18 ……私がおばあちゃんになる前には、貰って欲しいわ。ルドラ
ギルバートから別れた俺は、アンネが経営している小料理店に寄ることにした。
アイツのあんな顔を見た後だと、一杯飲みたくなった。
大通りから少し外れた通りに小料理店はある。
入り口の所にある札には、開店している事を示すのが掲げられていた。
「いらっしゃいませー」
「いらっしゃい」
小料理店はL字のカウンター6席とテーブルが3つほどある。
今まではアンネだけが切り盛りしていたが、少し前に従業員が増えた。
なんでも冒険者ギルドを壊滅させたとかで莫大な借金を背負ったため、食べ物と住居付きのバイトを探していた所をアンネに拾われたらしい。
店の中はまだ開店したばかりの為か、お客は居ないようだ。
とりあえず一番奥のカウンター席へ座る。
「まだ日が明るい内に来るなんて、騎士団長は暇なの」
「……王に呼ばれて王城に上がってたんだ」
「ふぅん。だから、そんな顔をしている」
「どんな顔だよ」
「寂しそうな顔だよ。アンタが王城に上って王と会話した後は、そんな顔をする事が増えたわ」
「――そうか」
そうかもな。
昔、先代国王が暴政の限りを尽くしてた頃、ギルバートは年上のリーダーで覇気に溢れていて俺達を引っ張っていってくれた。
そんなアイツが、あんな風に弱々しくなってしまい、時の流れを感じてしまった。
そしてそんなアイツに何もしてやれない自分の無力さも。
全て引っくるめて寂しいのかも、な
【――是――人は万能では無い――だからこその強さも有り――担い手は出来ることをするべき――】
……ルーヴァグライアス。
なんか剣に慰められるのって情けなくないか。
あ、お前に聞きたかったんだが、自分を複製する事は可能か
【――可――ただし我の様な意思は複製できず――能力は7から8割ほどの性能で可】
なら、後で良いから2振り分、複製を頼む。
ギルバートとマリオに貸しておきたい。
万が一があったとしても、保険としてルーヴァグライアスがあれば最悪は避けられると信じたい。
【――我はあくまで剣――保険にはなれど確実保障できる物ではない――】
ああ、分かっている。
ただ何もせずに任せるよりも、信頼できる剣があるだけでだいぶ違うものだ。
ギルバートの言う「政変」はどれだけの規模になるか分からないが……。
少なくとも多少の流血沙汰は起こりうる。
特にあの第一王子は、周りからは評価は高いが、悪党よりも悪党な気がしてならない。
――いや、「政変」を企む時点で悪党か。
「古馴染みが歳を取って弱々しくなるのを、見てられないんだ」
「――そう。最近は見掛けなくなったけど、そんなに」
「ああ」
ギルバートとは王になる前には、よくこの店に集まって飲んだっけなぁ。
あの頃は辛いこともあったけど今よりは確実に楽しかった。
昔ばかり懐かしむのは年寄りって誰か言ってたな。
「でも、貴方の事だからギルバート国王から頼まれたことがあるでしょう。それを全うしなさい。それが友情というものよ」
「そう、だな」
とはいえ、トワ第二王女にはアザトールが。ジャンヌ第三王女にはナイヤーラトテップが。
それぞれ付いている以上、あまり俺の出番はない気がするんだが……。
最強クラスのカンストステータスに、幾つもの強力なスキル。
戦うにしても、アイツ等と戦っても俺には勝ち目はまずない程の実力差がある。
駆け出しの冒険者が古代竜に挑むぐらいの差だ。
そんな俺が、態々護る必要があるのか疑問がある。
だが――。
『ルドラ様。護宝剣・ルーヴァグライアスは、私の親友が使っていた、かつては護神剣として、今は無き神々を護るために作られた神造剣でした。それを私が改造して、護るべきは神では無く、宝、つまりは担い手が大切にしている者を護るための剣としました。どうか、お嬢様をお願いします』
ルーヴァグライアスを送られた日。
トワ第二王女が学院に初登校する日。
あの女は、そう言って俺に頭を下げてきた。
学院にもトワ第二王女に付かずに、俺を守護騎士にしている。
最強のバケモノにも、もしかしたら強さに死角があるのかもしれないな。
あっとして聞き出したいと思わないが。
興味本位で巣をつついて凶悪な魔物を呼び出すが如くの愚は犯す必要はない。
「――あの雇っているバイトはどうだ」
「物覚えも良くてきちんとしてくれてる。言った事はオーダー以上にしてくれるからね」
アンネは満足そうに言ってきた。
確かルヴァンとルヴィアと言う姉妹だったか。
何時ぞや植物型のモンスターに鉢合わせした不運な人物として記憶していたから覚えている。
実力はあると思う。どこぞのバケモノと似た雰囲気があるのが証左だ。
「ルヴァンとルヴィアだったか」
「そうだよ」
「そうよ」
