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戦闘が終わって2

「本日討伐した魔族について話しておきたいことがありましたので、集まってもらいました」

「それよりもパートナーが見当たらないようだけど。……まさかアデラード君を選んだわけはないよね」

「私もそちらの方が気になります」

「セシル君かい、クレハ君かい、それとも別の誰かかな?」


 ノームも着席して固い態度をとるも、ラーミアとフォアラにじりじり近寄られる。

 書類から目を離した二人の顔が近い。

 アーデルは特に止めに入ろうとはしなかった。逆に……。


「説明責任があるのも事実だな」

「そうだよ。依頼とか出しやすいしね」


 吐いちゃいなよ。――ラーミアはノームの脇腹を突き始める。

 アーデルの話にも一理あった彼は渋々口を開いた。


「セシルです」

「ああー負けちゃったか」

「すまない。全く話が見えてこないんだが」

「いえいえ。何方かと言えばセシル様は私に、クレハ様はラーミア様に雰囲気が似ていますから。軽い賭けをしていらしたんですよ」


 慎んで……しかし勝ち誇った表情をフォアラは浮かべる。

 敗北宣言したラーミアは椅子を少し斜めに倒して、嘘っぽい笑みで顔を塗りつぶした。


 ――そんな二人の様子を見て、ノームは疑問を持った。


「……クレハ?

 名前は聞いた覚えがあるが――」

「なるほどね。ピンポントで焼かれちゃったか」


 首を捻る。

 椅子がカタカタ音をたてた。


「珍しいな。君はセシル君のオリジナルコードを保存しただけだと思っていたが」

「俺もそれ以外に保存した記憶はありません。ですが、オリジナルコード一つで消滅するということはそれだけの間柄だったのでは」

「そんなことはないでちゅよ。貴方が倒れた時に必死に看病してましたから」


 椅子を鳴らした一人。フォアラはノームの後ろに回り、優しく首筋に腕を通す。

 

 セシルには伝えていない――彼自身にもデメリットがあるということを。

 ノームは【解析眼】を使って、オリジナルコード・魔法コード諸々を脳に保存した場合のみ発生する。

 彼が送った日常の一コマは抜け落ちるという――欠点。

 本人は記憶領域の圧迫だと考えているが、……確証はない。魔法が普及したこの世界、アルネミラではそうなるとしか説明できないことで満ち溢れているのだ。


 激しい罪悪感がノームを駆り立てる。


(色々聞かなきゃいけないようだ)


 お見積りの決定。……けれどもノームはそれが経験ではなく、単に聞いたこととして再処理される苦痛を嫌というほど味わってきていた。

 手で空気を潰し、こめかみを固める。


「そろそろ本題に入ろうか」

「うむ、そうだな。話してくれ」

「わかりました」


 罪の意識にラーミアもまた囚われている。

 全うだ。話題に上げたのは他でもない自分なのだから。フォアラが慰めるのを見ながら――それなのに自分は話題を変えることしかできないことが口惜しい。

 

「セシルは火属性第八段階魔法【クラウソラス・フォール】を使い、敵を撃滅しました」

「第八……ロストクラスかな?」

「いえ。【クラウソラス・フォール】はアンレコグナイズクラスです」


 ノームが譲渡する魔力には四つの分類がある。

 ロストクラストとは、文献などで過去に存在していたことが確証されているが、現在は使える者がいない魔法のことだ。

 アンレコグナイズクラス。それは過去にも現在にも存在が確認されず、未来に使い手が生まれるかもしれない魔法を指す。

 イマジネイトクラスの魔法は固有魔法に限りなく類似している。

 ……因みにこの三つは三人に使用許可が必要。――無論だ。

 現在、担い手が複数確認されている魔法はエグジステンスクラスと呼ばれる。許可なしで使用が認められているが、ノームは極力使わないと決めている。


「まさか相手はその魔法を知っていたというのかね?」

「様子からしてそれはないと思う。最終的に燃やし尽くしたが、数秒の抵抗を見せたことが問題だ」


 指摘されたからだろう。

 不貞腐れるラーミアを黙殺して、アーデルは顔を歪める。


「詳しい説明を頼む」

「ああ。実は今回姿を見せた魔族はフローラを殺した奴らしい」

 

 知っているとは使用者がいるのと同義だ。

 危惧していた事態ではなかったことに、ほっと胸を撫でおろす。


 詳細を促されたノームは、簡単に経緯を説明していく。


「なるほど。あの時は私の目に映らなかったものが……」

「それに恨みを込めて、必要以上に勢いをつけたからな。第六属性なら絶対に耐えられたはずだ」


 アーデルの目は特殊だ。

 脅威の察知や数秒後の未来を覗き見ることができる。この度ノームの話題に上がったのは察知能力の方で、フローラが殺された時に、彼らは別の場所に向かっていた――と。それはあの魔族が以前、反応を示すほどの脅威ではなかったことに他ならない。

 それが今ではどうだ?

