力の一端3
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道が凸凹しているのだろう。
ノーム、フォアラ、ラーミア三人を乗せた馬車が大きく揺れる。
「ふと思ったんだが……」
台無しだな。団長との再開に肩を落とすノームはラーミアとフォアラに連行される。元来た道筋をたどり、三人は馬車に乗り込んだ。
拉致られてから数十分後、被害者は初めて口を開く。
馬車が揺れれば、当然のごとくノームの体も振動する。沈む内面とは真反対に弾んだ声が出てしまった。
「何だい?」
「ギルドと管理協会に繋がりがあるのは分かるが、何方も騎士団とはむしろ険悪なんじゃないのか」
「どうしてそう思われるのですか?」
「だって、俺が騎士団にいる頃は管理協会の規制なんて無かったはずだが。……まさか、これも団長が……」
「いえ、騎士団は協会の管理下ではありません」
「そうか。ならやっぱっ……イタ。舌噛んだ」
荒れた道はノームを虐めにかかる。
り、のタイミングで舌が歯と歯の間に挟まった。
「同じ道だろ。何でこんなに揺れるんだよ」
「さぁ。僕の魔法で、敢えて揺れる所を的確に……なんて考えていないよね?」
「それもう言ってるようなものだろ。怒っているのか?」
「全く。恥ずかしかったんだからとかーーイラついてるだけさ」
「原因?
の所は小さくて聞こえなかったが、怒っていることだけは分かった。謝る」
「別に」
ノームは話しながら、少しでも揺れから逃げようと態勢を次々と変えていく。ながらのノームには、ラーミアの小さな呟き聞き取ることはできなかった。
要点だけを抑えて、なおざりな謝罪を送る。
もちろんそれでラーミアが満足するはずが無く、状況は改善されなかった。
「だが、これはラーミアのせいだけじゃないだろ」
「なるべく揺れないようにー、魔法をかけていたんでちゅが、途中で誰かさんにー、止められてしまって」
「悪かった。でも、普通は魔法を使ったと思うだろ。わざと解いたなんて考えないと思うが」
言うまでもないだろうが、ノームがフォアラに膝枕をさせられた時のことだ。
自分は魔法禁止宣告通りに行動している。それがラーミアの言い分だ。しっかりととは……とても言えないし、無論わかっていっているが。
「そうは言われまちてもねー」
「悪かったって。もしかしてお前らって俺のこと、大嫌いだったりする?」
「その質問にノーコメントは当然として、僕の仕返しも彼女の悪戯も君が【解析】を発動させていれば、簡単に気付けたものだ。どうして使わないんだい?」
「それはな。あくまで俺の持論だとして聞いてくれ」
ノームは動きを止めて、二人の方を向く。
頷くを二人を視認すると、髪の毛をクシャクシャ掻き乱す。想像を超えるレベルで真剣になってしまった空気に耐え切れなくなったからだ。
姿勢と表情を崩して、話始める。
「俺は二人に対して、【解析】はあまり使いたくないんだよな。探っている感じが、交わした約束に反している気がするからか?」
「ふっ、何で疑問形何だい?」
「何となくそう思ったからだ」
「仕方ないね」「……ですね」
ラーミアとフォアラ、二人もノームを別にどうこうしたい訳じゃない。
最初から軽い友達同士で行う悪ふざけに過ぎなかった。
馬車の揺れが止まる。経ったそれだけの事実だが、それはノームに立ち上がることを許し、隅に移動したことで離れた距離を詰めることを可能にさせた。
お互いの信頼は間違いなく高まっただろう。見つめ合い、そして笑いあった。
(失った過去を探すために、今までの繋がりを失うのは馬鹿らしいか……。一週間前はそれでもいいと思っていたんだが、それなら団長と会うのも悪くないかもしれないな)
ノームは自覚した。
自分で聞いて、それは嫌だと思ったことをーー。
問われて、自然と言葉にしていたことをーー。
無意識の中で、完全に手を振りほどけ切れていないことをーー。
(何のために生きているかと聞かれれば、過去を探す為にと迷いなく答えられるはずだ。だが、それはナイツオブノーネームとして活動してきた俺の否定にはならないということか)
ノームは自分の力に大きな代償があることを知った時、迷宮に取り残された気分に陥った。
過去の苦労を知らないまま、軽はずみに使っていいものか。過去の代償を見捨てて、現在を考えていいものか。
悩んだ末にノームは今の繋がりを捨てることにした。過去があっての今であるという決断を下したのだ。
ノームはギルドで二人に会ったとき、過去を探すために必要なことだからとしか考えていなかった。
それが間違いだと気づく。
そして、それをラーミアとフォアラが教えてくれようと必要以上にちょっかいを掛けたのだろうと悟る。
故にーー。
「ありがとな」
「やっと気づいたのかい」「いえ、当たり前のことをしたまでです」
心からのお礼を音にした。
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「そういえば、実際の所、ギルド・協会・騎士団の関係はどうなっているんだ?」
「うむ。ここに来るのは渋ると思っていたが」
「色々あったからな。それで?」
二人用にしては広いが、四人が使うには狭い部屋にノームは足を運んでいた。騎士団長、ギルド総長、魔法管理協会会長といったそうそうたる顔ぶれに交じって同じ空気を吸っている。
しかし、ここはノームにとって、馴染み深い場所でもある。お邪魔しているという感覚を持っているのはラーミアとフォアラの方だ。
ノームは白くざらざらした壁を触りながら、懐かしさに身を任せていた。
「それより早く座ったらどうだ?
