24 この国難に政争を持ち込まないで欲しいです
投稿が遅れてごめんなさい。
しばらく諸事情により不定期になると思いますが、頑張って投稿していきます。
デニール・アウターン少将。
齢は43。紫色の髪に僅かに白髪が交じり始めている。
彼はギランメッカ帝国第一王子の命を受け、1万5000人規模の師団を率いて、ズワナ森林へと来ていた。
邪神竜ヴェンジリウガンの強襲を受けた事で、討伐に動かせる兵はこれが最大であった。
また邪神竜ヴェンジリウガンとの戦いにおいては、帝国の有能な将の何人かは死んでしまい、デニールは中佐だったのが、指揮を執れる将と言う事で、いきなり少将まで格上げとなり、討伐隊を率いることになったのである。
ズワナ森林は、邪神竜ヴェンジリウガンが居た場所であり、眷属や配下の魔物が多数いる。
偵察部隊が見てきた結果では、大凡で6000ほどの魔物が住み着いていると言う。
基本的能力は圧倒的に魔物が高い。
だからこそ、倍以上の人数をなんとか掻き集め魔物の討伐に赴いた。
本来であれば冒険者ギルドにも助力を頼むのが普通であるが、今は出来ない理由がある。
竜殺しの英雄、デジル・マーカス。
邪神竜ヴェンジリウガンを斃した事で、デジルは帝国内で英雄視されていた。
それだけなら問題はない。
しかし、帝都の冒険者ギルドマスター、カイエン・ダグーンが、デジルを持ち上げて帝国内部へと影響力を増してきていた。
故に、このままではカイエンの権力集中する事を危険視した第一王子は、デニールにズワナ森林へ赴き魔物の討伐を命じた。
邪神竜ヴェンジリウガンほどではないが、この森林に住まう魔物を帝国の軍のみで討伐出来れば、現状維持をすることが出来る。
だから今回は冒険者ギルドに助力を求めるわけには行かず、また決して失敗も出来ない任務をデニールは背負うことになったのである。
またもう1つデニールを悩ませる事項があった。
自分より3つほど上の階級である上級大将、ジグナイ・ハーグマンを配下に加わっていると言う点だ。
彼は武勇のみで上級大将まで上り詰めた漢である。
その実力は冒険者ギルドのSランク冒険者に劣ることはないほど。
現在の帝国においては、帝都の守護についている元帥に次ぐ戦闘能力を持っている。
シグナイは戦闘力に特化しており、お世辞にも指揮能力はそれほど高くはない。
その事は本人も理解しており、また自分自身も指揮よりも前線で戦う方を好むため、デニールが自分の上という立場で指揮を執ると言う事には何も異存はなかった。
が、それをするデニールは溜まったものではない。
階級とは明確な上下関係。
例え一時的でも階級が上の相手に、指示を下す、というのは良くも悪くも色々とある。
少将になったばかりのデニールには、キツイものがあった。
第一王子も一応その辺りの事は考え、プレッシャー等で潰れない為にも、デニールの参謀には帝国の軍師の中では随一実力を持っているキリシア・ハイスカイを付けていた。
その結果、現在は魔物との戦いは、帝国軍が優位で進んでいた。が。
「デニール少将。現時点のみで見れば、私達が大凡優位に進んでいます。しかし、後14日以内に終着しなければ食糧不足となります」
「――ヴェンジリウガンの所為で、帝国内は食糧不足と高騰しているからな。補給を要請するのも無理、か」
「はい。それと最前線にいるシグナイ上級大将からの報告では、魔物達のランクが1つ上がったようです」
「――なに?」
「原因は不明。更にズワナ森中心部に送った偵察兵は、全員が未還です」
「……兵の状況は?」
「士気は問題ありません。しかし、交代制にしているとはいえ、魔物が近くにいる事に対する不安などから、疲労が見えてきました」
「軍師としての意見は?」
「余裕がある今。即時撤退を進言します。シグナイ上級大将の報告は無視できないものがあります。現在は数でなんとか対処できてますが、ランクが上がれば数だけでは対処は難しくなるでしょう。そうなれば撤退も困難になります」
「そうだな。……だが、今、何の成果も上げてない状況では撤退はできない。できないんだ」
「はぁ――分かってます。この国難に政争を持ち込まないで欲しいですが」
「そうだな。そう思うよ。俺も」
デニールは疲れたように溜息を吐いた。
こうしていると政争が無く、冒険者ギルドの助力を得られればどれほど良かったかと思う。
冒険者ギルドは、モンスター討伐などしている為、個の強さはそれなりある。
助力さえ得られていれば、シグナイら最前線で高ランクモンスターを単騎で引き受けて貰うなどと言った事もせずに済んだ。
幾らでも愚痴を言いたいデニールだが、それを言ったところで状況は好転しない。
キリシアの意見も聞き入れ万が一に備えて撤退の準備をしておくように指示を出そうとすると外が騒がしくなった。
幕舎内でデニールとキリシアは顔を見合わせる。
何が起きたのかを確かめるべく、幕舎から2人は慌てて出た。
すると2人の兵に肩を支えられた重体の兵士がコチラへと向かってきた。
重体の兵士は、デニールとキリシアに向けて言った。
「ハァ、ァ、シグナイ様より、伝言、森林、中心部に、ランクEX、神の存在を確認っ!」
「な、に」
「嘘――」
デニールとキリシアは驚きを隠せなかった。
ランクEX。
それは神や、それに類する通常では計り知れない存在を指すときに使われる。
その存在は伝説で有り、百年に1度発見されるかどうかの類いの存在だ。
「さ、らにっ、その周りにランクA或いはSに該当する魔物二体を補足! シグナイ様が殿を務めるた、め、早急に撤退するように、との事です!!」
兵士は伝えるべき事を言うと事切れたかのように地面に倒れた。
肩を背負っていた兵士は、慌てて容態を確かめるため倒れた兵士に近寄り状態を確認するが、しばらくして顔を横へと振った。
デニールは重要な情報を死の間際にもたらしてくれた兵に感謝の意を示した。
だが、伝えられた情報から、そうしている間も勿体ないほどである。
「キリシア。今すぐ全兵を後方に設置してある砦まで撤退!」
「分かりました。デニール少将は?」
「俺は数名を連れてシグナイ上級大将の救出へと向かう。現帝国最高戦力の1人であるあの人を喪う訳にはいかない」
「――ダメです。それは誰かに任せて貴方も撤退するべきです。万の兵を率いる才能は貴重です。特に今の帝国内においては特に」
「……ッ」
「勿論、シグナイ上級大将を喪う事に対する重要度も理解してますが、シグナイ上級大将、デニール少将の二名を喪うという最悪な事態は絶対に避けるべき事案です」
「分かった。……俺も、撤退する」
シグナイは血が出るほど拳を握りしめ、兵達に撤退の指示を出しに行った。
それを見送ったキリシアは、幕舎へと入ると紙に素早く文字を書き判子を押す。
そして飛龍に騎乗できる兵士を1人を呼び、帝都にこの事態を認めた用紙を渡した。
椅子に座り、他の必要な書類を書き始めたキリシアは思う。
(……カイエン。何を考えてるの。今の状況は帝国内の人の存亡に関わる事態だというのに。貴方はこの国を本当の意味で滅ぼすつもり?)
ギルドマスターの顔を思い出して苦々しく思う。
意図は不明だが、敢えて亡国になるように仕向けている気がしてならない。
キリシアは首を横に振る。
考えても答えの出ない事に思考を割く時間は今はない。
1人でも多くの兵を無事に撤退させる為、キリシアは己の頭脳をフル回転させる。




