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冒険者ギルドでのこと2

ヒロイン二人目登場

ガシャガシャ音を鳴らしても、誰かが様子を見に来る気配は一向にない。研修会の受付で忙しいのだろうとノームは当たりを付けて、復興作業を開始する。

 手始めに散らばった魔法道具を積み上げて行く。隠すように壊れた物、焼かれた物を押し込み、表面も無傷な代物で着飾った。

 

「これはどうにもならないな」

「ここにあるのは別に無くなってもいい物だし……」


 視線を動かしながらクレハは答える。けれども中々視線は定まらない。燃えたとか破れた等の原因で読めなくなった紙がまき散らかされているからだ。


「見つかりづらい所に置いておくか」

「うん」


 クレハの声は弾んでいた。復旧作業しなければいけない程に大惨事になってしまったこと事態が嬉しい。それを引き起こせる位に強力な魔法を放てたということに他ならないのだから。


(俺もこれくらいはしゃいだのだろうか?)


 一歩一歩がスキップになるクレハ。ツインテールが弾ませて、瞳も普段より輝きが増しているように見えるクレハ。喜びを体を使って表現するクレハをノームは思い馳せる目で見つめていた。対照的に悲しみを醸し出す。


(努力を喜びを思い出せないなんて、手伝ってくれた者に対する冒涜だよな)


 過去を失ったノームは努力の過程を漠然としか思い出せない。そこに達成感などある筈もなく、最初から何でもできる小説の主人公だと錯覚さえする。

 それがノームには許せなった。

 

 言ってしまえば、クレハと出会った当初、ノームには指導をする気などなかった。一度魔法を見せてもらい、何も感じないならそれでお別れという予定だった。それでも床にできた焦げの数を見て、これなら間接的にでも喜びを味わえるだろうと踏んだゆえの今までだ。

 

(何か虚しいだけだ)


 結局、ノームは虚無感しか感じることができなかった。


「あつっ」


 クレハは高揚感から冷静に物事が判断できなくなり、黒く焦げた紙を諸に触ってしまった。当然数分では熱が抜けるわけがない。

 反射的に手を離す。触れた部分を見ると、黒くなっている。慌てて手を擦ると、黒色が広がった。炭が付着しただけだと分かるとほっと息を吐く。


「大丈夫か?」

「はい。ノーム先生こそ平気なの?」

「先生は止めてくれ。俺は手袋をつけているから」


 ノームは真っ黒な手袋で包まれた右手を後ろ手に振る。


「そうだった。私ったら」

「人間あんまり注意深く見ていないものさ」


 陽気が抜けない反省をクレハは行う。こつんと自分の頭を可愛らしく叩いた。

 されど、そんなクレハの姿が見えないノームは当たり障りないようフォローする。出会って数分の人間の感情を声色だけで判断するのは土台無理な話だ。

 

「そろそろ本当に時間がやばい。後は頼んだ」

「了解です。ノーム先生」

 

 ノームは作業を順調に進めていく。後は一人で大丈夫だろうとクレハに頼む。

 クレハはへなちょこな敬礼を返した。

 ノームは笑みを浮かべて、部屋を出る。階段を下った。



===== ====== ======


「今日は新人研修会によく来てくれた。担当するハンスだ。よろしく頼む」


 予定通りにノームは新人研修会のために用意された席の一つに腰を降ろしている。本当に時間がギリギリで、最後の一人だったということは……蛇足かもしれない。

 ハンスと名乗る屈強な男性は集まった全員の顔を順々に凝視する。威圧に負けて、目を反らすかどうか計っているのだ。今日は研修会であって、査定ではない。ハンスの癖だと思ってくれて構わない。


「今日は意気のいい奴がそろっているな。まずは出欠確認を含めた自己紹介を行う。名前と……そうだな目標を言ってくれ」

 