二人が座れないだろう」
「マジか。別によかったんだが」
自分と同じく立ったままのラーミアとフォアラを見ると、直ぐに自分の席に座る。
「それでと言われてもな。魔法協会の管理下に置かれないのは、必要がないからとしか言いようがない」
「詳しく説明させて頂きますと、私たちの協会は、可能な限り新人や余り才能がない者にも仕事が渡るようにするということです。騎士の方々にも年功、序列はありますが、生活に困るなんてことはないので、管理する必要がないのですよ」
ノームの右横に腰を降ろしたフォアラは詳細を加えた。
騎士というのはなること事態が目標ではないが、なる事が難しいのもまた事実なり。既に選りすぐられた人物である。その中でも頭一つ抜けた者は確かに存在する。周りの者の仕事を奪ったとしても収入はきちんと支払われる。態々強者の力を制限する必要はないのだ。
「我々の仕事は市民を守ることだ。当然、魔法使いもそこに含まれ、逆に管理下に置かれると、魔法使いが優遇されすぎてしまう恐れがあるからな」
それもまた是なり。魔法管理協会はあくまで魔法使いに仕事を斡旋する機関でしかない。
全く魔法が使えない者も多くいる。そんな人々を蔑ろにしていい道理はない。
「ついでに言うと、冒険者はお高くとまっている騎士たちをよく思ってはいないけど、それで僕たちどうこうってことにはならないよ」
フォアラと向かい合う席、つまりノームの左隣に着席しているラーミアが冒険者の意識と結論を割り込む形で述べた。
「なるほど。つまり、冒険者、協会、騎士団の命令が交錯することは殆どないんだな」
「そう思ってくれて構わない」
「では、団長。これからもよろしくお願いします」
ノームは頭を下げた。
「うむ。では、有事の際に極秘裏我々の依頼を行うことを条件に、君のバックアップを務めることを約束しよう」
「分かりました」
「いえる立場じゃなないけど、君は僕、ラーミア、アーデルと三人に色々制限されてめんどくさくはないのかい?」
アーデル、アーデル・ハルト・ウォーロードとは騎士団長の名前だ。
契約が終わると、ラーミアがノームの体を小突く。
けれど、むしろノームにとって不満はない。なぜなら
「確かにそうかもしれないが、これをやるからこれをしてくれって対等な取引だ。今まで俺はそれすら許して貰えなかったからな。好きにやれ、責任はこちらでとるーーとか信じられないだろ」
一人の対等な人間として接してくれたのが嬉しかったからだ。
ノームはラーミアの方に体を傾けながら、揶揄すべき人物であるアーデルの方に黒点を向ける。
「それで初めて過去の責任が取れる」
「……これは別件として聞いてくれて構わないが、君があれを使うときには連絡をしてくれ。その方が隠蔽しやすいからな」
「はぁ?」
咳払いの後、アーデルは二言付け加える。
ノームは素っ頓狂な声を挙げた。
「君のバックアップをするといっただろう」
「いや、……」
俺の責任だしーーと反抗するよりも早く、アーデルの口撃が止めを刺しに来た。
「意見を覆すのか」
「……ちくしょう」
結局、ノームはまた守られる立場になってしまった。
踵で床をたたき、悔しさを発散する。
「我々にも市民を守る義務がある。それに人間は簡単には変われない。たった一週間で変われたと思って、いい気になったのがダメだったな」
「くそ。これからは言葉の隅々まで注意する」
ノームは立ち上がり、すたすた歩いていく。
その足はアーデル付近で止まった。
「俺はお前が大嫌いだ」
「それは残念だ」
二人は固い握手を行う。
ーー何方も煽情感が溢れ出る笑顔を作りながら。
ここまでが第一章となります。急ぎ足だったでしょうか?
感想、評価をお待ちしています。