 脅威認定ラインである第六属性を余裕で凌げる位に成長していた。――それをノームは問題視している。


「ダンジョンの内部で、死に戻りを繰り返しているからね。戦闘力が上がるのは仕方ないんじゃないかな」

「だが、俺も恨んでいたのか、相当勢いをつけて落としたからな。α型の第七属性なら耐えられるかもしれない」


 忘れていしまっているかもしれないので、――あの魔族はダンジョンの一階層階層主を任されていた。階層主は新たな挑戦者が訪れる度に復活する。

 ……死闘。……復活。そんな極限状態の生活を送り続ければ、強くならない道理はない。ダンジョンという制限領域内で成長することはないが、ひとたび外に出れば別なようだ。

 

 話は少し切り替わり、ノームは魔法をα,βと隔てている。

 α型。べつめい自然型は火なら火を、水なら水をと魔法を自然に存在する状態で攻撃するタイプだ。広範囲に被害を及ぼすものが多い。

 β型、世間一般では人工型と広まり、名前の通りにそれは自然を剣や球のように加工して発動する。【クラウソラス・フォール】【ウォーターボール】【ウォータードラゴン】は全てこちらだ。

 自然型とは対照的に、重い一撃を少数に当てる。


「それは確かに考えなおす必要がありますね」

「だけど、そもそもどうしようもないじゃないか。君でも、……君だからこそクリアできない」

「まぁ、そうだな。本当にふざけた縛りだ」


 魔王の塔。それは三人の話題に上がっているダンジョンの名前だ。

 魔王がダンジョンボスであることで知れ渡っている。――強力な縛りがあることもセットで。

 

 汝、他のものの力を借りてはならない。

 入り口前に突き刺さっている自己主張の激しい看板に書かれている一文だ。真っ暗な板に描かれた赤い文字は挑む者に一抹の不安を掻き立てる。


 おわかりだろうか。……ノームの特殊は封殺された。

 複数人で挑もうにも、直ぐに逸れてしまう。魔力を渡す相手がいないノームはただの人だ。

 魔法道具も禁止され、持久力をどうするかが専らこのダンジョンに挑む上級者の悩みの種となっている。 

「本当に俺の弱点を知られたのはまずかった。それで俺を殺しに来るんじゃなくて、立てこもるという懸命な判断もしやがって」


 ノームは遠い存在となった魔王を愚痴る。

 そう、魔王でさへもノームを恐れおののいているのだ。だからと言って、嬉しさは一切なく、腹立たしさが募るばかりだが。 


「だが、解析に解析を行えば、ダンジョンコアを外から破壊できる魔法にたどり着く可能性は十分にある」

「そうかい……だが断る!」

「うむ。無理と言わざるを得ないな」


 ノームの提案に彼らは否定的だった。

 フォアラも口を開くことはないが……というよりも寧ろ暗黙の了解という言葉があるように、否定しないとは肯定するということである。


 ――彼もわかっていた。


「そうだと思った」


 魔王の塔で出現する魔物は、特殊なルールを設けているせいか、他と比べて弱い。それなりの時間を戦える冒険者にとってはいい稼ぎ場になっているのも瞭然たる現実だ。


「逸れるというのはそれだけのルートがあるということでもあるからね、宝箱の発見率も格段に高い。内容も豪華だし」

「我が国の生活になくてはならない存在となっている」

「それもそれでどうなんだって思いが全くないわけじゃないけどな」

 

 忸怩たる思いだが、……それでも納得はしているんだよな――。

 ノームはだらけた姿勢を直して、言い放つ。


「先程の言葉はここまでならできるという判断材料として使って欲しい。だが、万全の状態で尚且つ絶対とはいえない。対処、引き時を誤らないでくれ」

「重々胸に刻み込んでおく」

「そうしてくれ。俺は、早ければ明日にも忘れてしまう可能性があるんだ」


 アーデルの返答には、大きな責任が注ぎ込まれていた。

 百万の命を預かっている。――フォアラとラーミアも代表として心構えだ。


「俺一人よりその他大勢を優先するのは当たり前だが、妙に新鮮な気分だな。……ずっと俺の意見が通ってきたような気がするからか」

「それは君の意見がその他大勢を救うものだったからだろうな」

「ははっ。そうか」


 


次回からクレハ編です。

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