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力の一端1

「それそろ本題に入っていいと思いますが?」


 ノームは多少冷たい印象を感じさせる声を放った。口調が正されている。

 きつめの視線を交互に眼差しを向けられた二人だが、その威圧に怯んだ様子は見せなかった。悪い笑みを浮かべて、逆に問い返す。


「ここで話してもよろしいんですか?」

「どうせ起きないし、聞こえないだろ」

「その通りだよ。じゃあ、始めようか」


 フォアラは側で眠っているセシルを見る。

 三人がそれなりの騒音を立てていたにも関わらず、セシルが目を覚ます素振見せることは一切ない。相変わらず、引き込まれる美しさを保っている。歪み一つないその寝顔を見る者は、実は胸が上下しているのは己の願望で、やっぱり死んでいるじゃないかと顔を青ざめるーーなんて可能性もあるだろう。 

 最初から全て夢だったという事例も魔法が発達したこの世界では、ざらではないが、確かに存在する。どれも可能性の一つに過ぎないのだ。

 故にノームが導き出した、『睡眠系の回復魔法が掛けられている』という案を頭ごなしに否定することはできない。

 そして、それが当たりだったとラーミアの口から伝えられる。彼女も幻惑魔法の応用で休憩室を外と隔絶しているのだ。

 しらばっくれることも出来たが、ラーミアもフォアラもそろそろ頃合いだと思っていたらしい。

 フォアラは口調を変える。

 今までの緩いオーラから力を感じさせるそれに、それがラーミアの変化を如実に物語っていた。


「では、会長と総長の話をお伺いしたいと思います」

「じゃあ、僕から。今日来たのは早いうちに君の立場を明確にしておこうと思ってね」


 上下関係が生まれた。ノーム対ラーミアとフォアラという形で対面する。

 ラーミアが一歩前に出る。

「普通とはいきませんか」

「当然さ。今日の研修会で学んだはずだよ。冒険者といっても最低限の規律はあり、自分のランクの±1までの依頼しかできない。できる限りダンジョンの階層も同じでありたいと思っている」


 新人をしっかり育てるために、新人の依頼を上級者に横取りされない体制を作らなければならない。特例として大きな怪我をしている最中は低ランクの依頼をこなすことが認められるが、稀である。


「俺はEランク相当の力しかもっていないと思いますが」

「それは君一人の話だろう。そこで眠っている少女か、さっきまでいた少女、または両方と君は行動するんじゃないのか」

「二人かどうかは知りませんが、パーティーを組みたいとは思っています」


 にやけるラーミアにノームは本心を伝える。

 しかし、ラーミアもどうせ動揺なんてしないだろうと考えていたので、ある意味予想通りといえるが。甘い雰囲気はすぐに消え去る。

 

「そうだろう。その場合、君はSランクに相当する」

「魔法は極力使わないつもりですが」

「Sランクの魔法使いが、剣を持ったからってBランクになることはないよ。それは力の詐称罪に当たる」

「そうですよね。ということはいきなりSランクですが」


 言うまでもなく、偽りを許せば、簡単に上記の態勢は崩壊する。

 力が全てだと思っていたが、案外しっかりしてるんだなと奥底で感心しながら、ノームはSランクとして活躍する姿を浮かべた。


「君の力は秘密の方向だろう」

「それでは、俺はどのように?」


 やれやれと投げられた言葉はノームの幻想を壊す。

 宛てがなくなった。


「それを今日、伝えに来たんだ。結論を言うと、普段はEランクと活動して、玉に私のお願いを聞いてくれればいい。それで黙認しよう」

「了解しました」

 

 ピシッ。ノームは敬礼する。


「冒険者は敬礼はしないよ」

「ですよね」


 染み着いた動作は簡単に辞められそうにない。

 敬礼を返してくれるはずもなく、ノームは苦笑して、ただ手を下げた。

 

