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16 でも、嫌われていたとしても、一度はお父さんときちんと話をしたい


「アザトールは今居ないけど、上がって待つ?」


「お母様居ないんですか?」


「うん。ルドラさんを特訓するとかで出掛けてるけど、そろそろ帰ってくると思うよ」


 トワ姉さんに促されて私は屋敷の中に入った。

 久しぶりに顔を合わせたというのに、不気味なほどポーカーフェイスが上手。

 少しは感情が表情に出てもいいのに。

 王城にいる時からそうでした,ね。この人は。

 トワ姉さんに案内されたのは、屋敷の大きさから言えば少し大きめのリビング。


「それじゃあ、2人とも座ってて。私が何か飲み物を煎れてくる」


「え。どこに何が分かるの?」


「ふふん。メイドは一歩屋敷に踏み入れたら、どこに何があるか把握するものなんだよ」


「……アドサールみたいな事を言うんだ」


 お母様の分身体ですからね。

 とはいえ、色々と違うところが多い。半日一緒にいますが、捉え所がない不思議なメイド、と言う印象です。

 ナイヤーラトテップは厨房と思われる所へ向かって行く。


「……」


「……」


 で、残った私達が沈黙。ただただ沈黙。

 こういう時は、年上で姉の意地を見せて欲しいですが!

 私が振るべきでしょうか。

 でも、この人はどんな話題をもってしても話が長続きする気がまるでしません。

 守護騎士をしているルドラさんは、よく会話が成立していると感心します!


「ジャンヌはさ、私のこと嫌い?」


 話題を振ってきてくれたのは嬉しいですけど、初めからそっちに行きますか。


「嫌いなら嫌いでいいからさ。アザトールが居るときは、見掛けだけでも仲良くしよう。仲が悪いとアザトールが悲しむからね」


「……別に嫌いではないです。と、言っても、好きでもないです。そもそも好き嫌いどうこう出来るほど、私達は一緒にいなかったじゃないですか」


「ああ、うん、そう――だね。王城に居たのは少しの間だけだったよね。ジャンヌは病弱で顔合わせでちょっと挨拶してぐらいだったっけ」


「――ええ。それと病弱なのはお兄様とお姉様の相手が面倒なので考えた設定です。ちょっと身体が弱いのは本当ですけど」


「へぇ、そうなんだ」


 だ・か・ら、少しは感情を表に出したらどうです!

 無表情の仏頂面。これで好きになるのは、厳しい気がします。

 いえ。姉さんが言いましたが、私と姉さんの仲が気まずいとお母様に迷惑がかかります。

 頑張って仲良くしないとっ。

 ここは女子定番のネタでなんとかなれば……っ。


「そう言えばトワ姉さんは、誰か好きな人居ますか?」


「――居ないよ。知ってるでしょう。私って王都のほぼ全てから嫌われてるんだから」


「……ごめんなさい」


 地雷でした。


「好きな人は居ないけど、好かれてるとしたら、ロザリンド姉さんかな――」


「本当にごめんなさい」


 私は頭を下げた。

 本には女子同士盛り上がる定番ネタって書いてたのに!!

 ここは私の実体験から、盛り上がって仲良くなれそうな話題をっ

 ……。

 ……あ、無理。私、「病弱なか弱くひ弱な第三王女」という設定にしたことで、学院にはまともに通ってないから友達いなかった。

 良く考えたら私ってコミュニケーション能力ってあまりないです。

 話をするのは従者の人か、お父様ぐらいしか居なかったですし。

 ナイヤーラトテップ、早く来て。場が持たないから!


「お嬢様ズ。まともな飲み物、形容しがたき飲み物、どっちを飲みたい? 私としては形容しがたき飲み物をオススメするけど」


「普通ので良いです!」


「私も普通でいいかなぁ」


「……ちぇ」


 ナイヤーラトテップはつまらなそうに舌打ちをすると厨房へと戻っていった。

 と、戻った直後にナイヤーラトテップの悲鳴と、何かかが壊れたりする大きな音が響いた。

 なにが起きてるの……?

