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15 あの子を飼い殺しにして屈辱の限りを尽くせるなら――王位なんてあげます


 最果ての地。

 そこは人界とは結界により時空間の隔たりがあり、並の者では辿り着くことさえ出来ない伝説の土地である。

 かつては神が選んだ勇者が、最果ての地にいる魔王と戦い、どっちが勝つかという、神々の遊びも行われていたが、神が居ない世界では、そのようなイベントも起きない。

 その為、魔王は人界に手を出すことも無くずっと最果ての地の最深部にある城へ引き籠もっていた。つもりニートである。


 最深部にある古ぼけた巨大な城。

 主である魔王は玉座の間にいる訳では無く、寝室にいた。

 毛布にくるまり、まるで地震で揺れているかのように震えている。


「魔王様。彼女は去りました」


「ほ、本当じゃな。本当に去ったんじゃな!」


「ええ。少なくても最果ての地からは居なくなったようです」


 くるまっていた布団を飛ばし傲慢不遜を態度で示しながら、ベッドから下りて胸を張る。


「ふっ、ふん。小娘が――。妾の前に姿を見せれば、力の差を示して、己が傲慢にして不遜な性根を叩き直してくれたものを」


「へぇ。さすが魔王です。では、久しぶりにやりますか? 模造神の劣化版としか戦って無くて運動不足なんですよ」


「ぎにゃゃゃゃゃぁぁあああ」


 魔王は大声を上げて執事の格好をした男の背後へ隠れた。


「にゃ、なんで、お主が此処におるっ。最果ての地から去ったのではないのか! 帰れっ。ここは妾の領域ぞっ」


「いえ、一度は帰りましたが、せっかく来たのに挨拶せずにいるのは無礼かなと思って来ました」


「来るな! 妾はお前の事は大嫌いだっ。それなのに挨拶とは嫌がらせか!」


 執事の後ろに隠れた状態で猫を追い払うに手を振る魔王。


「そんな事はないです。貴女に対しては義理と不義理が盛り沢山ですが、私としては友好的で居たいと思ってるんですよ」


「ふん。1つ教えておいてやる。妾がお前を赦すことは、絶っ対にない! だから、友好的になど接してくる必要はない。帰れ!」


「……」


「魔王さま。アザトールが数百年ぶりに来たのです。そう、無碍に扱っては、魔王としての度量と器が侮られましょう」


「む。――う、うん。ノーデンスが、そう言うのなら、まあ、挨拶ぐらいは、赦してやろう」


「ありがとうございます。アイリーン、それにノーデンスさんも」


「ちょって待つのじゃ! なぜ相変わらず妾が呼び捨てで、ノーデンスが「さん」付けなのじゃ!」


「……キャラ的に?」


「帰れ。今すぐっ、帰れ! 妾の威風堂々とした佇まいと、圧倒的な魔王気(マーラ)を前に、なぜそう言えるのじゃ!!」


「ノーデンスさんの後ろから出てきて、私ときちんと目を合わせて言えたら考えます」




† †




 妾の名前は、アイリーン・ゾディアック。

 最果ての地に居る最強最悪の魔王。

 今日はここ数百年厄日じゃ。あやつが来たからじゃ。

 アザトール・オリジン。いや、今は、オリジンでは無く、デウス・エクス・マキナじゃったか。

 妾がかつて敵対していた魔法使いの弟子。そして魔法使いが死ぬ原因を作った元凶。

 別に妾は魔法使いの事はなんとも思ってはおらん。全くこれっぽっちもじゃ。

 とはいえ、あやつの死の原因であるアザトールを赦す気はない。本人も赦して欲しいなどとは思ってないじゃろうがな。憎たらしい。


「アイリーン様。ケーキと紅茶をどうぞ」


「う、うむ」


 テーブルの上に置かれたケーキと紅茶。

