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冒険者ギルドでのこと1

「」:会話。

():心の中でつぶやく

【】:魔法名。声に出してなくても付けます。地の分では未定。

「ザーザー」

 雑音が少年の鼓膜を震わせた。

 少年が顔を向けると、そこにはゆらゆら揺れて、姿もっきりしない影が居る。

 

 そして、少年はその音も姿も、全て、全て愛おしいと感じた。


 

===== ====== ======


「本当に大丈夫ですか?」

「必ず見つけてみせる」

「……え、あの?」


 少年は無慈悲に進む時間の中で、ノーム・アデラードという名前を手に入れた。ノームは砕かれた過去という名の広大な空に身を委ねていたのだ。

 現在へと帰還したノームを心配そうに見つめるのは、ノームの意識を過去に突き飛ばした本人である。頭髪を強く握るノームに手を貸そうか、けど恥ずかしいと迷いっていた。


「ああ、ちょっと過去を思い出していただけだから、けがの方は大丈夫だ」

「本当ですか?」


 結局、少女が手を伸ばしたタイミングでノームが完全に復活する。

 少女は慌てて突き出した手を引っ込めた。

 

「俺は今日新人研修に参加する新人なのですが、この部屋は何をする所ですか?」

「はい。ここは魔法道具に魔力を吹き込む練習をする場所ですね」

 

 ノームは開けっぱなしの部屋に入ると、少女に問いかけた。彼女の顔を見た時、壊れた過去を想起したーー何か意味があるだろうと踏んだノームは会話を終わらせまいとする。


「そうですか。よければ見せてくれないか?」

「ううん。私も全然できないから。他の人に頼んだ方がいいですよ」

「待って」


 できる人を呼びに行こうとした少女だが、それではノームの目的に合わない。ノームは彼女の手首を掴み、呼び止める。


「名前を教えてくれ。俺はノーム・アデラードだ」

「クレハ・ドールといいます」

  

 勢いに飲まれたクレハの足の動きは止まる。顔を背けながら、小さな声を出した。


「クレハさん。お願いします」

「でも、……分かりました。怪我をさせてしまったのもありますし。笑わないで、笑ってくれてもいいですよ」


 クレハの手首は解放される。ノームは両手の平をくっ付けて、懇願した。最初は断るつもりだったクレハだが、ノームの目線が落ちていき、膝が地に着いた所で意志を曲げた。土下座ポーズ一歩手前だったノームは満面の笑みで顔を上げる。

 笑ってくれてもいいですよ。これはクレハがノームは絶対に笑わないと感じたから発せられた言葉だ。ノームが見せる満面の笑みにはそう思わせる不思議な雰囲気があった。


「ありがとうございます」

「では、見ていてください」


 ノームは立ち上がってお礼を述べる。

 クレハは乱雑に積みあがった低級魔法道具により、作られた山の天辺に横たわる小さな杖を手に取った。


「【生成】」 

 

 クレハの手から離れた杖はひとりでに浮き上がり、透明な障壁に囲われる。下から支えるように魔法陣が輝きを放ちながら浮かび上がった。

 クレハはというと、ぎゅっと力を込めて両腕を斜め上、つまり杖の方向に向ける。

 

「できた」

 

 数秒後、杖は再びクレハの手に収まる。

 それをクレハはノームに手渡した。

 

(名前を聞いた時も魔力を注入する行為を見た時も特段何か沸き上がってくるものはなかった。過去を思いだす方法ベスト2だと思うんだが。クレハは関係ないのか。それとも俺がやらなきゃダメなのか。決めるのは早計だろう)

 

 ……全く別の事を考えていた。杖を指で転がしながらクレハは己の過去と関係しているのか必死に考察を行う。 


「どう?」

「ああ」

 

 クレハに言われてやっと、本当の意味で杖を見つめる。


「【発動】」

 

 小さな、とても小さな火の玉が杖の先端から照射される。

 その火の玉は1mも進まない内に消滅した。


「ファイアボールか」

「よくわかったね。小さいでしょ」


 ファイアボールとは火属性の第二段階魔法である。本当ならこの部屋にある散乱した小物を軽く吹き飛ばすくらいの威力があるはずだ。


「あ、やべ」

「やべ……?」

「何でもない。それより何で第二段階の魔法を。第一段階ならもっとやりやすいでしょ」

「えっ、【ファイア】だと殆ど使えないよ。ファイアボールでやっと火の玉が出るくらい。第三段階はまだ使えないし」

 