 ほんの少しすると、今度は厨房からお母様がやって来た。

 手にはお盆を持ち、上には美味しそうな飲み物が乗っている。


「私の厨房を魔界化させて飲み物を作るバカがいたので、少々お仕置きをしました」


 にこやかに言うお母様。

 厨房を魔界化ってなんだろう。


「お嬢様。改めて紹介させてもらいます。こちらが、私の娘、ジャンヌです」


「――本当に、そうなんだ」


 信じてなかったんですか、トワ姉さん。

 いえ、当然ですよね。いきなり家にやって来た妹が、自分のメイドの娘とか言われて、100%信じろというのが無理でしょう。


「それじゃあ、ジャンヌはこの家に住む? 私とアザトールしか居ないから、部屋はだいぶ余ってるし」


「良いんですか?」


「良いよ。やっぱり母娘(かぞく)は一緒に居たいからね」


 トワ姉さんは、少しだけ寂しそうな表情になった気がした。


「ぅぅ、私は、部屋を整理してくるねー」


「ナイヤー。きちんと、普通に、一般的な部屋にしなさい。私がチェックしますからね。もし変な事したら、さっきの50倍は覚悟しなさい」


「ら、ラジャー!」


 敬礼をしたナイヤーラトテップは、そそくさとリビングを出て行った。


「ジャンヌ。駄目な姉だけど、これから宜しくね」


「はい。トワ姉さん」





◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆





 疲れたー。疲れたよ。

 なんかこれ二度目な気がする。気のせいかな。


 それにしてもジャンヌがアザトールの娘だったなんて世間は狭いなあ。

 一応、嫌われてはないようだし、これから仲良くできたらと思う。

 険悪な関係になったら、アザトールに悪いし。

 今、私が普通に生活ができているのは、アザトールがギルドで雇われてくれたお陰。

 あの出会いが無かったら、私はこの屋敷でずっと独りぼっちだっただろうなぁ。

 アザトールには感謝してもしきれない。


 お母さん、かぁ。

 私にはお母さんの記憶があまり無い。

 大切に育ててくれてたけど、私が10歳の時に死んだ。それからは1人暮らし。

 少しお母さんが貯蓄していてくれたお陰で、子供ながら薬草などを採ってきて売り払っていれば、なんとか生きていけるぐらいだった。

 数年の間、独り暮らしをしていると、いきなり王家の使者が来て、王族だって言われて、今ではこうなっている。


 お母さん――カナタ・オールドワンが、どうやってお父さんと知り合ったかは知らない。

 職業ギルドの受付嬢が言っていたように、男の人相手に商売をしていたから、その時に出会ったのかなぁ。

 お母さんの事を知りたいけど、相手はお父さん。この国の国王様。簡単には会えない。

 王城に居たときでさえ、顔を合わせる事からほぼ無かった。

 きちんと会話をした覚えも無い。

 私って嫌われてるのかなぁ。


 だから、私は少しジャンヌに嫉妬しているのかもしれない。

 きちんとした母親がいて、血の繋がった大事にしてくれる人がいることに。

 私にはお母さんも、お父さんも、誰も私を――……。


「ああ、駄目だ。イヤだなぁ、こんな私は」


 自己嫌悪。

 分かってる。私は、今はきっと倖せだ。何一つ不自由はない。

 これ以上に望むのはきっと贅沢だ。

 でも、嫌われていたとしても、一度はお父さんときちんと話をしたい。

 お母さんのことをどう思っているのか。

 そして私の事を愛してくれているのか。

 聞いて、知りたい。


「焦ることはないよね。いつか、きっと聞けるはず」




 私は、先送りにした。


 数年先でも良い、きっときちんと聞ける機会があると言う希望を持って。


 だけどその希望は、わすが約1ヶ月先で脆くも崩れ去った。


 この頃の私は、何も知ろうとはせず、未来の私は後悔するはめになる。



これにて第2章王立エクリスト学院高等部は終わりとなります。


次の3章王都炎上崩壊(上)は、9月1日(土曜日)より始めたいと考えています。


キャラ紹介に関しては3章開始と同時に公開できたら思います。


ここまで「面白かった」「もっと続きが見たい」等ありましたら、感想、評価、ブックマークなど頂けたら大変嬉しいです。


これからも頑張って行きますので、宜しくお願いします。


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