再会
ヒロイン再登場!!
――クレハ。
よくよく考えれば、思い当たる人物が一人いる。純白の髪をポニーテールに纏める小柄な少女だ。……あと、胸が大きい。自分のことを先生と呼び慕い、負傷をした自分を心配してくれタ場面だって覚えている。
けれど、どんな風にクレハと出会ったのか、何で先生と呼ばれているのか、――全然思い出せない。
ノームは目覚めると、嘆息する。
(こんなピンポイントで抜けるのは初めてだな)
抜け落ちてしまった大事な部分は思い出そうにも、炭のように黒く掠れる。
それが彼には我慢ならなかった。
オリジナルコードひとつの保存で、ここまでの影響がでた前例はない。
ナイツオブノーネームのそれをセーブした時は、最大でも『昨日は何を着たっけ?』といったド忘れ程度。人生という杜撰だ道を歩いていけば、どんな人でもエンカウントする日常に過ぎない。
加えて、つねに騎士団の制服を身に着けているな――とすぐに思いなおして、ノームは服を手に取る――それくらいだった。
故に解消の優先度は低い。
(どちらにせよ、このままというのは納得できない。セシルには悪いが、今日は依頼こなすことよりもこちらを重要視させてもらおう)
気合の帯を締めた。
ギルドへと足を運ぶ。
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有力候補リストアップされていた新人とそれなりに恐れられていた上位ランク保持者で組まれたチーム。それが腫れ物扱いされていた二人のパーティーに敗北した。
これもまたこのギルドでは前例のない偉業である。
目立つこと。――それはノームにしたくないことを三つ上げさせれば、いつ何時さへランクイン項目。
しかし、質問の雨は避けられないだろう……と適当な言い訳を考えてきた彼だが、幸運なことに杞憂だったらしい。
(まぁ、そうか。外部から見れば、俺はセシルにくっついていただけだからな)
ノームの動きをせき止める者は現れなかった。
目的地たどり着いて、初めて足を落ち着かせる。
ギルド内に設けられている食事処の一角。そこには整髪の美少女が優雅に着座する姿が。
ノームが対面の席に座ると、セシルは啜っていた紅茶のカップを置く。
口の開きを遷移させていった。
「昨日はあの後、どこに行っていたんですの?」
「用事だって。手紙を入れておいただろ」
「肝心の内容が書いてありませんでしたわ。それを聞いているんですの」
セシルは目を細めて、問いただした。
わかっていないふりをするノームの態度は、さらに彼女を前のめりにさせる。
振動する皿とカップが音を生んだ。
「いえない。それで悪いが、今日も用事ができた。セシルは好きなことに時間を使ってくれ」
「わかりましたわ」
「おお、ありがとう」
「それで今日はどこに向かうんですの?」
「だからな……」
セシルが身を引き、すんなりと承諾したことに驚いたノーム。
だが、『いえない』という言葉を遮ったセシルの発案は彼をより驚かせるものであった。
「付いていきますわ。好きなことに時間を使っていいですわよね?」
「はい?」
「貴方一人だと不安だから仕方なくですわ。むしろ感謝してほしいですの」
「なら、俺は大丈夫だ。ただ話を聞きに行くだけだから」
背けられたセシルの顔は赤い。
但しそれを知っていようが、知っていまいが、ノームの答弁は一言一句違わないが。
冷静に、もう冷酷にといっても過言ではないふるまいで否定する。
「そういうことではありませんわ」
「そういうことだろ。…………ってか、はぁ~。
お前は出会ってから一週間程度の間柄に全てを包み隠さず、話せるのか?」
ノームの声質が氷点下まで下った。
(仕方ない。計画通りに行くか)
予想できていた。――周囲の興奮だけでなく、セシルの疑念も。
ならば当然、打開策は用意してある。
「あの……ごめんな」
「それはただの妄信。時間をかけて増やしていくのが信頼だ。俺はセシルを信頼したいと思っている」
「本当に仕方ないですわね。私も昨日の今日で疲れていますし」
