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05 哀れで、可哀想な、メイド少女だ



「あ、団長。どこに行ってたんですか。探したんですよ!」


「ああ、悪い悪い」


 トワ第二王女り屋敷でご飯を食べた俺は、アザトールが空間を繋げて強制的に王城まで戻された。

 体験して分かったが、時空間魔法って便利だな。

 長距離とか一瞬で移動できる。まあ、このレベルの魔法を使えるのは、アイツぐらいだろう。

 それにしても妙に騎士団が慌ただしい。


「おい。何かあったのか?」


「あったんですよっ。王都の中心区の路地裏に、植物人間――Cランクモンスターが現れたんです」


「植物、人間」


「そうですよっ。王都の中心部にモンスターが、しかもCランクが現れたって大騒ぎですよ」


「死者と怪我人はどうだ」


「幸いにして0です。運良く、いや、彼女たちからすれば、運悪くですかね。田舎から出てきた冒険者の姉妹が遭遇したみたいで、苦戦したようですけど、なんとか撃退したようです。これにしては、目撃情報が幾つかあるので問題ないでしょう」


「――そうか」


 違うか。

 植物って言うからには、あのバケモノが育成した植物が逃げ出したのかと思ったが、田舎から出てきた冒険者に斃された聞く限りは別口か。

 アイツが屋敷の庭で育てている植物を「アナライズ」した所、多少ばらつきはあるが全部がレベル1000ステータスALL1,500,000越えていた。

 もしあそこに居るのが逃げ出したら、王都はたちまち地獄へと変わるだろう。

 キチンと管理するように願うしか無い。俺はアレをどうこうできるなんて思ってない。もし出来るとしたら、トワ第二王女だけだが。

 ……何考えてるか分からない子だったな。


「今は植物人間の侵入経路を、冒険者ギルドと協力して探している段階です」


「――マリオ。お前ってほんと優秀だな。なんなら、副長と団長を交換しようか?」


「面白くない冗談言う暇があれば、これを王へと届けて下さい。一報は入ってるでしょうが、現時点の一連の事に関する詳細を纏めたモノになります」


 マリオ・ルイージ。

 騎士団副団長。

 まだ20代と若いが、文武両道の将来性が楽しみなヤツだ。

 本当に優秀だ。マリオがいるだけで、負担が7割減る。いや、俺が仕事をしてないだけか。

 きちんと仕事したいが、これからはあのバケモノと関わらないと駄目なんだよなぁ。

 ああ、胃が痛い。


 マリオから報告書を受け取り、王城内部へと入る。

 ギルバートが居るのは、この時間は執務室か。

 王都内にCランクモンスターが現れたということもあり、騎士団の団員が警備のために、何時もより多めに巡回していた。

 モンスターは自然発生はしない。そこに現れたと言う事は何かしらの理由がある。

 向こうが囮で、王城が本命って事は十二分にあり得る。


「ルドラ団長。ギルバート王は天空神の間に居ます。万が一の為に、そちらへ移動して頂きました」


「分かった」


 執務室に向かっていたところ、団員の1人がそう言ってきた。

 確かにあそこは安心だな。

 天空神の間は、転移魔法陣でしか行けない場所にある。

 俺もあそこには数えるぐらいしか言った事がない。

 転移魔法陣がある部屋は、王城の中でもトップシークレットであり、知っているのは相手は1桁程度だろう。


「報告書を王に届けに来た。通してくれ」


「王より、貴方が来たら通すように厳命を受けております。どうぞ」


 魔法陣を管理する魔導師が、そう言うと、魔法陣に魔力を通す。

 床に書かれている魔法陣は徐々に発光していき、周りの景色が徐々に変化する。

 ……アザトールなら一瞬なんだけどな。

 いや、あのバケモノと比べるのは魔導師に悪いか。

 完全に景色が変わると、先程の同じぐらいの広さで壁紙だけが違う部屋になり、魔導師も1人だけいる。

 魔導師は会釈してきたので、同じように会釈をして、部屋を出た。

 ドーム型の部屋は、上は星々が綺羅星の如く輝き、床はガラス張りとなっており国土全体を見回す事が出来るほどだ。

 は、「天空神の間」とは良く謂った。

 王族の連中は、王では無く神にでもなるつもりだったのか? そんな事をしたら本物の怒りを買うと思うけどな。


「ルドラ。こっちに来い。帝都の貢ぎ物の中に、上等な酒があったぞ!」


 胡座を組み、上に広がる無数の星々を見ながら酒を煽る姿は、とても一国の王には見えない。


「んんん? 遠慮するな。ここは俺達しかいない。無礼講だ無礼講。ほら、来いよ」


 手招きをしてくるギルバート。

 横に行くと同じように座ると、杯に酒を入れて渡された。

 ……旨いな。濃厚な味わいだ。癖になる


「流石、帝国産だな。癖になる旨さだ」


「だろ! ああ、平時じゃなければ戦を仕掛けるんだかなぁ」


「酒程度で戦争を始めるな」


「そっちの方が、恨み辛みで仕掛けるより建設的だ。とはいえ、平和ボケした俺には、もうそんな気概は沸かないけどな!」


 どこか寂しそうに笑う。

 ギルバートは、『戦王』と呼ばれるほど戦巧者だ。戦争であれば、その才能は輝く。

 だが、幸か不幸か。

 『戦王』が統治を始めてから十数年。この国は平和だ。もう戦争を知らない世代も出てきた。


「……お互い、歳をとったな」