「――内緒だが王都は近く騒々しい事になるかもしれない。アンネの事を護ってやってくれ」
「アンネさんは雇い主だから護るのは当然だけど」
「私達は冒険者でもある。依頼するのなら、対価を要求する。姉さんの所為で借金もあるし」
「いやー、魔法ぶっ放してギルド壊したのルヴィアじゃん」
「――何か言った?」
「ナニモイッテナイデス」
妹に睨まれた姉は片言となって震えている。
姉妹のヒエラルキーがハッキリと分かった。
「ああ、個人的に依頼させて貰う。とりあえず俺はトワ第二王女に付いて帝都へ行く事になる。それから王都に帰ってくる間だけでも頼む。依頼料は――これぐらいでどうだ?」
「え。こんなに。私達は嬉しいけど――ガチで良いの?」
「アンネにしてやれるのはコレぐらいしかない。――本当は辞めて俺が護る事が出来ればいいんだけどな」
「私は子供じゃないわ。親友の頼みを無碍にさせるようなワガママを言うつもりはないわ」
アンネのこういう所に俺は、何度も助けられている。
ただ、こういう所があのメイドからすれば、マダオなんだろうけどな。
2人にアンネの護衛料金は、通常の依頼料金からすれば倍近い。
騎士団長はそれほど高給取りと言う訳では無いが、トワ第二王女の守護騎士になったことで、それなりの小金持ちぐらいの給料はある。後者の給料については、更にギルバートが色をつけてくれてるらしい。
それに今まで使うことが無くて貯めてある貯金もある。
全く懐が痛くないと言えば嘘だが、アンネの身を守れるならどうと言う事の無い出費だ。
正直、ルヴァンとルヴィアの姉妹に関してはあまり多くのことは知らない。
アンネは昔から人を見る目があった。
それを信じてるからこその、個人的依頼だ。
また実力も俺より上だろう。
ステータス隠蔽をしているようで、俺程度のアナライズでは視る事が出来なかった。
ルーヴァグライアスにして貰った結果。俺よりも数段強い、らしい。
だからこそ、信用を込めての料金を提示した。
「きちんとした依頼なら任せてよ!」
「そう。……実力が不安なら一戦交えても良いよ」
「知り合いのメイドに似た感じがするから御免被る。まあ、実力は信用する」
「「……」」
なんだ?
2人とも妙に苦虫を噛んだような表情をした。
「――どうかしたか」
「気にしないで。ちょっと言葉のダメージがキツかっただけだからさ」
「精神的ダメージの慰謝料が欲しいぐらいには、ダメージを受けた」
「もしかして、俺の知っているメイドと知り合いだったりするのか?」
「ううん。主のことしか眼中に無い色々と壊れているメイドなんて知らないね」
「1日5割の高利貸し真っ青の金額を提示してくる人なんて知りません」
「そ、そうか――」
2人とも「これ以上この話題は振るな」と視線で語ってきた。
俺も余計な事は知りたくも無い。
とりあえずこの件は良いか。突っ込むのも怖いからな。
「失礼します。借金取りです♪」
「「――――!!」」
まあ、来るよな。来ますよね。
アザトール・デウス・ウクス・マキナ。
なんとなくだが、来る気がしてたんだよな……。
ルヴァンとルヴィアは慌てて俺の右横に隠れた。
無理だからな? 幾ら男子の身体とはいえ、女子2人を隠すのは流石に無理だ。
「そこの2人。返済が遅れてますが?」
「い、いないです。今は誰もいないよ」
「いないったらいない。誰もいない」
「――ほう、利子が一日十割に変更しましょうか?」
「「ごめんなさい」」
素早く横から出てきた2人は土下座をした。
「全く元金どころか利息すら滞るとは……我ながら情けない限りです」
「……暴利な利息を取る癖に偉そうに」
「偉そうでは無く、金を貸している方が偉いんです」
溜息交じりに言うアザトール。
2人に外に出るように合図をすると、2人はスゴスゴと外に着いて出て行った。
「アザトールちゃんは相変わらずだねぇ」
「お前、アザトールの事を知ってるのか?」
「――昔。ある人と良く来てくれたからね」
「そうなのか」
アザトールと一緒に来たというのは誰だろうな。
昔って事は、トワ第二王女より以前の主か――。
「あの頃は、色々と楽しかったわね。皆がバカやって、飲んで、食べて、騒いで……」
「ああ。お互い、なんか歳を取ったな」
「ふふ。そうね。……私がおばあちゃんになる前には、貰って欲しいわ。ルドラ」
「――もう少し、待ってくれ」
とりあえず帝都から行って帰ってきたら良くも悪く一段落付くだろう。
ギルバートのいう「政変」の結果次第だな。こればかりは。
出来れば何事も無く住めば良いが。
昔からギルバートの言った事は、悪い方に当たることが多いからな。
俺はアザトールみたいな最強のステータスもスキルもない。
せめて後悔しないように、自分が出来る限りのことをしておくか。




