09 人が頼るべきは天上の存在たる神ではなく隣にいる同じ種族の人
一週間ほど前。
千里眼で王城を隅から隅まで見回しても居ないと思ったら、『天空神の間』とか妙ちくりんな名前をつけた過去の遺物に居座ってましたか。
どこに居るか分からなかったので、知り合いらしい騎士団長にちょっとした物をつけて位置を把握できるようにしておいて正解でした。
え。どんな物かって? この世には知らない方が良いことがあるんです。
それよりも、あんな遺物がまだ残ってたんですねー。
かなり昔の遺物じゃないですか。人間が自分たちの文明を2回、3回ほどでしたか、戦争やら何やらでリセットする前から物です。
ただ宇宙の景色を見る程度しか用途がないのなら、問題無いですが、アレって機能全て使えば国ぐらいあっという間に焦土とする事が出来る対国神具。
ま、使い方を知っている者はいないでしょう。
神は私が全て津々浦々殺しまくって、この世界には神は存在しませんからね。
『ギルバート。あいつは、何なんだ?』
『…………哀れで、可哀想な、メイド少女だ。はっは、俺なんかにそう同情されることすら、あいつにとっては忌避するべきなんだろうが』
ええ、その通り!
貴方なんかに同情されたくはありません。
私はエゴを押し通しました。それに対しては後悔も未練もありません。
哀れ? 可哀想?
何様なんでしょう、あの男は。
『あいつは神殺しだ。この世界に存在していた全ての神を殺したんだよ』
『な、に』
『理由はな、「人が頼るべきは天上の存在たる神ではなく隣にいる同じ種族の人」。それだけだ。そう思うに至った理由はあるだろうが、それはカナタから聞いて無い。アイツがメイドをしているのは、「頼りやすいと言えば使用人=メイドですよね」だと』
神世なんて碌なもんじゃなかった。
人は神々に頼り、何をするにしろ神頼み。
――神様の言うとおりにしろ――神様が決められたことだ――神様が望まれている――神様は見捨てた――神が欲している――神が愛されている――
神。神。神。神。神。神。神。神。
何をするにも神の気分次第な最悪最低の世界。思い出しただけで吐き気がする。
「あ、アザトール、大丈夫? なんか厳しい顔をしてるよ」
「……申し訳ありません。ちょっと昔の事を思い出しただけですので」
「そう、なんだ。今日はもう休んでくれていいよ。後は軽くお風呂に入浴るだけだし」
「駄目です! 問題ありません。きちんと洗い流します!!」
「あ、はい」
あぶない。あぶない。今日一日で一番のご褒美を逃すところでした。
まあ、それにしても、本当ロクでもない世界でした。
ただ――それでもデウス・エクス・マキナに出会えたのだけは良かったことです。
私から神達を護るために、神々が己の権能と技術を注ぎ込んだ結果、創造主である神々ですら上回る力と権能を持ち、護神剣・ルーヴァグライアスの所有者。
神々によって生み出され、最後は神々によって壊された
機械神、デウス・エクス・マキナ。
私の好敵手であり、初めての親友でした。
「? アザトール、どうかした?」
「――少し、親友の事を思い出しまして」
「大切な人?」
「ええ。親友――デウス・エクス・マキナは、とても大切な人でした」
「デウス・エクス・マキナ……。アザトールの名字と一緒だね」
「はい。死ぬ間際に譲られましたので、それ以降は名字として名乗っています」
神世から人世に変わってもうどれぐらい経ったでしょう。
神々がいなくなった事で、世界は大混乱に陥り、人が主権となり、様々な争いが起こり、何千、何億という人が死んだ。
あのまま神世が続いていれば、死ぬ事の無かった人達が大勢死にました。
私は、神に頼らずとも、人は生きていけると信じたかった。今も信じています。
愚王が私のプライベートを勝手に無断でルドラ様に話したのは、まぁ、想定内ですし見逃しましょう。
どうせ何時かは知られることですからね。
ただ、これで余所余所しくなられると困りますが……。するようなら、ちょっと仲を深めるする必要性が出てきます。
一応、お嬢様の守護騎士になる方ですからね。
千里眼で愚王を見るのを止めようとすると、「天空神の間」に時空間魔法で入ってきた少女がいました。
確か、お嬢様の義妹、ジャンヌ・ロイヤル、バアルナイト、でしたっけ。
上の姉と兄は注意してましたが、彼女に関してはほぼ分からないんですよねえ。
お嬢様とも一回程度しか接触がありませんでしたし、私と同じようにか弱いって設定持ちだったので。
『ついにお母様が、王都に来られたみたいですね』
ん?
この流れで、お母様?
『ふふふ。どんな顔をするかしら、自分の生体情報と、嫌いな男の生体情報を組み合わさって出来た子供を見たら』
……。
鑑定。アナライズ。サーチ。アカシックレコード。全ての検査スキル起動!!