「おいおい。お前はまだ30代だろ。俺なんか40後半のジジイだ。お前が歳を感じるには早いぞ」


 笑いながら背中を叩いてくる。


「……痛いな」


「は、痛くないだろ。内政に慣れて、歳を取った俺はこんなもんだ。――あの頃が懐かしいよ」


 寂しそうに呟いた。

 ギルバートが言ったとおり、背中を叩かれても、痛みはそれほど感じなかった。

 昔は、ビシビシ背中を叩かれて、割と痛くて――。

 ああ。駄目だ。王としてではなく、悪友として会うと、妙な気持ちになる。


「で、なんのようだ」


「一報は聞いてるだろ。王都にCクラスのモンスターが出た。その報告書だ」


「そっちじゃねぇよ。もう1つあるだろ。ついでは後回しで良い」


「――アザトール・デウス・エクス・マキナと会った」


「そうか。なら、トワの所でメイドをやってるのか」


「……分かるのか」


「アイツが王都に来る理由は、俺を殺しに来るか、カナタの娘に仕えるか、だ。俺が存命している以上は、理由は後者しかない」


 不思議だ。

 自分を殺す相手がいると言うのなら、もう少し恐がって良いと思うんだがな。

 アレが本気で殺すと言うのなら、幾ら備えても意味がないだろうが。

 どこか達観している気がした。


「……恐くないのか?」


「恐い。恐いが、まー、アザトールに殺されるのなら、仕方ない。あいつに対しては、それだけの事をした」


 新しい酒の瓶を開け、杯に入れること無くそのまま飲み干す。


「ギルバート。あいつは、何なんだ?」


「…………哀れで、可哀想な、メイド少女だ。はっは、俺なんかにそう同情されることすら、あいつにとっては忌避するべきなんだろうが」


「――」


「俺はアイツの口から直接聞いたわけじゃ無い。カナタから聞いた話になる。アイツが、どう言った存在か聞きたいか? あいつの事だ。俺と会うことで、自分がどういう存在か、聞かされるのは織り込み済みだろう。特に何かされるとかはないと思うが……」


「聞かせてくれ。どうせ関わる事になるなら、知って置いた方が良いに決まっている」


「……そうか。なら教えてやる。少しばかり、長くなる」






◆◆◆◆◆◆






「……」


 つい話し込んでしまった。

 アザトールがトワにメイドとして仕えるなら、トワは安全だな。

 王城からトワを追い出したのは、城内だとトワに害する者どもが多すぎた。

 俺の手の者を何人か付けたが、それでも歯止めにはならなかった。

 本当に最優だよ、アイツは。俺の息子とは思えないぐらい優秀だ。くそったれ。

 杯を思いっ切り投げる。


「あら、何やら荒れてますね、お父様」


「……ジャンヌ。正規方法以外であまり来るな」


「表向き『病弱なか弱くひ弱な第三王女』という設定なのと、あまりお父様に会いに来て、お兄様やお姉さまに、変な疑りを持たれるのは避けたいんです」


 空間を繋げて『天空神の間』に侵入してきたのは、俺の末子である、ジャンヌ・ロイヤル・バアルナイト。

 可愛らしく歩いて来て、俺の横に正座して座る。


「ついにお母様が、王都に来られたみたいですね」


「……ああ」


「ふふふ。どんな顔をするかしら、自分の生体情報と、嫌いな男の生体情報を組み合わさって出来た子供を見たら」


「そんな言い方をするな。お前は、俺の大切な娘だ」


「お父様の愛情を疑ったことは一度たりともありません。出生においての負い目から来る愛情だとしてもです」


 あの頃の俺は、アザトールの強さに魅せられていた。

 並の人では到着する事の出来ない最強の頂にある圧倒的な強さに。

 俺はジャンヌの頭を優しく撫でる。


「お前が王位を望むなら譲っても良いぞ」


「え、ガチでそんなモノはいらないので遠慮します」


「そんなモノの為に、お前の長兄と長女は争ってるんだがなぁ」


「理解に苦しみます。王位なんてのは譲られて仕方なく執政するぐらいが丁度良いと思うのに。争ってまで欲しい物なんでしょうか?」


「欲しいんだろ。俺も譲れる相手が居たら、『王位』なんてのはそいつに譲っていたけどな」


 あのバカがもう少し無能だったら、王位を譲って楽隠居出来たのによ。

 隠居してトワとジャンヌ2人を連れて小さな領地でゆっくりしたい。

 そうしたらきちんと2人に王では無く、父親として接することが出来るんだがなあ。

 俺の人生はこんな事ばかりだ。


「――そういえば、お前はトワの事をどう思ってるんだ?」


「少し、お母さまの事で嫉妬はありますが、それだけです。他は特になんとも。そもそもきちんと話したこともないですし」


「そうか。それが普通だよ。なんでアイツらは、トワを毛嫌いするんだ」


「――それが分からないから駄目なんです、お父様」


 何かジャンヌが呟いた気がした気がした。


「あ、そうだ。トワ姉さんが入学したら、挨拶に行きます。で、私は出来たらトワ姉さんの屋敷でお母様と一緒に住みたいです」


「……分かった。その、なんて言うかだな」


「ええ。分かってます。喩えお母様がどんな反応するにしろ、覚悟はしています」





とりあえずキャラ紹介的な章は終わり、次回から新展開。


王立エクリスト学院高等部編が始まります。


今まで出番が少なかったトワ(主人公)の出番も増えるはずです。





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