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03 力の差と恐怖を魂の深部にまで刻み込むまでです


「ルドラ。あんたの部下が探しに来てたわよ」


「どうせ政争関連だろ。くだらねぇ。俺は次が誰になろうが興味ないんだよ」


「王国の騎士団長の台詞とは思えないわ。貴方らしい」


 アンネが呆れたように言う。

 誰が次の国王になろうどうでも良い。

 あくまで友人であるギルバートを支えるために、騎士団長をしているだけだ。

 国王が交代するとしても、後10年以上先のことだろう。

 30半ばの俺はもう40後半になる。少し早いが定年退職だ。騎士団長なんてのは、その時の王が好きな奴を推せば良い。わざわざ俺が後継を指名したりはしない。

 後は退職金を貰って、王都近郊の街にでも移住して、ギルド登録して自由気ままに暮らすさ。


「また、近い内に来る」


「たまに部下から逃げるためじゃなくて、男の甲斐性を見せるために来てほしいものだわ」


「――努力は、する」


「そう言っている内は期待してないわ」


 諦めているような溜息まじりの声を聞きながら、店の外へ出た。

 アンネとは親友以上恋人未満の関係が、ここ十何年か続いている。

 今のこういう関係が好きで、告白とかせずにぐたぐだしていたもう30半ば。

 笑い話にもならないな。


「とりあえず宿舎へ帰るか。あまり部下に面倒を押しつけるのも悪い――っ!」


 なん、だ。

 ありえないだろ。王都の商業区で、こんな濃厚な魔力を感じるとか。

 天災と謳われるS級の魔族でも顕れたか! 夕方とは言え、こんな街のど真ん中で出現するとか前代未聞だぞ。

 ああ、くそっ! 運が無いっ。

 これほどの魔力だ。探知するまではなく、発生源の特定は可能だ。

 魔力で脚部を強化して人混みの隙間を掻き分けながら走る。


 目的の場所の着く。

 そこでは、黒髪の少女にガラが悪い3人組が絡んでいた。

 声を聞く限り少女の方はトワ第二王女の関係者らしい。

 ああああああ。バカが! 絡むなら相手を選べ! 『アナライズ』か『鑑定』とか、スキルを持ってステータスを視てから絡め。

 後、少女の方もどれだけ大魔法を使うつもりだ。

 バカ3人相手に王都を半壊させるつもりか!!

 少女はナニモノだっ。いや、化物なのは分かってる。

 どれほどのバケモノか知っておく必要がある。



Name:アザトール・デウス・エクス・マキナ

Class:か弱い可憐な普通のメイド(自称)

Lv:9999

HP:9,999,999,999,999  SP:9,999,999,999,999

ATK:9,999,999,999,999  DEF:9,999,999,999,999

INT:9,999,999,999,999  RES:9,999,999,999,999

HIT:9,999,999,999,999  SPD:9,999,999,999,999

これ以上は秘密です。

私の全てを知って良い方は、トワお嬢様のみなので。



 ……。


「お前達、そこで何をしている!」


 思わず叫んでしまった。

 いや、あのステータスを視たことによる咄嗟の行動だった。

 舌打ちをしてバカ3人は、人混みに紛れて去って行く。

 バケモノに殺されずに済んだんだ。感謝ぐらいして欲しいな。


「ありがとうございます。助かりました」


 アザトール・デウス・エクス・マキナ

 このメイドとの出会いこそが、俺にとって悪夢の日々の始まりだった。





◆◆◆◆◆◆





 例えば、だ。

 魔王でも竜でも吸血鬼でも良い。最強クラスの存在と隣に並んで歩く所を想像して欲しい。

 ぶっちゃっけ恐怖しかない。ガチで恐い。

 なんで騎士団長なんてなったんだ……俺。

 一般人ならさっさと逃げているぞ


「ルドラ様は、王立騎士団は王サマとの直属と聞きましたが、合ってますか?」


「ああ。間違いない」


「なら、ギルバート王はどんな感じですか。久しく会ってないんです」


「……ギルバートと知り合いなのか?」


「ええ。ちょっとした知り合いです。今では、私が、全力で、手加減無く、一切の躊躇無く、本気で殴りたい相手、10年連続トップを飾ってます」


 もし絵本なら「ゴゴゴゴゴゴゴゴ」と擬音が書かれそうな威圧感を放つバケモノ。

 俺は、直感的に理解した。

 ギルバートは、約10年前から王城の外へと余程の時以外は出なくなった。いや、王城ですら執務室や玉座の間のみで、夜会などにもほぼ出席しなくなった。

 一度、ギルバートと話し合ったことがある。


『何をそんなに恐れてるんだ。敵なら、俺達騎士団がいるだろ。護ってやるから少しは外に出ろ』


『アレから護るのは不可能だ。ルドラ。お前達の実力を疑っている訳じゃないぞ。ただ、アレ相手にするのは、無理だ。不可能だ。この件に関しては、俺程度の事でこの国を護る人財を無意にしたくない』


 ああ、そうだろうよ!

 こんなバケモノ相手に、俺たちが1000人集まったところで無意味だろうさ!!

 勝算なんてのは無い。敵対したら最後。そんなデタラメな存在のバケモノ相手に、部下たちを立ち向かわせられるか!!!

