけじゃなく他の子供達もいなかったんだ。勿論その子供達の親の所や他の遊び場も見た。だが、何処に行っても誰もいなくて、それで俺はこうして周りの人達を尋ねていたんだ。今他の親達も探しているが、全然見つからなくて……」
「そうですか。それで、そのジェニーちゃんって何歳ですか?」
「もうすぐ5歳になる。他の子供達も同じくらいだ」
どうやらこの街の行方不明者は、幼い子供の様だな。
でも、朝にはまだこの街にいた様だから、もしかしたらまだ間に合うかもしれない。
「分かりました。なら、僕達がジェニーちゃん達を探して見せます」
「えっ? あんた達が?」
男性は僕の言葉に、目をこれでもかとパッチリさせていた。
「そう言って貰えながらこんな事聞くのは失礼だが、何であんたらはそんな約束をしてくれるんだ?」
今度は僕が目をパチクリしてしまった。
そんな事、決まってる。
「困ってる人がいたら、手を差し伸べる。そんなの、人として当たり前でしょう。僕は人間として当然の考えをしたまでです」
僕の言葉に、男性はぽろぽろと涙を流して、僕の手を握ってきた。
「ありがとう……よろしく頼む……ジェニーは、やっと生まれた俺達の大事な娘なんだ……俺達は30近くまで子供が出来なくて……ジェニーはそんな中で生まれた、大切な宝物なんだ……必ず見つけてくれ……頼む……」
「任せてください」
そこに、話を聞いていたクレイルが、僕の肩に腕を回してきた。
「随分とかっこいい事言ったな、お前」
「正直自分でも恥ずかしいと思ってるよ……でも、僕には他人事に思えないんだ。あのおじさんの言葉を聞いてね」
あの男性が言っていた、「やっと生まれた大切な宝物」という言葉。
これを聞いた時、僕の前世の家族を思い出してしまった。
前世、僕が岩崎悠馬だった頃、僕の母方の家系は所謂女系家族だった。
母方の祖母が産んだ子供は、母と母の姉――つまり叔母だけで男子は生まれなかった。
その叔母が後に結婚して子供が生まれたけど、その子供も女の子1人だけだった。
そして後に母が前世の父と結婚して、後に僕を身籠った時、産婦人科の超音波診断で確認して僕が男の子だと知った時、祖父母と叔母、それに父は飛び上がる程喜んだそうだ。
やがて生まれた僕は、それはそれは祖父母や叔母達から大事に育てられた。
唯一の男の親族であり、やっと生まれた男の子として……。
だから、あの男性の言葉を聞いた時、僕の中にあった前世の家族の記憶が蘇り、必ずジェニーちゃんを見つけてやろうと僕の中で決心がついた。
「だから、これ以上行方不明者を出さない為にも、絶対に探し出そう!」
「ああ、そうだな」
そこに、話を聞いていたお父さんが聞いてくる。
「それでユーマ、何か探し出すアイディアがあるのか?」
「勿論、考えてあるよ」
僕は男性に再び向き合い、そう尋ねた。
「すみません。最近、この街で何か変わった事はありませんでしたか?」
「そういえば、1週間くらい前から、この街に4人の旅芸人が来ているんだ。その人達の芸が街の子供達に好評でな」
その言葉に、ある可能性が出て来た。
その旅芸人が怪しいという可能性に。
「もしかして、そのジェニーちゃん達もその旅芸人の芸を見ていたりしませんでしたか?」
「ああ、ジェニー達はその旅芸人の芸を見るのを楽しみにしていたんだが……まさか!?」
男性は僕の質問の意図に気が付いたのか、声を上げた。
「もしかしたら、その可能性があります。今からその旅芸人の所に向かいましょう!」
僕達は街の人達からその旅芸人の事を聞き、その旅芸人達は先程次の街を目指して出発したと聞いた。
僕達は城壁をを出て、その旅芸人を追うべく馬車を出した。
先を急ぐ為、一旦レクス達をクレイルの亜空間に入れた。
「ユーマ殿、その旅芸人が何処へ行ったのかは分かるのか?」
「大丈夫です。街を出たのがついさっきなら、馬車でもそれ程遠くへは行っていない筈です。後は、僕の探知魔法で探し出してアリア達で空から追えば、大丈夫です」
僕はすかさず探知魔法を発動させ、目標を探した。
僕の探知魔法は以前と比べて、格段と範囲が広くなった。
これはロストマジックの修業の段階で、空間魔法を行使する際の膨大な魔力量を制御する為と、その魔法を使う為に探知魔法での空間認識能力を高める訓練で、今まで以上に魔力制御が上達し、それに比例して探知魔法の探知範囲が格段に拡張されたからだ。