 ハンスの指示を受けて、一人の生徒が席を立つ。

 その生徒が座ると、後ろの生徒が立ち上がる。自己紹介は何事もなく進んで行き、遂にノームの番が訪れた。


「俺の名前はノーム・アデラード。これからよろしく。……おっと、目標か。恥ずかしいな」

「恥ずかしがる必要はないぞ」


 作られた溜が他の生徒に息を飲ませる。期待がノームに突き刺さった。


「幼い頃に別れたであろう幼馴染か、兄弟を探す事だ」


 何事もなくはノームの番で終わった。他生徒は盛大に噴き出す。笑い声が止むのに数分を要した。ネタだと思ったのだろう。


「俺は真剣なんだが。まぁ、誰かに理解してほしいわけじゃないが」


 ノームの反抗を耳にした者はいなかった。

 雰囲気が明るくなったからいいかと着席する。


「私の名前はセシル・ディア・ハーネスティー。夢はナイツオブノーネームの一員になることですわ」


 如何やらノームだけが地雷ではなかったらしい。

 セシルの夢に……周囲は沈黙する。平民が冒険者として功績を上げ、騎士に取り立てられるケースはある。平民が騎士を目指すにはそれ以外の選択肢がほぼ無い。だが、貴族は違う。無駄にしかならない遠回りに過ぎないのだ。夢が騎士になることならば、冒険者なんてならず者に身を落とさず、しっかり鍛錬を積めばいい。繋がりに頼ればいい。冒険者になるのはその繋がりを消す行為に他ならないのだ。

 力が全ての冒険者だが、相手が貴族であることは変わらない。

 権威に怯えて、多くの者は表立って笑うことができなかった。逆にそれが相手に与える不快感を増大させるとは知らずに。

 険悪になった場を壊すためにハンスは大きく首肯する。


「いい夢だと思うぞ。魔王軍を壊滅まで追い込んだ正体不明の部隊と聞いている。そもそも本当に存在しているかなんて疑問も出ているが。何か情報を掴んでいるということか」

「いいえ。何も知りませんわ。だからこそ私は冒険者で功績を上げたいと思います」


 墓穴を掘ってしまったことを悟った。

 繋がりがないからと説明されて納得した者はどれだけいるだろうか。--皆無と言っていい。そもそも存在しているかわからないものを必死に追いかける変わった貴族様だと評価をさらにマイナスした者が圧倒的多数派だ。


「とにかく頑張れ」


 ハンスは力が抜けた応援を送って、次を促す。



===== ===== =====


「ちょっと貴方勝負しなさい」

「何で、ですか?」


 今日の講義は基本的なことばかりだった。

 最後に低ランクの魔物の弱点を流すように説明されると、解放される。

 直後、ノームの元にセシルが突撃してきた。状況が呑み込めないノームは?マークに埋め尽くされる。敬語を使わなきゃ以外に考える余裕がなかった。


「さきほどの事を忘れたとは言わせませんわ」

「すみません。身に覚えがないです」

「私の夢を汚しておいて、知らないとは何ですか?」

「すみません。詳しく説明してもらってもよろしいでしょうか」

「貴方がふざけたせいで私の夢まで馬鹿にされたではありませんか」


 説明されても理解できないノーム。無理もないだろう。セシルも本当にノームが悪いとは思っていない。ただの八つ当たりだ。しかし、理不尽とはどこにでもある物で。


「俺はふざけたつもりはありませんよ」

 

 ノームは理不尽に対抗することにしたらしい。?マークを蹴散らし、頭を動かす。


「でも」

「もしもセシル様が過去に妹と逸れたとしましょう。探しますよね?」

「私に妹はいません」

「だからもしもの話ですよ」

「うっ」

 

 セシルの言葉が詰まる。探すと考えたが、それでは完全に相手のペースだ。何かいい返しはないかと思考を巡らせる。

 たどり着いた答えが


「それでも冒険者をやる必要はないでしょう」

「それはセシル様も同じでは?」


 ブーメランだった。

 頭が弱い人なのかとノームは苦笑する。それにナイツオブノーネームを目標にされること事態が気に食わない。

 決定打を放った。


「それにナイツオブノーネームの何が凄いんだか。魔王の討伐に失敗していま」

「私の前でナイツオブノーネームを馬鹿にするとは許せません。勝負しなさい」


 数分前とは別の確かな敵意を持ち合わせた命令だ。

 ペチンと顔に当たり、言葉を遮った物体を手に取る。それはノームのそれとは対極の真っ白な手袋だった。 



誤字脱字あれば、教えて下さい。何せ書いてるのが、深夜なもンで

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