あああああああああぁぁああああ!!!
よりにもよって、私と愚王と生体情報で出来た子供ぉぉぉ。
いやいや。私の生体情報なんて、愚王に渡した記憶はこれっぽっちも――
『アザトール、貴女の血液を頂戴。え。何に使用するかって? な・い・しょ♪ きっとアザトールは驚くと思うわ。だって、貴女と本当の意味で家族になれるもの』
カナタぁぁぁぁああああぁ。
何をしてくれてるんですか! 何て事をしてくれてるんですか!!
驚くと思う?
ええ、驚きます。驚いてます。驚愕の一言ですよ。
この私をこんな風に感情を起伏出来るのは、貴女ぐらいです。死んでなかったら直接文句を言いたい。言ったところで、歳を考えず「てへっ」としそうですが!!
カナタなら、私と愚王の生体情報をやって人造生命体を作れるでしょう。なんと言っても私が厳選した7種類のスキルを貸してましたからね。
はぁはぁはぁ。
それにしても、私に、娘ですか。
本来なら出来るはずがないんですけどね。
神々を鏖にしている時に、殺した処女神から「未来永劫処女のまま」、恋愛神から「未来永劫恋人や異性を愛することが出来ない」と言う神詛をいただきましたから。
私のエゴで殺すせめてもの情け、と言うのもおかしいですが、殺した神々の一部から1柱につき1神詛をかけられ、それを受け入れました。
限りなく不死に近いですが、死ねない訳ではないので、こんな風に長く生きられると思わなかったのも一因です。
――娘のことは、一先ず、置いておきましょう。
近い内、一週間後には向こうから来るようですし。
ただお嬢様と会う前に、接触はしておくべきですね。なんと言っても、私の遺伝子を半分は持っている子ですから、油断はできませんが。
それよりも今から最重要任務を実行する必要がある為、意識を他へ割けません。
「さて、お嬢様。躰の隅々まで洗いますので覚悟をして下さい」
「――アザトールさ、なんでだろ。過去最大級の危険信号が頭の中に響いてるんだけど」
「気のせいです、気のせいです。安心して下さいお嬢さま。過去に仕えていた人達から躰を洗う際に、私はオラクルハンドと言われ、次からは自らが求めて来るほどでした」
「よし自分の事は自分でする頼ってばかりじゃだめだめだから私のことは気にしないで」
「そう言う訳にはいきません。お嬢様の綺麗な肌を更に綺麗にするのも、メイドの仕事です」
「いやいやいや良いから遠慮す、ひゃん、ちょ、んっ、ぁぁ、だ、だ、んっ、っはっぁ」
今日一日の疲れが洗い流されるとても充実した一時でした。
◆◆◆◆
王立エクリスト学院入学式当日
ジャンヌは入学式の答辞を終えて人気のない場所にいますね。
会いに行くなら今なんですが。
娘。娘ですか。実感がないんですよね。
どうなるか分かりませんが、当たって砕けろの精神です。もし駄目なようなら、駄目で割り切りましょう。
空間を接続して、ジャンヌがいる校舎裏へと繋ぐ。
「――お母、様」
私が現れたことにジャンヌは驚いてるようです。
うーん、突然現れた事に対して驚いてるんでしょうか。私の娘が?
娘は娘。いつもの分身体と同じに考えてはだめです。
とりあえず撫でてみましょう。
ジャンヌに近づいて頭を優しく撫でてみる
「……っ……っ」
え、なんで怯えられてるのでしょう。
ただ優しく撫でているだけなのに。本当に分からない。
流石の私もショックを隠しきれない。
「えっと、なんでそんなに怯えてるの?」
「だ、だってお母様って、分身体が嫌いなんでしょう。だから、私の事も、きら、嫌いで」
確かに分身体は嫌いですね。多少違いをあれど芯の部分が一緒なので、どうしても同族嫌悪が先行してしまうんですよねえ。
まあ便利なので多様はしますけどね。使えるのに使用しないというのは、メイド失格です。
思った以上に嫌悪感はないです。
これが子供がいるって感覚ですか。身に覚えの無い感覚ですね。
「貴女は、言霊神の権能は効いて無いようですね」
「え、言霊、神?」
「人の言葉を操る神です。この国の多くの人が、その権能の支配下にあります」
「お父様から聞きましたけど、神さまはお母様が鏖にしたのでは?」
「しました。しましたが、どうやら模造品が存在しているようです」
今、この世界に神が新しく生まれる可能性は微粒子ほども存在していません。
つまり言霊神が単独で顕現はできるはずがありません。
可能性としては、言霊神の権能を使用できる存在。
私はそんな存在を1柱、知ってます
神々によって造られ、数多の神の権能を所有している、デウス・エクス・マキナ。
たぶん、その模造品でしょう。
王都に来て以来、常にサーチをかけてますが、未だにどこにいるか把握できてないですし。そんな事が出来るのは、彼女、いや模造品も含めると彼女たち、と言った方が正しいでしょう。
さっき触れてジャンヌをきちんと検査しましたが、模造品になにかされた形跡はありませんでした。
もし、何かされていたら――。
「――っ。おかあ、さま、くる、しい、ぁあぅ」
おっと、いけないいけない。
つい威圧を上げすぎました。
「ごめんなさい。貴女が、敵に何かされていると思うと、ちょっと苛ついてしまって」
「う、ううん。いいの。お母様が、ご主人様以外で、怒りを露わにしてくれたんだもの。娘としてとても嬉しいわ」
確かにらしくはないですね。
私が仕えるご主人様以外のことで、怒るというのは、らしくない。
これが子供に対する感情なんでしょうか。
悪くはない、てす。ええ。
「う。なに……」
200メイル――いえ300メイルほど先で戦闘が始まりましたね。
この気配からして、ルドラ様ともう1人は知らない顔ですが……。強いですね。
護宝剣・ルーヴァグライアスを渡しましたが、そのブースターがあったとしても、五分五分で勝負できたら奇跡と言うほどでしょう。
それよりもルドラ様の周りにお嬢様が居ない。
幾ら娘と会っていたとは言え、この私がお嬢様を見失う?
