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02 生まれてきてから呼吸を何回されたか覚えていますか?


「「では、お嬢様。屋敷の清掃と庭の手入れをして来ますね」」


「ちょっと待って」


「はい、なんでしょうか」


 1人のアザトールは、私の部屋から出て行って、もう1人のアザトールは部屋に残った。


「なんでいきなり2人に増えてるの?」


「お嬢様。メイドたるもの分身の術程度は使えて当然のスキルなのです」


「いやいや。以前、この家で働いてくれていたメイドさん達は使わなかったからっ」


「それはたぶんメイド(偽)ですね。メイド(真)は、分身の術程度は嗜むものです」


 ――そう、なんだ。

 絶対違う気がするけど、アザトールは他の所から来たようなので、余所ではそうかもしれない。

 まぁ、分身されても困ることはない、よね。うん。


「そうだお嬢様。庭を手入れするついでに、植物を植えても良いでしょうか?」


「どんな植物なの」


「ええ。特別な食虫植物で、害虫を食べる事ができるので、虫が発生しにくくなります」


 虫かー。私は虫は苦手なんだよなぁ。


「勿論、普通の花や草木も植えますので、外観が損なわれる事はありません」


「うん。アザトールに一任するよ。庭、と、いうか、屋敷にはアザトールしかいないから、好きにして良いよ。ただ、第二王女なんて面倒な肩書きがあるから、余所から文句がこない程度にはなるけどね」


「承知しました。お嬢様が満足して頂けるよう、アザトール・デウス・エクス・マキナ。微力を尽くしましょう」


 頭を下げてアザトールは部屋を出ようとする。

 私は、ある事をアザトールに伝えてなかった事を思い出して言った。


「あ、アザトール!」


「はい。なんでしょう」


「もしも。もしも、だよ。辞めたくなったら、辞めて良いからね。私のところに居るだけで、不幸になることがあるかもしれないからさ」


 職業ギルドで案内人の女性が言ったことは、あながち嘘じゃない。

 王族にとって私は邪魔な存在でしかない。色々と嫌がらせが行われてるのも事実。

 だから辞めていくバトラーやメイドは、誰1人として引き留めなかった。

 私の所為で不幸になる人は、増やしたくない。


「お嬢様――。私がお嬢様の元を離れるのは、お嬢様が天寿を全うされてからの事です。ですから、心配することなく、私のご奉仕を受けて下さい」


「天寿を全うって……。アザトールって見た目と違って年下なの? 私と同じぐらいと思ってたよ」


「いえ、お嬢様よりも年上ですよ。年齢は……、お嬢様、生まれてきてから呼吸を何回されたか覚えていますか?」


「覚えている人はいないんじゃないかな」


「つまりはそういうことです。――それでは、失礼いたします」


「え。え。え」


 ……よし。深く考えないでおこう。

 私は一呼吸吐き、机の引き出しを開けて書類を取り出した。

 『王立エクリスト学院高等部入学案内』

 貴族のみが入る事が許されている学校。

 この学校で得た繋がりが、卒業後において重要になるのは間違いなく、それが分かっているけど、できれば通いたくない。


 理由の1つは異母姉妹で一歳年上の姉、ロザリンド・ロイヤル・バアルナイトが通っている事。

 私は別になんとも思ってないけど、向こうが一方的に敵視しているのが現状はほとほと困る。

 そもそもロザリンド姉さんは私と違って、政治能力も魔法能力もトップクラス。

 異母兄妹で一番年上で、『最優王子』と呼ばれているアルフレッド・ロイヤル・バアルナイトと、次期王位を争っている間柄なので、能力の高さは言わずもがな。

 一番下の妹である、ジャンヌ・ロイヤル・バアルナイトは、正直分からない。

 上の兄姉は嫌われていると分かるけど、ジャンヌの方は――。好かれてはないだろうけど、嫌われてもない気がする。所謂、興味が全くないという状態。それはそれで辛いのがある。

 因みにアルフレッド兄さんは学校を卒業済み。ジャンヌは中等部2学年だ。


「王位継承権なんて破棄したい。平民に戻りたい。……嫌がらせするぐらいなら、平民に堕としてよ」


 残念な事にこの国では、死亡或いは重大犯罪を犯さない限り王位継承権の破棄はできない。

 出来ない事よりも、王立エクリスト学院高等部の方が問題だよね。

 貴族の知り合いなんていない時点で、ぼっち確定なのは良いけど、第二王女の肩書きが悪い方へ作用する気がしてならない。

 あ、護衛として、1人だけ同伴ができるって書いてある。

 護衛かぁ……。

 アザトールはメイドとして雇ってるのに、護衛の任務をして貰う訳にはいかないよね。

 分身の術が出来たとしても、強いかどうかは別問題。

 入学式までまだ一週間ある。

 護衛に関してはその内に良い案が出てくると思う。

 明日以降の私がナイスアイディアが浮かぶ可能性はゼロじゃない。





◆◆◆◆◆◆





 屋敷には分身体1体残して来たので問題ないでしょう。

 ああ、でも不安が全くないと言えば嘘になる。

 分身体には並列思考により独自の思考回路を持っているので、何をするか分からない。

 この世で尤も信頼できない者は誰かと聞かれたら、間違い無く自分自身と答えます。

 逆に、最も信頼できる者はお嬢様ですがね!