 もし。そんな命令を下すなら、俺は後に自害する覚悟で、ギルバートを殺す。

 この国の王? 知ったことか。このバケモノが何かの拍子でぶち切れて暴れられてみろ。この国どころか大陸が危ない。王の頸1つで済むなら安い物だっ。


「……まぁ、病気は患ってないな」


「そうですか。親友の遺言ですから、手は出さないようにしてるんですけどね。直接会ったら我慢できずに我を忘れて殴ってしまいそうで……」


 なるほどな。

 少しでも接触する可能性を防ぐために、王城の外に出ないようにしてたのか。

 ああ、お前は賢明だよ。

 護衛なんて、このバケモノには意味をなさない。

 それにしても、こんなバケモノにも親友と呼べる相手がいたんだな。……相手はどんなバケ、


「ルドラ様。なにやら失礼な事を考えませんでしたか?」


 人を殺すような笑顔を向けてくる。

 俺は首を必死で振って否定した。

 情けない? この程度のプライドなんて幾らでも捨ててやるさ。


「まぁ良いですが。私は謙虚堅実に生きているつもりでも、周りの方はそう思わないのは慣れてます」


 謙虚堅実って言葉を正しく理解してから言え。


「そ。そう言えば、お前はトワ第二王女の所でメイドをしているのか?」


「はい。今日からお嬢様のところで奉仕する事にしました。……予想以上に家の周りに虫が多かったので、駆除用の食虫植物を植えた事で今後は少なくなることでしょう」


「虫。虫か」


「はい。虫です」


 よし。虫だな。

 あの辺りでガラの悪い連中が行方不明になっても、きっと偶然だろ。


「虫で思い出した。あの程度の連中に絡まれたぐらいで、大魔法を使うのは止めてくれ。王都を半壊させるつもりか?」


「ルドラ様。私はお嬢様の忠実なるメイドですよ? 王都半壊なんて、お嬢様が責任を取る事になるような事態にするハズないじゃないですか。アレは、肉体を原子崩壊させ魂魄すら崩壊させ蘇生自体を出来なくする、証拠が絶対に残らない、掃除専用魔法なんです」


「え、俺、大魔法を使わないでって言ったよな。それ、大魔法じゃないのか?」


「違います。メイドなら誰でも使える、汎用掃除専用魔法です。」


 使えねぇよ!!

 横にいる「か弱い可憐な普通のメイド(自称)」を除いてどこのメイドが使えるっていうんだよ。


「使えますよ。半年ぐらいまで私は従者ギルドで教育係をしてましたから、教え子には全員教えました。教えたんですよ? なのに。術式構造が複雑すぎるとか、魔力消費が激しいとか、危険すぎるとか、従者に必要な魔法じゃないとか、意味の分からないことばかり並べて、500人中2人しか覚えませんでした」


 危険人物を無闇矢鱈に増やすな。


「その2人も1人は冒険者へ、1人は暗殺者へ、それぞれジョブチェンジしたんです。せっかく従者スキルを色々と教えたのにっ。全く職業選択は自由意志ですが、こう、教え子が従者として1人も居着かないのは何故なんでしょう」


 教えるスキルとやり方が間違ってるんだよ。理解しろよ。

 その前に、教え子の1人が暗殺者ってヤバすぎるだろ。

 確かに確実に暗殺出来るだろう。肉体も魂も残らない。完全犯罪だ。

 もしかしたら、とち狂った誰かがその暗殺者に依頼して、トワ第二王女を狙ったらどうするつもりだ


「問題ありません。お嬢様には私が居ます。――もし、私と敵対するほど増長するようでしたら、力の差と恐怖を魂の深部にまで刻み込むまでです」


 ああ、そうかよ。

 俺は絶対に敵対しないわ。したいとも思わないな。こんなバケモノ相手に。

 ……待て。俺はさっきから喋ってない。

 なのに、どうして会話をしている。


「か弱い可憐な普通のメイドと一緒にいると、殿方は不埒な事を抱きますから、自衛の為に読ませて貰ってます」


「お前にそんな事をするバカがいるのか」


「居ますよ。お嬢様のところにお仕えする何回か前のとある貴族の屋敷で閨に呼ばれました。……その貴族がどうなったか知りたいですか?」


「知りたくも無い」


 この国の貴族じゃないよな。

 もし、ギルバートの耳に入ってたら、必ずリアクションがあったハズだが、それが無かった所を考えると、他の国の貴族だろう。

 まぁ、確かに見た目だけなら可愛いのは認める。

 ただ見た目以外、性格、実力、スキル、全部最悪の類いだ。閨に呼ぶとか自殺行為に等しい。


「あ、そろそろお嬢様に夕食の支度をしないといけない時間ですね。ルドラ様も、王都の案内ありがとうございました。お礼に夕食を食べていって下さい」


「――遠慮する。俺を政争に巻き込まないでくれ」


「いえいえ、是非、食べて行って下さい。第一、お嬢様はたぶん王位なんて興味はありませんから、自分から政争に関わるハズがありません」


 あ、もう、この時点で断れない。

 絶対に夕食に招く気満々だ。

 ……諦めるか。抵抗するだけ無駄だな。

 それに一度はきちんとトワ第二王女を見ておきたい。

 このバケモノの主だ。どんな性格か把握しておく事に超した事は無い。


「分かった」


「では、腕によりをかけて夕食を作るとしましょう」


 空間が歪み、その先には屋敷が見える


「なん、だ。これ」


「メイドたる者、時空間魔法程度は自在に扱えなくてどうします」


 だ・か・ら、使えねぇぇぇぇぇぇぇぇぇよ!!





申し訳ないありません

8月に入り仕事が忙しくなるため、次の更新は、金曜日か土曜日になります。

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