英雄失格で、勇者からもほど遠い存在4
ギルドの依頼を受けたノーム、セシル、クレハの三人。
――ゴブリン刈るべし。
と、彼らは最寄りの森林へ足を踏み入れた。
(まぁ、――ちょうどいい機会なのか)
ノームはぼそっと息を吐く。
正直、動きづらい。……そう、ノームは自分に引っ付いているクレハを横目で見た。
側を離れまいとちょこちょこ動き回る小動物は、足場がおぼつか無い森の中では足手まといだ。
近接戦闘では、大きなミスに繋がりかねない。
だからこそノームは、いい機会だと考えた。
「いましたわ」
「二匹か。セシル、離れてくれ」
別のことに気を取られて……。頭を振って、ノームは身構えた。
取り出された剣の延長線上には、二匹の醜鬼が下品な笑みを浮かべている。如何やらゴブリン共もノーム達に気付いたらしい。
「一匹ずつでいいな?」
「もちろんですわ」
「ググヘヘググ」
両陣営、接近する。
「おら」
「ゴギャアァ――」
最初に剣を当てたのは、ノームだ。
首を切って、……けれど浅かった。その攻撃はゴブリンを絶命させること叶わない。
ゴブリンAは、悲鳴を力に変換できる魔法でも持っているのだろうか。首から淀んだ血液を流出させながらも、棍棒を振り上げた。
空気が裂かれる。
ノームはバックステップで二三回行い、攻撃を躱したのだ。
傷口が開き、薄れゆく視界。ゴブリンの手から武器が落ちる。
今までの威勢は、最後の力を限界を超えて振り絞っていたようだ。
(さすがに止めを刺すか)
ノームはゴブリンの腹を割く。
間接視野に、自分に迫るセシルの姿が映った。
……少し前に戻ろう。
ノームから一手遅れたセシルの初撃。――惜しくもゴブリンの持つ剣と重なり合う。
しかし、次の攻撃までの移行が早かった。セシルの一閃はゴブリンの体を横にずらす。
結果的にノームよりも早く、息の根を止めた。
「ちょっと貴方。あの子がいるからって躊躇したわけではありませんわよね?」
「そんなことは……ない。ああ、ない」
明らかに手加減をした――とその訳を問い詰めるセシル。
否定するノームの目は泳いでいた。
「怪しいですわ」
「まぁ、大丈夫だ」
実の所、セシルの言葉は正しい。……ある意味で。
確かにクレハがいたからこそ、ノームは初撃の手を緩めた。しかし、それは彼女を怯えさせたくなかったからではない。
……それは。
「さすが先生」
「いやいや。今の俺に凄い要素はなかったと思うが」
クレハに、自分は誰かに頼られるほど強い人間ではないと伝えたかったから。
唯々弱い。強くもなれるが、それは他の犠牲によってのみ。
されど、クレハの目に映るノームの姿は、少しの犠牲も払わずに周囲を助けられる英雄そのものである。
うんざりだ。
それは過去、思い描いていた自身の姿と酷似しているのだから。
クレハは期待している。……期待しすぎている。
「ううん。私には倒せないもん」
「……これは難易度が高そうだな」
その意識を振り払うのは難しいらしい。
もしくは、すっぱり諦めるか。――もやもやする。
違和感がノームの中で蠢いた。
「何を話していますの?」
「何でもない。次を探そう」
「次もこの調子だったらおいていきますわ」
「大丈夫だ」
次なる標的を探し求める。
「いましたわ」
「あれか。物理攻撃は効かないはずだが」
ぷよぷよ。ぷよぷよ。
命を宿した透明で柔らかい塊が、のそのそと動いている。……二匹。
三人はスライムと呼ばれる魔物と遭遇した。
スライムは打撃に強い。
打てば凹み、徐々に元に戻っていく――低反発体だ。切断も難しい。
「そうか、なるほど」
「そうですわ。頼みますの」
反対に、魔法攻撃に弱い。魔法で傷つけられた部位は元に戻らないからだ。
ノームは手を叩き、後ろを振りむく。
「できるか?」
「先生がいるなら」
――失敗しても大丈夫。
彼女の様子から、魔物と戦い慣れていないことは一目瞭然だ。
震える足で前に出る。声に魔力を上乗せする。
【ファイア】
表面を焼かれたスライム二匹は、そのまま動かなくなった。
潤いを失った体が段々と萎んでいく。
「ちょうどいいですわ。火属性だったんですの」
「知らなかったのか」
「聞いてませんから、当たり前ですわ」
「そうか」
特に火属性の魔法はスライムの弱点である。
「先生、褒めて」
「また後でな」
「そうですわね。とりあえず今日の所は終わりにしましょう」
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「クレハは先に帰っててくれ」
「何で?」
三人はギルドで達成報酬をもらった。
ノームがクレハに提案する。
「まだ用事が残っている」
「なら、ついていく」
「そうか。晩飯を作ってくれるとありがたいんだが」
「わかった」
――胃袋から掴む。
当初は追従を示した彼女だが、こくりと頷く。
「一緒に住んでいるなんて、破廉恥ですわ」
「ならセシルも来るか?」
「お断りしますわ」
「じゃあ、また明日」
二人は去っていく。
ノームはギルドに留まって見送った。
(さて、行くか)
ギルドの二階に到達する。
今朝クレハが作成した魔法道具を手に取ると、そのまま再び階段を降りる。
受付に並び、……彼の番がやってきた。
「魔法道具の倉庫に置かれていたものですけど、いくらで買い取れますか?」
「買い取りですか、金貨五枚になります」
「お願いします」
魔法道具の杖と金貨五枚を交換する。
次向かう場所は、……鍛冶屋だ。
鍛冶屋に入ったノームは商談を持ちかける。
「これを幾らで買い取れる?」
「ちょっと待ってろ」【鑑定】
鍛冶屋のおじさんは無属性魔法である、鑑定魔法を使用した。
無属性魔法とはその名が示す通り、属性のない魔法である。【鑑定】や【魔力譲渡】など多くの魔法が当てはまり、属性魔法のような段階はない。
因みに使用者が複数いることが前提で、一人しか使えない無属性魔法は固有魔法と表記される。
「中々いい腕をしてるじゃねぇか?」
「製作者に伝えておく。俺は代理に過ぎないからな」
フレンドリーにノームの肩を叩く鍛冶屋。
だけど、すぐに冷めてしまった。
あくまで代理に過ぎないからか、ノームが一切表情を崩さなかったからか。
「そうかよ」
「それで、幾らだ?」
「安定的に供給してくれるってなら、金貨八枚まで出せるぜ」
「そうか。だが、確約はできない」
「なら金貨六枚だな」
「わかった」
淡々と商談は進んで行く。
金貨六枚を受け取ると、ノームは鍛冶屋を去る。
「もっと愛想よくした方がいいぜ。お兄さん」
「本当に何でだろうな?」
去り際に声が掛けられる。
そこで初めてノームの表情が解けた。自嘲的な笑みを作ると、今度こそ鍛冶屋を出ていく。
(金貨一枚。まぁ、十分な儲けじゃないか)
自宅へと向かう。




