パーティーを組もう1
第二章の始まりです
アーデル含め、三人と別れたノームは冒険者ギルドに舞い戻る。
だが、既にパーティーを組み終わって初依頼に挑戦しているのだろう。ノームの中では記憶に新しい熱気は跡形もなく消えている。
セシルの容態を確認するために休憩室に向かったが、こちらもその姿はなかった。
受付嬢は心配いらないですよとの声を掛ける。
一人では依頼を受ける気が起きなかったノームはそのまま帰宅する。
ーーそれら全て昨日の出来事となった。
「ううー、はっ」
沈んだ朝日がもう一度顔をだす。
強い日差しに照らされて、ノームは目を覚ました。べッドから這い出し彼は、ぼやけた眼で一枚の写真を覗く。
それは形が定まらない影がこちらに手のようなものを伸ばしている写真である。魔法道具で今ある精一杯の記憶を形にしたものだ。
場所さえはっきりしない。故に移動に制約がかからない冒険者を選択した。
ノームは頬を二三回叩き、覚悟を込める。ギルドに向かった。
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「先生、そういうのは良くないと思う」
「何のことだ?」
ノームは冒険者ギルドでクレハと顔を合わせる。ノームの姿を見た瞬間にクレハが突撃してきたのだ。
開口一番に体を突っつかれた彼だが、肝心の原因は完全に頭の中から抜け落ちていた。
「手を出したとか……。凄い美人なのは認めるけど」
「ああ、あれか……」
あんなのは冗談に決まっている。
そう答えようとしたノームだが、その瞬間にワンシーンがフラッシュバックする。
(言葉に気を付けるんだったな。……普通の人間は他人にこんな冗談を仕掛けるはずが無い。関係がバレることは極力避けたい。なら……)
「何のことだ?」
惚けることにした。
それが最善の選択であろう。
「だから先生が会長様に手を出して、連行されていったって」
「いや、俺がそんなことをするはず無いだろ」
「でもじゃあ、どうしていなくなってたの?」
追及を止めないクレハ。
けれど、それはノームの予測範囲内の行動に過ぎない。
「第三段階の魔法を直撃だぜ。異常はないか詳しく見てくれるって連れていかれただけだ」
「……先生はきっとそうだって信じてた。体の方は大丈夫なの?」
道筋は既に考えられていた。
ようやく納得したクレハはだが、新たに浮上した危惧を気に留める。触診しようとノームに近づいた。
「問題ないらしい。結構、疑われていたようだけど」
「だって、紙に書いてあるのを見たんだもん。ごめんなさい」
そうはいかないのがノームの本音である。
再度またはクレハでない第三者に、必然かはたまた偶然か同じことを聞かれるかもしれない。そこで本来は知りえない情報を吐露してしまうのを避けるために、この場で自分が知っている情報は全てクレハの口から聞いておきたいと考えた。
ようは話が終わっては困るのだ。
首を左右に動かし、腕を摩り、胸を叩いてーー異常がないことを伝える。
その後、薄目で話をぶり返した。
ノームに退かれたクレハは必死だった。
「見間違いとかじゃないのか。それか彼女は案外そういう性格なのかもしれないな」
泣かせてしまったことに心を痛めるのに加えて、目的である”紙に書いてある”という言葉を聞き出せたノームに彼女を拒絶する理由はもうない。
その場にへたり込んでしまったクレハの頭を優しく撫でた。
「それはないよ。格式の高いエルフの中でも最上級の存在だもん。見間違いかな」
そういうクレハの両目は禄に前も見れない程に潤っていた。
「ごめんな。大丈夫か?」
「ぎゅっとして」
「それは……」
「なら手握って」
ノームはクレハと目線合わせるために屈んだ。
抱き着くのは無理だが、手を握るくらいならとクレアの手の上に自身の手を置く。
クレハの容態が元に戻りつつある。
待つこと数分、頃合いを見たノームはクレハをサポートしながら一緒に立ち上がった。
「落ち着いたか?」
「うん。ありがと。もう行くね」
「それで、パー……いや何でもない」
ノームはパーティーを組まないかという言葉を喉奥に押し込んだ。
彼女の視線はナイツオブノーネームとして活動していた時期に散々浴びてきた視線によく似ている。本能で依存的な何かを感じ取ったのだ。
(彼女は危険だ。十中八九、あれのせいだろう。だが、まだ間に合う。初めてであれだけできたならば、相当な実力の持ち主だろう。彼女だけでもやっていけるはずだ。どちらにせよこれからは接触を避けるべきだな)
あれとは、ノームがクレハに魔法道具に効率よく魔法を入れる方法を伝授した時のことである。今まで出来なかったことが急にできるようになった。それを教えたノームをクレハが頼ろうとすることに文句はいえない。
そして、同時にクレハならこれからは独自のやり方で進んで行けるとノームは結論付けた。
今更だが、彼女の出来は本当に素晴らしかった。ファイアボールと魔法道具に刻み込ませるのに浪費した魔力は約六割。初めてでこれは異常な数値である。割合だけを見れば、この国の第一線で活躍している者達とそうは変わらない。
殆どの人ができないからこそ、あまり広まっていない技術なのだから。
去っていくクレハを呼び止められなかったノームに責任を押し付けるのは酷というものだろう。
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「やはり出遅れたのが痛かったか」
ノームは現在、待機状態だ。
パーティー募集の張り紙を貼ってからかれこれ数十分が経っている。
それでも来る気配がない。
(積極的に出向くべきか……)
わいわいがやがや依頼書の周りで屯している連中に声をかけてもいいかもしれない。荷物持ちとしてなら雇ってくれるだろうかーーあっ募集用紙にその旨を記載するのを忘れていた。
しかし、募集はこの方法でと言われている。
だがこのままというわけにも……。
そんな風に悩んだ挙句、ノームは椅子を立ち上がる。
まさにそのタイミングで声が掛けられた。
「これは馬鹿にしているの?」
「あ、セシルさんか。……ってその紙は、まさかセシルさんが入ってくれるとは思わなかった」
「違います。昨日のお礼を言いに来ただけですわ」
「それはどうも。では何でその紙を?」
お礼を言いに来た態度じゃないだろうなんていう指摘はされなかった。ノームは他のことに意識を注がれているからだ。
セシルの手に握られて、クシャクシャになった紙を見つめる。
「お礼ついでに助言をして差し上げようかと思いまして」
「うん?何かおかしい所があったのか」
パンッと紙が机に叩きつけられる。
「目を通してみなさい」
他の誰でもない自分が書いたんだからという疑問を排除して、紙を広げる。
名前:ノーム・アデラード
使用可能魔法:魔力譲渡のみ。
属性魔法は一切使えません。
備考欄:武器の扱いも得意とは言えません。短剣がかろうじて使える程度です。さらに保有魔力も人並み程度で自分を頼りに高位魔法を連発する作戦はお勧めできません。
「やはり、何がダメなのか理解できないんだが」