ありえない。ありえないけど、実際に起きている。
……デウス・エクス・マキナの模造品が学園内にいる?
いえ、今はお嬢様を最優先に。犯人捜しは後で良い。
「ジャンヌ。貴女とは、後ほどゆっくりと。お嬢様に話しにくる予定だったでしょう」
「うん」
「では、また後で――。念のため、私の切り札を護衛につけさせておきます」
数いる分身体の中でも、他と違って嫌悪感が薄い。それに私を殺そうとはしない。
ただ私と違って少々性格に難はありますが、分身体のため実力は私と同じですから、護衛ならば万が一の事もないでしょう。
「褐色肌の、お母様?」
「アザトール・ナイヤーラトテップ……。よろしく、マイ・キッズ」
「私の分身体なので実力は申し分在りません。実力は――」
「性格に関しても、オリジンよりは、マシ。だから安心して」
「ナイヤーラトテップ。私はアザトール・デウス・エクス・マキナです」
「どっちも変わらない――はい、ごめんなさい。言い間違えた」
他の分身体も、これぐらい素直だと良いんですけどねー。
あの子達は言葉で謝りながら、殴りかかってくるタイプが多い。多すぎる。
全く誰に似たのやら。不思議ですね。本当に。
「ナイヤーラトテップ。私達の娘を頼みます。私は、お嬢様の元へ行きます」
「私が、こっちで良いの? 本来ならありえない事だよ。私、私達に子供が居るってことは」
「――私は、メイドですから。主を護るのが、最優先事項、です」
「子供からしたら酷い親だ」
「そ、そんなことは――ありません。お母様が、私を受け入れてくれただけで、私はっ」
ジャンヌはそう言うけど、ちょっと不満そうな感じがする。
分からなくもない。
子供は親には一番に思って欲しいと思うもの。かつての私がそうであったように……。
でも、今は――。
「ごめんなさい。ジャンヌ」
私は頭を下げて謝り、ジャンヌに背を向けた。
「人に仕えて主を最優先とする」という一種の呪。
メイドである以上、私はこれから逸脱はできないのです。
そして死ぬまでメイドである私は、常にお嬢様を最優先にして、ジャンヌの事は二の次にするでしょう。
……酷い、親ですね。私は――。
頭を振り意識を切り替える。
今はお嬢様を最優先とする。これで、もしお嬢様に万が一があったら、お嬢様にもジャンヌにも会わせると顔がなくなります。
森の中を進んでいると、炎の魔人と対するお嬢様の姿がありました。
魔人は、火球をお嬢様へと放つ。
――空間遮断――因果無効――火炎無効――熱波無効――火炎消滅――
待ちうるスキルを持って火球からお嬢様を護る。
オーバースキル?
守護をするとは過剰なほどが丁度良いのです。
私はお嬢様を護るように前へ立つ。
「残念ですが、お嬢様を殺すことは不可能と知りなさい。それは私が仕えているからです!」
■対国神具・ニュクスカルマ
神々が国を滅ぼすために造った神造兵器。
これから降り注ぐ光の魔力の雨は、国を焦土へと変え、逃げ纏う人々、絶望する人々、神に許しを請う人々、様々な人間を見ながら神達は宴を繰り広げた。
通常は地上から400㎞付近に停滞している。
トワのお風呂シーンは、詳しく描写したい気持ちはありますが、するとノクターンへ
と、言う可能性があるため、皆さまの想像にお任せします