 妾の至高なる魔眼を持ってケーキと紅茶を鑑定する。

 む。変な物は入ってないようじゃな

 フォークを手に持ちまずはホイップ部分、次にイチゴを食べる


「――ふむ。腕は相変わらず、いえ、更に上達しましたか」


「従者に関する師であるノーデンスさんに、そう言って貰えると嬉しいです」


「ふん。まだまだじゃ。ノーデンスの方が数百倍美味しいわっ」


「お代わりありますけど、食べますか?」


「……食べてやろう」


 次に出してきたのは、果実たっぷりのフルーツケーキ♪

 はっ。――これは献上品。献上品故にイヤイヤではあるが、食べなくてはな。うむ。イヤじゃが、しかたない。フルーツケーキには罪はないのじゃ。

 本当に憎たらしい小娘め。多少駄目な所があれば、批判できたものをっ。

 例えノーデンスと比べると劣っているとは言え、このレベルのケーキを批判するのは妾のプライドが許さぬ。

 このままではいかん。このままでは、菓子を貰って喜ぶ子供では無いか!

 いかん。せめて等価交換という形に持っていく必要がある。だが、基本的にこやつは無欲。仕える主が望まない限りは、自ら何かを望むことは無い。

 ……。

 …………。

 ――あった。あれがあったのじゃ。


「ケーキの駄賃だ。お前に情報を教えててあげるのじゃ。感謝せよ!」


「情報――」


「貴様のことだ。どうせ千里眼のスキルも、主とその関連の事にしか使っていまい」


「……まぁ、そうですね」


「情報とは、妾がだいぶ昔、まだ魔法使いが生きていた頃に、邪神と邪竜を組み合わせたハイブリッドな魔獣、邪神竜ヴェンジリウガンを造りだしたのじゃ」


「懐かしいですな。成体になった頃は、魔法使い殿は死に、貴女は神を鏖にしている最中でした」


「うむ。この地で放し飼いにしておったので、成体になったので創造主たる我が、忠誠度を測るために「お手」をしろと命じたのじゃが……。奴め妾を丸呑みしおって!」


「さすがアイリーン様。ギャグに全身全霊をかけてますね」


「かけてなぞおらぬ! 温厚である妾を涎だらけにしたヤツを殺そうとしたが、……神と竜のハイブリッドは、妾が四苦八苦してようやく生まれた存在なのじゃ。殺すのが勿体なくて、封印する事にしたのじゃ。人界に」


「なぜ人界にそんなモノを封印するんですか? この地で良いでしょう」


「――」


 邪神竜は神と竜のハイブリッド――つまり神の力を持っておる。あの頃の此奴が、それを耳にすれば、確実に殺しにしておったハズだ。……今でも殺すじゃろうが。

 神と聞きつけて、あの頃の小娘にこの地を踏み入れさせたくなかったからの。だから人界へと封印したのじゃ。決して恐れていたわけでは無いっ。それに、見てられなかったしの。

 母、父、兄妹、友達、顔見知りの人々。全てを神によって奪われ、最後は師ですら、神によって殺された。……魔法使いの件は、小娘が6割ほど悪いのじゃが。

 善悪関係なくただ神を殺す。それだけの為に、修羅の道を生きている小娘。

 ――妾のように、全てを捨ててこの地で住む選択肢もあったんじゃがなぁ。それが彼奴の望みでもあった。


「――アザトール。あの頃は、コチラでも色々とあったのです」


「う、うむ。で、だ。人界に封印しておったヴェンジリウガンが、何者かによって封印が解かれたのじゃ」


「魔王であるアイリーン様の封印を解ける実力者と言えば――」


「妾は人界のことなぞ、もう知らぬ。誰が封印を解いて、アレをどう使おうと知ったことでは無いのじゃ。――ただ、封印したときはレベルはカンストしておったが、長年の封印じゃ。1000程度にレベルダウンしておろうな」