 ああ、それにしてもお嬢様は素敵に成長されて良かった。

 カナタの面影もありますし、何より自分で見定めた主に仕えるというのは、遣り甲斐が今までとは違います。

 当面の問題は幾つかありますが、まず1つはギルバートには会わないようにしないと駄目ということ。

 もし会ったらカナタの件があるので殴る。全力で、手加減無く、一切の躊躇無く、本気で殴る。

 抑えきれる自信が全くないね。


 それともう1つは。


「よう、お嬢ちゃん。あの屋敷で働き始めたんだって?」


「辞めた方が良いぜ。この王都で第1王子と第1王女に睨まれているヤツに関わるのは、自殺行為だ」


「金に困ってるなら、俺達と一緒に遊ぼうぜ。なぁに、気持ちよくなれて金が貰える、最高の仕事がある」


 ……こっちを分身体に押しつけて、屋敷に残ってお嬢様と一緒にお茶したかった。

 でも、分身体ならコイツらを周りを気にせず瞬時に殺してたと思う。

 なぜ分かるかって?

 私、今、必死で我慢してますから。

 路地裏なら兎も角。人通りのある表通りで、流血沙汰は避けたい。

 もし騒ぎになってお嬢様に無駄な心労を掛けるようではメイド失格。

 流血騒ぎにならないよう原子崩壊させて消し去るのがベストな解決方法。

 だって証拠が残らないですし。

 まだ注目を浴びてない今なら消し去っても、大した騒ぎにはならないでしょう。


「お前達、そこで何をしている!」


「あ、だれ――っ。き、騎士団長かよ。行くぞ、お前等」


「あ、ああ」


 雑魚が逃げていった。

 とりあえず騎士団長(?)にお礼を言っておこう。


「ありがとうございます。助かりました」


「キミを助けたと言うよりは、彼らを助けたと言って方が良くないか」


「そんな事はないです。とてもこわくてこわくてしかたなかったです」


 ええ。騒ぎになってお嬢様に無駄な心労をかけさせる事なるかもしれないと思うと。


「まぁ、いい。キミはトワ第2王女の元でメイドをしているのか」


「――ええ。それが、なにか」


「そう睨まないでくれ。俺は、こんな街中で死にたくないんだ」


「人聞きが悪い。私みたいなか弱い可憐な普通のメイドが、騎士団長様を相手にするなんて」


「できるだろう。俺は、『アナライズ』のスキルを持っている。ステータスだけ視せて貰った」


「……。乙女の情報を盗み見るなんて騎士団長と言う立場の者としてはどうかと思いますが?」


 別に良いけどね。

 私はステータスは隠蔽してない。

 『アナライズ』や『鑑定』スキルを持っている相手だと、自分とステータスの差違を理解して無駄に戦わなくて済むからね。

 たまーに、持ってても戦いを挑んでくるバカがいるのは勘弁してほしい。

 今はお嬢様のメイドと言う立場なまで、そういうバカの相手をするつもりはないけど。

 さて王立騎士団は、ギルバート直轄で、王位継承政争では中立を保っていると聞いている。実際はどうか知らないけど。

 ここで騎士団のトップと出会えたのは幸運。

 城の内情はまだ5割ほどしか把握してなかったので、少し情報提供をお願いしよう


「騎士団長サマ。私、まだ王都に来たばかりで、王都内は不慣れなんです。もし時間があれば案内してもらって良いですか?」


「……分かった。案内してやるから、左手の魔力を鎮めろ」


「では、自己紹介を。私はアザトール・デウス・エクス・マキナ。普通のメイドです」


「ルドラ。ルドラ・ブラッティスト。騎士団長だ」


「では、ルドラ様。王都に関して色々と聞かせて下さいネ」


「……ああ」


 なぜ怯えられるのか。

 無害をアピールする為に、か弱い可憐な普通のメイドって名乗ったのに。

 もしかして女性恐怖症なのかもしれませんね。


明日も同じ時間帯に投稿予定です

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