喜怒哀楽。セシルは刻々と面様を切り替えていく。
幸いなことに、最終的には喜に定着したようで、軽くステップをとりながらギルドを出ていく。
全部を曝け出していいことなど皆無だ。
――実相。ノームは把握している。……しているが。
(これじゃ、団長が俺にやったことと同じだ。隠された真実を知ってしまったときのダメージを蓄積する行為に他ならないか……)
ルンルン気分のセシルと幼い頃の自分を重ねていた。
さあれども、……通告できるしるしなし。君を忘れてしまうかもしれないなんて。
荒らされたのは過去だけだと思っていたノームだが、クレハのせいか、少し過敏になっていた。
――されば、彼の深層は信頼自体が虚偽なのだろう。
(さてと、クレハを探しにいくか)
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「ここが休憩室。って常駐しているわけないか」
そこは唯一記憶にある場所。
閑散としている休憩室を見回すと、退散する。
(俺と親しい間柄だったと考えてよさそうだな)
なれば、できることは一つとノームはパーティー募集用の紙を受け取る。
希望:青い瞳をした、ポニーテールで巨乳の少女。自分を先生と慕う。
――ノームは絶句した。必ずかの文句を除かねばならぬと。
これはまずい。冒険者なり立てのノームでも瞬時にそう理解した。
ああ、ノームよ。それは強者のみに許された行為なのだ。
彼は破り捨てる。
新しい紙を貰うときに、『貴重なんですから注意してください』とのお叱りを受けてから戻ってきた。
けれども、外面以外のことをノームは思い出せない。
(そういえば、そのまま名前を書けばよくないか?)
大きくなる唸り……末路は正解であった。
希望:クレハ
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「あんちゃん人探しかい」
「はい。……知っていますか?」
飲んだくれたおじさんがノームの元に姿を現した。
丸形の椅子にどっしり腰を落とす。
「俺は知らねー。だけどよ、それを知ってる人なら知ってるぜ」
「それは知っているのと同義です。ありがとうございます」
意外と早かった。ノームの顔つきが喜色に染まる。
それを見たおじさんは酒を注文し始めた。
「ただで教えて貰おうなんて都合のいい話はないよなー」
「持ち金はこれ位しかありません」
「へへ。十分だ」
臭い息を吹きかけられながらも、嫌な顔一つしないでノームは小銭を取り出す。
銅貨三枚、銀貨一枚だ。銀貨一枚は銅貨三枚と同価値なので、銅貨十三枚ともいえよう。
おじさんは嬉々として自分の元に抱き寄せると、情報を明かした。
「ここを出てすぐの宿屋の店主が情報屋だ。あそこは後払いも許してくれるからすぐ聞けるぜ」
「凄いですね」
「ぷはー、ヒック。逆に回収できる実力があるってことよ。踏み倒そうなんて考えんじゃねえぞ」
一杯を一気に飲み干したおじさん。
へらへらした面で、ノームを脅しに掛かるが、その程度でノームが怯えるなどありえない。
「その気はありません」
「そうか。今日は確か、……ニックだったな。ニックからの紹介で来たと伝えればいい」
「わかりました」
柔らかい物腰のノームだが、それは他人と自分を隔絶しているからだ。酔いの回った酒飲みにこれ以上付き合うさらさらない。
おじさんも酒さえ手に入れればどうでもいいようで、立ち去る彼には目もくれなった。
「ニックさんに呼ばれてきました」
「そうか。こちらにこい」
指示された宿の店主は、飲んだくれのおじさんの仲間というよりは自分よりの冷徹な雰囲気を醸し出していた。
――これは自分の問題だ。危険なこと承知の上で、自分を奮い立たせるノーム。奥の方へ進んでいくおじさんの後を追う。
「それでどんな特徴の人を探している?」
「名前はクレハ。青色の瞳している」
「心当たりがある。数日前に奴隷として売りに出された少女だ」
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