 恥ずかしい所を見られたからかクレハの言葉遣いが軽いものに変わっていた。こちらが本音だろうとノームも特に進言することはしない。

 それよりも


「その理論は可笑しいだろ」

「えっ」


 問い返すクレハを無視して、ノームはガクッとうなだれる。

 床の焦げ具合を見ながら、……力を行使することを決心する。


「どうしたの?」

「【解析眼 発動】」

 

 ノームの瞳が変色する。

 ノームの瞳を通して視た魔法道具から数字と記号の混成羅列が浮かび上がった。

 

「あ、あぁ」


 聞く者に苦しみを感じさせるであろう声を出すと、ノームは瞳を閉じる。

 再び見えた世界は元に戻っていた。


「どうしたの?」

「ちょっとな。それよりあれで試してみてくれないか」

「この指輪?」

 

 クレハは一度ノームの元に駆け寄るが、直ぐに離れる。目を抑えるノームが行くより、自分が行く方がいいと思ったからだ。指差された指輪を手に取ると、見やすいように少し上に上げる。


「ああ。火属性の適性が強い」

「魔法道具にも適性があるの? 強いようには見えないけど」

「ああ。取り合えずやってみろ」


 銀色のリングに青い宝石が付いた魔法道具ーー何方かと言えば、水属性の適性が高いと考えるだろう。

 だが、ノームは揺るがない意思を載せた声を飛ばす。


「無理だと思うけど」

「いいから」

「はいはい。【生成】」

 

 杖と同じように障壁と魔法陣が指輪を空中に固定する。

 けれど、最後まで杖のように行かなかった。ボンとはじける音が聞こえると、クレハは態勢を崩す。失敗による衝撃波を浴びたのだ。 

 指輪が床に落ち、音を生む。


「痛い」

「大丈夫か?」

「大丈夫よ。ほら、無理だったでしょ」

「ほらと言われてもな、そもそもやり方が悪いからな」

「やり方?」

 

 今までは出来損ないと貶されてきた場面だ。それが今回は当たり前だと可笑しい所は何もないと思っていた個所を指摘される。クレハは首を傾けた。


「まず、ダンジョン型の魔法道具と人が作る魔法道具の違いは判るか?」

「ダンジョンで発見された魔法道具は使用者が魔力を流せば使える。人が作る魔法道具は製作者が魔力を込めてあるから使用者は魔力なしで使える」


 手を差し伸べながら、ノームは質問する。

 手を取り、姿勢を正したクレハは口を開く。


「そうだな。では、次の質問。ダンジョン型の魔法道具を使用するときに適性が必要か?」

「どういうこと?」

「火属性の魔法を発動する魔法道具を火属性の第一段階も使えない使用者が使えるか?」

「使える。それがどうしたの?」

 

 一般常識の連続にクレハ不振を抱き始めた。

 

「つまり、流す魔力は何でもいいということだ。そして、人が作る魔法道具も材料は同じ何だから同じことができる」

「えっ」


 離れていった意識を引き戻される。


「だからファイアボーールじゃなくて」

 

 言いながらノームはイメージし易いように手をゆっくり前に突き出す。


「ファイアボールって初めに打ち付けてから、ゆっくりと馴染む魔力を流していく感じだ」


 今度のノームは一気に手を突き出し、打ち付けるポーズに変化指していく。その後、ゆっくりと手で魔力を送る動作を表す。

 貶すばかりだった他人とは違い、真剣に解決策を享受するノームにクレハは好意的な視線を向けた。できるーー前向きな力が大きくなっていく。 

 見せるだけだったのにとか偉そうにとか突っ込みを忘れて、クレハは真剣に頭を働かせる。


「やってみる」

「おう」

「【生成】 打ち付けてから…………馴染ませる感じ」


 イメージしやすいように声に出しながら、クレハは魔法を発動させる。

 

 成功した。

 

「できた」

 

 手に戻った指輪を優しく握る。


「まだ早い。適性が高いっていったろ。やってみろ」

「うん」


 涙を拭くと、クレハは暖かさが残る指輪を自身の指にはめる。

 詠唱した。


「【ファイアボール】」

 

 巨大な火の玉が部屋を蹂躙した。

 小道具を吹き飛ばし、散らばった紙を焼く。直接衝突したレンガも黒く焦げる。喉を焼く熱い空気と鼻につく匂いが充満した。


「あ、そろそろ研修会開始の時間だ。後は任せる」

「ダメ」


 クレハに後始末を押し付けてノームは逃亡を図るが、肩を誰かに掴まれる。と言っても一人しかいないが。

(ですよねー。でも、普通は外に向けて放つだろ)

 

 半笑いを浮かべるノームは後ろを振り向く。

 目に涙を浮かべて、けれど花が咲き誇るような笑顔が出迎えた。


(半分は俺のせいだしな)


 

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