「それでは、次は私ですね。騎士団を抜けたノーム様は魔王管理協会に登録されることになりました。ノーム様は魔法管理協会が何を目標とする組織だか説明できますか?」

「魔法を管理するんだろうなとしか」


 ノームは頭を下げる。

 騎士団は魔法管理協会の管轄外にあるのだ。むろん、冒険者ギルドもそうである。


「別に気にしていませんよ。多くの者がその程度の認識ですから。では、もう一つ。無限の魔力を持ち、瞬間移動ができて、……この際分身もできるとしましょうか。そんな方が国を渡れるほどのテレパシーを持ち、上位の回復魔法を使えると仮定します。どう思いますか?」

「凄いとしか」

 

(随分と遠回りだな)

 

 中々本題に入らないことを疑問に思うノーム。別に急ぎたい訳じゃないが、馬鹿らしい仮定に特に裏を考えることもせず、漠然とした感想を返した。


「確かにすごいです。ですが、それを凄いで終わらせなれないのが我々です」

「どういうことですか?」

「彼女以外の回復魔法を使える者が必要なくなります。それでは困ります」

「規制をかけるとかですか?」

「はい、その規制が我々の根幹にあるものです。十の場で活躍できる力を制限して、一の場でしか活躍できない者にしっかり役割を与えられるようにする。それが魔法管理協会の仕事です」

「大変よく、わかりました」


 まさにその通りだ。

 なぜ、態々フォアラが前置きを置いたのか、その理由を察した。


(俺、やばくね?)


「今の説明で分かっていただけたと思います。先程ラーミア様は貴方をSランクと称しましたが、我々からすればSがいくつあっても足りない位の重要人物となります」

「……それで俺にはどのような制限がかかるのですか?」

「可能な限り、我々の指示で動いてください」


 雁字搦めの縛りが来るだろうと覚悟したノームだが、予想打にもしない指示が飛んできた。


「は? それじゃあ、騎士団に居た時と変わらないだろ。拒否する」

 

 そう。それではノームが騎士団を脱退した意味がない。

 会長と平役員、絶対的な立場の差を忘れて、ノームは怒鳴る。


「……そう言うと思いました。加えて、貴方の魔法は秘密事項に当たりますので、ラーミア様と同じく表立つことはできません。貴方の極力使わないという言葉もよく知る者として、信じることができます。ですが、見過ごせる限界を優に超えているのも事実です。ですので、普段は可能な限り私の承認を事前にとってください。我々からの依頼を快く受けて貰うのもセットでお願いします」

「あまり変わっていない気もするが」


 分かっていたのだろう。

 身の程知らずな態度を流し、淡々と説明していくフォアラの姿はノームの頭を冷やす。

 それでも煮え切れないようで、不貞腐れたノームは顔を背ける。


「勘違いしないでください。これは正式な命令です。拒否は許されません。それに一を十にするのは貴方であって、一を十にされるのは貴方が選んだ人物です。代償の責任は二人だけのものです」

「……大人になるんだろ」


 分かっているとしても、だからと言って相手が納得するまでハードルを下げ続ける訳には行かない。

 会長としての役目をしっかりこなした。普段は優しい人が少しでも怒ると、より恐怖を感じる現象は何と名前を付ければいいか。 

 現実を突きつけられたノームは背骨を反らし、目を閉じる。小さな声で己の鼓舞した。


「わかりました」


===== ===== ======


「早速願い事があるんだ」

「ですよねー」


 了承したノームは回れ右して、救護室を出て行こうと一歩踏み出す。

 それ以上は進めなかった。抗えない力に停止を強要される。

 下を向くと、魔獣化したラーミアの一部を目にする。

 ラーミアは魔族と人間のハーフである。紫色の長い尻尾の先端が右足に巻き付いていたのだ。

 尻尾を上手に活用して、ノームの正面まで来ると、ラーミアはニヤリと鱗の付いた頬を引き延ばす。

 ノームに足を下げる以外の選択肢は残っていなかった。


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