「――分かりました。もしもの場合は、斬り捨てて宜しいですか?」


「好きにすれば良いのじゃ。邪神竜にもはや興味は無い。妾は、新魔獣創造はする気はない」


 神に選ばれた勇者も来ない地に、新魔獣創造をしても意味がないのじゃ。


「そう言えば、連れは何者じゃ」


「……強くなりたいということなので修行に連れてきました。万が一、死なれると困るので分身体を」


「残していくのは許さんのじゃ! ノーデンス、小娘の連れが死なない程度に監視するのじゃ」


「了解しました」


「これで問題ないじゃろ。ケーキの対価に情報も教えたしの。さっさと帰るのじゃ」


「――分かりました。では、一先ずは帰ります」


「一先ず、じゃと?」


「ルドラ様を迎えに来なくてはならないので。それともアイリーン様が、連れてきてくれますか?」


「……人界なぞ、行きたくも無いのじゃ」


 人間は、悪魔や神よりも、残酷で、残忍で、恐ろしい。

 妾はもう人間とはできるだけ関わりたくないのじゃ

 関わりたくない人間筆頭は、勿論、目の前の小娘じゃがのっ。

 小娘は頭を下げると、空間移動して去って行った。


「ノーデンス。小娘の連れを見張るのじゃ。死なれて難癖をつけられては面倒なのじゃ。……妾は、小娘の相手をして疲れたので休むことにする」


「畏まりました。では、あの人間の事は私にお任せ下さいませ」





◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆





 バアルナイト王国王城にある一室。

 そこではアルフレッドとロザリンドの2人と、アルフレッドに付き従うメイドが1人、ロザリンドの守護騎士であるハイネがいた。

 アルフレッド付きののメイドが、ワインの入った瓶を持ち、両人のグラスに注ぐ。


「お前が俺のところに来るとは珍しいな。どうかしたか」


「お兄様。以前にも言いましたわ。トワを殺すのだけは赦さない、と」


「なんの事だ?」


 空間が軋み、耳障りの悪い音が部屋に響いた。

 ハイネが空間を斬ったのを、メイドが防いだ音だ。

 それに戸惑うこと無く、2人は注がれたワインを口につけて飲む。


「トワを私に下されば、王位継承権はお兄様にあげるわ」


「義妹と王位を天秤にかけるつもりか」


「ふふふ。あの子を飼い殺しにして屈辱の限りを尽くせるなら――王位なんてあげますわ」


「アレも可哀想なヤツだ。お前の嗜虐心に目をつけられたのだからな」


 トワがいなければ国民相手にその嗜虐心を発揮していたでおろうロザリンドを見ながら、アルフレッドは思った。

 だが、アルフレッドもトワを渡すわけにはいかない理由がある。

 そのために父親であるギルバートが、存在を隠してたトワを見つけ出し、監視下に置くためにわざわざ王族へと招き入れたのだ。

 今のところはアルフレッドの計画通りに事は進んでいる。

 トワの所に現れたアザトールに関しても、ある人物から聞いていた事で計画の内に入ってたので問題はなかった。


「王位もトワもお前にくれてやるモノは1つもない」


「酷いお兄様。実の妹の可愛いお願いすら叶えてくれないなんて――本当、酷い人」


 ロザリンドがワインを飲み干し、グラスをテーブルに置いた瞬間。ハイネが動いた。

 腰元にある鞘から片手剣を抜きアルフレッドに斬りかかる。

 が、次の瞬間にハイネの手から剣は消え、消えた剣はメイドが持ち剣の刃がハイネの頸へと当てられた。


「恐ろしい妹だ」


「……随分と優秀なメイドを雇っているわね」


「ああ。お前もSランクの冒険者を雇ってるだろ。俺もそれと同等のぐらいは付けるさ。こう言う事もあるからな」


「――ハイネ。退きなさい」


 ロザリンドはハイネを後ろへと退かせる。すると剣はメイドの手から消え、ハイネの鞘へと収まっていた。


「それで、お兄様の目的を教えてくれないかしら? トワが必要なのではなく、必要なのはトワの心臓でしょう。少し刺激をかけてみたら、とても面白い結果となったわ」


「……言ったところで、お前には分からないさ。俺の本懐はな」


「そう。残念。――ハイネ、帰るわよ」


 ハイネが頷き、ロザリンドは椅子から立ち上がり部屋から出て行った。

 残ったアルフレッドはメイドにワインを注がせ、一気に飲み干す。


「第一王女は放っておいていいですか?」


「アイツと周りにいるヤツ等の能力は把握している。多少動いたところで、俺の目的が駄目になる事はないだろうさ。それよりも例のは帝都方面へ放ったか?」


「はい。主様のご命令通り、例のヤツは帝都方面へ放しました。一ヶ月もしない内に暴れ出すことでしょう」


「そうか。精々暴れて回って貰わないとな」


「――全ては主様のお心のままに」




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