その範囲は、ざっと半径20キロはあると思う。
その結果、目の前の街道から3キロ程先に複数の魔力反応があった。
その反応は人の魔力で従魔の魔物の反応もあったが、それよりも人の魔力が多かった。
その数から僕の推測が現実になった事を教えてくれた。
「見つけた。でもこの反応は……皆、どうやら僕が懸念していた、最悪のケースみたいです」
「「「「「「「「「ッ!!」」」」」」」」」
その言葉に、全員が険しい表情になった。
「なら、早く追いかけよう。このゴーレムが引いた馬車なら、確実に追いつける!」
「いや、それよりも、空から追いましょう」
より確実に、それですぐに追いつく為に僕は一旦馬車を収納し、代わりにアリアとスニィに元に戻って貰い、僕達は2匹の背に乗って反応があった方角へと飛んだ。
少しして、目と鼻の先といった距離で1つの荷馬車が見えた。
大きなコンテナとでもいう様な荷馬車に、3頭の馬を繋いで走らせている。
そしてその荷馬車の中から、さっき僕が感知した魔力を感じた。
「あれだ。あの荷馬車が反応があった奴だ」
僕の言葉に、全員の目がその荷馬車を捉えた。
「アリア」
『分かっております。あの荷馬車の目の前に降ります。行きますよ、スニィさん』
『はい』
アリアとスニィはその巨体から出る風圧で馬車を吹き飛ばさないよう、レジストの魔法を応用して周囲の風圧を極限まで減らして降りた。
だが向こうからしたら、突然目の前に空から巨大な竜が2匹も現れた様なものだけどね。
案の定、馬車に乗っていた4人の男達はかなり驚いていた。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!! 何だ!!」
「なんでいきなり空から竜が降って来るんだ!!」
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! 食われる!!」
『『誰が食いますか!!』』
「「「「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!! 喋ったぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」」」
1人の言葉に、2匹は息を揃えて突っ込んだ。
お見事です、アリア、スニィ。
そして男達は2匹に乗っている僕達に気付き、声を上げた。
「おっ、お前達は誰だ!? 俺達に何か用か!?」
ここは1番ランクが高い事と、冒険者としての経験豊富さからお父さんが代表で声を出した。
「俺達は冒険者だ。今この国で起きている行方不明事件の事は知っているか?」
その質問に、男はビクッと反応したのを僕達は見逃さなかったが、ここは我慢して様子を見た。
「あっ……ああ。その事件の事なら聞いた事はあるぜ」
「俺達は先程までこの先のエルネスタの街にいたんだが、その街で子供が行方不明になったんだ。それで、お前達はエルネスタの街にやってきた旅芸人で合っているか?」
その言葉に、男達は一瞬ギクッと反応した事を、僕達は見逃さなかった。
「確かに、俺達は旅芸人だ。だが、それが何だというんだ?」
「実は、その子供が行方不明になったというのと同時に、お前達がつい先程エルネスタの街を出たという情報があってな。聞けば、その子供はお前達の芸をよく見ていたそうで、その子供がいなくなったのと同時にお前達が街を出た事が何か気になってな。こうして追いかけて聞きに来たんだ」
「おいおい。まさか俺達を疑ってるのか? 生憎だが、この荷馬車の中身は芸に使う大道具や小道具しか入っていない。それに、そのいなくなった子供がどんな奴なのかは知らないんだぞ。だから変な言いがかりはやめてくれ」
男は強気にそう言ってきたタイミングで、僕はアリアから降りて、その荷馬車を指さして尋ねた。
「へえ~。道具だけですか。じゃあ聞きますが、何でその荷馬車の中から、複数の人間の魔力が感じるんですか?」
その指摘に、男達の表情が固まった。
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次回予告
ユーマの指摘を聞いた男達は様子が急変する。
そして、馬車の中を調べた時、驚きの光景を目にした。
次回、行方不明事件の真実