英雄失格で勇者からもほど遠い存在2
短めです。
睡眠欲に襲われた
「え、ええっ……」
「まぁ。ショックとかで記憶を無くしたと考えてくれたらいい」
クレハは困惑顔だ。
ベッドに座って、声を落とす彼女の思考が動き回る。
「どういうこと?」
「これは全面的に俺が悪い。お願いします」
そんな彼女に、ノームは淡々と頭を下げた。
何とか決心がついたらしい――クレハ。
「わかった」
二人の出会い、魔法道具騒動とが、クレハの視点から語られた。
そこに自分の行動理由はいっさい含まれない、――当然ノームはわかっている。
(話からすると、俺はクレハに魔法道具の指導を行ったらしい。
……それなりに興味があったようだ)
クレハはその時その時を身振り手振りで再現した。
その様子をじっと見つめていたノームは、結論を下す。クレハの側に腰を落とすと、彼女の……涙を拭う。
自分にとっては大切な時間が忘れ去れている。というのはそれなりに堪えるらしい。――貧乏だ、出来損ないだと馬鹿にされてきたクレハには猶更だ。
たかが外れてしまっているようで、一度拭ったくらいでは彼女の涙は止まらない。
仕方なく、ノームは太ももを湿らせることにした。……そう、膝枕である。
(はー。なぜこんなに涙を流しているんだ?)
簡単だ。――それだけ大事なことだったんだと。
じゃぁ、何でそんなにも大事なんだ?
……なんて質問は当人ではないノームに答えられる道理は無い。
だが、彼は底知れない後悔に埋もれていった。
(ただの二の舞だな)
自分には何の価値もない情報に成り下がってしまったことを悔やんだのだ。
ノームは落ち着かせるためにクレハの背中を慈しみを込めて、摩む。
(それでも知れただけましか)
「だから明日にでもまた俺に見せてくれよ」
声も動きもないが、ノームはしっかりと伝わっていると感じた。
「大丈夫か?」
「うん。それよりもまた見てくれるの?」
「まぁ、そうだな」
安心が疲れをどっと呼び込んだらしく、クレハは眠りにつく。
――ノームの体に絡まった状態で。
「おやすみ」
(俺は……眠れそうにないな)
突然だが、ノームは性欲が全くないなんてことはない。確かに周囲よりは少ないが、少しもドキドキしないわけじゃないのだ。
話を聞くまでは他人と変わらなかったクレハの存在が、次第に膨れ上がっていく。自分の胸に押し当てられる二つの果実の感触を鮮明に感じるようになった。
女子特有の柔らかさも徐々に意志へと流れ込んでいく。
照れ。……それを振り払うべく、別の事柄を割り込んでいく。
(俺に依存しすぎている気がする)
気になっているのも事実だ。
(売り戻されたくないからか。奴隷だからな)
悪い方向に考察が進んで行く。
彼女がこんなにも自分に懐いているのは、奴隷商館での辛い日々に戻りたくないからだろうかと。
ノームの視界は閉ざされる。
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「おはよう、先生」
「ああ。……なんかいいな」
「いいって何が?」
「……忘れてくれ」
「いや」
クレハに体を擽られるノームは、寝起きだというのに素早い対処をみせる。
覆いかぶさっていたクレハの魔の手から逃れ、逆に彼女を押さえつけた。
「強引だけど、いいよ先生なら」
「何を言ってるんだ?」
状況を冷静に見つめなおすノームは気付いた。
自分がクレハを襲っているようにしか見えない――ということに。
身を捩ることもできないクレハは、目をギュギュッと強く閉じる。
――解放感を得て、目をぱちくりさせた。
無論、ノームがその場を離脱したからである。
「すまない。誤解だ。俺にその気はない」
「ウヴ。……何で」
それはそれでお気に召さなかったようで、クレハがノームに再び襲い掛かる。
「私、魅力ないのかな?」
「安心しろ。クレハは十分可愛い」
「……私はいつでもいいよ」
「何時でもいいなら今はいい。ギルドに行こう」
「わかった」




